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戦国異伝供書

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第十七話 大返しの苦労その七

「だからじゃ」
「あ奴については」
「気をつけ続け」
「そうしてですな」
「絶対に」
「討ちましょう」
「必ずな」
 こう言ってだった。
 松永に対しては刃を研ぎ澄まし続けていた、そのことは変わらなかった。
 それは松永もわかっているがそれでもだった、彼は余裕綽々の顔で陣中で自ら茶を煎れて飲んでいた。
 その彼にだ、茶には目のない長益がこう言った。
「随分と気楽よのう」
「ははは、そう言われますか」
「一体何を企んでおる」
「さて、何のことか」
「わしを茶に呼んだのは礼を言うが」
「手をつけておられませんな」
「誰が飲むものか」
 茶には目がない長益だが彼も殆どの者と同じ考えだった、それ故の言葉だ。
「お主の茶なぞな」
「だからでありますか」
「この茶はお主が飲め」
「それがしの茶はありますが」
「いらぬ、一切じゃ」
「左様ですか、ですがそれがしが」
「茶の席に呼んでもらった礼に一つ言っておく」
 長益は松永ににこりともせず述べた。
「わしはお主は嫌いだが命を奪うつもりはない」
「左様ですか」
「おかしなことをする素振りは見せてもな」
「それでもですか」
「それはせぬ、しかしじゃ」
 それでもというのだ。
「他の者は違うぞ」
「柴田殿や他の方々はですな」
「精々気をつけよ、わしが何もせずともじゃ」
「他の方がですか」
「手を下すだけのことじゃ」
 それ故にというのだ。
「尻尾を隠していることじゃな」
「いやいや、それがしは心からです」
「兄上に従っておるというのか」
「それがし殿が好きです」
「戯言じゃな」
 その言葉を聞いてもだった、長益は即座に言い捨てた。
「お主の言うことを誰が信じるか」
「そう思われますか」
「当たり前じゃ、宇喜多殿はどうも国と家を守る為の謀で大仏殿を焼いたりまではしておらぬ」 
 多くの謀を使おうともというのだ。
「しかしじゃ、お主はじゃ」
「大仏殿のこともあり」
「主家の三好家、公方様とな」
「それは仕方ないことと言えば」
「公方様弑逆と大仏殿は仕方なくか」
「そうは思われませぬか」
「誰か思うと考えるか」
 長益は松永に剣呑な顔のまま言葉を返した。
「その様に」
「やれやれですな」
「やれやれではない、誰もがこの度の戦でお主が必ず動くと見ておるわ」
「そしてその素振りが見えただけで」
「何処からでもやられる、猿と慶次は別じゃが」
 この二人だけはというのだ。
「しかし他の者は違う、周りはお主を斬ろうと今か今かを待っている」
 謀反の素振り、それを見せればそれを口実として攻め滅ぼすというのだ。
「この戦が終わるまでにお主の供養となるな」
「それがしが謀反を企み」
「そうなる、お主の茶会に出るのもこれが最後じゃ」
 やはり茶には口どころか手もつけずに言う長益だった。
「お主の顔は覚えておくからな」
「覚えて頂けるなら何より」
「そこでそう言うか」
「はい、嬉しいことです」
「どうだかな、まあ明日にでも攻められると思っておくのじゃ」
 素振りを見せればそれだけでとなるからだというのだ。 
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