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最後のティーゲル

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第四章

 四人は西に逃げることにした、そのうえで。
 ティーゲルに乗って街を出た、その間ずっと空にも周りにも注意した。そうして慎重に進んでいき。
 そうした日々を数日続けた、森の中や離れた民家の中に忍び込み食料は見付けたものを少しずつ食べていった。
 もう五月になっていた、ケンプは夜に部下達にこの日休む場所に選んだ茂みの中でこんなことを言った。
「まさかな」
「部隊はですね」
「もう俺達以外は」
「既に」
「そうなっていないか、この辺りはまだな」
 自分達がいる場所はというのだ、地図を開いて月明かりで見つつ話した。
「俺達の部隊の管轄だ」
「軍集団単位で」
「その筈ですよね」
「ここは」
「しかしこの数日な」
 四月二十九日から五月に入ってもというのだ。
「友軍は見ていないな」
「はい、ヤーヴォは見ますが」
「あと連合軍の爆撃隊は」
「相変わらずあちこち爆撃していますね」
「しかし友軍はいない」
 早く合流したい彼等はというのだ。
「全くな、だからな」
「若しかするとですか」
「俺達の部隊は」
「既にですか」
「そうかもな、五月に入って五日が過ぎているのに」
 その間ずっと部隊を探しているがというのだ。
「部隊の影も形も見ないんだからな」
「空にもいないですね」
「メッサーシュミットもフォッケウルフも」
「一機も」
「ベルリンもどうなったか」
 このことも不安だった。
「わからないしな」
「そうですね」
「国民に話を聞いても何もわからないってばかりで」
「情報も入りませんしね」
「何がどうなっているか」
 それこそというのだ。
「わからないからな」
「正直お手上げに近いですね」
「今の俺達は」
「どうにも」
「四人だけの軍隊か」
 ケンプは苦い顔になってこうも言った。
「あのドイツ軍がな」
「数年前まで何百万といたんですがね」
「欧州中を暴れ回って」
「陸も空も俺達のものだったんですが」
「それがだ」
 今やだった。
「俺達四人だけか」
「ひょっとしたら」
「そんな状況ですか」
「今は」
「そうかもな、まさかと思うが」
 もっと言えば思いたかった、正直なところ。
「しかしな」
「それでもですよね」
「こんな状況ですと」
「そうも思ってしまいますね」
「ああ、何日も探してな」
 西に逃げつつだ、戦乱で荒れ果てたドイツの中を。
「それでもな」
「一兵も見ないですからね」
「まるで軍隊がない世界ですよ」
「そんな風にさえ見えますよ」
「それじゃあな」
 そうした状況ならというのだ。 
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