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最後のティーゲル

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第六章

「そしてな」
「もう戦車はですか」
「停めてな」
 そうしてというのだ。
「後は歩くか」
「戦車は放棄しますか」
「動けないならどうしようもない」
「動かない戦車は砲台ですからね」
「言うならな」
「砲台は砲台で役に立ちますけれど」
 今度はホルンシュタインが言ってきた、砲手としての言葉だ。
「それでも」
「そうだ、実際にな」
「それをしてもですね」
「今は街の少し先でな」
「平地の中ですか」
「目立って仕方ない」
「平地の中に砲台一つですか」
「的だ、特に空から狙われるとな」 
 ここでもヤーヴォのことが問題になった。
「終わりだ」
「それじゃあ」
「仕方ない、もうな」
 それこそと言うのだった。
「諦めてな」
「このティーゲル放棄しますか」
「そうするか」
 こう言ってだ、ケンプは部下達に戦車から降りる様に命じようとした。だがこの時に街の方からだった。
 若い男、かなり汚れた服を着た男が来て戦車から降りようとしていたケンプ達に対して言ってきた。
「あんた達どうしたんだ?」
「えっ、どうした?」
「ああ、まだ動いている戦車あるなんてな」
「まだ?どういうことだ」
「いや、戦争は何日か前に終わったんだけれど」
「何っ、嘘だろ」
「嘘じゃない、総統も自殺したよ」
 ヒトラー、彼もというのだ。
「そしてベルリンも攻め落とされてな」
「そうなったのか」
「残った政府が降伏したよ」
「嘘、じゃないな」
「嘘なものか、もうな」 
 それこそというのだ。
「ドイツは負けてな」
「降伏してか」
「戦争は終わったよ」
「そうだったのか」
「あんた達ずっと戦っていたのか?」
「いや、部隊を探していたんだよ」
 実際にどうしていたのかをだ、ケンプは男に話した。四人共もう戦車から降りている。
「ずっとな」
「部隊をか」
「何処にいるかってな」
「その部隊ももうな」
 彼等もとだ、男は話した。
「降伏していると思うぜ」
「そうか、だからか」
「あんた達も会わなかったのかもな」
「そうか」
 こう答えたのだった。
「それじゃあな」
「もうだな」
「会わないのも当然だな」
「そうだな」
「あとな、街にもうすぐ連合軍が来るらしい」
 敵である彼等がというのだ。
「だからな」
「俺達はか」
「そっちに降るかい?」
「さてな」 
 このことについて返答はしなかった、だが。 
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