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最後のティーゲル

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第七章

 男が街の郊外の畑の方に向かうのを見つつだ、ケンプは部下達に対して肩を落としてこう言った。
「聞いたな」
「はい、確かに」
「聞きました」
「負けたって」
「こうした状況だ」
 散々に敗れベルリンも囲まれていてはというのだ。
「それならな」
「もうですね」
「敵も来ないし」
「戦う理由もないですね」
「そうなったな、結局俺達がな」 
 自分達が乗っていたティーゲルに顔を向けて見てだ、ケンプは部下達にさらに話した。
「最後まで戦っていたみたいだな」
「ヤーヴォから逃げて」
「そうしながら」
「そうしてでしたけれど」
「そうみたいだな、戦争が終わってもな」
 降伏してからもというのだ。
「ずっと戦車動かしていたんだからな」
「そうなりますね、しかし」
「ドイツは負けたんですね」
「そうなったんですね」
「ああ、もうな」
 それこそとだ、ケンプはティーゲルを見たまま部下達に話した。
「こいつを動かす理由もなくなったってことだ」
「まあどっちにしろあと少ししか動けなかったですが」
 シュナイダーが言ってきた、操縦手である彼が。
「それでもですね」
「動かす理由はなくなったな」
「撃つこともないですね」
 ホルンシュタインも言ってきた。
「まだ砲弾は少しありましたけれど」
「それでもな」
「撃つこともないです」
「通信が通じなくても」
 それでもと言ったのはハイドリヒだった。
「もういいですね」
「部隊はどうなったか知りたいけれどな」
「戦争が終わったんですから」
「こいつの役目は終わった、そして俺達もな」
 ケンプは自分達のことも話した。
「戦う理由はなくなった、じゃあ手を挙げてな」
「そうしてですね」
「そのうえで、ですね」
「街に入って」
「そこに来るとかいう連合軍に投降するか」
 そうしようと話してだ、彼等は街に入った。後に残ったティーゲルはもう動かなかった。戦争で最後の最後まで動いていたティーゲルも遂にここで動く必要がなくなったのだった。


最後のティーゲル   完


                   2018・8・15 
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