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フルメタル・パニック!On your mark

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第三話 ブッシュネルはいい機体

 
前書き
書き申した。書き立てほやほやでござんす。読んで頂けると嬉しいどん。それでどうぞ。、 

 
『雨上がりの空に』

 高校生というのは意外と普通なのだと実感したのはいつ頃なのだろうか。
 俺、千鳥 蒼太は始まってまだ一ヶ月も経ってないのに高校生活に退屈を感じていた。
 中学生の頃の自分は、高校生とはもっと自由で少し非日常を味わえる…と勝手に思っていたが、そんな事はなく、現実は残酷で平和な日々は刻々と過ぎていく。
 普通に授業を受けて、普通に友達と遊んで、普通に暮らす。
 とても充実した日々だ。何の不自由もない。誰もが望む毎日なのだろう。
「………」
 でも、それではこの心は満たされない。
 普通では味わえない高揚感というやつを堪能しなければ満たされる事は無いだろう。
「おっす。蒼太!
 今日も一日湿気たツラしてんな!」
 教室の外からズケズケとやってくるコイツの名前は山根 風志。
 中学からの付き合いでクラスは別々だが、登下校はよく共にする友達だ。
「湿気たツラは余計だ」
「だってよォ。お前ってばいっつも難しそうな顔してんじゃん?
 たまにはさ。明るい楽しそうな顔でさぁ」
 そう言って風志は…恐らく、本人は自分なりに明るい楽しそうな顔とやらの表情を作っているのだろうが、とても不細工な変顔で俺は「ぷっ…」と少し吹いてしまった。
「そそ。人間笑顔が一番!
 今日も一日笑顔で楽しく乗り切りましょーう」
「と言うが、もう放課後だぞ?」
「そだね。放課後も笑顔で楽しみましょーう」
 何ともお気楽で、頭の中がお花畑…いや、お花の楽園になってるような奴だが、こういう所が風志のいい所だ。
 こんな退屈した毎日でも、風志のような奴のお陰で楽しく感じられる。
「で、今から暇?」
「今日は…カフェの手伝いも無いしバイトも休みだから暇だな」
「ヒュー。タイミングいい!
 じゃさ。ゲーセン行こうぜ!」
「またか。お前ってホント暇人だな」
「忙しいより暇な方が人生楽しめるんだぜ?」
 風志はドヤ顔で決めてくる。いや、そんなドヤ顔されても…。
「はいはい。そうだな、人生の楽しみ方は人それぞれだもんな」
 そういうモットーを持っているから風志はこういう(いい意味で)馬鹿になったんだろうな。

『駅前のゲームセンター』
 平日の午後四時前、この時間になると人が増えて普段から賑わいのある所だが、駅前という立地だとやはり人が集まりやすい。娯楽施設とか飲食店も密集しているし、やはり接客業は人の集まりやすい所に集中するんだなぁ、と改めて考えさせられる。
 高校生になってからか、少し人間として成長したからなのか。こういう有り触れた『当たり前』と言うやつに有難みを感じ始めたこの頃、隣で子供みたいにはしゃいでいる風志を見ると日本は平和な国なんだな…と再認識した。
「やっぱゲーセンって何回来てもテンション上がるよな!」
「分かるような。分からんような、」
「無駄に騒音でキラキラしてんの見てたらウズウズするよな!」
「そういう人間の真理を付いてやってるからな、」
 確かに、ゲーセンに来るたびに多少なりとも興奮しやすくなる。
 コインゲームでコイン大量GETとかクレームゲームで景品を取った時とかまさにそれだ。
「今日は十連勝するぞぉ!」
 そう言って風志はゲーセンの中に入っていった。俺もその後を追うようにゲーセンに入っていく。
 少し暗めの照明に、大音量のBGM。
 音ゲーとかコインゲームのジャラジャラした音はうるさいと感じる事もあるが嫌いではない。俺はゆるりと店内を回り、新たに追加されたゲームや来月追加される新しいゲームキャラを一通り確認して風志の元に向かう。
「GAME OVER」
 巨大スクリーンにデカデカと表示された敗北の文字。
 ここのゲーセンは、数箇所に巨大なスクリーンを設置しており現在行われているゲームのリアルタイム配信を行っている。こういった工夫のお陰か、このゲーセンの人気は高く、わざわざ他県から押し寄せてくる暇人も少なくは無いらしい。
「かぁっ!負けた負けた!」
 そう言って先程行われていたアーケードゲームで惨敗した本人である風志は笑顔でやってくる。
「どうどう?
 俺の負けっぷりは?」
 なんで負けたにも関わらず、そんなに笑顔なのか分からないが。
「まぁまぁじゃないか?」
 途中からしか見てないから何とも言えないが下手では無かった。上手かったとも言えないが決して下手では無いことは分かる。
「そっか…まぁまぁか。やっぱり相手が悪かったか、」
「そんなに強い相手だったのか?」
「強いもなんも相手は、この日本で最強と謳われる『L』だぜ。結構、善戦したつもりなんだけどリプレイ見たら酷いなぁ。思いっきり相手の手の平で踊らされてた」
 どうやら相当、高ランクのプレイヤーとマッチングしたのだろう。手合わせ出来て光景…と言いたい所だが、力の差を認識し悔しそうな表情を見せている。
「そんなに強いのか。そうか…」
 風志も、あのゲームを始めてかなり経つがそれでも上には上がいる。
 確か、名前は『L』だったか?
 日本で最強と謳われているそうだが…そこまでの高みに登るまで一体どれ程の金と労力、時間を掛けたのか?
「なに、蒼太も久々にやっちゃう?」
「ふむ。やっても構わないが、Lとやらとマッチングするとは限らないからな…」
「げっ。日本最強プレイヤーを倒そうっての?」
「やるなら何にせよNO.1だろ」
「かぁっ~言うねぇ。いいねぇー。俺、お前のそういうとこ好き♡」
「茶化すな、」
 さて。まずはICカードを持ってきたかを確認する。普段は財布のカード入れに入れているが最近はやってなかったから家に置いてきているかも知れない。
「確か、これだっけか?」
 取り出したICカードには日本の自衛隊で運用されているアーム・スレイブ『M6』ブッシュネルが印刷されており、中央にはArmSlaveUltimateと記されている。
「カードあったかぁ…って、まだそれ使ってたのか?」
「俺のお気に入りだ」
「更新すれば新しいの再発行してくれるぜ?
 オマケにアイテムとかもくれるし」
「いいんだよ。俺は、このデザインが好きなんだ」
 そう言って財布から五百円玉を取り出し、近くのパネルで対戦登録を行う。久々のログインだからカムバックキャンペーンやカムバックボーナス等、様々な特典が付いてきた。
「結構、追加されたんだな」
 以前はよく使っていたブッシュネルの上方修正…これはタイミングが良い。慣れ親しんだ機体でしかも以前より強化されたとなると依然やる気が出る。
 そして最後にカムバックガチャという画面が表示された。
 なんでも半年以上ログインしていないプレイヤー限定で本来ならガチャを引くのに三千円程掛かるが今だけ無料で引かせてくれるらしい。
 そのガチャのラインアップは中々、豪勢で普段なら限定で入手不可な機体もピクアップされている。それに…なんでも次回のアップデートで追加される機体も先行配信で獲得出来るとか何とか…。ふむ、とても美味しい話だが、今はガチャより対戦したい欲の方が強い。ここはスキップしよう────。
「おぉ!
 カムバックガチャじゃん!?」
 風志は操作中のパネルを見て興味を示した。
「やっぱカムバックキャンペーンってむっちゃ豪華だよなぁ。俺も半年くらいガチャ禁…いや、ゲー禁しようかな…」
「お前が半年もゲーセン我慢出来る訳無いだろ」
「それもそうか、」
「素直に認めるなよ…」
 少し呆れ気味に溜息を付き、スキップボタンをタップすると。
「ガチャスタート♪」
 どうやらスキップを間違えてガチャスタートのボタンをタップしてしまったらしい。
 どうでもいいガチャ演出が始まっていく…が。
「なんかいつもよりガチャ演出が豪華なような…?」
「マジ?
 うわホントだ!?これってSSR確定じゃん!?」
「SSRって事は最高レアリティって事だよな。やった」
「なんか余り嬉しそうじゃねぇな!
 いいなぁ。このゲーム、ガチャとかそういうのはクソだから全然良いの出ねんだよなぁ…」
「でも、このゲームのゲームバランスはしっかりしてるから低レアの機体でも高レアの機体に勝てない事はないじゃないか?」
「そりゃそうだけど…高レアの機体ってカッコイイし強いじゃん」
「それは否定しないが、手持ちの戦力でどれだけ戦えるかを検討して戦略を練るのもゲームの醍醐味じゃないか?」
「今この場でSSRレア確定の人に言われたくねぇ!?」
「それはそれ、これはこれだ。俺だってこのガチャを回すまでは高レアの機体なんて持ってなかったぞ?まだ手に入った訳ではないが、」
「そりゃお前が機体の強化に全部資材を注ぎ込んだからだろうが…」
「俺は、ブッシュネルが好きだからな。好きな機体に時間と労力を掛けて何が悪い」
 と言うが、ここ数ヶ月はプレイしていなかったが。
「はいはい。そうですね。お前の言ってる事は正しいですよ…てか、まだ出ないのか?」
「カムバックガチャは無料十連でローディングが長いな。それに確定であるSSRもまだ排出されていない」
「焦れったいなぁ。スキップすればいいじゃん?」
「俺はガチャ演出を最後まで見る派なんだ」
「かぁぁっ…この生殺し状態…嫌いじゃないけどムズムズする」
「まぁ、気長に待て。そろそろガチャも終わる頃だ」
 今の所、GETしたのは今回のアップデートで追加された新武装とプレイヤースキン。
 機体は未だに出ていない所を見ると確定で排出されるSSRが機体なのだろう。
「お、これじゃね?」
 明らかに派手なガチャ演出。
 さて、何が出るのやら。
 少しずつ顕にあるSSR、その機体は────?
「AS-1…一一式主従機士…『レイブン』?」
 始めて見るアーム・スレイブだ。
 恐らく、次回のアップデートで実装される先行配信機体と思われるが…。
「………」
 風志は絶句していた。
 普段なら「うぉッ!?マジ!?激アツじゃん!?」とな言ってきそうなのに。
「風志?」
 すると風志は「…ん?あぁ、」と反応し。
「へぇ。良かっな、カッコイイじゃん」
 明らかに普段の風志とは違う返答だった。
 もしかして俺がコイツを手に入れたから羨ましがっているのか?
「ちょっと喉乾いたから飲み物買ってくるわ。何がいい?」
「あ、あぁ。じゃあお茶で代金は…」
「いいっていいってお前のガチャ大当たりのオマケだよ」
 そうして風志は駆け足で自動販売機に向かっていった。
「…?」
 あの表情からするに…どうやら羨ましい、という訳でも無さそうだ。
 では何故、風志はあの時あんな表情を見せたのか?
「マッチングが完了しました。登録番号0094のお客様は対戦の準備をお願い致します」
 そんな事を考えている内にどうやら俺の順番が回ってきたようだ。
 風志の事は気になるが…今は、胸の中を込み上げる闘争心を優先する。

『ArmSlaveUltimate』
 今、全世界で最も人気のあるアーケードゲームで特徴は実在する兵器を用いているという点だ。と言ってもプレイヤーは傭兵という設定でアーム・スレイブに搭乗し戦闘を行うがアーム・スレイブを降りて対人戦を行うことは出来ない。なんでも、これはアーム・スレイブでの戦闘を忠実に可能な限り再現しているが、戦争を再現している訳ではない、との事だ。ならプレイヤーの設定を傭兵にするのはどうかと思うのだが?とツッコミを多々受けているが、運営は特に何とも思っていないらしい。
「さて。久々だな…」
 球体の中、久々の対戦に懐かしさを感じる。
 操縦席のグリップを軽く握り、ある程度の感覚を取り戻す。
 このゲームは、アーム・スレイブの操縦方式を『ある程度』採用しており、まるで本物のアーム・スレイブを操縦しているかのような感覚に陥るのを売りにしているが、そのある程度は何処までなのかは言及されていない。まぁ、忠実に再現したら本物のアーム・スレイブを操縦出来てしまうので、本当に『ある程度』なのだろう。
 五百円玉を挿入し、ICを読み込む。
「……はは、」
 長らく使っていなかったからアカウント名の『ブルージャック』を見て苦笑してしまった。
 ともあれ今はこれから行われるオンライン対戦に集中だ。機体選択画面に移行し、機体と武器を選択する。
 選択する機体は勿論、愛機のブッシュネルだ。
 このブッシュネルは、近接格闘寄りに強化しているので走行速度と馬力なら第三世代のアーム・スレイブ並だ。
 武装も近接用に特化して一気に敵機を排除する。
「でも、そんな上手くはいかないんだよなぁ…」
 それはあくまでセオリーであり、事が上手く進めばの話だ。
 無論、そうなるように努力はするが大抵は無意味に終わってしまう事の方が多い。一応、そうなった時の為に中距離用のライフルも装備はしているが、近接格闘寄りのこの機体では射撃戦は向かない。あくまで保険だ。
 だが、その保険は貴重な武器スロットを使ってしまう為、ゲーム終了後は装備しなければよかった…と文句を言うことも暫しあるが、装備を外した時に限って敵機が同じ近接機で、それもECSを搭載した第三世代アーム・スレイブとマッチングする事も多々ある。
 そんなのとマッチングしたら勝ち目はほぼない。
 もしかしたら運営が態と故意的にマッチングを操作しているのではないのか?と疑問を抱きたくなる事もあるが、マッチングも最終的には運なのだと納得するしかないのだ。
「久々のプレイだから階級落ちてるな…今は、少尉か?」
 傭兵なのに軍隊の階級制度。
 運営は、戦争を用いたゲームではない。と否定しているが、こうも戦争的要素を見るとなんとも言えないな。
「でも少尉か…これじゃあLとマッチングするのは難しいか…」
 他のゲームと同じく、マッチングシステムは階級によって変動する。
 今の階級が少尉ならマッチングは少尉クラスの対戦相手になる事だろう。
 ごく稀に、格上の階級相手とマッチングする事もあるが…それはマッチングシステムのエラーか運なのか?
 風志の奴はそこそこプレイしているから階級は中佐とそこそこ高めで、上から数えた方が早い。だから、日本最強のプレイヤー『L』とマッチングできたのだろう。
 今の俺の階級、少尉ではLとマッチングするのはまず不可能。
 階級を上げて階級を上げるか、マッチングシステムのエラーでLと鉢合わせするか…。
 さて、マッチングの結果は如何に?

 少尉 米米子。
 少尉 シイタケ。
 准尉 glass。
 二等兵 ぐるポンり

 あちゃあ…ある意味、マッチングエラーしてるな。
 今回は五人対戦で、対戦相手は少尉が二人。少尉が一人。准尉、一人。二等兵が一人と…格差のあるマッチングだ。まず、二等兵が狩られるのは確実だろう。で、次に准尉のglassが標的になって、その後は少尉同士の対決になる…と頭の中で軽く想像するが、本当にそうなるかは神のみぞ知ると言うやつだ。

 戦闘開始のカウンドダウンが始まる。

 改めて操縦席のグリップを握り直す。

 久々の戦闘に身体が小刻みに揺れている。

 緊張からか。それともこれが武者震いというやつか。

 ────さぁ、戦闘を始めよう。









『山岳地帯』
 そこは山だ。
 山だ。山しかなかった。
 森と山で埋め尽くされたステージが今回の戦場だ。
 膨大な面積を誇るステージで、全てのタイプのアーム・スレイブが均等に戦えるステージとしてプレイヤーに親しまれている。
「…さて、まずはどうするか」
 接近戦に強いこの機体なら待ち伏せして敵機を狩るのが常識だが、山岳地帯だと隠れられるスペースは限られておりECSを搭載した機体なら隠密行動も長けており奇襲もしやすいだろうが、俺のブッシュネルは近接格闘機で隠密性に優れている訳ではない。ここは漁夫り作戦で行くか?
 ────ドンッ。
 近くでアーム・スレイブの着地音。
 まさか見つかったか?
 近くの岩場に身を隠し様子を見る。
「………」
 相手の視界からでは見えていないのか敵は周囲を警戒しながら歩き始める。
 どうやら見つかった訳では無いらしい。「ふぅー…」と胸を撫で下ろし、ブッシュネルにアサルトライフルを構えさせる。
 敵機との距離はおよそ50m。相手はコチラの存在に気付いていない。これは好機だ。
 敵機のアーム・スレイブは『96式』俺の愛機、ブッシュネルと同じ第二世代で、主に日本の自衛隊が使用しているASだ。基本性能は、ブッシュネルと大差ないが…敵機は大型のシールドを両腕に装備しており常時、急所となる頭部や関節部を守りつつ移動している。
 あの防御を掻い潜り、96式にダメージを与えるのは至難の技だろう。
「近付ければ勝機はあるが…下手に前に出て盾を構えられたら倒し切れるかどうか、」
 この距離からアサルトライフルで狙撃しても盾で防がれ、その銃声を聞き付けた他の敵機がやって来るかも知れない。まぁ、乱戦になればあの強固な守りも崩れるかも知れないがリスキー過ぎる。ここは下手に動かず様子を見るべきか…?
「────────────」
 96式は索敵モードを使って周囲を探知する。
 こっちは足を止めて身を潜めているから見つかる事は無いだろうが内心ドキドキするぜ。
「……」
 96式はこの周辺を根城にするのか、背中にマウントしていたキャノン砲をパージし組み立ていく。その時、チャンスはやってきた。両腕の大型シールドは、キャノン砲の組み立てを阻害するから地面に突き刺している、今なら隙だらけだ。
「この隙を付いて…」
 奇襲すべき────だが、もしかしたら罠かも知れないという恐怖が、踏み出そうとする一歩の邪魔をする。
 もしかしたらアイツは俺の存在に気付いていて敢えて、隙を晒していたとしたら…。
 見たところ敵機は96式だが、実は『96式改(type961i)』という可能性も捨てきれない。
 もし、そうならこちらの機体よりも優れた電子兵装でこちらの予想を上回る性能を有していることになる。用心深くになり過ぎているかも知れないが、可能性を捨てきれない以上、こちらから無闇に攻撃するのは控えるべきだと判断する。
「先手必勝よりも後手必勝…なんかダサいけど相手を知ることが勝利への近道だ」
 まぁ、そのせいで何回も負けた事もあるが逆も然りで、その用心深さのお陰で勝利した戦いも決して少なくはない。焦らず、冷静に戦況を見極める。
「────。────。────。」
 96式はキャノン砲を組み立て終え、地面に突き刺していた大型シールドの一つを背部に設置し、もう片方を左腕に構える。
 取り回しにくいキャノン砲を右腕に、そしてそれと同様に取り回しの悪い大型シールドを左腕に装備する。先程より前面の守備力は低下したが、背後に大型シールドを取り付けた事で全面に適した形態となった。より強固になった防御力に俺は思わず舌打ちしてしまった。
 これならキャノン砲の組み立て中に後ろから狙い撃ちにすれば…。
 悲観的になってしまうが、相手の手の内を知る事は出来たのでプラスな点もある。
 勝負はこれからだ。今は、そこらに転がってる石と一体化しろ────。
 と、より身を潜めて持久戦に持ち込もうとした時。
 ────ダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダ!!!!!!!!!!!!!
 銃撃だ。
 それもそんなに離れた所ではない。
 96式は依然として周囲を索敵している所を見ると戦闘をしているのは俺達意外の敵という事になる。
「このタイミングで戦闘かよ…この連射速度からするに短機関銃(サブマシンガン)か?」
 音で位置がバレバレ、それも銃撃は依然として続いている。
 戦闘は継続していると見ていいだろう。
 さて、96式はどう動くのやら…。
 96式は地面に伏せ、キャノン砲を構える。どうやらあちらの戦闘に介入するようだ。
「って、事はアイツは俺に気付いていない」
 確信。アイツは俺を認識していない。
 ────ドンッ!!
 重たい発射音が山岳地帯を谺響する。
 96式は銃撃のする方にキャノン砲を放ったんだ。これで96式の位置も敵機に把握されただろう。で、これで合計三機の敵機と位置を完璧に把握した。このチャンスは逃す訳にはいかない。
「後手必勝!行くぞ!」
 ブッシュネルは凸凹の足場を軽快に駆ける。
 隠密機動を得意とする訳では無いが、こういった整っていない地面でも軽快に動けるように調整しているのでなんの問題はない!
 96式は砲撃に集中し、更に砲撃による爆音でコチラの存在に気付かない。
 ブッシュネルに散弾銃『ボクサー』を構えさせ、96式目掛けて一気にジャンプする。
「貰った!」
 いくら大型シールドを両面に展開しようと上下までは守りきれない。
 守りの薄い頭部に的を絞り、トリガーを引く。
 放たれた散弾は96式の頭部を吹き飛ばし、動きを止めた。
 だか、まだだ!
 頭部を吹き飛ばしただけで機体は生きている────そう判断しなんの躊躇も無く、二射目を放った。放たれたボクサーの二射目は機体内部まで貫通し、今度こそ96式は沈黙した。
「一つ!」
 次に、山林の方で戦闘をしている二機だ。
 未だに銃撃音がするという事は戦闘は続いている。敵には悪いが漁夫りを狙わせてもらう。
 最短ルートである崖を一気に駆け下り、ボクサーを背部のウエポンラックに戻し、逆サイドに取り付けていたアサルトライフルを構える。
 頭部センサーからの視認によると敵機は、96式の放ったキャノン砲に巻き込まれ片方は中破し片方は小破している。そして、それ以前から両機とも戦闘をしていて疲弊しているのは目に見えている。
「後手必勝!二機目も貰った!」
 アサルトライフルを精密射撃モードに移行し照準を合わせ中破した敵機を撃ち抜く。
 放たれた弾丸はまぐれか偶然が損傷していた脚部に命中し機体は大きく体勢を崩した。
 小破した敵機は突然、体勢を崩す敵機を見て好機と判断したのか無防備に近付いていく。どうやらこちらの存在はまだ確認出来ていないようだ。
「チャンス!」
 この好機を逃さない。
 アサルトライフルの精密射撃モードで二射目を放つ。
 放った弾丸は小破した敵機の胴体に命中した。だが、精密射撃モードで放たれた弾丸は一発…如何に、命中精度が優れていようとたった一発の弾丸で破壊できるほどASの装甲はヤワではない。体勢を少し崩したが、すぐに立て直し敵機はコチラを視認する。
「気付かれた…でも、」
 小破した敵機の武装は見る限りだと近距離用短機関銃のみ。
 あちらの機体もこちらの機体と同様、近接特化型の機体なのだろう。なら、まだ距離からしてこちらが有利だ。
 地面に着地し、つかさず腰部に設置していた閃光弾を掴み取り投げ捨てた。
 位置は把握している。そこなら届くだろ!
 ────ダッダッダッダッダ!!!!!!!!!!!!!
 敵機は闇雲に暴れ周り、短機関銃をぶっぱなしている。
 計算通り、敵機は閃光弾の強烈な光によって光学センサーは一時的に麻痺している。
 この距離なら精密射撃モードは必要ない。フルオート射撃に切り替え、小破した敵機に乱射した。
 放たれた弾丸の多くは敵機の装甲を貫通し────敵機は崩れ落ちた。
「二つ目!」
 残りは二機、そしてその内の一機は地面をもがいている。脚部をやられてまともに動けない様子だ。悪いが容赦はしない。
 残弾を確認し、これ以上の無駄弾は控えるべきと判断し奥の手であるヒートハンマーを取り出した。小型のハンマーだが、叩き付けると爆破する仕組みでその威力はアーム・スレイブの装甲に大ダメージを与える。
 余りの強さに、弱体修正を何度も受けたが、今でも強武器として機能するヒートハンマー。
 だが、弱点も幾つか存在し一度の戦闘に持ち込める数は二個までと制限されている。
 ここで一つ使用するのは惜しいが、動けない敵を確実に撃破するならコイツが一番適している。残りの一機の所在も分からない今、ここに留まるのは危険と判断し、少し躊躇いもあったが、ヒートハンマーを何とか立ち上がり武器を構えようとする敵機に投げ付ける。
 ────ボンッ。
 直撃した直後にヒートハンマーは爆散し敵機を撃破した。
「三機め!」
 久々のプレイだが絶好調だ。
 これも上方修正したブッシュネルのお陰だろう。以前よりも操作しやすくなり、反応速度も増している。
「さて、残りの一機は…」
 残りの一機も俺と同じで漁夫の利を狙っているかと思ったが、今の所は見当たらない。
 恐らく、遠く離れた所からこちらの動きを見ているのだろう。なら、このままここに留まるのはやはりナンセンスだ。
 ここは、撹乱しつつ有利なポジションを確保しよう。
 確か…散弾銃用のスモーク弾を持ってきた筈だ。
 ウエポンラックからボクサーを取り出しスモーク弾を装填し、空中に向けて数発放つ。
 すると忽ち周囲は真っ白い煙に包まれ、視界は奪われた。
 これでいい。後は、地図の図面通りに移動すれば問題ない。
「さて、相手はどう出る?」
 ここまでは予想の範疇だろう。次の行動パターンは俺なら敢えてその場で待機し敵の出方を待つ。相手からすれば互いの姿が視認できないだけであって無闇に自分から姿を晒す必要は無いからな。
 もう一つは無謀な策だが、自分から距離を詰める。
 いくら身を潜めようと自分から動かなければ勝利は有り得ない。かなりのリスクを背負うが、自分から敢えて姿を晒し敵機の位置を把握するのはかなりの冒険だが愚策とは言わない。さて、相手はどう出るか。
「…………」
 レーダーに反応無し、足音も聴こえない。
 相手は先程の地点から動いていない様子だ。
 こちらは二つ目の奥の手『無音駆動』を駆使し、目的地である座標に向けて移動中だ。
 無音駆動とは、その名の通り無音で駆動。つまり移動するという事なのだが…電力の消費が激しく長時間の使用は不可能なので、ここぞという時にしか使えないネックな機能だ。
 相手も無音駆動で移動し尚且つ、ECSを併用していならこちらのレーダーに反応しないのも頷けるが、それは普通のASの内蔵コンデンサーでは不可能だ。
 大型のコンデンサーを搭載した第三世代、2.5世代アーム・スレイブなら可能だが…この煙の中、こちらの機体を索敵するのは困難な筈だ。
「よし。この辺は色々と使えそうだ」
 無難な立地で足を止め、周囲を確認する。
 木々の配置や地面の凹み凹凸も申し分ない。この段差も利用出来そうだ。
「そろそろ終わりにしてやる」
 ニヤリと勝利の確信。
 …いかんいかん。ここで慢心するのは油断大敵だ。最後まで知恵を絞り、勝利を勝ち取ってやる。
 …。
 ……。
 …。
 とてもスリムな機体だった。
 この対戦で戦ってきたアーム・スレイブはどれも鈍重とした見た目だが、その機体はそれとは真逆の細身だった。
「サイクロ2か…」
 第二世代アーム・スレイブ『サイクロ2』
 戦闘ヘリの胴体に手足を生やしたような外見で貧弱そうなASだが、外見から推測できる通り機動力は中々のものだ。
 なんでも跳躍力や瞬間最高速度は第三世代アーム・スレイブを凌ぐ程の性能を誇るらしい。
 だが、その分とてもピーキーな機体でその反面、守備力はとても低く。俺のブッシュネルの半分以下程度だろう。少しでも弾が掠れば、それだけで痛手となる。
 そんな機体が、こんな視界最悪の魔の巣窟に入り込んできた…という事は何かしらの策は有るのだろう。
 所有する武装は、右手に短機関銃。左手に対戦車ダガー。どれも軽量でサイクロン2には相性のいい武装構成だ。
 隠密行動で裏取りされたら厄介そうだな…。
 サイクロン2は真っ直ぐコチラにやってくる。
「あと少し…もう少し、」
 焦るな。まだ、あともう少しなんだ。
 相手の手の内は把握し切れていないが、この有利な場面なら勝機は十二分にある。
 あと三歩。
 …あと二歩。
 ……あと一歩。
「────今だ!」
 突如、サイクロン2の後方から銃声が響き渡る。
「!?」
 サイクロン2は慌てて木の陰に身を隠し敵襲から逃れようとするが────甘い!
「この瞬間を待っていた!」
 地面が割れた。いや、崩れ落ちた。
 サイクロン2は為す術なく、『元』から空いていた地面の段差にハマったのだ。
 いきなりの銃撃に、落とし穴。敵からすればパニックの連続だろうが全て計算通り!
「これでも喰らえ!」
 構えていたヒートハンマーをサイクロン2目掛けて放り投げる。
 ヒットする直前までサイクロン2は必死に足掻くが…ヒートハンマーは無慈悲に頭部に命中し機体は爆散したのだった。

「game over」

 ゲーム終了の合図。
 勝者は突然、俺────千鳥 蒼太だ。
「ふぇ…疲れた」
 久々の戦闘で緊張した。
 ランキング更新とかアイテム報酬とかスキップし、ゆっくりと立ち上がる。
 外では風志も待ってるだろうし早めに出よう。
 外に出ようと扉を開けた瞬間────。
「「「「「ウオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!!!」」」」」
 複数の人間から歓声?と拍手?で迎えられた。
「え?」
「凄ぇじゃん!蒼太!」
 風志は鼻息を荒くし走ってきた。
「さっきの試合マジで凄かった。見ろよ、コレ!」
 そう言って風志はスマホの画面を見せ付けてくる。どうやらYouTubeの動画のようだが?
「この動画…まさか、」
「さっきのお前のプレイ配信だよ!
 ほら!今、再生回数三万を超えたぜ!」
「三万!?」
 ゲームを終えてまだ数分も経ってないぞ?
「お前がゲーム開始した直後からネットに配信されたんだ。
 ほら、このゲームの醍醐味だろ。ネットの生中継は!」
 確か、聞いたことがある。
 ゲームプレイ中に、その戦闘がゲームセンター内だけではなく、有名な動画サイトで生配信されるとかなんとか…それがこれなのか?
「生配信の再生回数なんか十万超だぜ?
 カァ~ッ…こりゃ堪んねぇなオイ!」
 普段よりもテンションが高い。
 風志のもそうだが周りの奴等もまるで動物園のパンダを見るような目で俺を見てくる。これは早々とゲーセンから出るべきだ。
「帰るぞ。てか、俺は逃げる」
「待てよ。あともう一戦…ってマジ走り!?」
 ここは落ち着かん。今はもっと静かな場所でゆっくりとしたい。
 ゲームセンターから抜け出し、少し一息つく。その後、風志もやって来てお茶の入ったペットボトルを差し出してきた。
「取り敢えず、お疲れ様~~~いやぁさっきのはマジで凄かった」
「そりゃ、どうも」
 俺は差し出されたペットボトルを受け取り一口。
「…ぁぁ、疲れた」
 普通に楽しいゲームだったが、緊張感とゲームを終えてからのあの歓迎は頂けないぞ。
「で、どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?
 今日は帰りますかね?」
「なんだ。そのまだ帰らせない口調は?」
「まだ時間あんだし遊ぼうぜ?
 ちょっと聞きたい事もあるし…」
「なんだ?
 さっきの試合の事か?」
「うーん。まぁ、それも有るけど色々かな…」
 へへへっと笑顔で風志は誤魔化す。まぁ、まだ時間に余裕は有るし付きやってやるか。
「別に構わんが、場所はこちらで決めさせてもらうぞ」
「へいへい。着いていきますよ、我が親友よ」
 
 

 
後書き
読んでくれてありがとナス。 
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