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『魔術? そんなことより筋肉だ!』

作者:蜜柑ブタ
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SS20 イリヤの死

 
前書き
一転して、シリアス。

タイトル通りです。 

 

「どうします? 先輩…、アレ…。」
「放って置いた方が良いだろ。」
 あれからアーチャーは、部屋の隅っこで身体を丸くして暗くなっていた。
 そこだけキノコ生えそうなほどジメッとした雰囲気だ。
 主夫アーチャーが使い物にならないので、っというわけで現在食事の支度を士郎と桜でしていた。
 桜はようやく士郎と二人きりで台所に立てて、喜んでいた。
「はぁふうぅ…。」
「どうした、桜?」
「先輩…私、幸せです。」
「桜…。」
「先輩…。」
「はいはい、早くご飯の支度しましょうね。」
「姉さん……。」
「あら? 手伝ってあげてるのに、なに?」
「…いえ。」
 凛も料理できたのだ。宝石魔法の都合上、金銭が常にピンチなため、自炊で節約しているのである。
「しっかし、意外よね~。まさか桜が最初の頃はおにぎりも作れないほどだったなんて。」
「悪いですか?」
「ううん。私だって最初の頃はそんなもんだったもの。妹の成長は素直に嬉しいわよ。」
「姉さん…。」
「桜はもうどこに嫁に出しても恥ずかしくないよ。」
「先輩。」
「もちろん貰うのは、俺…。」
「それとこれとは話は別よ。」
「ちぇ…。あっ、やべ、調味料が切れてる。買い物に行かないと。桜、行くか?」
「はい!」
「ちょっと、料理が途中よ?」
「遠坂が見といてくれよ。そこで煮てるの見ててくれればいいから。」
「…う…。」
 自分が料理できることが思わぬ枷になり、士郎と桜が二人きりになるのを止められず、凛は少し呻いた。





***





 いつもの商店街で必要な物を買った。
 その帰り道だった。
 ふいに士郎が立ち止まった。
「先輩?」
「……誰だ?」
「?」

「ふっ。雑種は鼻が利くようだな。」

 偉そうな口調の男の声が後ろから聞こえた。
 二人が振り返ると、そこにいたのは、金髪と赤い瞳の男が一人立っていた。
「この感じ…、サーヴァントか?」
「えっ?」
 桜が訝しんだ。
 残るサーヴァントは、セイバー、ライダー、アーチャー、ランサー、バーサーカーだけだ。それ以外のサーヴァントはありえない。
 しかし士郎は、警戒している。
 美しい金色の男は、不敵に笑う。
「コレの匂いを感じたか?」
 そう言って取り出したのは、小さな心臓だった。
 それも本物だ。
 しかもドクン、ドクンっと鼓動を刻んでいる。
 それが人間の心臓の形状をしていることにすぐに気づいた。
「それ……。」
「どこぞの神話の集大成の英霊の飼い主のものよ。」
 その言葉に、桜はすぐに察し、顔から血の気が失せた。
「知っていたか? アインツベルンのホムンクルスは、聖杯の器。すなわち、コレ(心臓)は、未完成の聖杯。」
「てめぇ…!!」
「どこぞの雑種があの聖杯の器のペットの残る命をひとつだけにしていたから、実に簡単だったぞ。」
 それを聞いて今度は士郎が目を見開き、青ざめた。
「なんてことを…。」
 桜がブルブルと震えながら言った。
「それで…。てめぇは、イリヤの心臓を手にいれて何をする気だ!?」
「さてな?」
 相手の男はとぼけたように言った。
 士郎がリミッター解除をして筋肉を膨張させた。
「ほう? 面白い身体をしているな?」
「許さねぇ!!」
「今日は、コレを見せに来ただけだ。」
「逃がすかぁぁぁぁ!!」
「ふふふ。」
 次の瞬間、士郎の周りに見えない空間から鎖が飛び出してきて士郎の身体を絡め取った。
「先輩!」
「こんな鎖…。」
 士郎は強引に身体を振って、鎖を引きちぎった。
「ほう? 我がエルキドゥをその身だけで破るとは…。」
「えるきどぅ…? まさか…おまえ…。」
「察したか? では、な。」
「待て!」
 男は、その場から消えた。
 男が消えた後、士郎は身体を元に戻した。
「先輩…。」
「くそ……、くそおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 アスファルトを殴りつけ、士郎は叫んだ。





***





 士郎と桜は悔しさと悲しみを引きずりながら帰った。
「! どうしたのですか?」
「セイバー…。」
「うぅぅ…。」
 出迎えたセイバーが聞くと、士郎は俯き、桜は泣いていた。
 そして、全員を集め、何があったのか話した。
「イリヤが…、今回の聖杯戦争の器だったのね…。」
「知ってたのか?」
「ううん。けど、前の聖杯戦争でも、アインツベルンは、ホムンクルスを使って聖杯を完成させようとしていたっていうのは聞いてたわ。だから…、恐らく今回も同じ手を使ったのね。」
「そして、その謎のサーヴァントに……。」
「俺のせいだ…。」
「先輩。自分を責めないだください。」
「本当にサーヴァントだったのですか?」
「あの気配は間違いなく、セイバー達と同じだ。それよりも、なにかたちの悪い感じだったが…。」
「貴様は、何かヒントを得ているのだろう?」
 復帰したアーチャーが聞いた。
「ああ…、アイツ、どこからともなく出してきた鎖のことをエルキドゥって言ってた。つまり…たぶんだけど…。」
「もしや、ギルガメッシュ!?」
「知ってるのか?」
「ええ…。前の聖杯戦争で、アーチャークラスとして召喚されたサーヴァントです。なぜ、彼が…。」
「イリヤの心臓を俺達に見せびらかしに来ただけだったらしいが…。」
「ってことは、前のギルガメッシュのマスターがいるってことよね? 教会は何をしているのかしら?」
 凛が言うには、教会は、聖杯戦争の監督役であり、前のサーヴァントが生き残って次の聖杯戦争に介入してくるなどというイレギュラーは、許さないはずだということだ。
「確認する必要があるわね。」
「言峰教会に行くのか? 俺も行く。」
「先輩…。」
「桜は留守しててくれるか?」
「でも…。」
「だいじょうぶだ。」
 心配する桜の頭を、士郎は撫で、微笑んだ。
 しかし、それでも桜の悪い予感は拭えなかった。
 
 

 
後書き
凛は、イリヤが聖杯の器だということを知りませんでしたが、前回の聖杯戦争でアインツベルンがホムンクルスを聖杯の器にしていたことだけは知っていました。
 
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