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レーヴァティン

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第八十話 繁栄の中でその四

「そうだった」
「これも東ならではでありますな」
「そうだな、しかしな」
「しかし?」
「蕎麦を食うにもな」
 どうにもという口調になってだ、英雄は言うのだった。
「東は色々あるな」
「そうでありますな」
 峰夫も同意して頷いた。
「そしてそうしたことを全て守ることが粋と」
「考えられているな」
「そうでありますな」
「わからない話だ」
 英雄にとってはだった。
「どうもな」
「西の方からしますと」
「西はうどんだ」
 何といってもだ。
「蕎麦は食ってもな」
「うどんが主流でありますな」
「どうしてもな、だからな」
 それ故にというのだ。
「そうしてな」
「蕎麦を食うのに色々あることは」
「そしてそれを全て守って粋というのはな」
「まさに江戸、東京独自であります」
「この島でもそうだな」
「面白い文化ではあります」
 江戸、東京独自のそれだというのだ。
「どうもわからないことも多いでありますが」
「蕎麦にそこまでこだわるか」
「そして粋であると」
「粋か」
「西の粋とはまた違う」
「それもある様だな、では俺もだ」
 英雄は峰夫がそば湯を頼んだのを見た、それで自分も頼むことにした。そして実際にそば湯を飲んでだった。
 店を後にしてその侠客がいる銀座のある場所に向かった、そこは賭場だった。
 賭場に入るとだ、いきなり服の袖や襟のところから青を地とした刺青が見える柄の悪い男達が出て来た。
「何だ、客か?」
「今からやるのかい?」
「いや、人を探している」
 英雄はその柄の悪い者達に答えた。
「女をな」
「女?」
「女なら吉原に行けばいるぜ」
「それこそ何人もな」
「そうした女は夜に行く」
 英雄はヤクザ者達の柄の悪い冗談にのこりともせず返した。
「今は違う」
「じゃあ何で来たんだ?」
「誰を探しに来たんだ」
「侠客と聞いている」
 英雄は自分の言葉にいぶかしむ顔になったヤクザ者達に自分から言った。
「そうな」
「ああ、あの人か」
「あの人に用があるか」
「そうなのか」
「外の世界から来たと聞いてだ」
 英雄はヤクザ者達にさらに言った。
「それで興味があってだ」
「ここに来たのか」
「そうなのかよ」
「そうだ、ではだ」
 これよりというのだ。
「会わせてくれるか」
「そう言ってあっさり会えると思うか?」
「そうな」
「ここを何処かわかってるよな」
「ここは賭場だぞ」
 ヤクザ者達は会わせろという英雄に対してまたすごんでみせた、その顔はどの者も如何にもというものだった。
「俺達のシマだぞ」
「俺達のシマで好きにさせると思うか」
「そんな筈ないだろ」
「会わせないというならだ」
 英雄は凄む彼等に落ち着いた声で返してこう言った。
「通るまでだ」
「やるってのか」
「そうするってのか」
「安心しろ、ヤクザ者でも只のヤクザ者は殺しはしない」
 そこまでしないというのだ。 
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