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英雄伝説~西風の絶剣~

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第55話 ロランスの実力

side:フィー


「なるほど、そんな事があったんですね」
「うん、まさかカノーネ大尉が魔獣を操ってくるとは思ってもいなかったわ」


 わたし達は現在、先を進んでいたエステル達と合流して新たな拠点を作っている所だ。ジークが教えてくれた先に向かうと、そこには傷ついたエステル達と気絶したカノーネ大尉がいた。
 詳しく事情を聴いているんだけどどうやら敵は魔獣……いや古代の人形兵器を操る術を得たらしく思わぬ苦戦をさせられたようだ。


「あ痛たた……クローゼ、もうちょっと優しくお願い」
「あ、ごめんなさい!」


 クローゼに治療してもらったエステルは、治療の痛みで涙目になりながらクローゼにもう少し優しくしてほしいとお願いしていた。


「しかしヨシュアさんやアガットさんもそこそこ傷ついていますね」
「うん。敵の攻撃も激しくなってね、地の利も向こうにあるらしく待ち伏せも何回かされたんだ」


 わたし達は初めてここに来たけど、リシャール大佐達は前からここに出入りしているから向こうの方が地形を把握している、だから不意打ちなどに警戒しないといけない。
 それに人形兵器は人間じゃないから疲れもしないがこっちは生身なので当然疲れは出てくる、ベテランの遊撃士であるアガットやシェラザードも息を荒くしていた。


「とにかくエステルさん達は休息を取ってください、ここから先は俺達が探索に入ります」
「でも……」
「この後にリシャール大佐やロランス少尉とも戦わなくてはならないかもしれません、体力を消耗した状態で勝てるような相手ではないという事は実際に対峙したエステルさんがよく分かるでしょう?」


 エステルが焦る気持ちは分からなくもない、わたしも猟兵になった時は一人で何とかしようとしていたことが合ったからだ。
 でも無茶して得られる成果なんてたかが知れているしそういう人は大概早死にする、休めるときに休むのが一流の戦士だって団長も言っていたしね。


「分かった、でも無茶はしちゃ駄目なんだからね」
「了解です」


 話が纏まったのでわたしとリィンは、ラウラとオリビエを連れて先に進む事にした。
 その際にアガットが「素人が出しゃばるんじゃねえ、俺も行くぞ」といってわたし達についていこうとしたが彼もけっこう傷ついていたのでティータに止められていた。




―――――――――

――――――

―――


「はぁぁ!」


 リィンの太刀が斧を持った魔獣を一刀両断した、魔獣は左右に分かれると爆発して消滅する。


「ん、いっちょあがり」


 わたし達の周りに魔獣の残骸が散らばっており、これは全てわたし達が倒してきた魔獣達だ。


「しかし大分奥まで来たけどリシャール大佐達は一向に見つからないな、流石に疲れてきたぞ……」
「多分最深部にいるんじゃないのかな、ラッセル博士の話ではエステル君がカノーネ大尉と戦った辺りが中間だからもうすぐ着くと思うよ」
「なるほど、ここからが本番という訳だな」


 リィンのつぶやきにオリビエが補足をする、さっきの場所が中間ならここまで来るのに大分かかったので多分もうすぐ最深部に付くはずだ。
 ラウラも決戦の時が近い事を感じたのか気合を入れ直していた。


「いや、どうやらもうそこにいるようだ」


 リィンが前の通路に鋭い視線を送る、するとそこの物陰から赤い仮面と装甲鎧を纏った人物が現れた。


「ロランス少尉……」


 わたしはかつて自分の腕を切り裂いた男を前にして身震いをした、あの時に感じた威圧感は更に大きさを増していたからだ。


「カノーネ大尉は敗れたか。まあ想定内の事だったがな」
「味方がやられたのに随分と冷たいんだな?」
「敗れた者に未来などない、あるのは死だ。お前達も猟兵なら理解できるだろう?」


 ロランス少尉はわたしとリィンを見て猟兵と言った、やっぱりバレていたんだね。


「流石は情報部、俺達の事も既に調査済みか」
「リート、そしてフィルなどという人物がこの国に入国したと言う記録は無かった。調べていくうちに噂の猟兵の兄妹と容姿や特徴が一致したのでな。まさか元同業者に会う事になるとは思ってもいなかったぞ」


 そういえばエステルが言ってたっけ、ロランス少尉は元猟兵だったって。リシャール大佐がロランス少尉を情報部に勧誘した事以外は謎に包まれているとも聞いた。


「こっちもリベール王国で元同業者に会えるとは思ってもいなかったよ。でも不思議なんだ、どうしてアンタほどの実力者の名前すら知らなかったのか……それだけの実力者なら間違いなく二つ名を付けられているはずだ、でもロランスなんて猟兵は聞いた事もない」


 リィンはわたしよりも長く猟兵を続けている、故にわたしの知らない猟兵や既に解散した猟兵団の事も知っていた。
 でもそんなリィンでも聞いた事が無いというのはおかしいかもしれない。


「アンタ、本当に猟兵なのか?」
「それを知った所でどうする、俺達はおしゃべりをする為に対峙したわけではないだろう」
「それもそうだな」


 リィンはそう言うと太刀を抜いて構えを取る、ラウラやオリビエも武器を抜きわたしも武器を取り出した。


「フィー、そなたが持っているその武器は双銃剣か?」
「ん、オリビエに用意してもらった」
「流石にフィー君がいつも使っているような上物ではないけどね」
「構わない、これで戦いやすくなった」


 わたしはオリビエに要してもらっていた武器をここで使う事にした。手を抜いて勝てる相手じゃないし幸いにもここにはわたしとリィンを猟兵と知る人物しかいない、だから全力で向かう。


「この先にリシャール大佐はいる、だがそこに向かいたいのならお前達の力を示してみろ」


 ロランス少尉は全身から闘氣を出して戦闘態勢に入る、その圧倒的な闘氣にわたし達は身震いをしてしまった。


「なんという闘氣だ、アリーナで見た時とは桁違いだ!」
「やはりあの時は加減をしていたのか。いや、今もまだ全力ではない……!」


 前に見た時とは比べ物にならない程の威圧感にわたし達は、今まで体験してきたどんな死闘も超える事になろうである相手に意を決して向かっていった。


「行くぞ!!」


 まず最初にロランス少尉に向かっていったのはリィンだった。彼は居合の構えを取り一瞬でロランス少尉……いやロランスとの距離を詰める。


「紅葉斬り!」


 すれ違いざまに怒涛の斬撃をロランスに放つリィン、だがロランスはそれを涼しい表情で受け流した。


「はぁぁぁ!洸翼陣!!」


 ラウラの体から黄金の闘氣が溢れ彼女の身体能力が大きく上昇する、そして大剣を構えてロランスに斬りかかる。
 それに対しロランスは真っ向でラウラと対峙した、大剣と大剣がぶつかり激しい金属音が鳴り響いた。


「ほう、その年で大した練度だ」
「そなた程の実力者にそう言って貰えるとは光栄だ……!」


 ラウラはそう言うがロランスと違い表情に一切の余裕はなかった。激しく切り結ぶ二人の間にわたしが割って入った。


「ラウラ、下がって!クリアランス!」


 ラウラを飛び越えて上空から銃弾の嵐をお見舞いする。ロランスはその場から動かずに大剣を使って銃弾を弾いていた。
 でもこれでいい、この技はあくまでも気をこちらに向けるための誘導だ。本命は……


「業炎撃!」


 ロランスの背後から気配を消して接近したリィンは、炎を纏った太刀を大上段から勢いよく振り下ろした。
 灼熱の炎と斬撃がロランスを襲うが、彼はそれに気にもせずにリィンに攻撃を放った。


「はあぁぁっ!」


 横なぎに振るわれた一撃をリィンは身を低くしてかわす、そしてロランスの足に目掛けて太刀を振るう。
 ロランスはそれを上空に跳んでかわすが彼のいた地面から大地の力で生み出された槍が飛び出てロランスに襲い掛かる、オリビエの放ったアーツ『アースランス』だ。


「いい連携だ」


 ロランスは槍を大剣で粉々に砕き、何事も無く地面に着地した。


「やはり強いな……」
「ああ、こっちはかなり本気でやっているのに、ああまでも涼しい表情で攻撃を受け流されるのは精神的にもキツいな……」


 4対1というこちら側が有利な状況にも関わらず、ロランスにまともなダメージを与えられていない。


「こちらも少し本気で行かせてもらうぞ」


 ロランスはそう言うと4体の分身を生み出した。アレは確か分け身っていうロランスのクラフトだっけ、厄介な技が出てきたね。


「リミットサイクロン!」


 銃弾を連続で放ち分け身の肩を撃ち抜いた、そして最後に溜めた一撃を分け身の一体に放つが、分け身はそれをかわしていく。
 本物よりはスペックが落ちているみたいだけど脅威には変わりないね。


「皆、援護するよ!」


 オリビエの放った補助アーツで攻撃力を上げたわたしは、分け見に斬りかかる。
 正面から斬りかかったわたしを迎撃するようにロランスの分け見が攻撃してくるが、奴の攻撃が当たるとわたしは霧のように四散する。


「それはフェイク」


 背後から奇襲を仕掛けるわたし。ロランスの分け身の背中が斬られて血は出ないが大きく体制を崩した。


「シルフィードダンス!」


 その隙を見逃さなかった私は、自身が放てる最高のクラフトを分け身に叩き込んだ。怒涛の連続攻撃から回転しながらの銃弾の乱射、それをまともに受けた分け見は膝をついて消えていった。


「蒼炎の太刀!」


 リィンの太刀から蒼い炎が生み出され、リィンはロランスに斬りかかった。攻撃を受け止めようとした分け見だったが受け止めたのはリィンの鞘での攻撃だった。


「双雷!」


 鞘で攻撃のタイミングをズラしたリィンは、下からすくい上げる様に分け見を切り裂いた。蒼い炎に焼かれながら分け身は燃え尽きた。


「奥義、洸刃乱舞!」
「ハウリングバレット!」


 ラウラとオリビエのSクラフトが、残った分け身に直撃して全ての分け身が消えていった。


「はぁ、はぁ……何とかしのげたね」
「うむ、いきなり大技を使うことになるとはな。だが倒したぞ」


 息を荒くするラウラとオリビエ。やっとの思いで分け身を倒せたが消耗も大きい様だ、でもロランスの最高のクラフトを破ることは出来たみたい。


「どうだ、ロランス少尉。アンタの分け身は全部倒してやったぞ」


 リィンはロランスにそう言うが、ロランスはククッと小さな笑い声を出した。


「何がおかしいんだ」
「いや、滑稽だと思ってな。まさか分け身が俺のSクラフトだとでも思っていたのか?」
「なんだと?」


 私たちはその言葉を聞いて驚いてしまった、実態のある分身を生み出すクラフトなんてそれだけでも出鱈目なのにそれが大した事のないように彼は話す。


「俺にとって分け見など数あるクラフトの一つでしかない。鍛え上げた技、それこそが俺の全て……見せてやろう、その一部を!」


 ロランスはそう言うと、まるで分け身が消えたように姿を消してしまった。


「どこに……ッ!?」


 わたしはロランスの姿を探そうと視線を動かす、だが背後から濃厚な殺気を感じ振り返るとリィンが必至の形相でロランスの一撃からわたしを守っている光景が映った。


「リィン!」


 リィンの肩からは血が出ていた、恐らく彼も本当にギリギリのところで攻撃を凌いたんだと思う。
 ラウラとオリビエもいつの間にか攻撃を放っていたロランスに、ようやく気が付いて驚いた表情を浮かべていた。


「ぐっ、うぉぉぉぉ!!」


 肩から血を流しつつもリィンは後退せずにロレンスに蹴りを放つ、だがロランスは足に装備していた投げナイフを取り出すとリィンの足に突き刺した。


「っ!?」
「いい反応だ、だがまだ自分の力を使いこなせていないようだな」


 ロランスはリィンの顔目掛けて拳を叩きつけた。リィンは大きく後退するが何とか踏みとどまりロランスに攻撃を仕掛けようと顔を上げる、そこにロランスの足が迫っているのが彼の目に映っていた。


「がぁぁぁ!?」


 顔を踏みつけられて地面に横たわるリィン、そしてロランスが大剣を振り下ろそうとした。


「リィンを離せ!」


 わたしは飛び上がって上空からロランスに斬りかかった、ロランスはそれを大剣で受け止めて防御する。


「このっ!」


 わたしは双銃剣を滑らすように動かしてロランスの前に落ちる、そして奴の顔が出ている口元目掛けて銃弾を放つがロランスはそれをかわして私を蹴り飛ばした。


「がはっ!」
「フィー君!今援護するよ!」
「遅い、零ストーム!」


 オリビエがアーツを放とうとするが、ロランスの繰り出した竜巻に触れるとアーツが解除されてしまった。
 そしてオリビエ自身も竜巻に吹き飛ばされて体制を崩す、そこに銀色の剣がオリビエを囲むように現れて強力な電撃を放った。


「シルバーソーン」
「ぐわぁぁぁ!?」


 電撃に身を焼かれるオリビエ、堪らず膝をついてしまった。ロランスはオリビエ目掛けて斬撃を放つがそれをラウラが防いだ。


「これ以上はやらせん!」


 果敢に叫ぶラウラだが、剣を持つ手が震えているのが目で見て分かった。


(この者は強い、恐らく父上と同等の実力者だ。でも戦って勝てないと頭よりも体が先に気づいてしまうとは……こんなことは初めてだ)


 ロランスの姿が消えるとラウラの横に現れて剣を振るう、ラウラはその一撃を大剣で受けるがその瞬間に彼女の脇腹から血が吹き出た。


(防ぎきれない……!?)


 背後に現れたロランスの一撃をラウラは何とか凌いだ、だがその背中からまたしても血が噴き出していた。


「孤影斬!」


 そこに体制を立て直したリィンの放った斬撃がロランスに襲い掛かる。ロランスはその一撃を大剣を振るい四散させた。


「今だ!」


 リィンの作った隙を使い、ラウラが跳躍する。そしてロランス目掛けて大剣を叩きつけた。


「鉄砕刃!」


 ラウラの一撃を片手で持った大剣で受け止めるロランス、地面にヒビを入れるほどの一撃を受けたロランスだが相も変わらず涼しげな様子でそれを防ぐ姿に最早驚きはなかった。
 でも動きが止まった今がチャンスだね。


「クロックダウン!」


 わたしはアーツを発動してロランスの足元に時の結界を生み出して動きを制限する。ラウラも喰らってしまったが彼女は足止め役でトドメはわたし達が刺す。


「リィン!」
「ああ、決めるぞ!」


 リィンとわたしはクラフト『疾風』と『スカッドリッパー』でロランスに攻撃を仕掛けた。だがロランスは焦る様子も見せずにラウラの大剣を弾く。


「鬼炎斬」


 ロランスの放った一撃はわたし、リィン、ラウラを纏めて吹き飛ばした。激しい痛みが身体中を襲い意識が朦朧とする。


(そんな、たった一撃で……)


 一撃で戦闘不能の一歩前まで追い込まれたことに、わたしはロランスとの実力の差に震えが生まれた。


(リィン、ラウラ、オリビエは無事なの……?)


 薄れ行く意識を何とか保ちながら顔を上げて二人の様子を見る。ラウラは壁にもたれるように寄りかかっており、オリビエも倒れているが生きているようだ。でも二人ともダメージが大きくてわたし同様に動けないみたい。


(ラウラとオリビエは無事みたい、良かった……じゃあリィンは?)


 今度はリィンの様子を確認してみる、視線の先にいたリィンは太刀を支えにして何とか立っている状態だった。でも何か様子がおかしい。


「ぐっ、ううう……」


 リィンの体から黒い闘氣が溢れていた、あれは『ウォークライ』?確か一流の猟兵は黒い闘氣を出すって聞いたけどリィンがそれを使えるとは聞いたことは無い。


(まさかあの時の……!)


 わたしはかつてリィンを失ってしまった時の記憶を思い出した。D∴G教団の奴らが襲ってきてリィンを攫って行った思い出すのも嫌な記憶、その中にリィンが謎の力を使っていたことを思い出した。


(あの力を使おうとしているの?)


 あの時見たあの力はリィンに強大な力を与えていた、あの時の力が何だったのか知りたいとは思っていたがリィンは教えてくれなかった。
 わたしは彼の様子を見て知られたくない事だと理解したし、リィンはあれから一度もあの力を使わなかったのでわたしは何も聞かなかった。


【奪エ、アノ男ノ剣ヲ奪エ。アレハ強大ナ力ヲ秘メタ理ノ外側ノ武器……アノ男ヲ殺シテアレヲ奪エ!】
「頭の中で喋るな……うっとおしい!」


 リィンは頭を抑えながら苦しそうに何かに抵抗していた。どうしたの、リィン?喋るなって……リィンは何と会話しているの?


「何をしているのかは分からないが、隠している手があるのなら使ったらどうだ?少しは勝てる可能性が上がるかも知れないぞ」


 ロランスは攻撃もせずに挑発するように人差し指をクイクイッとリィンに向けて曲げる、まるで何かを待っているようにも見えた。


「ぐうう……うぉぉぉぉ!!」


 必死で何かに抵抗していたリィン、だが限界が来てしまったのか黒い闘氣がリィンの全身からあふれ出てきた。するとリィンの髪が白く染まり目が真っ赤に染まり別人のようになってしまった。


「リィン……!」


 私はリィンに声をかけるが彼はそれを無視してロランスに向かっていく。


「死ね!」


 先ほどとは比べ物にならない速度で太刀を振るうリィン、ロランスはそれを見て初めてまともな回避をする。


「滅・紅葉斬り」


 リィンの黒い闘氣を纏った太刀で紅葉切りを放つ、さっきは防がれたその一撃がロランスの腕を切り裂いて血を流した。


「滅・孤影斬」


 黒い闘氣を纏った斬撃がロランスに向かっていく、リィンが孤影斬を使う所はよく見るがあんな大きな斬撃は見た事が無い。


「なるほど、これが教授の言っていた力か……」


 ロランスが何かを呟くが、わたしには聞こえなかった。黒い斬撃をかわしたロランスは四体の分け見を生み出してリィンに攻撃を仕掛けた。


「裏疾風」


 リィンは疾風を超える速度でロランス達を斬っていき、とどめに孤影斬を放ちまとめて吹き飛ばした。


(あれはアリオスの『裏疾風』!?)


 リィンが使った技は風の剣聖と呼ばれるアリオス・マクレインが得意とする技の一つだった。


「シルバーソーン」


 リィンの攻撃を逃れた本物のロランスは、幻影で出来た剣をリィンの周囲に出現させてリィンを取り囲んだ。そのまま電撃が流れようとするがリィンは太刀を上段に構えると黒い炎を太刀に纏わせた。


「滅・業炎撃!」


 そしてそれを地面に向けて叩きつけると黒い爆炎が生まれ、それは瞬く間に幻影の剣を焼きつくしていく。


「黒焔ノ太刀(こくえんのたち)!!」


 そして黒い炎を纏った太刀でロランスに連続して斬りかかっていく、それに対してロランスも剣を振るい激しい攻防を続けていく。二人の姿が消えたと思ったら、次の瞬間には違う所で斬り合うという光景がわたしの目に映っていた。


(なんて戦いなの……)


 あまりにも人間離れした戦いにわたしは絶句してしまう、こんな戦いは団長が闘神と戦っている時にしか見た事が無い。


「せやァ!!」


 ロランスがリィン目掛けて突きを放つがリィンはそれを素早くしゃがんで回避する。


「しゃああっ!」


 そして下からすくい上げる様に太刀を振るいロランスの大剣を真上に弾いた。その隙をついたリィンが攻撃を仕掛けるが、ロランスはそれを驚異的な動きで紙一重でかわしてリィン目掛けて大剣を振り下ろす。


「リィン!」


 わたしは咄嗟に声を上げる、ロランスの一撃はリィンの上半身を切り裂くが彼はギリギリの所で後ろに後退してダメージを抑えていた。


「おらぁっ!!」


 そして振り下ろされたロランスの大剣を踏みつけて斜めからの斬撃で斬りかかった。だがロランスはそれをかわそうとわせずに打撃でリィンの心臓を狙う。
 打撃を右腕で防いだリィン、だが腕からゴキリと嫌な音がするが彼は構わずにロランスに攻撃を仕掛けた。


「くたばれ!」
「良くしゃべる奴だ」


 理性を失いかけているリィンの様子を見てロランスが苦笑を漏らす、そしてリィンの攻撃を弾いたロランスはリィンを蹴り飛ばした。


「がはぁ!」


 壁に叩きつけられたリィンにロランスがリィンの顔目掛けて突きを放った。リィンは首をそらしてかわすが肩を切り裂かれる。


「捕まえた……」
「むっ!?」


 だがリィンは傷など気にしないで自身の肩に刺さったロランスの大剣を片腕で捉えると、自分の太刀をロランスの足に突き刺した。


「滅・破甲拳!」


 いつもより深く抉る様に放たれた破甲拳はロランスの装甲鎧にヒビを入れた。


「がはっ!?」


 初めてロランスにまともなダメージが入り、彼は武器を手放して後退した。それを好機と見たのかリィンは太刀を取りロランスに斬りかかった。


「死ねぇぇぇ!!」
「……甘いな」


 だがロランスはリィンの太刀を両手で挟み込むようにして受け止めてしまい、挙句には太刀をへし折ってしまった。そしてロランスは動揺したリィンを蹴り飛ばして折れた太刀を放り捨てた。


「最初は翻弄されたが所詮は理性の無くした剣……獣のそれとなんら変わりは無い。見極めるのは簡単だった」
「ぐっ、うゥゥ……」
「力に翻弄される哀れな男よ、お前は何も守れはしない」
「グッ、ダマレ……!」
「その調子ではいずれお前自身が仲間を、そして妹を殺すことになるな」
「ダマレェェェェェ!!」


 激高したリィンはロランスに向かって飛びかかった、ロランスは大剣を構えてリィンを斬ろうとしている。


(このままじゃリィンが……!)


 死んでしまう。そう思ったわたしは体の痛みなど無視して立ち上がりリィンに向かっていった。


「リィン、駄目!」
「グガァァ!?」


 リィンに飛び掛かったわたしはそのまま彼を地面に押し倒した。ロランスは攻撃の手を止めてわたし達の様子を見ていた。


「グゥゥ、離セ!」


 リィンは暴れてわたしを引きはがそうとする、それに対してわたしは必至でリィンを押さえつけた。


「お願い、もう止めて!それ以上戦ったらリィンが死んじゃう!」
「五月蠅イ!邪魔ヲスルノナラオ前ヲ殺スゾ!」


 リィンは怒り狂い最早喋り方すら変化していた、それでもわたしは逃げずにリィンを抑え込む。


「……いいよ、リィンになら殺されてもいい。約束したもんね、死ぬときは一緒だって」
「ナニ?」
「ごめんね、リィンが苦しんでいる時にわたしは何もしてあげられなかった。あなたが必至でそれを抑え込もうとしていたのにわたしはもう大丈夫だって思ってしまった」


 今やっと理解した、リィンはずっと一人で戦っていたんだ。
 わたしはリィンがあの力を使わなくなったからもう大丈夫だって思いこんでいた、でも違ったんだ。リィンはわたしに心配をかけないように一人でずっと戦っていた。


「あなたが欲しいのならわたしの命でも何でもあげる、だからもうこれ以上傷つかないで」
「グゥゥ……!」
「大好きだよ、リィン」


 わたしはそっとリィンの唇に自身の唇を重ねる。リィンはわたしを引きはがそうとするが頭を押さえて逃がさないようにする。


(お願いリィン、元に戻って……)


 最初は抵抗していたリィンも次第に落ち着きを取り戻したようにおとなしくなっていった。リィンが完全に暴れなくなった後、わたしはリィンの頭をギュッと抱きしめて頭を撫でた。


「大丈夫、わたしが傍にいるから。もう一人にはしないよ」
「……フィー」


 するとリィンの髪が黒色に戻り、リィンはまるで糸の切れた人形のように崩れ落ちる。


「リィン!……気絶しちゃっただけか、良かった……」
「ほう、暴走を静めたか」
「ロランス……!」


 安堵するわたしにロランスが感心したかのような声をかけてきた。わたしはズキズキと痛む体を無視して武器を構えるがロランスは一向に向かってくる様子はない。


「興覚めだな、今日はここまでにしておこう」
「お前はリシャール大佐がいるこの先の通路を守っているはず、それを放棄すると言うの?」
「俺には俺の目的があるだけだ、お前達がリシャールを止めたいのならば行くがいい」


 ロランスはそう言うと何かの呪文のようなものが書かれた紙を取り出す、すると地面にアーツなどで出てくる魔法陣のようなものが浮かび上がった。


「待て!」
「一つだけ忠告しておいてやる、その男が持つ力はいずれお前やその仲間を喰らいつくすだろう。その前に縁を切っておいた方がいいぞ」
「勝手な事を言わないで。わたしは死ぬ最後までリィンと一緒にいる、いや仮にリィンが暴走しても彼はわたしが守る」
「ならば抗い続けるがいい、それがお前にどんな絶望を突きつけることになるとしても」


 ロランスはそう言うと姿を消してしまった。


「……なんだったの」


 危機は去ったが正直お情けで生き残ったようなものだ。ロランスが何をしたかったのか分からないしまだリシャール大佐も残っている。


「でも皆が、リィンが無事で良かった……」


 傍で眠るように気を失ったリィンを見て、わたしは思わず安堵の表情を浮かべる。


「あ、いた!おーい、皆!」


 奥からエステル達の声が聞こえてきた、きっとジークがエステル達を呼んできてくれたのだろう。もう大丈夫だと理解したわたしはリィンに覆いかぶさるように倒れて気を失った。


  
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