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未亡人

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第四章

「近頃奥様がです」
「若い書生の方とよく合われていますね」
「先月こちらに入った」
「あの人と」
「中井君か」
 その書生についてだ、片平は応えた。もう詰襟ではなく見事なスーツを着てネクタイも締めている。そのうえで働いている。見れば髪の毛も奇麗に整えている。
「彼とか」
「はい、どうもです」
「奥様とよくです」
「お会いしていますが」
「そうなのか。しかしだ」 
 片平はここで彼等にこう返した。
「別にだ」
「よいと」
「そう言われるのですか」
「会う位ならだ」
 それこそというのだ。
「同じ屋敷に住んでいるのだからな」
「普通のこと」
「そう言われますか」
「そうだ、別に何でもないだろう」
 これが彼の考えだった。
「おかしなことは」
「ですが最近です」
「直哉様についてです」
「奥様のご主人となり」
「再婚相手となられ」
「そうしたお話も出ているそうですが」
「誰がその様なことを言った」
 部下達のその話にだ、片平は眉をぴくりと動かした。そのうえで彼等に対して自分から聞いた。
「一体」
「巷の噂になっていますが」
「宮田家の周りで」
「直哉様についてです」
「そうしたお話が出ていますが」
「それは、ですか」
「ご存知なかったのですね」
「確かに私は独身だ」
 このことは直哉自身認めた。
「そして奥様もな」
「はい、今はですね」
「ご主人を亡くされて」
「そうしてですね」
「お一人です」
「もうすぐお生まれになられますが」
 子がというのだ、当主で先日胸の病で倒れた彼の子が。
「それでもですか」
「直哉様はですか」
「あの方と結婚されることは」
「ありませんか」
「一切聞いていない、そしてそうした気もだ」 
 一切とだ、片平は否定した。
「私はない」
「左様ですか」
「ではこのことはですね」
「只の噂に過ぎない」
「そうなのですね」
「当然だ、私も今知った」
 この話をというのだ。
「奥様のことは知らない、私が将来どういった結婚をするか知らないが」
「それでもですか」
「奥様とは」
「結婚することはない、絶対にな」
 こう言ってこの噂を否定した、そしてだった。
 彼は仕事を続けつつ昌枝の話を聞いた、昌枝はついに子を産んだがその子は元気な男の子だった。その子はすぐに高義と名付けられそうして将来の宮田家の主と定められ片平の後見の下育てられた。その中でだった。
 昌枝とその若い書生中井勇吉、一見すると冴えずひょろっとした身体で京都の大学を卒業してから医師の資格を得たが今はさらに学問に励んでいる彼と昌枝の仲は誰がどう見ても親密なものになっていた。この頃には片平も彼のことを詳しく知る様になっていた。 
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