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魔術師ルー&ヴィー

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第二章
  Prologue


 ルーファスとヴィルベルトはベズーフの宿にいた。
 二人は三月程リュヴェシュタン国内を旅していたが、後に少し南に下ってベズーフへと入っていた。
 どうせならば王都へ立ち寄ろうと、二人は更に下って王都近くの町ハイシュまで来ていたのであった。
「師匠。この国って、かの大賢者が居られましたよね?」
「あぁ…シヴィッラ・マルクアーン殿か。居るっちゃ居るが、こっから北へかなり行かねぇと会えねぇぞ?今や北の塔に籠もってるかんな。」
「えっ…会えないんですか?」
「何だ、ヴィー。お前、何か聞きたい事でも
あったんか?」
「そう言う訳じゃ…でも、一度は話してみたいじゃないですか!」
「そっか。ま、寄っても良いけどよ。」
「本当ですか!?是非そうしましょう!」
 ヴィルベルトは目を輝かせて師を見ている。
 ベズーフの大賢者と呼ばれるシヴィッラ・マルクアーンは、先の大戦で活躍した英雄の一人である。ヴィルベルトはリュヴェシュタンの事件を切っ掛けに、英雄と名高き五人組の全員に会ってみたくなっていたのである。
 師であるルーファスは話してないが、彼は五人全員と面識がある。しかし、わざわざ立ち寄る程ではないと考え、敢えて南へと下ったのであった。
「お二人さん、今日もお出掛けで?」
 そう言って飲み物を運んで来たのは、この宿の主人であるギルクリフトである。
「ギル、そうしようかと思ってるんだが…日雇い仕事ってないか?」
「仕事ですかい?何か物入りで?」
「いや、見物ばかりじゃつまんねぇしな。仕事してりゃ、面白い話の一つも出てきそうだしな。」
「そう言うもんですかねぇ…。まぁ、あるっちゃありますが、ちぃとばかし危険でね。その分、金はかなり良いって話ですがねぇ。」
 そのギルクリフトの話に、ルーファスはニヤッと不敵な笑みを見せたため、ヴィルベルトはギョッとした。
「師匠…まさか…。」
 ヴィルベルトは何とか止めようと口を開くよりも早く、ルーファスはギルクリフトへと返した。
「よっしゃ、そいつを教えてくれ!」
 ヴィルベルトは口をパクパクさせ、そして…言えなかった言葉を飲み物と共に飲み込んだのであった。こう言ったが最後、師は絶対にやるのだ。
 ヴィルベルトは諦めた様に、一人溜め息をついたのであった。
 その日の夕刻。二人はギルクリフトに紹介された商業ギルドへと来ていた。
「えっと、ルッセル・マグナスタ…で合ってるか?そいつ今居るか?」
 ここはギルドの受付だが、そこで仕事をしていた女性に、ルーファスはそう無遠慮に聞いた。
 この大陸では珍しい赤毛の女性は、その整った容姿を僅かに引き攣らせたが、直ぐに微笑みを取り戻して言った。
「ギルド長のマグナスタ様にご用でしょうか?」
「だからそう言ってるだろ?」
 その返しに、女性は再び顔を引き攣らせ、今度はそのまま言った。
「お約束はお有りでしょうか?」
「んなもんねぇよ。宿のギルクリフトに聞いて来たんだっての。」
 ルーファスのこの物言いに、女性は顔をより引き攣らせた。
「お約束がない場合、ギルド長への面会は出来ません。明後日ならお時間も取れるとは思いますが…。」
「はぁ?こっちは仕事の依頼が出されてるから来たってのに、明後日来いだと?」
「仕事依頼でのご要件でしでも、お約束無しでの面会は許可されておりません。どうぞお引き取りを!」
 女性は最早引き攣るを通り越し、ルーファスを睨みつけて返した。まぁ…ここまでの遣り取りで、そこにいた人々は追い返されて当たり前だとは思ったが、後ろで様子を窺っていたヴィルベルトには、彼女の表情から何か違う違和感を感じていた。
 何と言うか…直ぐにでも帰ってほしい…もっといえば、関わるな…そんな風に見えたのだ。
 だが、ヴィルベルトがそれを師へ言おうとした時、廊下の奥から男性が現れ、ルーファスを睨み付けている女性へと言った。
「アリア、そのお二方をお通ししろ。」
「ギルド長!しかしこの後…」
「良いから、直ぐにお通ししろ。」
 そう言われた女性…アリアは、渋い顔をしてルーファスとヴィルベルトに視線を返して言った。
「では、こちらへ。」
 気に入らないと言わんばかりではあるが、ルーファスは兎も角、ヴィルベルトは申し訳無いと感じていた。
「師匠…あれはないんじゃないですか?」
「何でだよ。」
「だってここ…正式な商業ギルドですよ?それもギルド長はそれを纏め上げるトップの方なんですから、普通は約束無しじゃ面会出来ないじゃないですか。」
「んなこたぁ分かってるっつぅの!ギルがこう言や分かるっつってたからよ…。」
 そう言っている間に、二人は奥の部屋へと案内された。どうやらギルド長の執務室の様で、応接室も兼ねている様である。
 ノックしてアリアが扉を開けると、目の前に山の様な書類が置かれた机が目を引いた。そこで主が仕事をしているのだろう。その手前にはソファーと長机が置かれ、アリアはそこまで二人を連れて入り、そのまま「失礼します。」と言って部屋を出て行ったのであった。
 その時も、ヴィルベルトは彼女の表情が気にはなったが、師の無礼な態度に怒っているのだと思い、以後気にすることは無かった。
「お二方、私がギルド長のマグナスタだ。ギルクリフトの紹介で来たのだね?」
 書類の山の中から、ニュっと男性が立ち上がって言ったため、ルーファスは「そうだ。」と答えると、男性は二人にソファーを勧めて座らせ、自身も正面へと腰を下ろした。
 その頃合いを見計らってか扉がノックされ、そこから給仕の女性が入って来て、三人の前にお茶が置かれた。
 女性は真ん中へ茶菓子を置くと、一つ頭を下げて部屋を出てゆく。
 三人は先ずお茶を一口飲んでから本題に入った。
「ギルはここに来てあんたに会えば良い…と言ってたが?」
「あいつとは古くからの付き合いでな。あいつがここに寄越した人材は、皆優秀な者ばかりだからね。で、仕事の内容は聞いて来たのかい?」
「いや、危ねぇ仕事ってことしか聞いてねぇが…。」
 そう言ってルーファスはマグナスタを見る。
 彼は長身だが痩せていて、顔もどことなく蒼白く…何だか病弱な印象を受ける。体力仕事にはとても向かないが、そのために頭脳を使うこうした職に就いたのだと思われた。
 宿の主であるギルクリフトとは正反対で、どうやって知り合ったのか気になる所ではあるが、今はそんなことを考えている間はないと、ルーファスは早速仕事内容について聞いた。
「さて、この月の終わり…と言っても明後日なのだが、この街の教会にマルクアーン殿がお見えになるのだ。その警護を頼みたいのだよ。」
「えっ…あの賢者が北の塔から出たのか!?」
 ルーファスは思わず立ち上がってそう言い、ハッと座り直した。その後、眉を顰めて呟く様に言った。
「あの賢者は…。」
「そう…呪詛によって歳を取れない躰になったお方で、未だ呪いは解けていない。」
「ってか、わざわざ北に塔を作って籠もった筈じゃ…。」
 この二人の話に、ヴィルベルトは疑問を感じた。
 彼が効いた話によれば、マルクアーンについて北の塔に籠もったことは聞いていたが、呪詛とは…初耳だったのだ。どの文献にも塔に籠もって隠遁生活をしているとだけ記され、歳を取れない躰になったなど…。
「師匠…呪詛って何ですか?大賢者様にその様な話…。」
「そっか、お前は知らなくて当たり前だったな。マルクアーン殿が一切を伏せさせてるからな…。」
「どう言うことですか…?」
 ヴィルベルトが不思議そうにそう問うと、ルーファスはその経緯を話し始めた。
 時は大戦の末期、マルクアーンは四人の仲間と共に〈五人組〉と呼ばれる様になっていた。その頃に封じた大妖魔が、この呪詛の核を成していたのであった。
 大妖魔が掛けた呪詛は、初めはマルクアーン自身に妖魔が集まり続ける…と言うものであったが、五人組はそれを利用して妖魔を屠り続けていた。
 だが、大戦が終わって数年…マルクアーンは自身が歳を取っていないことに気付いたのである。
「恐らくだが…数え切れない程の妖魔を屠ってゆくうち、呪詛が変化した可能性があるって話しだが…。」
「でも…師匠。大賢者様はなぜ、塔に籠もられたのですか?呪詛は変化したのでは?」
「いや…変化と言うよりは、より強くなったと言った方が正しいな。」
「·····?」
 ルーファスの答えに、ヴィルベルトは首を傾げた。
 確かに…単に変化したなら内容も変化するが、マルクアーンの場合、呪詛の上に呪詛を掛けられた様なものであった。
 ルーファス曰く…彼女の呪詛は、大戦の最中に呼び出された全ての妖魔を倒さない限り解かれることはなく、妖魔を呼び寄せる体質と歳を取らないこで、彼女をより長く苦しめることが出来るのだ。その上、周囲にも危険が付き纏うため、マルクアーンは人里離れた北の森林の中に塔を建てさせ、そこに籠もったと言う。
「なら…なぜ今になって塔から出てきたんですか?」
 その問いに、ルーファスは頭を掻きながら返した。
「俺らがミストデモンとシェオールを消したからなんじゃねぇか?ってか…マルクアーン殿の警護って…。」
「そうです。万が一妖魔が現れた際、それを撃退してほしいのです。」
「······。」
 にこやかに笑って言ったマグナスタの言葉に、ルーファスもヴィルベルトも顔を引き攣らせた。
「師匠…何だかデジャヴです…。」
「言うな…俺もそう思ってっから…。」
 だが既に遅し…。ここまで来てここまで聞いて、今更辞退なぞ出来ようもない。
 それに何より、紹介してくれたギルクリフトの顔に泥を塗る訳にもいかず…二人は渋々ながらこの仕事を引き受けたのであった。



 
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