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フルメタル・パニック!On your mark

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第四話 十数年前の遺産

 
前書き
書き立てほやほやです。脱字誤字多そうすみまさぬ。 

 
『秘匿された真実と放課後ティータイム』

 喫茶店『ソウスケ』

 落ち着いた空間に、広々とした店内。
 客層は買い物帰りの家族連れ、読書を楽しむご老人や世間話にうつつを抜かす中年まで。
 ここ喫茶店 ソウスケは万人に楽しめるように母である千鳥 かなめがデザインした店だ。
 ホント、そんな才能とセンスを持った母を持って息子である俺は感激の至りですよ…。
「いつ来てもいい店だなぁ。雰囲気とか流れてる曲とか、」
 風志は鼻歌交じりで店内に入り、奥の席を目指して進む。
 この喫茶店 ソウスケで使われているオブジェクトやお客様用の机や椅子は全て母がデザイナーし、その配置場所も母が立案したが、そこはデザイナーと揉めた後、意気投合し、互いに納得出来る店内作りで現代に至る訳だが…何でも出来る母と何でも出来る姉を持つと大抵の事は驚かないし許容できる心の余裕はこういった母さんの行動から作られたものなのだと実感すると嬉しいような悲しいような。
「おぉ、ぼっちゃん」
 奥の席に向かう最中、ガタイのいい青年からの挨拶。
 雅 弁慶。ソウスケ開店当時から働いている古株で、オーナーである母が休みの時は店全体を仕切る頼れる存在だ。
「弁慶さん。お疲れ様です」
「おう。お疲れさん。
 風志も久しぶりだな」
「どもどもご無沙汰してますます」
 風志も昔からこの店には出入りしているので弁慶とは顔見知りだ。少し、歳上に対しての口調が俺的には気に入らないが弁慶は風志の口調…雰囲気を気に入っているらしく咎める事はない。
「相変わらず元気そうで何よりだ。で、今日はどうしたんだ?」
「ちょーっと蒼太の奴と秘密の密談で来ちゃいました」
「秘密の密談?
 はははっ。そりゃあ大変だ。奥の席が空いてるからそこを使うといい」
 普通の人間なら何を言ってるんだ?と思われる風志の発言も弁慶はユニークな奴だと理解しているので弁慶は奥の席を指差し楽しそうに笑う。
「ありがとございます。有難く使わせて頂きます」
「アザース」
 ピシッと風志は頭を下げる。
 言動と行動が微妙に一致していないが感謝の気持ちは伝わってくる。
「いいって事よ。後でなんか適当に菓子と飲み物でも持ってくからゆっくりしていくといい」
「そんな…いいですよ。俺達は客として来たんだから料金を支払わないと」
「いいのいいの。そんな固くなるなって。
 ガキは大人の好意に素直に甘えんのが利口だぜ」
 そう言い残し弁慶は奥の厨房に向かった。
「ホントにいい人だよなぁ、弁慶さん」
「本当にそうだよな。お前は弁慶さんの爪の垢を煎じて飲むといい」
「そうかも…後でちよっと貰おうかな」
 冗談で言ったつもりだが風志は真剣になって悩んでいる。この感じだと後で本当に弁慶の爪垢を下さいと懇願しそうなのでそうなる前に止めておこう。
「冗談だ。でも、見習う所は多くある」
「だよな…って冗談?」
「爪の垢の事だよ。弁慶さんに迷惑だから言うなよ」
「成程、把握した」
 そして俺達は奥の席に座る。普段は手伝い『アルバイト』として働かせてもらってるから客として座るのはとでも新鮮だった。
「さて、では始めますか!」
「はいはい。そうだな、」
「んだよー。ノリ悪いなぁー」
「へいへい。で、話ってなんだ?」
 単刀直入に話を聴いて迷惑になる前にここから出よう。そう判断し、さっさと要件を済ませようとするのだが…。
「俺さ。ガキの頃から探してるASが有るんだ」
「は?」
 それは予想外の発言だった。
 予想の斜め上を行く発言だった。
「リピートアフターミー?」
「俺さ。ガキの頃から────」
「繰り返さんでもいい。
 で、えっと…うん。何の話だ?」
 ゲーセンの時から風志の雰囲気が変わって少し気になっていたが…その原因はAS?
「まぁ聞いてくれ。
 って言っても口で話すよりもこいつを見せる方が早いか…」
 風志はスマホを取り出し操作し始め、スマホを俺に差し出してきた。
 俺はそれを受け取り画面を確認すると…何やら動画らしきものが表示されている。風志も「再生して見てくれ」と言うのでタップする。
「────?」
 そうして再生された動画はいきなりの展開だった。
 これは恐らく、数年前…いや、もっと前だな。十年以上前の動画だ。そしてこの動画で繰り広げられる『AS』の戦闘は、まるで映画の戦闘シーンのようだった。
 所々で映される動画の背景は日本の風景を映し出されており、この撮影現場は日本であると推測できる。そして撮影者の頭上を何やら巨大な物体が通り過ぎていく。
 白いASがビルの屋上を駆け、一つ目のASに飛び掛かる。
「これは…?」
 実写映画か何かか?
 それならこの大迫力の戦闘も理解できるが、それにしては所々ピントのズレた動画だ。まるでのこの戦闘から逃れるように撮影している。
 …と思いきや、今度は少しずつ接近し始めた。
 近付く事によりくっきりし始めたASの輪郭。
 白いASは何処と無く、M9と似ている。その白いASに襲われているベージュの一つ目は…シャドウと似てなくもない。
 どちらもゲーセンで人気上位の機体だが…これは十年以上前の動画で当時はこの二機のアーム・スレイブはとても高価で日本では配備されていない筈だ。なのに、このAS達は日本の街中のど真ん中で戦闘を繰り広げている。これは…何なんだ?
「映画の撮影…とかでは無いな、」
 動画で繰り広げられている戦闘は間違いなく実写だ。それは素人である蒼太でも分かる。だが、問題はこの動画の内容だ。日本で、それも素人の撮影となるとこれを撮影していたのは一般人と推測できる。ということは、この動画は『実際』にあった出来事を撮影したもの?
「この動画はいつ撮られたんだ?」
「深くは聴かないのね」
「あぁ、大凡は検討が付く。だが、まだ不確定な要素が多い」
 場所は日本で確定。だが、時系列は現代ではない。
 最近では無い。だが、それほど昔という訳でも無い予想だが…十数年前だと推測する。
 こんな戦闘が日本で行われた…というのはテレビのニュースでも観た事がない。
「これは日本の何処のいつ撮られたものなんだ?」
「要点だな。まず、場所は東京の都立神代高校付近。そしてこの動画が撮られたのは2000年代初期だ」
「都立…神代高校?」
 高校の近くで撮影されたという事か。
 そう言えば…さっきの映像では学校の校舎らしき物が映っていな。
「この動画の撮影者は、当時の迅雷高校の生徒で謎のAS達の戦闘に巻き込まれないように逃げながら撮影してたらしい」
「逃げながら撮影ね。動画の途中の所、近付いてなかったか?」
「無理ねぇよ。だって、こんな平和で戦争の『せ』の字も見当たらない日本で、こんな刺激的な出来事が目の前で繰り広げられたら近くで見たくなるのが人の性(さが)ってやつだ。まぁ、俺だったらもっと近付いて観戦してるだろうけど…」
「おい」
「冗談だよ。それに、こんな大規模な戦闘が日本で行われる事なんてまず無い」
「だが、これは実際に日本で起こった出来事なんだろ?」
「そりゃそうだが、これは非常にレアなケースだ。天災と同じだよ。十年に一回有るか無いかの」
「こんなのが十年に一度でも起きたらたまったもんじゃない」
 この映像で繰り広げられている戦闘は本物だ。
 学校帰りに寄ったゲーセンのゲームとは違う。その違いをどれだけ理解できるかによって危機感の差は出るだろう。
「あ、そろそろ終わるな」
 動画は残り二分程度…この動画の撮影者はよくこの戦闘の中ここまで居られたものだ。
「で、本番はこれからな訳ですよ」
「?」
 どういう事だ?
 最初からクライマックスみたい映像だが────。

 突然、白いASの背後に真っ黒い何かが現れた。

「え!?」
 それは白いASとは真逆の黒いAS。
 だが、こんなASは見たことがない。
「コイツは…?」
「このテロの首謀者と思われる機体だよ。見ろよ、この桁外れの戦闘力を」
 黒いASは武器も構えず素手で白いASに接近戦を仕掛けた。
 白いASは距離を取ろうとするが────速すぎる。黒いASの瞬発力は異常で、距離を取っていた筈の白いASの背後に一瞬で回り込んだ。そして右腕を刀のように振り下ろし白いASの左腕を斬り裂いた。
「デタラメだ…」
 あのベージュのASを圧倒していた白いASが押されている。
 武器も構えず、素手で白いASを圧倒している。
「化け物だろ?」
 そして次の瞬間、更なる予測不可能な展開が待ち受けていた。
「────────?」
 黒いASが飛翔したのだ。
 それも中に浮かんでいる。静止しているのだ。
「ASって…空を飛べるのか?」
「一瞬だけなら飛べるASも存在するぞ」
「それって空中を静止することも可能なのか?」
「いや、不可能だな。そいつは易々と飛んでその場を維持してるけど、日本で配備された『レイブン』は爆発的な加速での飛行だからな。飛べても一瞬だし高度を維持する事も出来ない」
「そうか────うん?」
 今、とても気になるワードが俺の脳内をすり抜けた。
「レイブン?」
 それって確か、今日ゲーセンで手に入れたASの名前だったような…?
「そっ。お前の手に入れたレイブンだよ」
 そう言って風志はスマホの画面を操作し、レイブンの機体詳細画面と動画でやられていた白いASの画像を並べる。
「どうだ?」
「どうだ…って言われて、」
 よく見ると機体の細部が似てなくもない。
 白いASはM9と形状が酷似していたし…もしかしてレイブンはM9をベースに開発された試作機か…?でも、それだと変だ。だって、この動画は十数年前のものだ。なら、日本にM9は配備されていない。いや、そもそも今の日本にM9が配備されているのか?
「???」
 いかん。困惑してきた。
 M9は現在でも高性能機として活躍しており、その性能は折り紙付きだ。
 だが、その機体価格とコストパフォーマンスはこの平和な国では見合わないと判断され、現在の日本でも配備されていないらしい。もしかしたら俺達一般人では知る由もない所で活躍しているかも知れないが、この動画は『十年以上前』の物だという事を忘れてはならない。
 十年以上前と言えばM9は実戦配備どころか開発されたばかりだ。
 となるとコイツは日本のASではない?
「この戦闘で出てきたASは何処の国の物なんだ?」
「さぁ。それは現在でも分かってない。
 でも、コイツは間違いなくM9の系列機だと思うのよ」
 スマホの画面をトントンとつつく風志。所々は新規パーツで原型を少し崩しているが…確かに、機体の細部はよく似ている。風志の言っていることもあながち間違ってない…かも知れない。
「だが、それで何になる?」
 仮にこの白いASがM9の系列機だとしてもだ。それが分かってなんになる?
 そこから先はなんだ?このASの正体を知りたい、という事なのか?
 様々な憶測と推測を立てるが、俺は興味本位から来るものなのだと思った。
 だが、どうやら違うらしい。
「この戦闘で、俺の従姉が怪我したんだ」
 風志は苦笑し、普段と違う表情で話を続ける。
「いや。ホントに対した事じゃないんだ。この戦闘を引き起こした奴らをぶん殴りたいとか…思わなくは無いけど別に恨んでる訳じゃない。従姉は大怪我を負ったけど今は元気で会社の社長やってんだぜ?すげぇだろ。
 …。
 …。
 …でも、なんだろうな。詳しくは分かんねぇ。余り知りたくもねぇ。
 でもよ。俺、聞いちまったんだ。
 なんでも従姉は、この白いASの搭乗者の友達らしいんだ」
 そうして風志は動画の続きを再生する。
 白いASはボロボロで黒いASに惨敗していた。
 だが、パイロットは生きていたのか搭乗口から一人の若者が出てきた。
 その若者は学生服を着ていて──────何処か見覚えのある輪郭をしていた。
 もう少し近ければ顔もくっきりと映っていただろうが、こうも離れていると画面も少しボヤけてしまっている。
 そして若者は拳銃を構え、黒いASに向かって発砲した。何発も何発も発砲した。
 AS相手に対人用の拳銃では何の意味も無いことは、この若者が一番理解しているだろう。だが、若者は弾切れになるまで撃ち続ける。諦めていないんだ。
 ASは大破し、若者も満身創痍。今にも倒れそうだ。
 だが、それでも若者は諦めていない。
 何としてでも生き延びてやる、という信念を感じた。
 …そして動画は終わった。
「動画は、ここまで…ここから先は携帯のバッテリー切れで撮影出来なかったらしい」
 この先、この後はどうなったのか…何とも言えない所で動画は終わってしまった。
 あの若者は恐らく、あの黒いASに殺されたか。それとも今も生きているのか…。何にせよ、少し分かった。風志の目的は、このテロに巻き込まれた従姉に大怪我を追わせた元凶とこの白いASに搭乗していた少年の招待を探る。
 この動画と先程の会話で少しずつだがパズルのピースがハマっていく感じがした。
「M9…白いAS…レイブン…」
 レイブンは日本純正の第三世代アーム・スレイブと先程、風志のスマホには映し出されていた。で、M9は日本産ではなく海外産だ。
 現在でも非常に高価な第三世代『M9』を数十年前から保有し、そのカスタム機と思われる白いASを保有した海外の国…?
 白いAS以外にもベージュの機体と黒い機体も日本の保有するASとは思えない。
 これは他国のいざこざが日本でテロとして行われた?という見解でいいのだろうか?
 だとしても…あの色々と疑問点は残るが、まずはここまでにしよう。これ以上深く考えるとパンクしそうだ。
「考えれば考える程に奇怪だ」
 一つ分かった事は(と言っても曖昧だが)、この白いASの搭乗者は学生で日本人という事。
 だが、機体は恐らく日本の物ではなく海外産。それは動画に映し出されたAS達にも言える事だ。特に、あの黒い機体は…なんというか、この世の物とは思えない程の性能だった。
 本物の戦闘を経験した事の無い俺ですら感じ取れる禍々しい気配。コイツはヤバい。別格だ。
 それに…なんだ。この違和感は?
 最初は映画感覚で動画を見ていてたが、実際にこの動画が実際にあった出来事だと発覚したにも関わらず『未だに』現実感の湧かない映像だ。
 なんて言うのか。まるで『ゲーム』のプレイ動画を見ているような感覚。
 もう訳が分からない。支離滅裂している。
 これは実際にあったテロ。そこは理解している。だが、空を浮遊するAS?とか存在するのか?元から疑問しかなかったが、冷静になってみれば新たな疑問点が幾つも浮かび上がってくる。
「なぁ、この動画の最初の所なんだが…」
 動画をベージュの機体と白いASの戦闘まで巻き戻す。
「ここがどうかしたか?」
「最初は目の錯覚かと思ったんだが…気になってな、」
 白いASがナイフでベージュの機体を貫こうとした時、ベージュの機体は手の平で防いでいた。いや、防いでいるように見えていた。何度も目を疑った。普通ならナイフは手の平を貫通し、それで受け止めたなら納得のできる光景だ。だが、これは手の平で防いでいるのではない。何か別の方法でナイフの切っ先を受け止めている?
「これって…」
 白いASのナイフは、ベージュのASの手の平で推し留まった。
 遠目なら防いでいるように見えるが動画を拡大し目を凝らしてよく見ると少しだが、ナイフは手の平に付いていない。それどころか何かによって防がれているようにも見える。
「知ってたか?」
 一応、風志に確認しておく。
「いや、こんなの今の今まで気付かなかった」
 風志自身もこの動画を何度か見て確認している様子だが、この異常な現象には気付いていなかったようだ。
 まぁ、空飛ぶASが登場すればこのナイフの一撃を何らかの力で受け止めるなんて些細な事か?いや、全然些細じゃない。こんなの非現実的だ。
 少しゲーム感覚でこの動画を見ていた事を反省していたが、これは現実的ではないぞ?
「空飛ぶASに謎の力…これってSF映画のPVか?」
 それなら納得出来る。それでこのモヤモヤも解消される。俺はそれで納得してしまう。
 だが、風志は納得しないだろう。
「………」
 何とも言えない表情だった。
 煮え切らない自分の感情に迷っているのだろうか?
「待たせたな、」
 それは、とてもタイミングのいい登場だった。
「弁慶さん、」
「おいおいどうした?そんな暗い顔して?
 なんか嫌な事でもあったのか?」
 そう言って弁慶は微笑みながらテーブルの上に飲み物とケーキを置いていく。
「いえ、別にそういう訳では…」
「深くは聞かんが、なんかあったら相談しろよ」
 そして「じゃ、ごゆっくり」と言って弁慶は去っていった。
 弁慶の登場により少しだけ場の空気が変わった。
 並べられたケーキと飲み物も有難く頂戴しよう。
「取り敢えず、食べよう。話はそれからだ」
 まずはケーキを一口っと…って美味い!
 なんだこのまろやなな舌触りは、口の中で蕩けていくぅ…。
「これすげぇ美味いな…!」
 風志も少し遅れてケーキを一口する。すると思わず「うんまぁ…」と言葉をこぼしていた。
 その表情は普段の風志で…ってアホずら過ぎるだろ。
「その、なんかゴメンな」
 少し気恥しそうに風志は言った。
「なんだ急に?」
「いやさ。こんな唐突で、それに何て言うか…俺の興味本位に付き合わせて」
「別に構わない。気にするな、」
 風志は本気で、この白いASの搭乗者を探している。
 生きているのか死んでいるのか。生きているなら何処に居るのか、そして何をしているのか…現在、手元にある情報だけでは解らない事ばかりだが、それでも風志は諦めていない。
 諦められない理由が有るのだ。
 そんな友達の真剣な思いを無下に出来ない。
「なぁ、もし迷惑じゃ無かったら…その話、俺も協力してもいいか?」
 俺に出来ることなんて高が知れている。でも、一人より二人で情報を集めればそれだけ真相に近付きやすくなる。微弱ながら俺も手助けできるんだ。
「…いいのか?」
 風志は申し訳なさそうな口調でこちらを見てくる。
「肯定だ。友達が困ってるんだ。少しでも力になりたい」
 俺はありのままの本心を告げると────。
「蒼太ぁ…お前って奴らはよぉ…」
 当然、風志は泣き始めた。
「お、おい」
「お前はホントに良い奴だなぁ。俺はホントに恵まれてるよ…」
「分かった!
 お前の言いたい事は分かったから取り敢えず、これで涙と鼻水を拭け。話はそれからだ」
 設置してあった箱ティッシュを風志に差し出す。
 高校生にもなってこんなマジ泣きする人間を俺は生まれて初めて見たが、今は他のお客さんからの視線が痛々しい。今日は人の視線をよく惹きつけるなぁもう。





『アーム・スレイブ格納庫』

「オーライ、オーライ」
 掛け声と同時に巨大なコンテナが運ばれて来る。
 蟹瀬は運ばれて来るコンテナを見て溜息を付きながらも手元のタブレットで物資の確認を行なう。
 今回、搬送されてきたのは新規で開発されたAS用の超大型コンデンサーに新型のマッスルパッケージ。それと何処かの倉庫で埃をかぶっていたASのジャンクパーツ。他にも大量の物資が搬入されてきているが、送り先も受け取り先もてんでばらばらで改めてここに発注するのにどれだけ手間が掛かったことやら…。
「する事なす事、全部適当だな…」
 それもこれも上の奴らの仕事が雑だから、こんなしなくてもいい仕事を押し付けられる。
 仕事を任せるから、その任せる為の下準備をするのが基本だろうが。
「まぁ、今回はその適当が幸をなしたか」
 複数回、分けられ送られてきた物資の中には発注の予定の無かった物も複数、混ざり込んでいて確認すると上の奴らの話だと好きに使ってくれて構わないと言ってきた。適当な奴らはこういう時、たまには羽振りがいい。
「パパ、今回送られてきた物資にアレはありましたか?」
 操作しているタブレット端末の画面端にLはひょこっと現れた。
「今確認してるけど無さそうだな、」
「えぇー」
「まぁ、海外からの運搬だからな。早くて今週、遅くて来月とかだろうな」
 出来れば来ないで欲しい、と心から願っているがLは心の底からあの『残骸』を心待ちしているので何とも言えない。
「今回は珍しく発注書通り…って事は無いな」
「残念ですぅ」
「気長に待つしかないな」
 来たとしても機体のデータを収集してその後は廃棄しても構わないと言われているので速攻、廃棄するぞ!っとLに言ったらLは怒るだろうな。
 結局の所、蟹瀬はプラスマイナスの要領で今回の一件を受け止め、極力は前向きに行動していこうとは考えている。いい大人がぐじぐじしていじけても仕方ない、と自分なりに納得するのにかなりの時間を要したが…それもLの励まし(罵倒)のお陰で何とか立ち上がれたといった感じだ。
「パパ、アレはなんですか?」
 アレとは?と運ばれて来るコンテナに目をやるがどのコンテナか分からない。
 するとLはタブレット端末の画面の中でコンテナ番号を指差した。そのコンテナの中身は自衛隊で使われていたASのジャンクパーツだが…。
「全部、廃棄処分する予定だったものを引き取ったんですか?」
 何処から仕入れた情報なのかLは本来、不良品としてゴミとして扱われる筈だったASのジャンクパーツコンテナの存在を見抜く。
「これは俺が陸上自衛隊少将に頼んで譲ってもらったんだよ」
「何故です?」
「何故って、勿体無いだろ?」
「勿体無いですか?」
 Lは不思議そうに疑問を抱いている。
 AIであるLにとってそういう人間の倫理観を理解するのは難しいのかも知れない。
「そうだよ。使えるものは再利用して使うのがエコってもんだ」
「なるほど…でも、これだけのジャンクパーツを大量に集めても余り意味は無いと私は思うのですが…?」
「まぁ、普通はそう思うよな」
 本来、ジャンクパーツとはゴミであり直せて使えたらラッキー。と世間一般ではそう思われがちだが、アニメとか漫画でよくあるジャンクパーツの寄せ集めとかで造られたロボット好きの蟹瀬からすれば、このジャンクパーツは宝の山であり、それを運良くこちらに回せたのは神様からの贈り物だと錯覚してしまう。
「日本人は物を大切に、をモットーにしてるから覚えとけ」
 適当な理由を思い付き、Lに説明を加えるとLは「ふむふむ。分かりました」と単語帳らしき物を開き、データを登録する。
「日本人は物を大切に…ふむ、調べてみると日本人はマメな人種だと有りましたが、マメとはどういう意味なのですか?」
「律儀、とか気が利く、かな」
「なるほどぅ。記録しました」
 満足気な表情で一礼するL。
 質問し、理解し納得する所はAIの学習機能とも言えるが…画面上でのLの仕草を見るとやはりこのAIは普通では無いと考えさせられる。このAIの『本当』の親であるアルとは一体、何者なのやら…?
 いや、待てよ。アルはAIだから何者と言うのはおかしいな。
「うはぁー。なんですかこのコンテナは?」
 あかん。殺意で胸糞な気分や。
 そいつは以前と同じで怠そうな表情なのにスーツをビシッと決めた役人の手先で、Lの力を借りて徹底的に調べ上げたところ過去の詳細は何らかの方法で隠蔽しており現在は有坂 能路と名乗っているそうだ。
「やぁ、能路さん。この前はどうも」
 殺意を抑えて何とか笑顔を作りつつ言った。
「あれ、名前を名乗ってしまっけ?」
「存じ上げてませんでしたから自力で調べました。はい」
「それは失礼しました。では、改めて自己紹介を」
「いえいえいえ必要ありませんよ。時間の無駄ですから、」
「まあまあまあ、いいじゃないですか自己紹介くらい」
「いえいえいえ、私し無駄に時間を使うのが嫌いでして」
「まぁまぁまぁまぁ、そこをなんとか」
「いえいえいえいえ、結構です」
 あははははっ。と互いににこやかに笑みを浮かべるが二人共、目が笑っていない。
 Lは不思議そうに俺達のやり取り…もとい、睨み合いを眺めているが、基本的にLは俺以外の人間と会話しないように言い聞かせているから問題ない。
「で、何の用です?」
 コイツとは話したくもないし関わりたくもない。早くここか離れされる為に要件を聞くと。
「用というか何というかですね。進捗の方はどうかなと見に来ました」
「そうですか。わざわざ御足労頂きありがとうございます。ではお帰り下さい」
 出口はあちらです、とついで付け足しここから立ち去るように促すが能路は。
「少しくらい見せてくださいよぉ、けちんぼ」
 なかなか出ていこうとはせず居座ろうとしている。
 あの怠そうで舐め腐った顔をぶん殴りてぇ…と思いつつも怒りを抑え、蟹瀬は一息付く。
「なんでも今回は物凄い新型を開発したそうじゃないですか。上の方々も気になって夜も眠れないと言ってしまった」
 それは…兵器として成り立っているのか不安だから気になって眠れないのか?と少し聞きたくなったが、
「と言われましてもお見せできる大層なものは有りませんよ」
 実際、現段階では新型機の建造は三割程度。完成どころか形にすらなっていない状態だ。そんな状態の『アレ』を見せても反応に困るのは目に見えている。
 ていうか…何処から新型機の情報を入手したんだ?
 現在、制作中の新型機は色々とブラフ『嘘』と『でまかせ』を混ぜ合わせて秘匿してきたシークレット情報だ。ある一定の人物は知り得ても能路や上の上層部は新型機の片鱗すら知らない筈だ。適当に言ってるだけならいいが…もし仮に何らかの情報を得ているのなら少し困った事になるかも知れない。
「おや、そうなのですか?」
 さて、これは惚けているのか巫山戯ているのか。どちらにせよタチの悪い奴だ。
「新型機の中核を成すパーツが不足してましてね。
 外見だけならお見せできない事も無いですが、それはお楽しみに取っておいた方がいいと思います」
「ほぉ、それはとても興味深いですねぇ」
 ニヤニヤと薄ら笑いをしながら能路は持参していたアタッシュケースからクリアファイルを取り出し差し出してきた。
「これは?」
「来月に行われる模擬戦の対戦相手の情報をまとめておきましたので良かったら使ってください」
 どういう風の吹き回しなのか敬遠の仲である筈の能路が、蟹瀬に手助け?
 おいおいこれは何の冗談だ。
「そんなに警戒しないで下さいよ。これは僕からのプレゼントです」
 余計に怪しいわ。と心の中で突っ込み…恐る恐る差し出されたクリアファイルを受け取る。
「一応、ありがとうと言っておきます」
「いえいえ。どういたしまして」
 全くもって何が目的なのか解らないが手詰まりである今の状況で有り難い差し入れだ。
 ……なんたが、素直に受け取っていいものかと警戒してしまう。って、もう受け取っちゃったんですけど。
「で、代わりと言ってはなんですが」
 まぁ、そんな事を言うとは思っていたが…いけ好かない笑顔の能路を見ると話を聞く気にもなれない。
「分かりましたよ。見せればいんでしょ、」
「話が早い。お願いします」

 さて、どんな機体が待っているのやら。




 
 

 
後書き
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