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蒼穹のカンヘル

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四十二枚目

 
前書き
センター試験前々日なう。 

 
少女は、目を覚ました。

辺りを見渡すと、仲間達が眠っていた。

硬い床ではなく、大きなマットの敷かれた部屋だ。

「ここは…何処…」

少女は近くにいた赤みがかった茶髪の女の子の肩を揺り動かす。

「起きて、起きてクリス」

「んぅ………トスカ…?」

クリスと呼ばれた少女が目を開く。

「ぅっ………」

クリスが体を起こす。

「ここは?」

「わからない。私も起きたばかりなの」

二人が人数を数えると、十八人。

一人足りない。

「イザイヤ…逃げ切れたかな…」

「大丈夫よトスカ! イザイヤは剣士だもの!」

二人は残りの十六人を起こした。

「なぁ、これからどうするんだよジョージ」

目付きの悪い金髪の男の子が、黒髪の男の子に問いかけた。

「わからない。僕達は生きていて、誰かに助けられた。
誰に助けてもらったかはわからないけれど……」

十八人が車座になって考えていると、その中央に闇が現れた。

暗い暗い虚無が晴れた時、そこには神々しい光を放つ異形の天使がたたずんでいた。

「目が覚めたか、龍の血を分けし子供らよ」

背丈は自分達とそう変わらない。

ただ、龍の尾や翼を持っている。

「俺の名は篝。祝福の龍セルピヌスを宿す者だ」

その突拍子のない言葉は、何故か子供達の中にスッと解けていった。

「君達は一度死んだ。故に俺が甦らせた」

天使がパチンと指を鳴らすと、子供達の背から純白の翼が、腰から尾が、手足から鱗が、額から角が、頭から光輪が現れ、瞳孔が縦に割けた。

「君達を甦らせた時、抜き取られた因子をセルピヌスの祝福でカバーした。
そのせいで君達はニンゲンではなくなってしまった。謝罪する」

ぽかんとする子供達の中央で、天使は黒い翼を広げた。

「俺は、天使であり、堕天使であり、悪魔であり、龍でもある。
教会に属していた君達には酷かもしれないが、きょうから俺の領地で…この館で過ごしてもらう。
何か聞きたい事は?」

そこでトスカが手をあげた。

「あ、あの! イザイヤは! 私達の仲間は無事なんですか?」

「無事だ。だがイザイヤは悪魔に転生した。
しかし些細な事だ。君達を殺した人間より優しい悪魔が主だ」

「そうですか…いえ、イザイヤが生きていてくれたら、それだけで十分です」

「君達は、悪魔は人間の敵だと教わった筈だ。
でもね、天使だって絶対的な人間の味方じゃない。
悪魔や堕天使も絶対的な悪じゃない。
だから、こんどイザイヤに会ったら、彼が悪魔だろうと、優しく受け入れてあげてくれ」

はい! と子供達が返事をした。

「ふむ…では館の地図を置いておく。俺は書斎に居る。
何かあれば書斎に来るかメイドを捕まえるといい」

天使が再び指を鳴らすと、一人に一つ手帳が現れた。

「ではな」

黒い球体に包まれ、天使は姿を消した。


「…あの天使様を信じる人」

クリスが問いかけると、全員が挙手した。

「なぁ、皆。まずはこの手帳を読んでみないか?」

ジョージが手帳を掲げる。

一本の錫杖が書かれた手帳だ。

各々手帳を開こうとするが、鎧のような龍の手に慣れず、手帳を取り落とす者も多かった。

始めに紙片が挟んであった。

〔落ち着いたら、新しい名前をつけるので書斎に来ること。
≪名は命なり≫新しき生には新しき名を〕

「主よ……いや…篝様……」

十八人のなかでいちばん背の高い子が呟いた。

「これって、天使様が新しい洗礼をくれるってことなのかなぁ~?」

眠たげな少女の言葉が示す事は、新たなる希望だ。

教会に裏切られ、揺らいだ信仰。

奪われた因子の代わりに与えられた暖かな光。

どちらを取るかは、わかりきっていた。

「行こう。そして、生まれ代わろう。悪魔を憎む、教会の奴隷だった僕らは死んだ。
天使も悪魔も堕天使も関係ない。僕は僕達を救ってくれたあの天使様の為に祈りを捧げたい。皆はどう?」

ジョージが見渡すと、皆が頷いた。

「私は、悪魔になってもイザイヤはイザイヤだと思う。だから、悪魔を全否定したくない」

トスカの瞳には意志が宿っていた。

過去と決別する覚悟が。












書斎

「早っ!? 俺3日くらい待つ気だったんだけど!?
無理しなくていいからね? 悩んでいいんだよ?」

何故か慌てる天使。

「いいえ。僕達は決めました。貴方の為に祈りを捧げると」

篝は一瞬ポカーンとして、自分の内側に意識を向けた。

子供達の声が聞こえる。

子供達に分け与えた魂の欠片をとおして。

本心から、自分へ祈る心の声が。

篝が龍の瞳を開く。

「うん…。わかった。じゃぁ、名前をつけようか」

篝が全員を見渡す。

「トスカ」

「はい」

「君の名前は、“謡”。君の中の歌声からつけた」

「ありがとうございます」

トスカがペコリとお辞儀をした。

「次はジョージ。君の名前は“典夜”。皆を支え、引っ張っていく君にこの名前をあげたい」

「喜んで」

篝は十八人全員に名前をつけていった。

女の子には音楽にかんする名前を。

男の子には文学にかんする名前を。

与えられた名前は、子供達の魂にとけて、一つになった。

その祝福は、新たなる拠り所。

新たなる信仰の礎。

「天使に生まれ変わった君達が、光を歩む事を願っているよ」 
 

 
後書き
女子十名
謡(うたい)(トスカ)
詠奈(えいな)
響湖(きょうこ)
舞(まい)
詩華(しいか)
声花(せいか)
真琴(まこと)
韶子(しょうこ)
美弦(みつる)
律(りつ)

男子八名
典也(のりや)
雄辞(ゆうじ)
忠文(ただふみ)
灯籍(ともより)
字将(あざまさ)
章(あきら)
経助(きょうすけ)
哲(さとる)

トスカ出そうと思ったらこうするしかなかった。
ぶっちゃけトスカ意外全員オリキャラ(名有りのモブ)です。もしかしたらその上活躍するかも? 
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