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戦国異伝供書

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第十六話 天下の大戦その十一

「好きなだけ飲め、そしてことが整えばな」
「すぐに姫路に軍勢を進め」
「いよいよですな」
「毛利攻めとなりますな」
「そうじゃ、では酒を出すのじゃ」
 信長はあらためて命じた、そうしてだった。
 諸将も兵達も酒をふんだんに楽しみだした、だが信長は今も酒は一口だけでそれ以上は飲まずにだった。
 茶を飲んでいた、福島はその信長に問うた。
「殿、今もですか」
「うむ、酒はな」
 その一口飲んだだけでも赤くなってしまった顔での返事だった。
「やはりよい」
「酒については」
「わしは駄目じゃ」
「ううむ、そこは殿はですな」
「苦手じゃ」
「殿にも苦手なものがあるとは」
「ははは、わしも人じゃ」
 天下人、一の人といえともだ。信長は福島に笑って返した。
「それならばな」
「苦手なものがあり」
「酒はじゃ」
 それはというのだ。
「それなのじゃ」
「そうなのですな」
「お主もそうであろう」
「はい、実は」
 福島も信長にそれはと答えた。
「女房が」
「苦手か」
「これが怒ると鬼の様で」
「それでか」
「全く敵いませぬ」
 酒を飲みつつどうもという顔で信長に話した。
「怒りますと」
「そうなのか」
「酒はこの通り幾らでも飲めますが」
「いや、お主酒はな」
「何か」
「いつも過ぎてじゃ」
 その飲む量がとだ、信長は福島にどうかという顔で述べた。
「しかも暴れるではないか」
「それがですか」
「よくないぞ、飲むなとは言わぬ」
 それはというのだ。
「しかしじゃ」
「暴れることはですか」
「止めるのじゃ」
 それはというのだ。
「よいな」
「そのことですか」
「そうじゃ、お主の酒乱は何とかならぬか」
 信長は福島に難しい顔でさらに言った。
「一体」
「いやあ、飲みますると」
「どうしてもか」
「過ぎてしまいまして」
 言いつつさらに飲む福島だった、飲む勢いは確かにかなりのものだがその目はかなり危ないものになっている。
「そうした時は刀等は持たぬ様にしていますので」
「気をつけよ、酒で人を切るなぞな」
「あってはなりませぬな」
「将としてな」
「よいか、市松」
 加藤清正も来て彼に言ってきた、彼も酔っているがそれでも福島の様な目にはなっておらずしっかりしている。
「お主が何かすれば」
「その時はか」
「わしが殴ってもじゃ」
 例えそうしてでもというのだ。
「抑えるからな」
「厳しいのう」
「厳しいも何もじゃ」
「将としての無体はか」
「許さぬ、それにわしは御前とは幼いころから馴染みじゃ」
 そうした関係にあるからだというのだ。 
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