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阪神教

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第三章

「皆待ってるんだよ」
「私をですか」
「ああ、御前が阪神教から目覚める日をな」
「阪神教って」
「そうだよ、脂ぎった顔で血走った目で言いやがって」
 この日たまたま寝不足でさっきまで肉体労働をしていた、だからそうした感じの顔になっていたのだ。
「それじゃあな」
「何かそう言われるとおかしな人じゃないですか」
「実際おかしいだろ」
 また言う牧場だった。
「阪神優勝だとかな」
「それはないからですか」
「何度も言うがある筈ないだろ」
 それこそというのだ。
「本当にな」
「そう言って本当に優勝したらどうします?」
「そんなこと絶対にないから安心しろ」
 最後まで笑って言う牧場だった、そしてだった。
 中西は艦を降りて次の実習先に向かった、ここで一旦牧場と別れたが。
 中西は二年後江田島の学校に行った、そこで休日たまたま学校の中にいると第一術科学校にいた牧場と会った。
 お互い敬礼してだ、中西の方から言った。
「奇遇ですね」
「おう、元気そうだな」
「この通りです」
 中西は牧場に笑顔で答えた。
「私は元気です」
「俺もだよ、頑張ってるか?」
「そのつもりです、それで阪神も」
「おい、順位下がってきてるぞ」
 牧野は中西に二年前の要領で返した。
「しっかりとな」
「いやいや、それはです」
「盛り返すのかよ」
「はい、真珠湾みたいに」
「ミッドウェーみたいにここからだな」
 このやり取りはそのままだった。
「まさかの落ち方をするからな」
「しますか?」
「実際最初はよくてな」
 このシーズンから監督は星野仙一になっていた、そして最初は非常に素晴らしい進撃を見せていた。
 しかしだ、怪我人が出て夏バテも見えてだ。
「それでだろ」
「最近ですか」
「落ちてきてるだろ」
「何か巨人がですね」
「あれは当然だろ」
「当然ですか?」
「戦力考えろ」
 憎むべき巨人のそれをというのだ。
「あれじゃあな」
「優勝してですか」
「当然だろ」
「じゃあ阪神は」
「優勝しないぞ」
 こう中西に告げた。
「もうな」
「いやいや、本当にここからです」
「盛り返すのかよ」
「パグラチオンみたいに」
 言うことは二年前と同じだった。
「大攻勢を仕掛けます」
「栗田艦隊みたいになるんだな」
 牧野が言うことも変わらない、このことも。
「そうなるんだな」
「いやいや、それはです」
「ならないっていうんだな」
「今年の阪神見ていて下さい」
「ああ、最後まで見てやるよ」
「阪神の優勝を」
「最下位にならないだけましだろ」
 牧野もそれはないと見ていた、この年の阪神は。
「それで」
「優勝しないと意味ないですよ」
「それ阪神が言う言葉じゃねえぞ」
「いや、阪神の実力なら」
「じゃあ怪我人なくして夏バテも何とかしろよ」
 牧野は余裕の笑顔だった、そしてだった。 
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