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戦国異伝供書

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第二十話 東の戦その四

「一向宗の門徒である筈なのに」
「一向宗は念仏を唱える宗派」
「それを唱えて死ねば極楽に行ける」
「そうだというのに」
「そうであるな、悪人正機でじゃ」
 信長は本願寺のこの教えのことも話した。
「どうしても悪を為す民百姓はどうして救われるか」
「それを親鸞上人がお考えになり」
 雪斎も述べてきた、禅宗の僧侶であるが同じ仏教の者として一向宗即ち浄土真宗のこともよく知っているのだ。
「そうしてです」
「念仏を唱えることによってじゃな」
「救われると説いております」
「だから一向宗は念仏を唱えるな」
「はい」
 実際にとだ、雪斎は信長に答えた。
「罪を犯す民達を救いそして」
「民達が救われる為にな」
「そうなるがじゃ」
 それがというのだ。
「あの者達は誰も一度もじゃ」
「念仏を唱えず」
「そして戦って死んでいった」
「そうでしたな」
「しかも門徒達は念仏を唱えて死ねば極楽に行けるのじゃ」
 一向宗がそうした教えだからだというのだ。
「皆死んでも安らかな顔をしておるのう」
「ですな、灰色の旗の門徒達は」
「皆そうでした」
「あの者達は皆安らかに死に」
「顔も穏やかです」
「戦の場で死のうともな、しかし闇の旗の者達は」
 その顕如が知らぬという門徒達はというのだ。
「恐ろしい顔で死んでおったな」
「ですな、どの者達も」
「まさに戦の場で死ぬ」
「そうした顔でした」
「その中でも特に恨めしそうな」
「怒りと憎しみに満ちた顔で死んでおりました」
「そうじゃ、何処までも妙じゃ」
 まさにと言う信長だった。
「門徒達にしては」
「灰色の旗の者達に聞いても知らぬといいますし」
 滝沢は降った彼等の言葉を主に話した。
「何処の村の者か」
「急に出て来たと言っておるな」
「戦になれば」
「それもわからぬ、とかくな」
「わからぬことばかりですな」
「あの門徒達にはな、しかも相当に殺したが」
 その闇の色の旗を掲げる門徒達をだ。
「どの村も街も人が減っておらぬな」
「何十万と殺しましたが」
「それもあちこちの国で」
「そうしましたが」
「民百姓の数は減っておりませぬ」
「これも妙ですな」
「こんなことはある筈がないわ」
 民が蜂起した門徒達を殺した、そうしたことによってというのだ。民の数が減ることは当然だというのだ。
「しかしな」
「現に起こっている」
「妙なことに」
「それがですな」
「わしは気になって仕方がない」
 こう言うのだった、そしてだった。
「何かとな」
「言われてみますと」
「あの者達は何者か」
「謎に満ちていますな」
「考えてみますと」
「左様じゃな」
 こうしたことも話しつつだ、信長は三河に入りそこから浜松に向かった。幸い徳川家は持ち堪えていた。
 それでだ、信長は家康にも笑顔で言った。
「竹千代、達者でじゃ」
「それで、ですか」
「うむ、何よりじゃ」
 こう言うのだった。 
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