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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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十六 蹉跌をきたす

 
前書き
お待たせしました!
捏造多数です。矛盾する箇所もあると思いますが、眼を瞑ってくださるとありがたいです。
どうかご了承お願いします!


 

 
白い蝶。

ヒラヒラと花びらのように舞う蝶に導かれて、デイダラは木を蹴る。


追い駆けてくる追っ手。砂忍のくノ一と木ノ葉のくノ一に注意しつつ、彼は白い蝶の行方を眼で追った。

「おっ」


視線の先で捉えたソレに、デイダラは歓喜の声を上げる。

起爆粘土の巨鳥の頭。我愛羅を咥えていた鳥の残骸だ。

ナルに引き裂かれた鳥の一部。風影を助ける為に手で掘ったらしく、あちこちに飛び散っている粘土を眼にして「荒っぽく掘ってくれたな、うん」とデイダラは苦笑した。

「────だが、好都合だ」


上手く小さな塊が散乱している光景。木に飛び移ったデイダラは粘土を口に咥えると、軽く咀嚼する。
ぷっと吹き出すと、先導してくれた蝶とそっくりの姿をした起爆粘土がひらひらと空を舞い始めた。

両腕があればもっと早く蝶型の爆弾をつくれるのだが、とデイダラは腕のない我が身を見下ろした。

片腕は我愛羅に、もう片腕ははたけカカシによって失なったものだ。

もっとも既に小さな塊が散乱しているので、粘土を千切る必要性はない。皮肉にも、我愛羅を助けようとしたナルの行いが、両腕のないデイダラに攻撃手段を与えてしまったのである。

その上、カカシは現在、暴走したらしい九尾の人柱力のほうにいる。逃げるなら、今がチャンスだ。


「感謝するぜ…九尾の人柱力」





鬱蒼とした森の中。木立の合間を駆け抜けていた木ノ葉のくノ一…ヒナタは、ハッ、と目線を上方へ向けた。

「見つけました…!」


【白眼】でデイダラの足取りを追う。ヒナタの導きでデイダラを追っていたテマリは、扇を構えたまま、彼女の視線の先を追った。


木の上。そこで『暁』の衣をなびかせているデイダラの姿を激しく睨み据える。

攻撃しようと扇を振りかぶったテマリは、ヒナタの「テマリさん…!」と注意を呼び掛ける声に、ハッ、と周囲を見渡した。


いつの間にか、数多の蝶に取り囲まれている。


白い蝶の群れ。
ひらひらと飛び交う蝶型の爆弾の中心で、デイダラは口角をくっと吊り上げた。




「綺麗だろ?こうすりゃ、もっと芸術になるぜ…うん!!」




刹那、緑一色の森に白煙が立ち昇った。



































もはや洞窟とは言えぬ空間。
そこでは、刃物と刃物がかちあう音が響き渡っていた。


チヨの人形────【父】が手にする刀が、三代目風影の繰り出す歯車と拮抗し、ガチガチと甲高い音を打ち鳴らす。
【母】が振るう茨の如き鞭から逃れた風影が腕から刃物を出せば、再び【父】の刀が襲い掛かる。



激しい攻防戦を繰り広げる傀儡人形。

それらの操り人は繊細且つ正確に指を素早く動かしている。目にも留まらぬ早業で踊るチャクラ糸が、その先に繋がる人形同士の戦闘を展開していた。


【父】と【母】を操るチヨが真剣な顔つきであるのに対し、サソリはどこか楽しげに三代目風影を操っている。祖母と孫の真剣勝負をどこか楽しんでいるかのような風情だった。



甲高い唸りが残響となって轟く。刃物と刃物がガチガチ噛み合って、火花が散った。

チヨの【父】【母】の傀儡二体と、サソリの三代目風影の、どちらも一歩も譲らぬ白熱した戦いを、いのは固唾を呑んで見つめた。三体の傀儡、特に三代目風影を注意深く観察する。


毒で、指一本自由に動けぬ我が身を、いのは苛立たしげに見下ろした。自分を庇って戦うチヨの小さな背中の影で、足手纏いの己を叱咤する。

(……今、修行の成果を見せないと、)




いのの瞳に強い決意の色が宿ると同時に、人形同士が一斉に離れた。激しい金切り音が未だ残る中、人形はそれぞれ傀儡師の許へ戻っていく。
双方の持つ得物の歯零れが激しい戦闘を露わにしていた。



チヨの人形である【父】と【母】のぶっつり千切れた鞭とボロボロに欠けた刀に、視線をやったサソリは、次いで己の傀儡を見た。歯車も仕込み武器も、もはや見る影もないほど刃部分が丸みを帯びており、使い物にならなくなっている。



反してチヨは、次の攻撃の対策として、即座に【父】と【母】の新たな仕込み武器を二体の腕から出現させた。今度は寸前とは逆で、【父】が鞭を手にし、【母】は刀を構える。

武器として成り立たなくなった三代目風影の得物を一瞥した後、互いの武器を入れ替えたチヨの二体の人形を見て、「少しはいじってるみたいだな…」とサソリは双眸を細めた。



「グレードアップしてんじゃねぇか…面白い。それなら俺もお礼に、懐かしいモノを披露してやるよ」


サソリの言葉に、油断なく構えていたチヨの片眉がピクリと動いた。嫌な予感がする。

チヨの怪訝な視線の先で、三代目風影がカタカタカタと音を鳴らして口を開いた。
そこから漏れ出すそれらに、顔を顰める。予感が的中したと、チヨは悟った。


「やはり、その傀儡……三代目の術を、」
「久しぶりだろ。この術で三代目風影は『最強』と謳われたんだからな」




砂隠れの里で最も恐れられた武器────『砂鉄』。

練り込んだチャクラを磁力に変えることができる特異体質から、三代目風影が編み出した術だ。あらゆる形状に砂鉄を変化させ、状況に応じた武器を作り出す。


自身が操る『父』と『母』の普通の傀儡人形とは根本的に違う。
生前のチャクラを宿した人傀儡の三代目風影を前に、チヨは冷や汗を掻いた。

【人傀儡】最大の利点を発動したサソリは、己のお気に入りコレクションを見せびらかすかのように、くっと口角を吊り上げる。




絶体絶命の危機に、せめていのを逃がそうと促すチヨを尻目に、「もう遅いんだよっ!」とサソリは足を踏み込んだ。同時に、三代目風影の周囲に漂う砂鉄が微小な粒状へと変化してゆく。



「【砂鉄時雨】!!」


刹那、砂鉄の弾丸が一斉にチヨといのを襲う。

散弾の如く降り注ぐ砂鉄に、チヨは咄嗟に【母】を操る。
いのを助けた傀儡人形を操る傍ら、己自身は【父】の傀儡人形に鞭を振るわせた。砂鉄の弾丸を弾く。


鞭を自在に操って砂鉄の雨を次から次へと弾く【父】を目の当たりにしても、サソリは顔色ひとつ変えなかった。
それどころか、「おいおい…攻撃を受けてよかったのか?」と呆れの雑じった声をあげる。


【父】の傀儡人形を操って、【砂鉄時雨】の猛攻から身を守ったチヨは視界の端で、いのの安否を確認する。
【母】に庇われた彼女の無事な姿を認め、ほっと息をついた直後、指先に違和感を覚えた。

指を動かして、そこで初めて、己の失態に気づく。


鞭を持っている【父】の腕。
それが、ギギギ…と嫌な音を軋ませるばかりで動かない。



(砂鉄で……身動きが、)
「防ぐんじゃなく、かわすんだったな」

チヨの表情の変化に逸早く気づき、口許に弧を描く。一枚上手だった孫に、チヨは「ワシともあろうものが…」と歯噛みした。

砂鉄が傀儡人形の腕に潜り込んだせいで、動きを封じられたのだ。
三代目風影のこの術は回避しなければならないと知っていたはずなのに、いのを守るほうに気を取られて判断を誤ってしまった。
今回は幸運にも【父】の片腕と鞭だけで済んだが、三代目風影の磁力がある限り、傀儡人形では勝ち目がない。


(どうしたものか…)

いずれ、傀儡人形は三代目風影の砂鉄で動かなくなるだろう。しかしながら、いのはサソリの毒にやられて動かない。
どうにかこの形勢不利を打破しなければならない。


思案に暮れるチヨは、ふと、自分の前に立ちはだかった影に目を瞬かせた。


「いの…」
「チヨ婆様、私の身体を使ってください」


気丈にもチヨの傀儡になると発言するいのに、「しかし、おぬしの身体では…」とチヨは困惑する。毒に侵された身、立っているのもギリギリなはずだ。

カンクロウが三日間苦しみ悶えた毒。
その強い毒性は、治療したいの自身がよくわかっている。動けば動くほど毒の巡りは早まり、死へのカウントダウンも差し迫ってくる。

にもかかわらず、戦う意志を見せる彼女の背中に、チヨはどこかしら既視感を覚えた。





「それに…私はこんなところで立ち止まってられないんです」

チヨに背中を向けながら、いのは強い口調できっぱりと宣言した。


「私の親友…その子の眼を覚まさせるまでは」







大蛇丸の許へ、サスケと共に行ってしまった春野サクラ。
彼女を一発殴って眼を覚まさせるまでは、死ねない。死なない。

ナルと一緒に、サスケとサクラを取り戻すまでは、いのはこんなところで足踏みするわけにはいかなかった。
前に進まなければならない。



「大丈夫。私に考えがあります」

毒で全身が痺れ、今にも意識を失いそうになる。だが、あれは最終手段だ。それまではなにがなんでも、使うわけにはいかない。

毒による激痛を押し殺し、いのは肩越しに振り返った。毒で青褪めながらも、微笑んでみせる。



「だから、私の身体……頼みますね、チヨ婆様」

毒で痺れる身、自分では動けなくともチヨのサポートがあれば動けるだろう。それに、生身の人間ならば砂鉄で動きを封じることはできない。
更に、砂鉄の脅威があるとは言え、まだ【父】と【母】の傀儡人形は壊されずに済んでいる。


いののキッパリとした宣言に、チヨは眼を細める。
彼女の師である、五代目火影────綱手の背中が被さって見えた。



話し合いが終わったらしいくノ一を真顔で見ていたサソリは、呆れたように肩を竦める。

砂鉄でまもなく動けなくなる傀儡人形二体に加え、生身の人間を傀儡として操る算段らしいと彼は察していた。
いのにチャクラ糸をつけたチヨを、サソリは「おいおい…なかなかの冷血婆じゃねぇか」と野次る。

「毒で動けねえ小娘を無理に動かすってのか?ふ、まぁ俺の毒を受けたのなら、死んだも同然だがな」


人体にチャクラ糸を繋げて傀儡人形のように操る【操演・人身冴功】。
術の由来は、戦場で傀儡を失った傀儡師が屍を傀儡人形として操った事によるものだ。

その事も含めて、サソリは愉快げに唇を歪めた。

「天下の傀儡師も落ちぶれたものだ…死にかけの小娘と傀儡二体で何ができる?」




直後、真顔になる。




「────俺を舐めるのもいい加減にしろよ」






サソリがそう言うや否や、地面に打ち込まれた砂鉄が針のような形状へと変化する。
瞬間、足場である地面から一斉に砂鉄の針がチヨといのに向かって襲い掛かった。

(下から…ッ!!??)


鋭い針が飛び交う空中。
咄嗟に跳躍したチヨは、浮遊しながら指を動かす。

いのと【父】と【母】。


三体を同時に操るチヨの動きを、サソリは注視する。
今や、この中で戦闘要員はチヨのみ。傀儡師であるチヨを叩けば、傀儡二体は動かなくなる。

毒に侵されているいのなど眼中にないサソリは、チヨ目掛けて更なる砂鉄の雨を降らせようと指を動かす。


だが、妙な違和感がある。
異変を疑問に思うよりも前に、サソリに向かって【母】が刀を振りかぶった。


それを三代目風影で防ごうとする。
動きを封じようと、三代目風影の口が大きく開き、砂鉄の雨が────。






















サソリ目掛けて、飛んできた。


























「……ッ、」

咄嗟に回避したサソリは、岩壁に飛び移る。
チャクラで足を壁に貼り付けた状態のまま、彼は「どういうことだ…」と顔を顰めた。


いきなり、自分のほうへグルンと顔を向けた三代目風影をじっと見据える。
不意に、ギギギ…と不愉快な音がして、見下ろせば、傀儡化した肩の溝に砂鉄が入り込んでいた。

完全に動きを封じられたわけではないが、自由に身動ぎできない。
サソリ自身も傀儡人形なので、砂鉄で動きを止められてしまうのである。

皮肉なものだ、と自嘲しつつ、サソリは指に結んだチャクラ糸を確認した。きちんと三代目風影に繋がっている。
それなのに、どうして、主人である己に刃向かったのか。


そこでサソリはハッ、と眼を見開いた。

【父】と【母】の間に雑ざって、迫るいの。彼女の頭が項垂れている。

毒で顔をあげるのも儘ならないと思っていたが────。



「まさか、」

試しに、サソリはチャクラ糸を動かして、三代目風影の腕を持ち上げようとした。

腕は持ち上がる。だが、次の瞬間、サソリは岩壁を蹴った。

背後を振り仰ぐと、先ほどまで自分がいた場所の上空に、微小な砂鉄が霧のように漂っている。
穴が空いた岩壁から砂鉄でできた針が見えた。



サソリの推測は、その瞬間、確信へと変わった。




視線が、【父】と【母】の傍にいるいのを認める。
チヨに操られるも彼女自身が動いているかのように見えるが、おそらく、中身はからっぽだ。



【赤秘技・百機の操演】。チヨの【白秘技・十機近松の集】と対戦時に起きた出来事の再来。

あの時は、傀儡人形の何体かが犠牲になったが、いずれも、大した力を持たぬ傀儡だった。
だが、今は最も厄介であり、そして己の得物が奪われた事実に、サソリは苦々しげに眉を顰める。

今まであまり表情に変化が窺えなかったサソリが、最も感情を露わにした瞬間だった。















「小娘……俺の傀儡を乗っ取りやがったな…!!」

 
 

 
後書き
いい加減、風影編終らせないといけないので、そろそろささっと書きたいんですが、なかなか…(汗

こんな長い話に付き合ってくださって、本当に感謝しております!
どうかこれからもよろしくお願いします!! 
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