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英雄伝説~西風の絶剣~

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第54話 地下遺跡を探索せよ

side:フィー


 グランセル城を制圧したわたしとリィンとラウラは、捕らえた特務隊を庭園にて監視していた。
 アリシア女王陛下は無事にエステルとシェラザードが助け出したらしい。途中でデュナン侯爵が特務隊を引き連れて妨害してきたようだけど、エステル達が特務隊を倒すと焦って逃げようとして階段の手すりに頭をぶつけてしまったようで今は執事の人が介抱している。


「ふあぁ……暇だね」


 わたしはつい欠伸をしてしまうがやることがないから仕方がない。エステル達は女王陛下からリシャール大佐達がどこに行ったのか詳しく話を聞いているが、一体何処に行ってしまったのだろうか。


「リィン、リシャール大佐達は逃げちゃったのかな?」
「どうだろうな、アリシア女王を救出した以上もう特務隊には後がない。だが今も姿を見せないとなるとフィーの言う通り逃げたのか、それとも城を制圧されても構わない程別にやることがあるのか……まあ今はエステルさん達が戻ってくるまで待っておこうか」


 彼らが何処に行ったのかは気になるが、今は見張りの仕事をこなしておくことにしよう。


「リートさん、フィルさん!」
「あれ、クローゼ?」


 そこに帝国大使館にいるはずのクローゼが現れてわたし達は目を丸くして驚いてしまった。どうして彼女がここにいるんだろう?


「クローゼさん、どうしてここに来たんですか?」
「はぁ……はぁ……ジークから皆さんが御婆様を救出してくれたと聞いて……」
「ピューイ」


 クローゼの腕に止まったジークを見て、そう言えば姿を見なかったなと思った。


「まあお城の制圧は済んでますから危険はないとは思いますが……ミュラーさんはどうしたんですか?」
「お城の前まで護衛してくださいました、何回も止められたのですが無理を言ってしまって……彼は立場上グランセル城に入ることが出来なかったので安全を確認してから私だけでここに来たんです」


 リィンの質問に、クローゼが途中までミュラーに護衛してもらった事を話した。城を解放したからといっても街が安全になった訳じゃないからいい判断だと思う。
 でもクローゼを必死で説得しようとして最終的に眉間に皺を寄せながら渋々頷いたミュラーが安易に想像できた、オリビエの事といい本当に苦労性なんだね。


「それで御婆様は今どうされているのですか?」
「女王陛下は現在エステル殿達と話しあっています。特務隊を率いているリシャール大佐と隊長のロランス少尉、副官のカノーネ大尉も現在行方が分かっておりません」
「そうですか……でも御婆様が無事だったのは良かったです。本当にありがとうございました」


 ラウラがアリシア女王の事をクローゼに説明する、まだ脅威が去った訳ではないが家族の安否を知るとクローゼはわたし達に頭を下げた。


「いえ、俺達だけじゃないですよ。エステルさん達の頑張りがあったからこそ上手くいったのですから」
「はい、皆さんにはどれだけ感謝しても足り得ないほどの恩がありますから早くお礼が言いたいです」


 クローゼの笑顔を見たら、今回の作戦に関わってよかったと思い胸の中が暖かくなった。


「あん?なんでこんな所にてめぇらがいやがんだ?」
「あ、フィルちゃんだ!」


 背後から声が聞こえたので振り返ってみる、するとそこにいたのはアガットとティータだった。背後にいるお爺ちゃんはもしかしてラッセル博士かな?


「アガットさん、どうして此処に?」
「そりゃこっちの台詞だ。俺達は灯台下暗しを狙って王都行きの貨物船に乗り込んだんだ、そして王都に来てみればこの騒ぎだ。エルナンから事情を聞いてきたが今の状況はどうなっているんだ?」
「それはですね……」


 リィンはアガットにこれまでの経緯を説明した。


「ちっ、何だよもう終わっちまったのか。ようやく特務兵どもをブチのめせると思ったんだがな」
「でもまだ終わってないと思う、敵の大将であるリシャールやロランスは現在行方が分かっていない」
「なに?あいつらはどこ行ったっていうんだ?」
「今エステル達がそれについて女王陛下と話しあってる」
「ふん、ならまだ暴れられる可能性があるという訳か」


 アガットは嬉しそうに拳を叩く、やっぱり戦闘狂だったね……わたしは小さくため息をつくと傍にいたティータに声をかける。


「ティータ、久しぶりだね。無事な姿を見れてホッとした」
「フィルちゃん……フィルちゃぁぁぁん!!」
「おっと」


 ティータは大きな声で泣きながらわたしに抱き着いてきた。


「うえーん!フィルちゃんも無事で良かったよ~」
「よしよし、心配してくれたんだね」


 泣きじゃくるティータの頭をポンポンッと撫でながら、わたしもティータに無事会えた事に安堵する。無事で本当に良かった……


「ほう、その子がティータの話していたお友達か?」


 すると背後にいたお爺ちゃんがわたし達に声をかけてきた。


「うん、そうだよ。お爺ちゃんに紹介するね、この子がフィルちゃんであそこの黒髪の人が彼女のお兄さんのリートさんだよ。でもあそこの青髪の女の人は分かんないや……あうあう~……」


 わたしとリィンを紹介しようとしたティータだったが、顔の知らないラウラを見てちょっと困惑した表情を浮かべていた。


「……なんと可愛らしい」


 ボソッとラウラが何か言ったが、ちょっと離れていたので聞き取れなかった。


「ラウラ、どうかしたのか?」
「うん?あ、いやなんでもないぞ」


 リィンがラウラに声をかけると彼女はコホンと一息吐いてティータ達に自己紹介した。


「初めまして、私はラウラ・S・アルゼイド。帝国の貴族だ、よろしく頼む」
「俺ラッセル博士とは初めて会いましたね、俺はリートといいます」
「フィルだよ、よろしく」


 ラウラがティータ達に自己紹介をして、わたしとリートも初めて会うラッセル博士に挨拶をした。


「は、初めまして!ティータ・ラッセルといいます!」
「ワシはアルバート・ラッセルじゃ、ティータが世話になったそうじゃのう。こうして会えて嬉しく思うぞ」


 ラウラはティータと、わたしとリィンはラッセル博士と自己紹介をかわすがアガットだけは鋭い視線でラウラを見ていた。


「……帝国人」


 アガットが何かを呟いたようにも思えたがこっちには聞こえなかった。アガットの視線に気が付いたラウラは、彼に向かって手を差し伸べた。


「貴方はもしかすると『重剣』殿ではないか?私はラウラ・S・アルゼイド。リベールに大剣を扱う凄腕の遊撃士がいると噂を聞いていたのでこうして会えて光栄に思います」
「……」


 だけどアガットはラウラの手を無視して、一人で立ち去ってしまった。


「ア、アガットさん!?」


 ティータはそんなアガットの態度に驚いた様子を見せた。


「ふむ、何か失礼な事をしてしまったのだろうか?」
「いやそんな事は無いと思うが……」


 少し困った様に頬を掻くラウラにリィンがフォローを入れる。確かにちょっと様子が変だったね、アガットは気難しい性格なのは何となく察していたけど手を差し伸べられて無視するような人物じゃないと思う。
 もしそんな男だったらティータが懐いたりはしない、子供は怖い存在には敏感だからだ。だからラウラに対する態度は彼らしくない行動だった。


「すまんな、お嬢さん。あやつは少し不器用なところがあってな、気にしないでくれ」
「ご、ごめんなさい!アガットさんは悪い人じゃないんです、でもどうしてあんな態度を取ったりしたんでしょうか……」
「いえ、私は大丈夫です。お心遣い感謝いたします」


 ラッセル博士とティータがラウラに気を使って声をかけたが、彼女は気にしていないと両手を振っていた。


「皆~!」
「あ、エステルだ」
「アガットからティータとラッセル博士がここにいると聞いてきたから入ってきたわ、それでティータは?」


 そこに現れたのはエステルだった、どうやらさっきどこかに行ったアガットと合流してラッセル博士達の事を聞いて此処に来たようだ。ティータはエステルの姿を見ると嬉しそうに駆け寄っていった。


「エステルお姉ちゃん~!」
「ティータ!」


 ティータは勢いよくエステルに抱き着いた、エステルも嬉しそうにティータを抱きしめ返した。


「お姉ちゃん、会いたかったよ!」
「あたしもよ、ティータ!本当に無事で良かった……」


 良かったね、エステル。彼女はずっとティータの事気にしていたから二人がこうして会えてわたしもホッした。


「そういえばヨシュアさんはどうしたんですか?それに先ほどまで女王陛下とリシャール大佐達について話し合っていたはずですか何か分かったんですか?」
「あ、そうだった!実はお城の宝物庫で昇降機を見つけたんだけど、ロックがかかっているから起動できないの。ラッセル博士ならどうにか出来ないかしら?」
「昇降機じゃと?」


―――――――――

――――――

―――


「まさかお城の地下に向かう事になるなんて思ってなかった」
「そうだな、まさかこんなものを作っていたなんてな」


 わたし達は現在、グランセル城の宝物庫に作られていた昇降機を使って地下に向かっていた。
 何故こうなったのかというとアリシア女王陛下の話ではリシャール大佐の目的は『輝く環』という空の女神が古代人に授けたという伝説のアーティファクトを手に入れる事らしく、それが王都の地下にあるかもしれないらしい。わたし達はリシャール大佐がその輝く環を手に入れる前に彼を止める為に地下に向かっているという訳だ。
 向かうメンバーはエステル、ヨシュア、シェラザード、オリビエ、アガット、ジンの予定だったんだけど……


「しかし王都の地下か、年甲斐もなくワクワクしてきたのぅ!」
「お、お爺ちゃん~……」
「あはは……」

 
 女王陛下のお願いでクローゼが、万が一戦術オーブメントや武器が壊れてもそれを修理できるラッセル博士とティータも一緒に付いてくることになった。本当は危ないので連れていくのは良くないんだけど女王陛下の依頼されたのなら断れないだろう。それに本人達もそれを望むのなら猟兵として任務を遂行するだけだ。
 それで彼女たちの護衛をする為にわたしとリィン、ラウラも一緒に付いてくることになったという訳。


「どうやら下に着いたようね」


 わたし達が昇降機から出ると、そこには巨大な遺跡が存在していた。下は真っ暗な暗闇が広がっており空中を浮かぶ通路が大きな遺跡に繋がっていた。


「な、何よここ……」
「これは古代ゼムリア文明の遺跡か?相当古い遺跡のようじゃが機能は死んではおらんようじゃな」


 ラッセル博士の言う通り辺りは明るく、何らかの音が聞こえてくる。


「それだけじゃねえな、奥からやばそうな雰囲気がプンプンとしてやがる」
「強力な魔獣が徘徊していそうだな」


 アガットとジンは遺跡の中から漂ってくる危ない雰囲気を感じ取ったようだ、確かにやばそうな気配が沢山するね。これは骨が折れそう。


「でもこれだけ巨大な遺跡を探索するとなると、効率を考えないといけないわね」
「ええ、闇雲に動いていれば体力を消耗して危ないですからね。ここは探索班と待機班に分かれて動くことにしましょう」


 シェラザードの言葉にヨシュアが頷き、探索班と待機班に分かれて行動しようと提案した。要するに安全な場所を見つけて拠点にする、そこを足掛かりにしながら探索と拠点の防衛、そして状況によっては交代して探索を進めてまた新しい拠点を見つける……を繰り返していくって事だね。


 わたし達はまず降り立ったこの場所を拠点にして、エステル、ヨシュア、シェラザード、アガットが捜索班として遺跡の中に入っていった。


「さて俺達は拠点として使えるようにしておくか」
「はい、工具類一式と簡単なキットは用意してきましたからいつでも使えるように準備しておきますね」


 わたし達は簡単な設備を作って拠点の防衛に入る。護衛は猟兵の仕事でいつもこなしてきたとはいえ此処は未知の場所だ、何が起こるか分からないので警戒を怠らないようにしないと。


 暫くは何事も無かったが、突然ラッセル博士が何やらウロウロと辺りを動き出した。


「お爺ちゃん、どうかしたの?」
「いや、ほんの少しくらいなら中に入れんかと思ってのう」


 ありゃりゃ、意外とアクティブなお爺ちゃんだったね。でもそんなのは駄目、唯でさえ危ないもの。


「ジン殿、何とかならんか?技術者にとってこんな貴重な遺跡を調べずにはいられないんじゃよ」
「そうは言ってもな、今はそんな状況ではないし我慢はできないのですか?」
「無理じゃな」


 きっぱりと無理だと言うラッセル博士に、ジンはどうしたものかというような表情を浮かべた。何となく依頼の関係で会った事のあるG・シュミット博士とは違うベクトルの面倒臭さを感じた。


「はあ……ジン、ちょっとだけ中に入れてあげたら?一回帰ってきたエステル達から魔獣の情報は貰ってるから多少なら大丈夫だと思うよ」
「しかしな……」
「でもこのままだと勝手に行っちゃいそうだけど。何かシュミット博士みたいな面倒臭さを感じたから」
「確かに彼とは違う面倒臭さを感じるな……」
「むっ、お前さん達はシュミットを知っているのか?じゃがワシをあんな偏屈者と一緒にするでないわ!」


 わたしの言葉に同意するリィン、そしてシュミット博士と同類扱いされたラッセル博士は心外だと言わんばかりに顔を顰めた。でもわたしからすれば面倒なのは似ていると思うけどなぁ、技術者って皆こんな感じなのかな?


「ジンさん、拠点の防衛は俺とオリビエさんでしておきますから少しだけ連れて行ってあげてくれませんか?幸いここは入り口なので何か合ったら直に避難できますし勝手に行動されるほうがマズイですし」
「仕方ないか……」


 このままだとラッセル博士……もう面倒臭いからラッセルでいいや。ラッセルが暴走しそうなのでわたしとジン、そしてラウラと一緒に行きたいとごねたティータも連れて遺跡の中に入っていった。




―――――――――

――――――

―――


「はあっ!」


 ジンの一撃が魔獣を粉砕する、だがその背後から別の魔獣がブレードを振り上げて襲い掛かった。


「させないよ」


 そこにわたしの放ったアーツ『ソウルブラー』が直撃して魔獣が動きを止める。


「終わりだ!」


 怯んだ魔獣をラウラの一撃が真っ二つに切り裂いた。


「ふう、終わったか。しかしこの魔獣達は何か変な感じがするな」
「ん、死体も消えないし何か生き物っぽくないね。機械みたいな感じがする」


 わたし達が知っている魔獣は死ぬと体内に溜めてあるセピスを吐き出しながら消滅するんだけど、この魔獣達は爆発して死体が残っている。


「ふ~む、これは導力を使って動く機械人形のようじゃな。ここでクオーツがつながって……むむっ、これは興味深い!」
「あ~!お爺ちゃんばっかりズルイよ!私も見たい~!」


 残った死体……いや残骸かな?それらをラッセルとティータが興味深そうに観察していた。


「お二人さん、興味を持つのは良いがここでは危険だ。一度拠点に戻って……むっ!?」


 ジンが二人に声をかけようとした瞬間に、通路の奥から何かが飛んできた。


「あれはミサイル!?」


 わたしはそれがミサイルだと分かると、咄嗟に銃を抜いてミサイルを撃ち抜いた。


「何が起きたんじゃ?」
「お、お爺ちゃん!あれ!」


 ティータが指を刺した方向に巨大な魔獣が存在していた。さっきまで相手をしていた魔獣より大きく魔獣が方向を上げると身体から何かが飛び出すとそれが煙をあげながらこちらに向かって飛んできた。


「ミサイルか!全員伏せろ!」


 ジンがティータとラッセルの前に立ちふさがり、二人はその場に伏せた。わたしは再び銃でミサイルを撃ち抜きその隙にラウラが剣を上段に構えて魔獣に向かっていった。


「喰らえっ!」


 振り下ろされた一撃が魔獣の装甲を深々と切り裂く、だがそれだけでは倒せなかったらしく魔獣は激しく回転してラウラを弾き飛ばした。


「ラウラ、援護するよ」


 わたしは離れた位置からアーツを発動しようとする、だが魔獣は先ほどよりも速いミサイルをわたし目掛けて発射する。それがわたしの前で爆発するとアーツが解除されてしまった。


「駆除解除のクラフト……アーツは使えないか」


 ダメージを最低限に抑えたわたしは、アーツでの戦闘を止めて物理攻撃で攻める事にした。迫り来るミサイルをかわして魔獣に接近して銃弾を放った。狙いはラウラが攻撃した場所だ。


「ショット!」


 銃弾が魔獣の内部で爆発して魔獣の装甲が大きくはじけ飛んだ。


「これで終わりだ!」


 そこにラウラの剣が突き刺さり、勢いよく横に振るう。大剣が内部をズタズタにしていき魔獣は爆発を起こして起動停止する。


「いっちょあがり」
「うむ、見事な卵形だったな」


 ラウラとハイタッチすると、二人を守っていたジンが拍手をしながら近づいてきた。


「見事なコンビネーションだったな、お二人さん。しかしラウラはともかくフィルも戦闘慣れしているな、何か武術でも嗜んでいるのか?」
「いや、そんなことは無いけど……」
「そういえばリートにも感じた事だが、お前さんも前に何処かで出会ったことは無いか?何か見覚えがあるんだが……そういえば前に大規模な作戦に参加したときに似たような兄妹がいたような……」
「き、気のせいじゃないかな。銀髪なんてよく見るし」
「う~む、銀髪の知り合いはシェラザードくらいしか思い当たらないが」


 ちょっと不味いかな、予想外の敵だったからついいつもの動きで倒しちゃったけどジンに猟兵だってバレたら面倒なことになる。


「フィルちゃん!ジンさん!危ない!」


 その時だった、ティータが悲鳴を上げたと同時に倒したはずの魔獣が放ったミサイルがわたし達目掛けて飛んできた。わたしとジンは横に飛んでミサイルを回避してラウラが魔獣を粉々に砕いた。


「まさか生きていたとはな、少し油断したか」
「ん、死んでも消えないからと思い込んでいた」


 まさかの攻撃にわたしは驚きを隠せなかった。団長も未知の存在と戦う時は相手が死んだことを確認するまで気を抜くなって言ってたのを思い出して反省する。


「おや?おーい、お前さん達、こっちに来てくれんか?」


 そこにラッセルが皆に声をかけてきたので何かあったのかと思いそちらに向かう。するとそこにさっきまでなかった通路が存在していた。


「これは隠し通路か?さっきの魔獣のミサイルが当たって壁が崩れたのか」
「この先に何かあると技術者の感が叫んでおる!ほらほら、早く行くぞ!」
「あ、ちょっと待って」


 ラッセルが一人で通路の奥に言ってしまったので、わたし達も慌てて後を追いかける。幸い魔獣は徘徊していないようで一本道を進んで行くと少し広い部屋に出た。


「ふわぁ……」
「これは……」


 部屋の壁には何かの壁画が描かれていた、それは光り輝く何かに大勢の人間が群がるような絵だった。よく見ると手を合わせて拝んでいる人も書かれており、まるで光る何かを崇拝しているように思えるね。


「なんじゃ、この絵は?何かの宗教を描いたものかのう?しかしこれだけ古い遺跡なのにここまではっきりと残っておるとは驚きじゃな」
「お爺ちゃん、ここに何かあるよ」


 壁画に驚くラッセルの横で、ティータが何かを発見したみたい。見てみると部屋の隅に何かの台座のようなものがあり、その上には前にエステル達に渡した黒いオーブメントのような物が置かれていた。


「これはリシャール大佐が持っていたゴスペルというオーブメントか?それにしてはかなり古そうなものじゃな。どれ」
「あ、不用意に触れたりしないほうが……」


 わたしはラッセルを止めようするが時すでに遅し、ラッセルはオーブメントに触れてしまった。幸い何も起きなかったがラッセルは顔を真っ赤にしながらオーブメントを剥がそうとしていた、でも少しも動いたりしない。


「うむむ、しっかりと固定されてしまっているようじゃ。ワシではビクともせん。ジン殿、これを取れぬか?」
「仕方ない、少し離れていてください」


 ゴネるラッセルに、ジンは素直にいう事を聞いた。言い聞かせるよりも言う事を聞いた方が行動を御しやすいと思ったのかもしれない。


「ふん……!!……駄目ですな、力尽くでは取れそうにない」


 ジンでも取れないのなら人力で取るのは無理そうだね。


「ええい、ならばツァイスにある強力な導力鋸で……」
「お爺ちゃん、流石に今は自重しようよ~」
「そういう事はこの事件が終わってからにしてください、さすがにそこまでは付き合えませんからな」
「うむむ、仕方ないの……」


 未だ諦めきらないラッセルに、流石にティータも援護できないようでジンも諦めてくれと諭した。それに対して流石に今はマズいと思ったのか、ラッセルは渋々といった感じに諦めた。


(……)
「フィル、どうかしたのか?」


 ちょっとした好奇心が湧いたわたしは、突拍子も無くそのオーブメントに触れてみた。するとわたしの頭の中に何かの映像が浮かんだ。


(何……これは?)


 それは先ほどの壁画のように光り輝く物体に多くの人間が祈りを捧げている光景だった、でも絵と違ってそれは実際に目で見ているように人が動いていた。祈りを捧げて何かを願っているようだ。


「……ィル、フィル!」
「あれ、ラウラ……?」


 突然現実に戻されたわたしは、心配そうにわたしを見つめるラウラと皆の顔を見てボーッyとしていた意識が目覚めてきた。


「あれ、わたし今……」
「フィルちゃん、どうかしたの?」
「そのオーブメントに触れたとたん意識が飛んだかのように動かなくなったから心配したぞ」
「……ごめん、ちょっと変な夢を見ていた」


 首を傾げるティータと、さっきまでのわたしの様子を話してくれたラウラにわたしはさっきまで夢を見ていたと話した。


「夢じゃと?どんな夢なんじゃ」
「あの壁画みたいな光景をまるで実際に見ているかのように頭の中に浮かんできた」
「ふむ、しかしワシらは触っても何ともなかったがのう」
「ええ、特に何もなかったですな」


 さっきオーブメントに触れたラッセルとジンはあの夢を見なかったようだ。じゃあわたしだけがあの夢を見たって事?


「フィル、体調は大丈夫か?もし疲れているのなら地上に戻ってもいいんだぞ?」
「ううん、大丈夫。皆心配かけちゃってごめん」


 わたしを心配するラウラに大丈夫と話す、そして一度拠点に戻る事にしたわたし達はその場を離れた。

 

―――――――――

――――――

―――




「あはは、そうなんですか」
「ええ、あの時は流石に死ぬかと思いましたよ。ユン老師は修行に関しては加減してくれませんから」


 わたし達が拠点に戻るとリィンとクローゼが楽しそうにおしゃべりしていた。近くでオリビエが膝を抱えて座っており羨ましそうに二人を見つめていた。


「オリビエ、何をしているの?」
「あ、フィル君達じゃないか。今帰ったのかい?」
「うん、まあそんなところ。んでオリビエは何しているの?」
「いやぁ、よく聞いてくれたね。実はリート君とクローゼ君が楽しそうに話しあっていたんだけど、僕が入ろうとしたらリート君に追い出されちゃったのさ。だからこうして一人寂しく地面にのの字を書いていたんだよ」
「ふ~ん」


 まあどうせセクハラ発言をしようとして追い出されちゃったんだろうけど……でもわたし達がいない間に随分と仲良くなっているんだね。


「リート、ただいま」
「あ、フィルお帰り。探索は済んだのか?」
「うん。でもわたしも流石にビックリしちゃったな。まさかこんな短時間でクローゼと仲良くなるなんて」
「フィ、フィル?どうかしたのか?何だか顔が怖いぞ?」


 別に怒ってなんかいない、リィンが女の子と仲良くなることなんてどうせいつもの事だし。


「そなたまた女子に手を出したのか?相手は一国の姫君だぞ、全く手が早いというか……」
「ラ、ラウラもどうしたんだ?怒っているのか?」
「怒ってなどいない」


 ラウラもジト目でリィンを攻める様に見つめる。するとリィンは慌てて言い訳を言い出した。


「い、いや別に不純な気持ちがあった訳じゃないんだよ。ほら、フィルもお世話になったし兄として改めてお礼を言わないとって思っただけで……」
「さっきここに来た魔獣がクローゼ君を攻撃しようとしたけど、リート君がお姫様抱っこで華麗に助けていたよ。いやぁ、あれは見物だったね」
「オリビエさん!?」


 ハブられた意図返しかオリビエがさっき起きた事を教えてくれた。
 ふーん、お姫様抱っこか、クローゼは本物のお姫様だしさぞかし絵になる光景だったんだろうね。クローゼも思い出したのか顔を赤く染めているし。


「流石はリートだ、その手の速さには呆れを通り越して尊敬の意が出てくるほどだ」
「良かったねリート、クローゼをお姫様抱っこ出来て」
「二人とも、待ってくれ。これは違うんだ」


 絶対零度の視線をリィンに浴びせるわたしとラウラに、リィンは必至で言い訳を続けていた。



「み、皆さん?どうされたんですか?」
「あわわ、何だか不穏な空気が漂ってきたよ」
「よく見ておくんじゃぞ、ティータ。ああいう男には気を付けるようにな」
「若いというか何というか……」
「いやぁ、これも青春だね♡」


 そんなわたし達の様子を見ていたクローゼ達は様々な反応をしていた





  
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