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永遠の謎

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172部分:第十一話 企み深い昼その十四


第十一話 企み深い昼その十四

「御決断を」
「王は全てを決めるもの」
 王は首相の切実な顔に曇った顔で応えた。
「己のこともか」
「バイエルンのこともです」
「そうなのだな」
「ですから。ここは」
「わかった」
 遂にだ。王は言った。
 そうしてそのうえでだ。首相に対して告げたのであった。
「それでは。その様にする」
「わかりました」
 こうしてであった。ワーグナーの処遇が決まった。しかしなのだった。
 それをベルリンで聞いたビスマルクはだ。嘆息してこう言った。
「仕方ないとはいえ残念な話だな」
「ワーグナー氏のことですか」
「そのことですか」
「そうだ、それだ」
 まさにそれだというのであった。側近達に話す。
「あの方には彼が必要なのだ」
「ですがそれはミュンヘン市民には」
「そしてバイエルン人にとっては」
「我慢できなかったな。特にあの方の周りの者達には」
「はい、そうです」
「ですからああなりました」
 側近達もこうビスマルクに話した。
「財政への負担、それに醜聞」
「それでは我慢する方がです」
「無理ではないかと」
「財政への負担なぞ些細なものだ」
 ビスマルクは現実からそのことについて述べた。
「軍隊や戦争にかけるものと比べるとだ。些細なものだ」
「芸術への費用も、ワーグナー氏個人への援助もですか」
「些細なものだというのですか」
「そうだ。些細なものだ」
 ビスマルクはまた言ってみせた。
「ほんの些細なものに過ぎない」
「しかしそれが誇大に宣伝された」
「そういうことですか」
「そうなる」
 バイエルン王とだ。同じ見方にそれを加えたのだった。
「そして醜聞なぞだ」
「それも些細なことですか」
「そうなのですか」
「醜聞なぞ何処にでもある」
 このことについてはだ。ビスマルクは財政への負担よりさらに素っ気無く述べた。本当に何でもないといった口調でだ。側近達に話したのだった。
「それこそ。何処にでもな」
「言ってしまえば確かに」
「そういう話はですね」
「街中に入れば普通に」
「どんな小さな村にもある」
 ビスマルクはさらに言った。
「そうしたものだ」
「では。些細なことですか」
「ワーグナー氏の醜聞も」
「醜聞のない人間なぞいない」
 ビスマルクは今度は個人について話した。場所と合わせてだ。
「大なり小なりだ」
「誰でも持っている」
「そういうものですか」
「確かにワーグナー氏のそれは眉を顰めるものだ」
 ワーグナーの醜聞がそういった類のものなのは認めるのだった。このことはビスマルクも否定はしない。しかしそれでもだというのだ。
「だが。それでもだ」
「そうしたことは普通にありますか」
「世の中には」
「そうだというのですか」
「それだけに騒ぎやすい」
 達観した目でだ。ビスマルクは話した。
「そういうものに過ぎない」
「ではバイエルンでもですか」
「その辺りにある醜聞を騒いでいる」
「そういう類のものでありますか」
「あの騒ぎは」
「そうだ。騒ごうと思えば幾らでも騒げる」
 ビスマルクはまた言った。
 
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