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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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黒魔術-Dark Majic- Part2/狙われた者たち

「聞いたかシュウ!憐!愛梨ちゃん!ミスコンだぜミスコン!」
屋上で昼食をとっていると、尾白がかなり興奮していた。学園祭でミスコンが復活する。尾白だけでなく、在学している多くの男子たちが大盛り上がりだった。
「ミスコン?うちにそんなのあったの?」
「へ、へぇー、そうなんだ…」
「…」
だが尾白と違って三人の反応は薄い。特にシュウは無表情なためか、全然興味無さそうだ。
それよりも、昨日の戦いの被害状況の方が気になるくらいだが、見たところ憐たちに被害はなくて安堵した。
「反応薄!?ミスコンだぜ!しかも参加者に、噂の美少女転校生ルイズと、2年生のマドンナであるキュルケの二人の参加が確定しているんだ。見逃すなんてできないぜ!」
「だからといって俺たちになんの関係があるんだよ」
「…あーもう!そんなんだからお前面白くないんだよ。もっとさ、色んなことに興味持てよ。機械ばっか弄ってないでさぁ。なんだ?お前の嫁は愛梨ちゃんじゃなくて機械仕掛けのオーダーメイドフィギュアか!?」
「…シュウ、私という女がいるのに…」
「人を隠れて哀願人形遊びに浸る変態に仕立てるな。尾白だろ、そんなのは」
「てめぇ!」
シュウの言い返しに尾白が反論したところで、ガタン、と屋上の入り口の扉が開かれた。
シュウは思わず、またあの二人が喧嘩のために来たのかと思ったが、違った。
来たのはティファニアだ。
「はぁ、はぁ…」
妙に彼女の意気が上がっている。何かから逃げてきたのだろうか。そう予想していると、彼女はこちらに気がついて駆け寄ってきた。
「先輩、ちょうどよかった!助けてください!」
「え、なにかあったの?」
目を丸くする憐に、テファはここまで急ぎ足できた理由を明かそうとすると、再び屋上へ駆け上ってくる誰かの駆け足の音が聞こえてきた。
「あ、もう来た!先輩、お願いします!」
足音を聞いたとたん、彼女はそそくさに屋上入り口の後ろへと隠れる。一体何に追われているのかと思っていると、またしても大きな音とともに来訪者が訪れた。それも一人ではなく、大人数の男子。
「すみません!こっちにティファニアさんが来ませんでしたか!?」
「………」
シュウ、憐、尾白、愛梨は顔を見合わせる。おそらく彼女は、この男子たちから逃げてきたのだ。でも、あの人畜無害そうなティファニアが悪さをして逃げる、なんてイメージはとても沸かない。どうもこの男子たちから
「…こっちには来ていない」
「そ、そーすか…あざっす!」
「こっちには来てなかったのか…おい、引き返して探すぞ!」
男子生徒たちはここに捜し求めていたテファがいないと聞いた途端、そろってきびすを返して屋上から去っていく。足音が遠ざかっていくと、テファがふぅ、と安心のため息を漏らして顔を出してきた。
「あ、ありがとうございます…助かったぁ…」
「ティファニアちゃん、なにかあったの?」
「…はい、実は…」
大勢の男子から美少女が逃亡。おそらくろくでもない展開の可能性がある。尾白から尋ねられ、テファはなぜああまで急ぎ足で男子たちから逃げたのかを明かした。
「ミスコンへの参加をせがまれた?」
「はい。私は何度も断ったんですが、そのたびに男子生徒のみんなが、土下座までしてミスコンに参加してほしいって…それで…」
なるほど、とシュウは納得した。スタイルも用紙も抜群で性格も優しさに溢れている。妬ましく思っている者を除けば、男女共に彼女と仲良くしたいと思えるだろう。だがテファは大人しい少女だ。ミスコンの出場なんて目立つことを好むはずがない。出場したらしたで、男たちが彼女を今以上に放っておくわけがない。かえってどこかで身の危険にさらされるのではないか。
(って、なんでわかりきったような解説を頭の中に浮かべているんだ、俺は…)
テファとはまだ出会って間もない。その割に自分は、彼女のことをよく知っているような感覚を、シュウはまたしても抱いた。
「そっかー…そりゃ逃げたくもなるよな。大人数で出てくれって頼まれたら」
厄介な事態に巻き込まれたテファに、憐は同情する。
「尾白君、本心では絶対にティファニアさんにミスコンに参加してほしいって思ってるでしょ」
ジト目の愛梨から指摘を受け、思春期真っ盛りな尾白はう…と息を詰まらせた。その反応を見て、ティファニアも明らかに引いており、尾白から一歩下がった。
「やめてその反応!なんか容疑者扱いされたみたいですげぇ傷つく!」
飛び切りの美少女から危険人物扱いされるという事態に、尾白のガラスのハートは砕かれかけた。
「大変だな~、この調子だと明日からも催促されるんじゃないの?」
憐が、この後もテファがミスコン出場を促がされることを予感する。それを聞いてテファはえぇ!?と身を震わせた。
「そんな、困ります!私がミスコンだなんて!第一、私はみんなが思っているほどの女の子じゃ…」
そんなことを言うが、異性にさほどの執着を抱かなかったシュウの目から見て、テファは魅力的な女性として認識できた。だからといって自分がお近づきになりたいという発想までは抱いていないが、男たちがこのまま彼女を野放しにするとは思えない。
シュウは解決案をテファに提示してみた。
「先生か会長に進言した方がいいだろう。あそこまでの執着があると、次は強要される可能性も否定できないぞ」
「えっと、大丈夫でしょうか…あの人たち、先生たちからも注意を受けたんですけど、今度は先生たちの隙を突いてまた頼みに来るんです」
「そうか…」
簡単にはいかなそうだ。直接あの男たちに注意を入れても、上辺だけの了承をするだけして、また目を離している間に…ということもありうるというわけだ。
「………」
一方、ティファニアもシュウと接触を図ることができたのは運がよかった、と思っていた。さっき自分でも言った通りだが、二重の意味で『ちょうどよかった』。
「黒崎先輩、あの……お願いがあるんですが、よろしいですか?」
「?俺にか?」
「はい。さっきの人たち、先生たちが目を話している時の隙を突いてくることがあるって言いましたよね?放課後とか、その時にもまた言い寄られるの、ちょっと怖いんです」
(だろうな…)
「だから、その…」
テファは考える。ミスコンに出てくれと、男子たちからの押し付けがましい要求を退ける有効な手であり、そしてあの日に起きた衝撃の一時が真実なのかを確かめるためシュウと接触する機会を増やせる手だてを。
それで浮かんだ手は…
「か、かか…」
自分でも、流石に突飛なのではと思えるものだった。
「か?」
愛梨はというと、女の勘働いたためか何か嫌な予感を感じていた。
その予感は…当たっていた。

「彼氏の振りをしてほしいんです!」

「…は?」
彼氏の…ふり?
シュウは目が点になった。お堅い思考の彼には予想外すぎた。



放課後、シュウは本当にテファと共に下校することになった。
これには他の三人も衝撃のあまり言葉を失っている。憐、尾白、愛梨の産には物陰から二人を追跡中だ。
憐は、不穏な空気を察して自分の両サイドを見る。
「嘘だ、あんな見た目だけイケメンの堅物ムッツリ野郎に女が寄り付くわけないんだ…これは夢だ。そうだ、そうだろう…そうに違いない!」
尾白は、まるで聞きたくない宣告を聞いたがそれは空耳なのだと頭の中で自らに訴え続けている。そして愛梨はというと、
「…………」
今にもゴゴゴゴゴ、と擬音でも聞こえてきそうなオーラをほとばしらせている。
(大丈夫かなぁ…シュウって結構頼まれたら断れないタイプなのは知ってたけどさ…)
隙を突いてシュウを後ろからこの二人が刺してきたりしないように、一人苦労性を背負うことになった憐はシュウたち二人よりも、傍らにいる二人を念入りに監視させられることになった。



「ご…ごめんなさい。でも、こうでもしないとあの人たちまた放課後などを狙って要求してくると思って…迷惑…でしたか?」
「…仕方ないだろ。門を出たところでまた出くわしてきたからな。あの調子では他にも待ち伏せがしてあっただろうな」
「なるほど、近しい人間を傍に置いて監視の目を常に光らせておけば、お前のミスコン参加に執着する阿呆共を黙らせられるということか」
一緒に下校する中、冷静になって、シュウの都合をあまり考えずに要求してしまったことをテファは反省していた。だがそのシュウが、やや躊躇いがちではあったが引き受けたことでちょっと罪悪感も募っていた。
それに、テファが襲われたあの夜、彼女だけじゃなくて彼女に付き添っていた子供たちもいた。その子たちがいつも通りの生活を遅れているか様子を見に行くのも悪くない。
「だが、なぜ俺なんだ?別に魔よけ程度の偽造彼氏なら、他にも間に合いそうな奴はいたんじゃないか?」
「千樹先輩は年上の彼女さんがいらっしゃるって聞いています。尾白先輩や他の人だと、逆に私にミスコン参加を促してきそうな気がしたんで…。
それに…なんとなくですけど、黒崎先輩なら大丈夫って気がしたんです」
尾白は信用されていない。ハッキリと本人が耳にしていたらショックで倒れるかもしれないとシュウは心の中で確信したが、なぜそこまで自分を買うのだろうかと疑問が尽きない。
「会って間もない俺をそこまで信頼するとはね…特に大したことはした覚えないんだけどな」
「そう、ですね……で、でも先輩ってあんまりふざけたりとかしないというか、とにかくとても真面目な方だって先生方から評判でしたし、だから大丈夫だと思って…」
「まぁ確かに、俺は平賀たちや尾白と違って色事を大っぴらに好むタイプじゃないからな」
自分でも言えるくらい、シュウは思春期少年にありがちな助平な側面を全く育まなかった。そんなことを考えてる暇もなかった。ただひたすら…
「ひたすら、あいつらを…ビーストを殺して、人を守るために…」
「先輩?あの…どうかしたんですか?」
テファの声を聴いて、自分の思考の世界から戻ってくるシュウ。はっとして、自分の呟いた言動に違和感を覚えた。
自分がビーストの存在を知ったのは、ついこの間。ウルトラマンの力に目覚めたのも、ほぼ同じタイミングだ。なぜ、ずっと前から知っていたかのように、奴らと戦うために生きていたみたいな思考に耽っていたのだろうか…
シュウが何かを言いかけたところで、二人に向けて女性の声が聞こえてきた。
「殺す、とは…なんの話をしてるんだい?」
振り替えると、緑の髪の女性が二人の前にいた。
「マチルダ姉さん!」
姉さん、と彼女が女性の名を呼んだのを聞いて、シュウは二人の顔を見比べる。姉妹と言うにはあまり似ていない。慕っているからそう呼んでいる関係なのだろうか。
「テファ、今日はちと帰りが遅かったじゃないか…?それに…」
マチルダと呼ばれた女性は、テファの隣にシュウがいることに気がつき、その目を険しくさせてシュウに詰め寄った。
「あんた誰だい!?まさかあんた…うちのテファにちょっかい出してるんじゃないだろうね!」
「い、行きなり何を言うんだ!」
「ね、姉さん誤解よ!そういうんじゃないから落ち着いて!」
シュウは悟った。ここマチルダという女性、所謂シスコン気質のようだ、と。



少しごたごたしたが、テファが事情を説明することで落ち着きを取り戻したマチルダは、シュウへの疑いを晴らした。そのお詫びのつもりか、あの後すぐそばにあった孤児院へ招かれた。
「なんだい、そうならそうって早く言っといてくれよ。最近のテファから変に男に絡まれるってよく聞いてたから、てっきりその手の奴かと思ったよ」
孤児院内の居間で、向かい側のソファに座ったマチルダが、苦笑いを浮かべながら、紅茶をすすっていた。
「もう、姉さんったら…ごめんなさい先輩。マチルダ姉さんがご迷惑をかけました」
「いや、別に気にしていない…気持ちは理解できるから」
マチルダの隣に座って詫びを入れてきたテファに、シュウは気に留めてないと告げる。
彼は孤児院の屋内と外に広がる庭を見る。外からパッと見ると建物は保育園のようだが、建物の周りはきちんとした庭が備え付けられ、この建物の中も芸能人の持家のように広く環境も整っている。
「それにしても孤児院というには、かなり立派だな」
「私の両親が、世界各地から孤児を集めてここに引き取ってるんです。結構お金持ちなんですよ。でも両親は、自分たちのためだけに使わずに、恵まれない子供たちのために使うべきだって言って、この孤児院を開いたんです」
「あたしも、その孤児の一人でね。それがきっかけでここに引き取ってもらって、今じゃテファの姉兼この孤児院の先生ってわけさ」
立派な親を持っているんだな、とシュウは感心した。確かに世界中には、内戦や飢饉、親族からの虐待などで苦しむ子供たちがいる。そんな子供たちをテファの両親は引き取って育てているのか。
すると、シュウの耳に、外からギターの音色と共に歌声が聞こえてきた。見ると、中庭の方に子供たちが集まっており、その中央にはギターを片手に、木箱を椅子代わりに座る青年の姿が映った。
「あの人が気になりますか?」
「彼は?」
「アスカ・シン、って言うんだ。名前は聞いたことないかい?」
「アスカ…」
マチルダから聞いたその名前、どこか聞いたことがあるような気がした。うっすらと脳裏に、『アスカ』の名前を起点に奇妙なヴィジョンが過る。
グレーに赤のラインを走らせたスーツを着て、巨大な怪物と戦う…
不気味に金色の発光をする黒い怪物、傍らに立つ黒い悪魔の巨人、そして…自分を守るろうと、怪物や悪魔の巨人と対峙する、光の戦士の後ろ姿。
最後に見えたのは、暗黒の闇に染まった景色の中、悪魔の巨人から自分を守るために、青い姿となったその光の巨人によって、虚空の穴に向けて自分が投げ飛ばされ…。
(っ…またか…)
シュウは頭に過った奇妙なヴィジョン…いや妄想を払った。人を夜な夜な襲って食らうビーストの存在を知ったのはつい先日のこと。今一瞬過った『妄想』の中ではアスカがそれに似た怪物と戦っていた。ビーストの存在はその生態ゆえに秘匿され、ビーストとこれまで戦ってきたのは、その手の家系であるアンリエッタと、経緯は不明だが彼女と共にいるサイトやタバサだけだ。
「あの、先輩?どこかお体の具合でも…」
気が付けば、記憶の混乱が生じて顔を手で覆っていたところを、テファに心配されていた。彼女の呼びかけに、頭に浮かんでいた幻想事頭を振り払う。
「っ…いや、どこかで聞いたことがあった気がしたから、記憶をたどっていただけだよ。
アスカ・シン…確か、現職の野球選手で、名投手アスカ・カズマの息子。彼もまた凄腕ピッチャーとして名を馳せている…でしたか?」
「そうだよ!アスカ兄ちゃんすげーんだからな!!こんな風に!」
シュウがテレビで知ったアスカに関することを口にしていると、突如後ろから子供が飛び出してきた。
それだけでなくその子供は、自慢するつもりからか手にもっていたボールを壁に向けて投げてみせ、壁からバン!と大きな音を立たせた。
あまり顔に出さなかったが、シュウは思わず肩をビクッと震わせた。
「!?」
「こらジム!お客さまを驚かせちゃダメでしょ!壁にボール投げるなって言ってるだろ!」
「えへへ、ごめんなさいー!」
マチルダから注意を入れられたジム少年は、舌を出しながら逃げていった。
「ごめんなさい、先輩」
「いい、そこまで大人げないつもりはない」
テファから謝られたが、いたずら小僧にも困ったものだ、と心の中で呟いたシュウは自分に用意された紅茶を啜った。
子供はそのジム一人だけではない。もう一人幼い少女もやってきて、興味深そうにシュウの顔を覗き込んできた。
「お兄さん、お客さん?」
「ああ…そうだが?」
「もしかして、お姉ちゃんの恋人さん?」
爆弾投下。テファは顔をぼう!と赤らめ、立ち上がって少女に否定した。
「ち、ちちち違うわ!何を言い出すのエマ!?」
めちゃくちゃ慌てふためいている。この手の話には、特に自分のことになると耐性がないせいで顔から火が出てしまうようだ。
「…すまないが、そんな関係じゃないんだ」
これではテファは恥ずかしい思いばかりをするだけだ。シュウが一言冷静に告げると、エマと呼ばれた少女はなーんだ、とつまらなそうな反応を示す。
が、その反応はなぜかテファも同じだった。
「…ティファニア、なぜ俺を睨んでいるんだ」
「いえ、別に…」
シュウは彼女の反応の意味を理解していない。テファは、シュウが全く慌てずに冷静に否定してきたのが気に入らなかった。一人恥ずかしがってる自分が馬鹿らしくなるし、自分は女として見られていないのかと思ってしまう。
「まぁいいや。それよりお兄ちゃん、せっかく来たんだし、アスカ兄ちゃんのお歌聞いて行こうよ」
「歌?」
「うん、お兄ちゃんお歌がすごくうまいんだよ!」
エマが歌の鑑賞に誘ってきたが、シュウはあまり乗り気ではなかった。流石に今の時間、遅くなりすぎた。そろそろ家として使っている遊園地の楽屋に戻らないといけない。憐も帰りを待っている頃のはずだ。
「悪い。もう時間が遅いそろそろ帰るよ」
なので断ろうと思って席を立つと、エマが切なそうな視線をシュウに向けていた。
「だめですか…?」
…その視線がずるいと思わざるを得なかった。孤児たちの世話をしているテファとマチルダの手前、断るのが心苦しい。
「…じゃあ、一曲だけ聞いてから帰る」
結局一触聞いてからということで譲歩した。
シュウが子供を苦手とする理由、喚かれるのも泣かれるのも嫌だし、罪悪感もプラスされていろいろ厄介に思っているからである。



「みんな集まったか?」
「はーい!」
ギターを携え、庭の中央の木箱を椅子に座るアスカに、集まった子供たちが手を挙げて一斉に返事する。
「いい返事だ!今からこのアスカ・シンの特別ソロライブを始めたいと思いまーす!!!」
子供たちは大盛り上がりだ。よほど楽しみなのだろう。後ろからテファとマチルダと共に見ていたシュウにもそれが伝わった。
みなが静かになったところで、アスカはギターの弦を弾き、歌いだした。

澄み渡る空、人の勇気、夢…そして、

ただ一人、大切な人を守りたい。

それを切に願う歌だった。




アスカが最後の歌詞を伸ばしながら歌い終えたところで、子供たちとテファ、マチルダの二人からの拍手喝采が沸いた。
なるほど、よい曲だと思った。エマという少女が聴くのを勧めてきたのもわかる。この歌は幾度聴いても、そう思うしかない。
シュウは、ウルトラマンである。今のアスカの歌は、その使命を全うしなければならないという思いを強くさせた。
この町には、大切な友人たちがいる。今となりにいるテファや、ここにいる子供たちにとっても大切な時間を過ごすかけがえのない場所だ。
それをあんな醜い怪物共などに壊させてなるものか。
そうと決まれば、ということでシュウは子供たちが孤児院内に戻っていくのを見届けたところで帰路を行こうとした。
「待ってくれ」
しかし、門の向こうへ踏み込もうとしたところで、自分を引き止める声が聞こえる。振り返ると、素人ながら先ほど名曲を披露してくれたアスカがそこにいた。
「よう」
「何か用ですか?」
シュウは丁寧にアスカに問うと、アスカは屈託のない笑みを浮かべてくる。
「いや、ちょっとお礼を言いたくてさ。ティファニアを無事に送ってくれてありがとな。それと俺のライブも聴いてくれて嬉しかったぜ」
「いえ、こちらこそ良い時間になりました。あなたの歌もティファニアのそれとはまた違った魅力が…」
ライブというには質素だがな、とは思うが敢えて口にしない。本人の歌唱力もあっていい歌だ。ティファニアの澄んだ美しい声による歌とはまた違った魅力が……
(いや、待て…!
…ティファニアの歌?そんなのいつ聴いた?)
またデジャヴか。シュウは少し自分にうんざりする。ここ最近どことなくデジャヴを抱えることが多くなってきた。ウルトラマンの力に関してもそうだ。ずっと前に授かったような感覚さえある。それだけこの超人的な力が馴染んでしまっているのだろうか。
「……悪いけど、帰る前に少しだけ話をしていかないか?」
デジャヴのことを適当に頭から払って帰ろうと思ったところで、アスカがシュウに言った。
「…あまり時間はかけたくない」
一応憐たちに、ティファニアが男子生徒たちからのミスコンへの勧誘を避けられるよう、一緒に帰ると告げている。普段と違う下校路を行っていたから当然その時間も違う。楽屋へ戻る時間も必然に変わる。下手に心配をかけるようなことはしたくないので一言それを言った。
「大丈夫だ。本当に時間をかけたりしねぇよ」
「…では、話とは?」
早く教えてほしいと催促するように、シュウはアスカに言う。どこかせかしているようなシュウに対して、アスカはさっきまでの調子のよい表情から一転して、真剣な顔つきでシュウに尋ねてきた。
「お前、今の自分を不思議に思ったりしないか?」
「…?どういう意味だ?」
「そうだな…しいて言えば、今この世界に自分はなんでいるのか、とか。どうして世界は今こんな形をしているのか…とか」
「はぁ…?」
ますます意味がわからなくなった。この世界が今の形を?なんでいるか?そんなことどうでもいいし、これが当たり前ではないか。
憐や尾白、愛梨がいて、平賀やヴァリエール、ティファニア…様々な人たちがこの世界で日々を過ごしている。昔からずっとそうしてきた。ただそれだけのことだ。
「…いや、変なことを聞いたな。ちょっと訊いてみたくなっただけだ」
大した質問じゃないぜ、とアスカは言うが、だったらこうして引きとめる意味があったのだろうか。短い時間だが無駄な時間を費やされた気持ちになる。
今度こそ帰ろうとしたところで、またアスカが引き止めてきた。
「シュウ」
「…なんだ」
もうそろそろ帰路に帰りたいと考えていたシュウに、アスカは弟に大切なことを教える兄のような優しい口調と顔で言った。
「お前さんは頑張ってきた。この先もきっとな。
だからよ、新しい夢を抱いてもいい。

夢を簡単に諦めずに、幸せになっていいんだぜ」

それを最後に、帰路を辿って帰宅するシュウ。
あの言葉の意味を、シュウは理解できなかった。なぜ初めて会った人間に対してこんな風にアスカは言ってきたのか。
(あの男、なんなんだ?)
なんだかある種の気味悪さを覚えた。前々から自分を知っていたかのような口ぶりに思える。自分の心の奥底を見ているような…。

―――わからないの?

(!)
誰かの声が聞こえ、シュウは足を止めた。幻聴?それとも近くで話し声でもしているのか?
…いや、気に留めるほどじゃないだろ。自分に向けられたかもわからないのに、いちいち真面目に受け止めるとは、変なところで素直だ。

―――忘れたの?

また声が聞こえてきた。誰の声だ?もしや、自分に問いかけてるのか?誰が何のために?
疑問が頭の中をよぎると、道の前の方から足音が聞こえてくる。
シュウの目に映ったのは、同じ年齢くらいに見える少女だった。薄い白いワンピースを着込み、肩にかかるほどの茶色の長い髪の子だ。
(誰だ…?)
会ったことがない。だが、なぜだろう…

俺は彼女を知っている気がする。

―――目を覚まして

虚ろな目で彼女はシュウにそう告げた。

―――あなたは狙われている

「狙われている?」
意識がはっきりしているこちらから見たら、そっちが夢遊病にでもかかっているのではと思える言動。新手の変人か?
「きゃあああああ!!!」
突如、少女の向こう側から悲鳴が夜空に響いた。これはただごとではない。
今自分の前にいるこの少女も怪しいが、今は現場に急行した方が先決だ。
シュウは少女とすれ違い、走り出した。すれ違ったとき、茶色の髪の少女が、
去っていくシュウに、どこか辛いものを抱え込んでいるような目を向けていたことに気づくことはなかった。




悲鳴が聞こえた場所は、孤児院の近くにある工事中の建物の敷地内からだった。
「いやあああああ!!」
その悲鳴の主は、キュルケだった。彼女はどういうわけか、空中に放り出されていた。
…というより、空に向けて吸い寄せられていた。そしてその後ろの空に見えるのは、
不気味さを露骨に表している巨大な影。
「あいつか!」
シュウはすぐに、ウルトラマンの変身者として与えられた銃『ブラストショット』を影に向けて発射した。一発だけじゃ足りない。さらに二度三度と連射すると、その影は光弾をその身に受け、消え去った。
「ああああああああ!!」
キュルケが浮力を失ったためか、落下してくる。まずい!影を消し去ったのはいいが、このままでは地面に激突する。あのキュルケという恋多き女の事だ。後でいろいろ言い寄ってくるだろうが、命の危険にさらされている時にそんなこと言ってられない。すぐにシュウは彼女を下から受け止めようとしたところで、シュウの近くから新たな声が聞こえた。
「「レビテーション!」」
瞬間、落下中のキュルケの体がふわっと空中に浮き、少しずつゆっくりと降りて行った。
「先輩、ご無事ですか!!」
「キュルケ…!!」
来たのはクリスとタバサ、『ナイトレイダー』に所属している二人だった。浮遊の魔法でキュルケの落下を防いだのだ。
「あぁもう、酷い目にあったわ…でも助かったわ、二人とも。それに…先輩はやはり素敵なお方ですわ!やはり私、あなたのことが…!」
思わぬ目にあったことにげんなりしつつも、キュルケは乱れた髪を整え、すぐさまシュウに、熱っぽい視線を向けていた。うげ、とシュウは露骨に嫌そうな顔を浮かべ、キュルケのハグを即座に避けた。
「あぁ二人とも悪いな。フォローに回ってくれて」
あたかもキュルケのアプローチをなかったことにするように、シュウはクリスとタバサに目を向けた。
「いえ、これも我々も使命ですから。だが…」
クリスは、影の消えた空に目を向ける。
「あの影はなんなんだ?あれもビーストなのか?」
「…違う。ビーストにしては異質すぎる」
タバサの判断にシュウは目を細める。あれがビーストではない?だったら一体あいつはなんだ?
「やはり、ビーストとは別の、ここ数日の連続失踪事件の犯人か」
クリスが言った。
「ビースト以外にもいるのか?人間に害を及ぼす奴が」
「その話は明日、生徒会長のもとに行ってから。今日はもう遅い、まずはキュルケを連れて帰るのが先決」
ひとまずキュルケの安全確保のためにタバサは彼女を連れて帰り、シュウとクリスもこの日はそれぞれの家に戻ることにした。
(ビースト以外にも、人を襲う怪物が潜んでいるのか…それに…)
巨大な悪魔のような影が消えた空を見上げ、シュウはこの先の戦いが激化することを予想する。それだけでなく、もうひとつ気になることもあった。
ここに来る前の道の上で出会った、あの少女だ。
(さっきのあの女は…誰だ?今回の事件と、もしや何か関係が?)



シュウやサイトたちが通う学園の、ある教室の一室。
4人の女子学生たちが、既に下校時間を過ぎたと言うのにまだ残っていた。
彼女たちの足元には、怪しげな五芒星、そして周りには燭台に立てられた蝋燭が不気味に火をちらつかせていた。
「失敗した!」
一人の女学生が苛つきを露にし、燭台を蹴飛ばすと、隣にいたやや大人しそうな女学生に当たりだした。
「きっとあなたの憎しみが足りないせいよ、ユウキ!」
「だって私、まだこういうことよくわからなくて」
八つ当たりされた女学生ユウキを庇うように、別の女子高生が前に立って彼女を抑えた。
「トネー、落ちつきなよ。次はきっとうまくいくって。そうすれば、あの目障りなキュルケがいなくなってくれるんだから」
「ええ、いい加減男をとっかえひっかえするあの糞ビッチ女には、さっさと死んでもらわないと」
「そうよ、あいつ人の彼氏を一体どれだけ盗ってしまえば気が済むのよ!
詰め寄ったら『あたしは何もしてないわ、彼らが勝手に私に乗り換えてるだけ』とか『あたしは誰かの一番を奪う気はない。あなたたちは一番になれたなっただけじゃない』…何様のつもりよ!薄汚い泥棒猫の分際で生意気なのよ!!」
どうやら彼女たちはキュルケに対して恨みを募らせているようだ。それも異性関係で。
実際、キュルケは熱しやすく冷めやすい…恋をすることが多いがそれがすぐに冷めてしまう、ある種の傍若無人さを備えていた。ルイズとキュルケの実家が不仲なのも、彼女の家系の者たちが、自分が惚れた相手は何が何でも手に入れるという性分が、慎み深いルイズの家系とはそりが合わな過ぎるため。尤も、それを抜きにしてもキュルケの性格は同性からの反感を買いやすいものだった。
だが殺すつもりと、学生らしからぬ暴言を口にしている辺り、憎しみの感情を抑えられなくなっている。
その挙句の果てが、今彼女たちが行っている危険な儀式……『黒魔術』という手段だった。
しかもその力は本物。トネーたちはこの力を利用して、気に食わない人間…彼女たちが悪だと見なした者を徹底的に排除していたのだ。
「ねえ、あなたたち」
そんな時だった。彼女たちがいる教室にまた一人、女子生徒が入ってきた。
「誰!?」
トネーたちは入口に立つ女子生徒を見るが、なぜか彼女は後ろからの逆光のせいで、トネーたちの視界にはっきりとした姿を現せていなかった。
「私からもいいかしら?もう一人…消してほしい子がいるんだけど」





夢は再び覚め、彼らは再び現実に舞い戻った。
 
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