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未亡人

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第五章

「奥様の従弟でな」
「はい、幼い頃から奥様に可愛がって頂き」
「大学の奥様の勧めで医科だったとか」
「医者がこれからはいいと言われ」
「そのうえで」
「宮田家にしても先々代と先代がな」
 病で死んでいるとだ、片平も言った。まだ生まれたばかりであるが高義が今の当主と定められているのだ。
「それぞれ脚気と労咳で亡くなられている」
「先代はお若い時から胸を患っておられたので」
「先々代も長い間病気がちでした」
「それを奥様もご存知だったのか」
「勇吉さんにそう勧められたのかも知れません」
「そして今は手元に置かれてか」
 昌枝はそうしてとだ、片平は己の予想を話した。
「さらによい医師になってもらおうとか」
「はい、書生として置かれ」
「この屋敷に出入りしている医師に学ばせているとか」
「そして近いうちにです」
「このお屋敷専属の医師とされるとか」
「そうお考えか。いや」
 ここでだ、片平は自分に今話をしている親しい部下達に話した。今も宮田家が経営している会社の彼の為に用意されている部屋にいてそこで彼等を話をしているのだ。
「違うな」
「違いますか」
「そうなのですか」
「奥様のお考えは」
「実は惹かれ合ってはいないか」
 片平はその目を鋭いものにさせて部下達に言った。
「奥様も中井君も」
「そうなのですか」
「お二人は」
「実はですか」
「そうなのですか」
「従姉弟同士がやがて近くなりしかも一人者同士では」
 昌枝は未亡人だが一人なのは確かだ、それで言うのだった。
「それも道理、ではな」
「お二人のことは」
「それでもですか」
「よいとですか」
「直哉様は言われますか」
「いいか悪いかは別だ、しかしだ」
 それでもとだ、片平は部下達に話した。
「一人者同士でしかも従姉弟同士でもな」
「距離が狭まることも」
「そしてそこからさらに進むことも」
「いいのですか」
「直哉様のお考えでは」
「ことの善悪は別にしてな。どうしてもご亭主に先立たれた者はそれでも操を守らなくてはならない」
 この考えはとだ、片平は話した。
「あるからな」
「そうですね、強く」
「どうしてもありますね」
「それが最近強くなっているか弱くなっているか」
「わかりませぬな」
「幕府の頃は後家の方もわりかし楽にまた妻になれたというが」
 それでもとだ、ここでこの話をした片平だった。
「近頃はな」
「夫婦は一生夫婦である」
「おなごはその操を終生守るべき」
「主人が先立とうとも」
「そうした考えが強いと」
「昔よりも」
「かえってそうなったかも知れない」
 文明開化になって新しい時代になった筈だがそこはかえってというのだ。
「そうも思う」
「だとしたら不思議ですね」
「どうにも」
「古い考えの筈ですが」
「それがかえって強くなるとは」
「不思議ですね」
「全くだ、だからな」 
 それでと言う片平だった。 
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