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レーヴァティン

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第七十九話 江戸の街その十一

「醤油まで違う」
「あんたは薄口派たいな」
「勿論だ」
 英雄は香織に対してはっきりと答えた。
「味噌も関西だ。しかし」
「しかし?」
「白味噌は二番目だ」
 こちらの味噌はというのだ。
「京都のそれはな」
「味噌はそうたい」
「どうも違う」
 白味噌、それはとだ。英雄は香織にこちらの話もした。
「何か決定的なな」
「味が違うと思うたい」
「神戸の味噌と違う、嫌いではないが」
 それでもというのだ。
「二番目だ」
「そうなるたいか」
「しかし醤油は変わらない」
「薄口たいな」
「あれがいい、東のものはな」
 即ち東京の方で使われている醤油はというのだ。
「口に合わない」
「ではおうどんもたい」
「そうだ、あのつゆは口に合わない」
 どうしてもという返事だった。
「辛い」
「西の人皆そう言うたいな」
「そう言う御前もだな」
「勿論たい、ラーメンは豚骨でたい」
 このことは譲れないというのだ、九州者として。
「そしてたい」
「うどんはか」
「柔らかい麺でだしもたい」
「そちらのものか」
「あの墨汁みたいなだしは合わないたい」
 香織の口にもというのだ。
「辛くて駄目たい」
「そうだな」
「昆布を使っていないたいな」
「あちらのだしはそうだな」
「そこも大きいたい」
「何っ、昆布は絶対ぜよ」
 当季は東の方のだしが昆布を使っていないと聞いて思わず言った、その口調はクレームを付ける様だった。
「それなくしてぜよ」
「だしはないたいか」
「昆布が一番いいだしを出してくれるぜよ」
 ここまで言うのだった。
「鰹やいりこだけでは駄目ぜよ」
「そこは西が勝っているたいな」
「勿論じゃ、昆布を使わんとは」
 無念の様な口調にさえなってだ、当季は言うのだった。
「東はまっこと駄目ぜよ」
「昆布を使う様になったのは豊臣秀吉さん以降でしたね」
 夕子が地元の英傑の一人に絡めて言ってきた。
「大坂城築城で昆布を下敷きに使って」
「はい石垣の石を運びやすい様に」
 良太が夕子のその話に応えた。
「そうしていてでした」
「その昆布をそのまま捨てるのは勿体ないと話して」
「食べると美味しくて」
「そうしてでしたね」
「だしにも使われる様になりました」
 そうなったというのだ。
「それがはじまりでした」
「そうでしたね」
「江戸時代に確立しました」
 秀吉の時代即ち安土桃山時代にはじまってだ。
「そうして」
「そうでしたね」
「秀吉さんの功績の一つや」
 耕平は秀吉のその話を嬉しそうに話した。
「大坂の街を発展させて奴隷に売られた人を助けて」
「そうしたこともしていますね」
「ほんま凄い人やで」
「昆布のことも含めて」
「偉い人や、特に奴隷に売られていた人をすぐに買い戻したことは」
 キリスト教の宣教師達に海外に売られ奴隷として酷使されていたのだ、この話を聞いた秀吉は驚き即座に彼等を買い戻して救い出したのだ。尚この話を傍で当時秀吉の側近だった家康もこのことから幕府の切支丹禁制につなげたことは容易に想像出来る。 
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