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戦国異伝供書

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第十四話 北陸へその三

「しかし相手はな」
「謙信殿だからこそ」
「お主と謙信殿どちらが上か」
 信長は柴田にあえてこのことを問うた。
「どう思うか」
「はい、上杉殿です」
 実直で嘘を吐かない柴田は信長に確かな声で答えた。
「最早それはです」
「明らかと申すのじゃな」
「あの御仁はまさに毘沙門天の化身」
 この戦う仏のというのだ。
「ですから」
「お主でもじゃな」
「多少兵の数が多くとも」
「それでもじゃな」
「勝てませぬ」
「だからじゃ、まずいと思えばな」
 その時はというのだ。
「すぐにじゃ」
「手取川の南までですか」
「下がるのじゃ、如何に上杉謙信殿といえどな」
「川を挟めばですな」
「そうは攻められぬ、だからな」
「出来るだけですか」
「川を渡ってもな」
 例えそうしてもというのだ。
「危ういと思えばな」
「川の南に戻ってですな」
「そこでわしが本軍を率いて来るまでな」
「わかり申した、それでは」
「お主がいて他にこれだけの者達も行くが」
 信長は先陣に加わる家臣達を見回した、佐久間に滝川、丹羽、明智、前田、佐々等錚々たる顔ぶれだ。
 しかしだ、信長はそれでも言うのだった。
「相手が相手じゃ、謙信殿だけでなくな」
「上杉家の諸将の強さもかなりのもの」
 明智が瞑目する様に述べた。
「それだけに」
「そうじゃ、特にな」
「直江殿ですな」
 明智は直江兼続の名前をここで出した。
「川中島で真田殿と一騎打ちを行った」
「個の武勇も采配もかなりという」
「とりわけ守りの采配が」
「そう聞くからな」
 だからだというのだ。
「無理はするな」
「決して」
「危ういと思えば下がるのじゃ」
「わかり申した」
「兵達は武田の時もそうであったが」
 信長はその兵達のことも話した。
「戦う前からじゃ」
「どうも怖気づいております」
 丹羽が応えた。
「残念ながら」
「無理もないがな」
「しかしです」
「怖気づいてもおるからな」
 兵達がというのだ。
「だからじゃ」
「無理は出来ませぬな」
「攻めて勝てる筈もない」
 謙信と彼の軍勢をというのだ。
「流石にな」
「武田もそうであり」
「上杉もな、お主が主将でもな」
 それでもとだ、柴田に言うのだった。
「勝てる相手ではない」
「それはその通りですな」
「これだけの者が揃っておれば」
 信長はまた先陣に加わる諸将を見た、織田家の中でも選りすぐりの者達だ。
「わしは武田と上杉以外には安心しておるわ」
「まさにその上杉ですな」
「そうじゃ、あのだから用心せよ」
 加賀ではだ、こう言ってだった。
 信長は彼等を先に行かせそのうえで本陣を整えそのうえで加賀に向かう、そしてこう言ったのだった。 
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