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死んだ筈の夫

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第二章

「その分兵は各地に分かれて置かれています、そしてコサック達がいようとも」
「賊ですね」
「戦争を知らぬ者が多い」
「そうした者達ですね」
「どうということはありません」
 敵に回してもというのだ。
「ですから」
「はい、これよりですね」
「軍の主力を向け」
「そうしてですね」
「速やかに鎮圧するのです」
 プガーチョフの起こした乱、それをというのだ。
「いいですね」
「わかりました」
「それではです」
「すぐにトルコとの戦争を終わらせ」
「プガーチョフを討ちます」
「そうするのです、しかし僭主とはいえ」
 それでもとだ、エカテリーナは安心はしたがそれでも嫌悪感は感じておりそれで思い言うのだった。
「あの夫の名を騙るとは」
「死んだ筈ですが」
「それでもですね」
「そう騙られると」
「愉快ではいられません」
 この感情は否定出来なかった、それで彼女は余計にこの度の乱を疎ましく思った。プガーチョフが言う農奴の解放とその農奴達が彼とその軍勢をロシア最大の歓待である丸いパンの上に塩を乗せて迎えることだけでなく。
 それでだ、乱を鎮圧しプガーチョフも処刑したが。
 それでもだ、彼が捕られられ都であるペテルブルグに処刑される為に送られる中でも多くの者が彼を観ようと集まったことも聞いてだ。
 不快感や嫌悪感は拭えずにだ、玉座から廷臣達に言った。
「乱は鎮圧しましたが」
「それでもですね」
「この度のことは」
「非常に不愉快なものでした」
 こう言うのだった。
「まことに。ですから」
「この乱のことはですね」
「すぐにですね」
「収めて」
 そしてというのだ。
「乱にまつわる場所の名も変えます、記録もです」
「消しますか」
「それも」
「消せるものは」
 出来るだけというのだ。
「あまりにも忌々しいので、そして二度と乱が起こらずです」
「二度と僭主が出ない」
「その様にですね」
「政治として進めていきます」
 こう言うのだった、それでだった。
 エカテリーナは自身の部屋に戻って手紙を通じて親交のある思想家ヴォルテールの手紙を読みつつだ、信頼しているロシア=アカデミー総裁に自身が任命したダーシュコワ夫人に言った。
「ヴォルテール殿もこの乱を何でもないことと言っていました」
「偽ディミトリーもですね」
「昔のことで今それをしてもです」
 穏やかで落ち着いたかつ知的な顔立ちの夫人に対して親しく話した。夫人は貴族の服を着ていても学者の顔をしていた。
「口笛を吹かれるだけの」
「下らない芝居ですか」
「その様なものだと」
「実際に乱は無事鎮圧されましたが」
「私は不愉快なままです」 
 この感情は変わらないというのだ。
「今も尚」
「左様ですか」
「夫の名を騙るなぞ」
「到底ですね」
「あの様な無能で醜く粗野で幼稚な」
 自身が今も覚えている夫のことを思い出し言うのだった。
「許せません」
「だからですね」
「私は不愉快なままです」
 乱を鎮圧してもというのだ。
「それで、です」
「乱自体をロシアから消されたいですか」
「何とか」
 こう言ってだ、そしてだった。 
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