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レーヴァティン

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第八十話 繁栄の中でその十一

「ちょっと噛んでね」
「胃の中に入れるか」
「歌舞伎みたいにね」
 歌舞伎では年寄りは蕎麦をぼそぼそと食い若い者は一気に食う、それが粋でありその登場人物の元気のよさを表現させているのだ。
「一気にだよ、そしてね」
「ざるやせいろはか」
「噛まないんだよ」
「一気に飲み込むか」
「素早くね」
「そしてお茶は飲まないか」
「蕎麦湯だよ、飲むのは」
 あくまでこちらだとだ、桜子は言い切った。
「お茶はあがりだろ、だからね」
「お茶は飲まないか」
「蕎麦湯を飲むんだよ」
 あくまでこちらだというのだ。
「それが通の食い方ってやつさ」
「色々あるな、本当に」
「寿司も鰻もだしね」
「江戸前寿司か」
「これがまた五月蠅いんだよ」
 その食い方にとだ、桜子は笑って話した。
「今いる他の連中と一緒になったらいい店紹介するけれどな」
「五月蠅い店か」
「そうなんだよ」
 こう英雄に話した、羊羹を爪楊枝に刺して口の中に入れながら。
「これがね」
「そうか、それじゃあな」
「ああ、食う時は注意してくれよ」
「こっちとは全然違うか」
「大坂の寿司と江戸の寿司はね」
「同じ寿司でもか」
「違うんだよ、バッテラもないしね」
 この寿司はないというのだ。
「それで親父が頑固でね」
「客にも言うか」
「そうしたりするからね」
「注意が必要か」
「そうだよ、覚えておきなよ」
 茶も飲んでだ、桜子は英雄に笑って話した。
「最初に食うネタも言われるしね」
「最初は卵か」
「卵を食えばその店の寿司がわかるっていうし」
「それで卵を食わないとか」
「言われるんだよ」
「噂には聞いていたがそうか」
「その代わり味はしっかりしてるよ」
 五月蠅いだけあってというのだ。
「そこは安心してくれよ」
「だといいがな」
「そうさ、美味い寿司だからな」
 その寿司屋はというのだ。
「安心してくれよ」
「だといいがな、しかしこっちでは寿司屋が威張ってるとな」
「潰れるね」
「大阪、神戸でもそうだが」
 関西圏ではとだ、英雄は桜子に話した。
「店の人間が威張っていると潰れる」
「そうなるんだね」
「一見さんお断りの店もあるが」
「京都に多いね」
「しかし客が威張っているとだ」
「潰れるんだね」
「すぐにそれが評判になる」
 悪評にだ、怒った客達がそれを出すのだ。
「しかもそれがすぐに広まる」
「そっちはこっちよりも話が拡がるっていうね」
「悪事千里を走るというが」 
 悪事はすぐに見付かり瞬く間に人に知れ渡るということだ、天網恢恢疎にして漏らさずとも言っていい。
「そうした話もな」
「伝わるんだね」
「しかも尾ひれがついてだ」
 こうした話の常だ、噂は拡大していくものだからだ。
「より凄くなる」
「それでだね」
「潰れる」
 英雄は一言で言った。 
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