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社会人共がクトゥルフやった時のリプレイ

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Part.5

 で、杏里を探すんだったねい? どうやって探すんだい? 予坂梨世はおまえたちの方針で行動するぜい?

「まず手分けするかしないかだな」

「手分けは絶対ない、危険すぎるわ。全員で固まって探しましょう」

 ダイス振るなら《目星》や《幸運》、それから《DEX》×5で判定することを推奨しているねい。

「《DEX》だけで充分でしょう。校内にはまだ生徒たちはいるんですよね? でしたら生徒たちに訊き込みましょう。同い年くらいの私服の女の子と言えば伝わるでしょう」

「そうね。GM、私は生徒会役員ということで顔は広いはずよ。近くにいた学生に話を聞きましょう。ねぇあなたちょっといい?」

「あ、はい。なんですか? 制服はちゃんと着ていると思いますが」

「服装チェックじゃないわよ。今日校内で私服の女の子見なかったかしら? 同じ年くらいの」

「(コロコロ)……いえ、見てませんよ? 小学生の女の子なんて」

「その喧嘩買ったわ」

「冗談ですよ。ええ、見ましたよ。確かさっき旧校舎に向かっていきましたよ。文科系の部活動でも見に行ったんじゃないですかね」

「情報提供感謝します。GM、旧校舎に向かいます」

 あいよ。あ、ダイスは振る必要ないよ。ロールプレイで解決しちまったし。
 おまえさんたち一行は5分もかからずに目的の少女を見つけることができた。旧校舎2階、文科系の部活動をしている部室が唯一ない階層に私服の少女はいた。彼女はおまえさんたちに気付いた様子はなく珍しそうなものを見るように校舎内を見渡しながら歩いている。彼女が向いている廊下の先には夕日が差し込んでこそいるがどこか不自然に暗く、別世界に繋がっているように錯覚するだろう。……と、その時だった。

「おまえはもっとちょうどいい!」

 と廊下に男の大きな声が響いた。おまえさんたちについて来ていた予坂梨世は「賀川先生?」と首を傾げている。
 声が響いた途端、暗がりから異様に長い真っ黒な無数の影が少女を捕らえた。影の先はそれぞれ5つに分かれ、まるで人間の手のようだ。

「えっ、えっ、なに……ひっ!」

 少女、予坂杏里は影の手の先にある物を見て小さな悲鳴をあげた。廊下の先に広がる黒い闇。そこには悲しみの感情一色に染まった巨大な2つの目だけが浮かんでいた。
 現実離れしたこの光景を目撃してしまった探索者諸君、1D3/1D8の《SAN》チェックな。

 射命丸《SAN》45 → 62 失敗
 萩村 《SAN》42 → 31 成功
 遊星 《SAN》50 → 66 失敗

「(コロコロ)……うわ、6です」

「(コロコロ)……3点」

「(コロコロ)……4。ギリギリセーフだな」

 あっらら、射命丸の場合は今まで自分を狙っていたものの正体を目撃してショックがでかかったのかもな。ほら、5点以上減ったんだから《アイデア》チェックだぜ?

 射命丸《アイデア》55 → 16 成功

「これぞCOCですよね! 一時的発狂です! それから6パ-セントのクトゥルフ神話技能もいただきです!」

 喜んでいただいて何よりだ。さぁ、発狂の種類を決めようじゃないか。1D10を振んな。

「(コロコロ)……10! 幼児退行か緊張症ですね! 蹲って泣き叫びます! うえーん怖いよぉ! ママ助けてぇ!」

「使いもんにならなくなったわ。唯一の《精神分析》持ちなのに」

「文のことは今はいい。そんなことより杏里ちゃんを助けるぞ! GM、闇の手に捕まった杏里ちゃんを引っ張って救出するぞ!」

「私の手伝うわ!」

 それなら《STR》16との対抗ロールだ。2人の《STR》は?

「俺は14」

「私は9」

 80パーセントで成功か。そこそこだな。

 《STR》対抗 80 → 78 成功

 ギリギリだけど成功か。じゃあおまえたちは黒い手から杏里を引き戻すことに成功した。だが黒い腕は細長く伸び、杏里の身体に絡みついて離れないから完全に助け出すことは出来ないな。

「GM、私はこの状態で影に対して《説得》を試みるわ!」

 どんな感じで《説得》する?

「まずは影に対して呼びかけるわ。さんざん文に怖い思いをさせてこんな風にして、気が変わったから別の子に手を出すなんてちょっとどうなのよ。聞こえるなら返事をしなさい」

 そう呼びかけると、影は返事をしてくる。

「おまえに関係ない。その子よりももっとちょうどいい子がいた。だから私はその子を選んだだけだ。……そういえばおまえはあのときも邪魔してきたな。それに懲りずにまた邪魔するとは……」

「邪魔するに決まってんでしょうが。あんたの勘違いのせいで何の罪もない人間が死ぬなんて許せないわ」

「勘違い、だと?」

「あんた賀川先生でしょ? この学校の歴史を教えていた賀川康史なんでしょう? 調べたからわかるのよ、あんたが何をしたのかもあんたが何を知ろうとしているのかも!」

「知っているなら邪魔をするな! こうすることしか、これしか私には方法はないんだ! これこそが私にできる彼女への贖罪なのだ!」

「だっからそれが勘違いってんのよ! そんなにデカい目があんならよく見なさいよ! 私たちの後ろにいる人を!」

 萩村が影……賀川先生の亡霊に言うと、巨大な2つの目がおまえさんたちの後方……いったい何が起こっているのかわからずにおろおろしている予坂梨世の姿を捉えた。その時、杏里を掴んでいる影の力が少し弱まった。

「! もう一回《STR》対抗だ! 成功で杏里ちゃんを解放させるぞ!」

「当然私も協力するわ!」

「私役立たずですねえ」

 ああ、射命丸。おまえさんはこの《STR》対抗の処理が終わったら正気に戻ってくれ。さぁさ、《STR》対抗だ。

 《STR》対抗 80 → 75 成功

 杏里は影の腕から解放された。バランスを崩して倒れるねい。

「俺が受け止めよう。俺の《SIZ》は17ある。出来るな?」

 ああ、出来るねい。じゃあ杏里は遊星に受け止められた。一方影の方は動揺している。信じられないものを見たように巨大な目をさらに大きく開いていた。

「ロールプレイを続けるわ。どうやら気付いたみたいね。16年経って色々変わったかもしれないけど、あんたが一番思い続けてきた生徒だものね」

「嘘だ……そんなはず……自殺したって……」

「噂を鵜呑みにして事実確認していないから知らなかったのよ。彼女はあんたがずっと謝りたいと願っていた予坂梨世さんご本人よ。あんたと違って亡霊なんかじゃない、確かに生きているのよ!」

「じゃ、じゃあまさか……」

「そのまさかよ。……あんたが今さっきまで殺そうとしていたこの子は梨世さんの実の娘、予坂杏里さんよ」

 ……あー、もういいや。《説得》は自動成功とする。ったく、ロールプレイ重視派は本当にのめりこんじまうからダイス振らせる隙がないねい。
 萩村の説得を受け、自分の勘違いに気付いた影はさぁっと霧のように晴れていく。宙に浮かんでいた大きな目も眠りにつくように閉じ、消えて行った。
 異様な雰囲気だった廊下の闇が晴れ、オレンジ色の夕日が差し込みだしたそこには眼鏡を掛けた、ごく普通の中年の男性が立っていた。

「賀川……先生……!」

 ようやく状況を飲み込めたらしい予坂梨世が男性に向かって名を呼ぶと、男性は本当に嬉しそうに微笑む。そして男性こと賀川先生の亡霊は杏里を見て、頭を下げた。

「君が……予坂さんの娘さん、か。本当にお母さんに似た子だね。私はね、君のお母さんに酷いことを言ってしまった。そのことを悔やまぬ日なんてなかった。……けれど、私の過ちなどものともせず、君のお母さんは生きて、君はこんなに立派に育っていてくれたんだね。ありがとう。ここにいてくれて、生きててくれて本当にありがとう」

「は、はい……」

 状況が変わりすぎて戸惑うように返事をする杏里だが、そんな彼女を愛おしそうに賀川先生は笑う。しかし、一回瞳を閉じた後予坂梨世の方に目を向けた賀川先生は、とても真剣な表情に変わっていた。

「予坂さん、あのとき、私は君に酷いことを言ってしまった。教師ならば相談してきてくれた生徒と真剣に向き合わなければならないのに、私は厳しい言葉ばかりを君に言ってしまった。本当に、本当に申し訳ない」

「そんな……先生は充分向き合ってくれました。私の方こそ、先生に甘えていたんです。私の方こそ、謝らないといけなかったのに……」

「君が謝る必要はない。私は君が生きて、あのときの子供を立派に育ててくれたことが何よりも嬉しいんだ。こんな形の再会になってしまったけれど、消える前に君に会えて、良かったと心から思うよ」

 その後賀川先生の亡霊はおまえさんたちの方に向き合う。

「私の勘違いと勝手に付き合わせてしまってすまなかった。特に……射命丸文さん、だったかな。怖がらせてしまって本当にすまなかった。そして、こうして謝罪する機会を私にくれてありがとう」

「い、いえいえ。直接何かされたわけじゃありませんし、成り行きでこうなってしまっただけですから偶然ですし……先生も良かったですね、誤解が解けて」

「ああ……」

 他の2人も何か言いたいことがあったら言っていいよい?

「賀川先生、警察には私たちが連絡しておきます。部屋にあるあなたのお身体についてはご安心ください」

「俺は……別に何もされていないし、こうして解決したんだ。言うことがあるとしたらただ1つ。ご冥福を祈っている。今まで散々苦しんできたんですから、ゆっくり休んでください」

「そうか……ありがとう」

 そう言って、深く頭を下げた賀川康史は、妄執に囚われた恐ろしい亡霊でなく、1人の教師だった。夕日に包まれ、賀川先生の亡霊は静かに消えて行った。……エンディングに行こうか。


     ―――・―――・―――・―――


 あーいよっと、まずは探索者諸君、全員無事生還おめっとさん。まぁキャラロストはしないだろうなとは思っていたシナリオだったし、おまえさんたちなら普通に解決できると思っていたけどここまでダイスを振らないとはな。ちょっとびっくりだ。

「ロールプレイでカバーってやつよ」

「多分萩村さんがいなかったらもっとダイス振ってたと思いますよ」

 まぁそれはいいや。後日談をしようか。
 学校での賀川先生の亡霊との対決後、萩村は言った通り警察に連絡し、賀川先生の遺体を発見させた。そこには予坂親子の姿も見え、杏里は戸惑うばかりだったが梨世は静かに涙を流し、自分たちがどんな体験をしたのかがわかったようだ。
 おまえさんたちは予坂親子と話を合わせ、世話になった教師の家に訪れたら遺体を発見し、そこを偶然歩いていたおまえさんたちも遺体を発見してしまった、と警察に話した。
 賀川先生の死因は衰弱死ではなく、病死だったようだ。末期性の膵臓癌だったらしい。
 その後おまえさんたちと予坂親子、宮城先生だけの小さな葬式が執り行われ、賀川先生はしっかりと供養された。未練を残して死んだ賀川先生だが、あの世に行く前に自分が苦しんでいたことと向き合い、真実を知ることができて本当に嬉しかったのであろう。棺の中で眠る彼の顔はどこか安らかだった。
 あ、そういえばあの像……ぶっちゃけ、シュブ=ニグラスの像なんだけどどうする? 確か持っていたのは射命丸だったよねい? 部屋にでも飾るかい?

「そんなことあるわけないでしょう。あんな気持ちの悪い置物、お寺かどこかに奉納しますよ。壊すのは怖いですので」

 なるほどねい、それなら大丈夫そうだ。
 ってなわけで、以上でCOC公式シナリオ集【アカシック13】より拝借したシナリオ、『おまえがちょうどいい』を終了させてもらうぜい。
 はい、お疲れさん。

「「「お疲れ様です」」」




     ――Good end!! 
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