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永遠の謎

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171部分:第十一話 企み深い昼その十三


第十一話 企み深い昼その十三

「あの国にです」
「いいですね。あの国ならばです」
「彼も落ち着くでしょう」
 二人はいささか悪意を含ませた笑みで述べた。
「いえいえ、落ち着いてもらうのです」
「おっと、そうでしたな」
 総監は男爵のその悪意のある笑みに同じ笑みで応えた。
「バイエルンではなくミュンヘンに落ち着いてもらわなければ」
「あの国で、ですな」
「そういうことですので」
「わかりました」
 総監はその笑みで男爵の言葉に応える。そしてであった。
 総監がだ。あらためて二人の同志に話した。
「我等の苦労が報われましたな」
「まことにです。中々苦労しました」
「しかし。それがようやくです」
「実を結びました」
「そしてです」
 ワーグナーがだ、どうなるかであった。
「あの御仁は音楽にだけ専念します」
「芸術にですね」
「芸術家は芸術に専念するもの」
「それが正しいあり方なのですから」
「それでは」
 こうしてであった。彼等はその動きを実際に取った。王のところにだ。首相が来て言うのであった。
「最早。こうなっては」
「しかしそれは」
 王は玉座においてだ。その顔に戸惑いを見せて言った。
「避けられないのか」
「臣民達の憤りは頂点に達しています」
 首相は王の前であえてきつい言葉を出してみせた。
「それを抑えるにはです」
「ワーグナーをこの街からか」
「はい、バイエルンからです」
 ミュンヘンどころではなかった。この国自体からだというのだ。
「立ち去ってもらわないといけません」
「そうでないと騒ぎは収まらないか」
「ローラ=モンテスのことを思い出して下さい」
 首相はここでこの女の名前を出した。これも計算のうちである。
「あの時はです」
「御爺様か」
 王の顔に忌まわしいものが宿った。
「あの方が退位された」
「そうです。このままではです」
「私もまた御爺様と同じように」
「それだけは避けなくてはなりません」
 これは首相の本意であった。彼にしても王の退位は絶対に避けなくてはならなかった。これは王への忠誠心だけの問題ではなかった。
 真剣に危惧する顔でだ。彼は王に話すのだった。
「さもなければ次の王に」
「オットーか」
「はい、あの方が王になられます」
 こう王に話した。
「それは」
「オットーは。どうしてなのだ」
 弟の名前をだ。出すとそれだけで王の顔がこれ以上になく曇った。
「あれもまた」
「陛下、それは」
「ヴィッテルスバッハの血か」
 王は己の一族の血について言及した。
「長年の我等の血は。濁ってきているのか」
「・・・・・・・・・」
 首相は俯いてしまった。そのことについては何も言えなかった。暗い顔になってだ。ただ王の言葉を聞くだけになってしまっていた。
「よくはならないのか」
「周りも懸命に治療していますが」
「それでもか」
「はい、それでもです」
 首相はようやくといった感じで述べた。
「悪化する一方です」
「そうか」
「陛下、ですから」
 首相はあらためて王に上奏した。
 
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