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レーヴァティン

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第七十九話 江戸の街その十二

「忘れてはあかんわ」
「民を奴隷に使う、使わせるなぞな」
 英雄も即座に述べた。
「本朝の歴史ではすぐに廃れた」
「そうした話ですね」
「奴隷については色々な話があるが」
 実際は高価な財産であり極端な虐待は少なかった、イスラム社会ではある程度の権利は認められていたしムスリムになれば解放されていた。
「しかしだ」
「奴隷自体は」
「絶対に認められない」
 こう夕子に答えた。
「俺はな」
「それはこの島の政の方針としてですね」
「定めていく」
 しっかりと、というのだ。
「そうしていく」
「日本の政を踏襲して」
「奴隷という言葉が好きではない」
 そしてその制度もというのだ。
「どうもな」
「だからですか」
「そうだ、政を行ってもな」
「奴隷は取り入れませんか」
「この島にも最初からないしな」
 見て回ったこのことはわかった、差別されている者は確かにいる。だが奴隷という階級の者達はいなかった。
「だからな」
「階級はこのままで」
「士農工商のままの様だしな」
「もっと言えばその階級差も」
「殆どないな」
「実際は」
「農民も町人も武器を取ればだ」
 即ち刀をだ、この島では刀は武器の代名詞ともなっているのだ。
「武士になる」
「それで」
「農工商もな」
 この三つの階級の違いはというと。
「職業選択の自由もな」
「比較的ありますね」
「農民も町に出て職人になればだ」
 まさにそれだけでというのだ。
「町人だ」
「若しくは商いをしても」
「それになる」
 町人にというのだ。
「そこは江戸時代の身分制度だな」
「それに近いですね」
「ならそれでいい」
「士農工商で」
「あの制度はがんじがらめの様に言われていたが」
 特に教科書ではだ、江戸時代の身分制度はさながら北朝鮮の出生身分の様に絶対のものと言われている。
 しかしだ、その実はというと。
「案外緩かった」
「特に農工商の間は」
「武士も畑を耕したりしていた」
 特に郷士はそうしていた、藩士とは違う身分の低い武士達はだ。
「そうもしていたしな」
「そのことはですね」
「そのままででいい、やがてはその階級もな」
 士農工商のそれもというのだ。
「ほぼない様にするが」
「明治維新以後の様に」
「今はだ」
「士農工商でいきますね」
「それでいい、島を統一するにつれてな」
「そこも変えていきますか」
「身分の方もな、ではその政の為にもだ」
 まずは、という口調でだ。英雄はこうも述べた。
「まずはな」
「十一人目をですね」
「仲間にしに行こう」
 その為に江戸に行こうとだ、英雄は焼酎を飲みつつ言った。船は江戸に向けて順調に進んでいた。少し荒い湖の上を。


第七十九話   完


                      2018・8・24 
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