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Unoffici@l Glory

作者:迅ーJINー
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1st season
  9th night

 
前書き
続き。頂いた文章量が多かったので、こっちの話も混ぜて分けさせていただきました。 

 
「…………ほう」

 柴崎は後ろに付きながら先行する3台を観察。爆音を奏でるマフラーも、スーパーチャージャーの独特な駆動音も、彼からすれば特別なものは見当たらない。コーナーの度に過剰に重い動きをするが、リーダーのマスタングは丁寧な処理でトラクションを抜けさせずにクリアしていく。

「大口叩くだけあって、あのリーダーは思ってたよりは上手い。それなりに走ってはいるようだな」

 だが他の2台は特筆することが無い。流石にそういう車の乗り方としては下手でこそないが、こればかりはいかんせんエリアが悪いと言わざるを得ないだろうか。

「まぁ、ここじゃなけりゃ俺でさえ負けたかもね。純粋なパワー勝負じゃ、どうしたってアンタラ筋肉モリモリマッチョマンの変態集団には勝てやしなかったろう」

 ただでさえ地元のドライバーにとっても、この緩やかな連続コーナー区間は繊細なマシンコントロールが要求される。当然のごとく、マシンパワーが上がれば上がるほど、そのコントロールはシビアなものになっていく。柴崎からすれば、このグループはこのエリアをそれほど走りこんでいないことが後ろからでも見て取れた。慣れない車体の揺られ方は先行する2人の精神を着実に削り、チャージャーとカマロの挙動が僅かにブレ始める。

「だが、俺とここでやるには年季が足りない」
「チィっ!ふざ……」

 そしてカマロが一際大きくブレた瞬間を狙い、Rの鼻先をイン側に押し込む。怯んだカマロは減速し、Rを先行させてしまった。焦って再加速するも時すでに遅し。Rのバックミラーの彼方へ消えていった。

「クソッタレ!あんなヒョロガキに……!」
「この分じゃ、予想通りもう一台も大した事は無さそうだな」

 舞台は環状を抜け横羽線に突入する。先刻よりコーナーは緩やかであり、自然とスピードレンジが上がるものの、それはさらなる繊細な制御をドライバーに要求する。またこのエリア特有の強い高低差と、細かい連続コーナーが彼らのマシンに襲いかかる。

「しまっ………!」
「そういうとこだよ。隙だらけだ!」

 減速が足りなかったか慣性が強過ぎたのか、一瞬チャージャーのリアが浮き上がる。抵抗を無くした駆動輪はエンジンの回転数をはね上げ、着地するまでの一瞬で過剰な回転を生み出す。

「そんな乗り方してたら、ここじゃ命がいくつあっても足りやしねぇぞ」
「クソジャップがっ……」

 案の定、着地した瞬間に大きくバランスを崩すチャージャー。後輪のグリップ力は路面に伝わらず、擬似的なドリフト状態でふらつきながら加速する。だが車線を跨ぐほどに揺らされた車体は、もう半分制御を失っているような状態。柴崎がクリアになった車線に飛び込むのに、さほど苦労は要らなかった。

「まぁ……所詮余所者だと思えばこんな物か」

 バックミラーでランプがチラつく。結局制御出来ずにスピンした模様。ヒットしたかは定かではないが、バトル続行は不可能。この時点で2台が脱落となった。

「せめて後ろがいないことを願うしかないか。さて、ここからが本番ってね……」



 同時刻、大黒PAを出発したグレーラビットが駆るNSX-Rが横浜環状線を流す。

「……嘘だろ……なんだってんだ、コイツは……」
「まだそれほど踏み込んでもないのにわかりますか。流石です」

 初めて乗るマシンということもあり、巡航速度程度しか踏み込んでいないのに、グレーラビットはどこか得体のしれない存在感を感じ続けていた。

「なあ、一体コイツは何なんだ?」
「まぁ、種明かしはまだまだ。この車の限界は、こんなもんじゃありません」

 周囲の一般車の2倍近い速度というのに、スーツの男の表情は涼しいまま。

「さぁ、もっと踏み込んでください。あなたが普段戦っているスピードレンジまで」
「……冗談じゃねぇ……」

 不気味な存在感を垂れ流しながら、NSX-Rは加速していく。普段彼がZ32で獲物を探す巡航速度に至るまで、さほど時間はかからなかった。



 2台の怪物は、その身を余すこと無く振るいながら大黒JCTを通過。ループ区間に入る。 先行するマスタングは後輪を微妙に滑らせながら、最小限のロスでインコーナーを駆けていく。ちょっとした路面の荒れや継ぎ目などをものともせず、どっしりとしたバランスでクリアしていく。一方R35は四輪を路面に張り付かせ機を伺っていく。常にアウト側から虎視眈々とマスタングの隙を待ち続ける。

「へぇ……思ってたより結構やるじゃないか。見直したよ」
「フン……このペースに着いてこれるとはな」

 二台の大型マシンのバトルは、あまりにも静かと言えた。マスタングがコーナーを丁寧にクリアし、R35が危なげ無い走りで追走する。ストレートに出れば待ってましたとばかりにV8が咆哮を上げ弾かれたようにマスタングを加速。同じように加速し過給タービンの嬌音を響かせながらR35も猛追。お互いにレベルが高いドライバー同士、ブレや勝負に直結する隙が殆ど無い。この2台はまるでランデブー走行会のようにも見えるだろう。

「なかなか隙を見せないな……そろそろ決めたいが」
「何で離れねぇんだ?日本のマシンのクセに……」

 横浜環状も終盤、R35が勝負に出る。敢えて今まで抑えていた速度で急コーナーに侵入。イン-アウトのラインを取ったマスタングにアウト後方から襲いかかり、間髪入れず回転数を上げてタイヤのグリップを分散させる。そのままR35は斜めに流れ出し四輪ドリフト。脱出角をピタリと定めるのと同時にタイヤはグリップを取り戻し、アテーサEーTSの性能を遺憾無く発揮し加速する。

「ば……馬鹿じゃねぇのか!?何でそんな動きが出来る!?」
「できればこんなこと、マシンに負担掛かるからやりたくないんだけどね」

 一瞬の出来事。しかし高い技術と柔軟な発想、己のマシンを知り尽くした経験こそがこの一瞬を作り出す。それに負けじとコーナーを抜けたマスタングが吠える。サイド・バイ・サイド。

「ここまでやるのは久しぶりだ。さぁ見せてみろよアメリカ野郎!」

 どんな時も冷静にいたはずの柴崎が吠えた。若き老兵が本気になった瞬間である。




 そして勝負は佳境、ベイブリッジへ突入する。長大な直線。広い車線。一般車も居ない、オールクリア。最高の状況がそこにはあった。

「これで終わりだ、クソ野郎!」

 マスタングのドライバーはシフト横にある赤いカバーを跳ね上げた。中にはシンプルなスイッチが配置されている。そのスイッチを押し込んだ。

「……なんの音だ?」

 横にいるマスタングの咆哮に、何らかの噴射音が混じった事に気がついた。その一瞬後、一段の勢いでマスタングが加速し始める。

「ナイトラス……!?車重の理由はそれか!」

 ナイトラス・オキサイド・システム。過酸化窒素をエンジン内部に送り込み、膨大な酸素を供給するパワーアップチューニング。短時間限定だが大幅なパワーアップが可能な必殺技とも呼べるシステム。マスタングのドライバーは勝利を確信していた。本国アメリカでも、彼のこのパワーに着いてこられたマシンなど、ドラッグカーくらいしか居なかったからだ。


「ハッ、やはりこの程度ーーーー!?」


 彼は目を疑った。R35はそこに居た。先程と殆ど変わらない距離、ほんの5mの距離。ピラーの死角に紛れてはいるが、鮮やかな赫はその存在を主張する。奴はそこに居る。

「……面白いじゃないか、マスタング」

 咆哮を上げるR35。不敵に笑う柴崎。今までと変わらない車内。一つだけ違っていたのは、過給圧を示すメーターが振り切れている事だ。その加速力を前輪にも割り振り、マスタングの加速に並ぶ。

「切り札はお前だけじゃないって事さ。どちらが先に降りるか、我慢比べと行こうじゃないか!」



 勝負は呆気なく決まった。ほんの僅かなR値のコーナーで、マスタングが滑ったのだ。そのままスピンしながら外壁に吸い込まれ、舞い上がり、墜ちた。


「パワー至上主義の末路だ……哀れな……」

 巡航速度に落とし、悠々と走るR35。今宵のバトルは、凄まじくも後味は悪いものとなった。

「皆同じだ……降りるか、死ぬかだ」



 数分後。R35と柴崎は湾岸の路側帯に停車していた。停止板は遥か後方に置かれ、マシンは先刻迄の戦闘が嘘かのように街灯の下で静かに鎮座している。その隣で、どこか困ったような表情の柴崎が携帯で電話をかけていた。

「……あ、もしもし柴崎です……マッさんまだ店に居ます?」

 苦い表情を浮かべながら、報告をする柴崎。あぁ、彼にとっては、なんと締まらない夜だろうか。

「いやあの……件の連中とはケリを着けたんですが……え?勿論勝ちましたよ」

 その一言を告げるのに浮かべた表情は、年相応の青年のものに見えた。

「その……すみません、燃料持って来てください。ガス欠しました」

 電話の向こうでは一瞬の沈黙の後、爆笑が巻き起こりながらも、待つように指示が出された。



 同時刻。高速を降り、横浜市内のファミレスで向かい合うグレーラビットとスーツの男。

「どうでした?『R4A』と、うちのマシンは」

 いやらしい笑みを浮かべながら、不機嫌そうにしているグレーラビットに尋ねる。

「どうもこうもあるか。あの野郎、あんな隠し玉を持っていやがったとは……」
「悔しそうなあなたの表情、それはどこからのものですか?」
「両方だ」

 彼は、ベイブリッジにて後方から迫ってくる2台と遭遇した。しかしそれは、彼らからは映らなかったのだろう。彼からすれば、ただでさえ慣れないマシンの最高速状態に恐れを抱いて踏み切れず、挙句そんな彼を2台が悠々と追い抜いて行った。せめて追いすがるべくすぐに追跡をかけるも、さらに数段上の加速を見せつけられ、完全にグレーラビットの戦意を失わせた。今の彼の心中にあるのは、若き老兵への純粋な敗北感と、与えられたマシンを乗りこなせなかった自分へのふがいなさ、という意味だと男は捉えた。

「わかりました。ところで、以前お話ししたことですが」
「……俺の車を、あいつらに勝てるように仕上げる。本当に可能なのか?そんなことが」
「今日見て確信しました。あの車に乗り続ける限り、あなたは彼らには一生届かない」

 きっぱりと青年は言い切った。それはわかっていたのか、グレーラビットも何も返さなかった。

「……『Dの遺産』、ご存知ですか?」
「何……?」

 はっきりと目の色が変わったグレーラビットの反応に気をよくした青年は、畳みかけた。

「あのNSX-Rで、C2最速と噂される赤いFDと赤いS15。彼らを撃墜できれば、あなたに私の知る『Dの遺産』の情報をお伝えしましょう」 
 

 
後書き
 また寄り道ネタやる前に、そろそろ動かさないと。 
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