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ダンジョン飯で、IF 長編版

作者:蜜柑ブタ
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第六話  動く鎧のフルコース

 
前書き
動く鎧編。

原作読んで、すごいアイディアだなって思ってます。 

 
 近道を通るのはいいが、降りるばかりの階段は、実は足に登る以上の倍の負担をかける。
「あー、しんどい。」
 マルシルがたまらず小言を言った。
「適度な疲れは飯を旨くする。」
 っとセンシが言った。
 どんどん歩いて行くと、やがて行き止まりにたどり着いた。
「杖貸して。」
 チルチャックがファリンから杖を借りて、行き止まりの隣の壁を叩いた。
 そして行き止まりの隣の壁が上がった。
 出た先は、大きく開けた広間だった。
「そういえば、ここに繋がってるんだっけ。」
「結構時間短縮になったわ。」
 ファリンは周りを見回した。
「そういえば、この辺には動く鎧がいたね。」
「ねえ…、ファリン? 変なこと考えてない?」
「え…別に…。」
「嘘おっしゃい。ちゃんと目を見て言って。」
「だって、兄さんが一番興味惹かれてたんだもん。どんな味がするのかなぁ? センシは、どんな調理をするの?」
「は? 鎧が食えるわけないだろう?」
「……動く鎧は魔法で操られてるだけで、生き物じゃないよ。」
 さすがにセンシも、マルシルも否定した。
「それは知ってるけど、例えば留め具とか、革とか…。革靴も調理次第で食べられるって聞くよ。」
「なめし革を食べるのは困難だ。他の魔物を獲った方が遙かに楽だ。」
「そんなに鎧が食べたいなら、自分だけで食えよ。」
「そう……。動く鎧は食べるのは無理なのね…。兄さん、がっかりするだろうなぁ。あんなに調べて調べて調べまくってたのに。」
「いいから。ほら、ファリン、行くわよ。」
 広い広間の先の大扉を開いた。
 その先には、くたびれた鎧が綺麗に整列していた。
「噂をすれば…。」
「できれば今は相手をしたくないわ。」
「走り抜けるのはどうだ? あいつら足は遅いから十分振り払える。」
「そうだね。行けそう? みんな。」
「だいじょうぶ。」
 ファリンは、全員に確認し頷いた。
「…せーの!」
 どの鎧が動くか分からないので、一気に走り抜ける作戦で行くことになった。
 ワッと走り出したファリン達。
 すると前方で並んでいた鎧の一つが動いた。
「き、来た!」
「任せろ。」
 センシが斧を振るい、動く鎧の腕を切り離した。
 ファリンも杖を振るい、動く鎧の頭を殴って外した。
「走って!」
 チルチャックとマルシルに、先に行くよう促した。
「よし、今のうちに扉を開けるんだ。」
「う、うん。」
 そうこうしている内に、先ほど腕と頭を離された動く鎧が自ら腕と頭を自分の身体に戻して追ってきた。
 頭をきっちりと元の位置に戻すその動きを見てファリンは、立ち止まった。
「ギャー!」
「構うな! 突っ走れ、マルシル!」
「そんなこと言ったって…!」
 マルシルが指さす先には、無数の動く鎧が扉の前に立ちはだかり、そしてこちらに迫ってきていた。
「完全に行く手を塞がれてるんですけど!」
「なんだ、こりゃ。」
「ちょちょ、これダメだわ! 一度引き返して体勢を整えましょう!」
 そして、ファリン達は、元来た道を引き返して扉を閉めた。
「どうも今日はしつこいわね…。何か機嫌を損ねたのかしら…?」
「まさか。あいつらに体調や気分なんて存在しないわ。ただ与えられた命令通りに動くだけ。」
 ファリンの言葉にマルシルがそう言った。
「そうは言っても、操ってる奴なんているのか?」
「どこかにはいるんだよ! 鉄の塊の鎧が動くなんてありえない。」
 そう話すマルシルとは反対に、ファリンは考え込んでいた。
 何かが引っかかるのだ。
「でも、今日の動く鎧の動きはおかしいよ。いつもは近づく人間を攻撃するだけなのに…、今日のは進行を妨害してきてる。まるであの扉の向こうに行かせたくないみたいだった。」
「! ってことは、操ってる奴が近くにいる?」
「え? それって魔物なのか?」
「分からない。でも! ここまで強い魔法の使い手なんてカタギじゃないわ! とにかく、どうにかあの動く鎧達の包囲網を突破して……。」
「動く鎧の操り手を無力化するのね?」
「どうするんだ?」
「例えば…、三人が囮になって引き付けている間に、一人が扉の先に行く。これでどう?」
「待て待て。ファリン。センシ一人で行かせる気か?」
「ううん。私が行く。」
「待って! ファリン、それは無茶よ! いくらあなたが魔法を封じる魔法が使えるって言ったって…。」
「だからこそだよ。無茶は承知の上。センシは、魔法使いとの戦いはたぶん不得意だと思うから、私が行くの。」
「相手が魔物ならば無理ではない。」
「人だったら?」
 ファリンがそう聞くと、センシは黙った。
「決まりだね。三人ともお願い。」
 ファリンは、そう言って微笑んだ。
 マルシルは、ハラハラとした様子でそんなファリンを見ていた。





***





「正直ね…。気配を消すのが得意なチルチャックでもいいって思ったよ。」
「俺は大して戦えないし。目や耳があるわけじゃないんだから、生き物じゃない相手に気配の消し方なんて意味ないだろ?」
「目や耳がない……。」
 その時、ファリンの脳裏に、頭の部分をきっちりと元に戻す動く鎧の動きがよぎった。
「……?」
「準備はいいか、マルシル。」
「ええ。」
「行くぞ。」
 ファリンが釈然としないまま、作戦が決行された。
 扉をバーンっと勢いよく開ける。
「おらおら! 鎧ども! こっちに集まってこいや!」
 すると鎧達は、マルシル達の方へ動き出した。
 その隙にファリンが反対側の扉へとゆっくりコソコソと近づき、扉をソッと開けた。
「えっ…?」
 そこにいたのは、魔法使いでもなんでもなく、外にいる鎧達よりも少々大きくて立派な形をした動く鎧がいた。
「えー、扉の向こうにも鎧!」
 ファリンは、扉を後ろ手に閉めながら入った。
 すると立派な鎧がゆっくりと動き出した。
「このタイプが動くのは初めて見た…。マルシル達は…、無理ね…。」
 外の音からとてもじゃないが助けを呼べる状況じゃないと判断した。
「どうしよう…。」
 ファリンは、杖を握りながら考えた。
 ファリンは、動く鎧の動きに注意しながら、兄・ライオスからもらった知識を思い出そうとした。
 その時、動く鎧が剣を振りかぶった。そして周りにあった木の根を切り裂き、ファリンは、その剣圧に少しひるんだ。
「くっ…。」
 ファリンは、よろけながら、足下に落ちていた小石を拾って、投げた。
 すると…、動く鎧は、持っている盾では防がず、なぜかもう片手で持っている剣で石を弾いた。
「えっ?」
 その動きは、まるで盾を庇っているかのようだった。
 ファリンは、動く鎧の攻撃を回避しながら考えた。
 そして見た。
 盾の裏に、何かがあるのを。
「あれは…。」
 まん丸い繭のようなもの。
 どこかで見た覚えがある。
 それは……、カマキリの卵…、卵鞘(らんしょう)
「あれを庇って…、ってことは…。」
 ファリンは確信した。

 動く鎧は、生き物だと。

 からっぽの鎧であるにも関わらず、攻撃対象を見るように動く頭部、そしてバラバラにされても元の位置に戻す行動。
 そして一番は、この立派な動く鎧が守っている、卵!
 誰に命じられているわけでも無い。ただ生き物の本能に従って卵を守ろうとしているだけ。
 ならば、倒す方法はある。
 そして……、食べられる!
 ファリンは、自分の身体に興奮で力が湧き上がるのを感じた。





***





「ファリン! まだなの!?」

 外の方からマルシルの声が聞こえた。
 ファリンは、一定の距離を保ちながら、動く鎧を倒す方法を考えた。
 内臓傷つける。
 体液を流させる。
 窒息させる。
 餓死。
 どれも時間がかかるし、現実的ではない。何より動く鎧の動く原理すら分かっていないのだ。
 スライムのように不定形なのか、それともハチやアリのように女王がいて内部から群れが操っているのか、それとも奥の方に何かが潜んでいるのか。
 しかし、不定型な生き物にしては、動きに規則性がある。
 また鎧の中から羽音などもしない。
 ならば、死角に潜んでいるのか。
「なら……。」
 ファリンは、柱の陰から飛び出し、杖を振りかぶった。
 狙いは、盾!
 それに気づいたらしい動く鎧は、盾を庇うように動き、自分の胴体をファリンの方へ向けた。
 そこに渾身の力で杖を殴打し、わずかにぐらついた鎧の後ろから、頭の兜の飾りの毛の部分を掴み、ファリンは動く鎧の頭を奪った。
「中身!」
 そして大急ぎで柱の陰に隠れ、中を確認した。
 しかし、中には何も入ってなかった。
「な、何もない…。からっぽ? 首を拾うのは擬態行動?」
 そうこうしていると、ガシャガシャと動く鎧が迫ってくる音が聞こえてきた。
「次…、次の手を…。」
 だがしかし…。
 振り下ろされた動く鎧の剣は、ファリンが隠れている柱とは関係ない柱に当たった。
「えっ?」
 自分がどこの柱に隠れたのか見えていなかったようだ。
 やはり頭に秘密が…っと、もっとよく調べてみた。
 すると、鎧の断面に隙間があるのを見つけた。
 まさかと思い、ナイフを出して、その隙間に突き刺してみた。
 そしてえぐるように鎧の断面をめくると…。
 シューッと音を出しながら軟体の生物が出てきた。
「軟体生物! 内側に張り付いてたんだ! あ…、動かなくなった。」
 軟体生物は、すぐに動かなくなり、ピクピクと痙攣していた。
「バラバラにされても平気だったのは…、最初からバラバラの群体だったからなのね。」
 ファリンは、は~っと感心した。
「今なら…。」
 そしてファリンは、兜を投げた。
 すると動く鎧は、転がる兜を拾い上げ、戻した。だがすぐに落ちた。
 その隙を突いて、ファリンは、体当たりをして動く鎧をうつ伏せに倒した。
 その上に乗っかり、足を引っ張って外して中の隙間にナイフを刺して無力化する。
 続いて腕と、次々に無力化させた。
「うーん、面白い。一体につき何匹いるんだろう? 雌雄同体なのかな? 関節のところで繋がって…、収縮することで筋肉の動きを模しているのね。すごい!」
 ファリンは、興奮しながら動く鎧を解体していった。
 しかしすぐに我に返って、卵がついた盾を持ち上げて、急いだ。
「みんな!」
 扉を開けると、マルシル達が動く鎧達に取り囲まれ乱闘状態になっていた。
「今、助けるから!」
 そう言ってファリンは、盾を床にそって投げた。
 床を滑るように回転しながら動く盾に、鎧達が気づき、盾の方へ移動し始めた。
「なに? 今の…。どうやったの?」
 ファリンに導かれてマルシル達が扉の中に入った。
「うわ!」
 そしてバラバラに解体されたちょっと大きくて立派な動く鎧を見て驚いた。
「何があったんだ?」
「やっぱり魔術師がいたの!?」
「ううん。魔術師なんていなかったよ。」
「えっ?」
「動く鎧は生き物だったの。」
「どういうこと?」
「これ。」
 そう言ってファリンは、動く鎧の中の軟体生物を見せた。
「二重構造になってて、そこに軟体生物が入ってる。」
「うわ…。」
「普段はもっと大人しくて、危機を感じた時にのみ攻撃してくるのが普段の状態なんだけど。今は、運悪く産卵時期だった。」
「さんらん? 卵で生まれるの? アイツら…?」
「そう! 動く鎧は卵で産まれるんだよ! さっき投げた盾に卵がついてたんだよ!」
 ファリンは、大興奮しながら語る。
「今まで誰も気づかなかったんだ。みんな魔術で動くただの鎧だって思い込んでたんだ。このことを発表すれば業界は震撼するわ! 兄さんも大喜びする!」
「……ファリンって、ライオスと同じで魔物の話になると早口になるよな…。」
「よしなよ。」
「ねえ、センシ。鎧は食べられないけど、この中身はどう? 食べられそうだよ。」
「はああ!? こんなわけの分からないもん食べられるはずないでしょ!」
「どんな食べ物も、最初の一口はわけの分からない物だよ?」
「今やることじゃないわよ!」
「……やってみるか。」
 っとセンシが言った。
「ありがとう、センシ!」
「イヤーー!」
「初めて触る食材だから、自信は無いが…。」
「猛毒とかだったらどうするの!?」
「強力な毒のある生き物は、隠れたりしないと思うよ?」
 毒を持つと言えば、例えばバジリスクだ。バジリスクは、分かりやすく蹴爪に毒がある。それにキノコ系も派手な色だったりする。
「この裏側…。手でこじ開けようとしてもびくともしないけど、この部分を刃物で切ると、殻を閉じられなくなった。たぶん、これが殻を閉じるのに必要な閉殻筋(へいかくきん)。つまり貝柱のようなものなのかも。」
「貝か…。」
 センシは、動く鎧の隙間から垂れている軟体生物を見てしばし考えた。
「よし、決まった。鎧から身の部分を外してくれ。」
 そして全員で刃物を使って、動く鎧の軟体生物部分を外した。
 そのうちの一つを小鍋に水を張った中に入れて、砂抜きを行おうとしたが、軟体生物は水の中で少し暴れて、やがて溺れて動かなくなった。
「溺れた。」
「さすがに水で砂抜きは、不可能か。そもそも砂抜きが必要なのかどうか、中身を開けてみるか。」
 そう言ってまな板に軟体生物を乗せ、包丁で内臓部分を切って取り出した。
「内容物が気になるので、内臓はとっておく。」
「ちょうだい。」
「ダメ。」
 欲しがるファリンをマルシルが止めた。
 センシは、軟体生物を薄切りし、薬草を煮込んでいる小鍋に入れてスープにした。
 次に、フライパンに油と具材として薬草を炒め、調味料と動く鎧の軟体部分を薄切りにしたモノを炒め合わせる。
 続いて、兜…頭はそのままお湯を沸かした鍋の上に乗せて蒸す。
 最後に、定番として、殻に乗せたままの動く鎧の軟体部分を網に乗せて火で焼いた。ジュージューと焼けていき、身が縮んだ。
「できたぞ!」

 そうしてできあがったのが、動く鎧のフルコース。

 動く鎧の炒め物。
 動く鎧のスープ。
 動く鎧の蒸し焼き。
 焼き動く鎧。

 中々に、豪華な内容となった。
「ほれ。」
「あっつ!」
 センシは、焼き動く鎧を、ファリンに渡した。
「アチチ…。あれ? みんなどうしたの?」
 なんだか全員の視線がこちらに向けられていることに気づいたファリンが首を傾げた。
「動く鎧を食べるのは、ファリンとライオスの悲願なんだろ?」
「わしらが先に口をしてはな…。」
「えへへ。それじゃあ、言葉に甘えて…。」
「マルシル。蘇生の準備しておけ。」
「…うん。」
 そんなことをヒソヒソと話し合うマルシル達を尻目に、ファリンが焼き動く鎧をフォークですくい取って実食した。
「うっ!」
 死んだか!?っとマルシル達が身構えた。
「美味しい!」
 ファリンが笑顔で声を上げた。
「うわ~、なんだろこれ、すごく美味しい!」
「食中毒の症状って、どのくらいで出るの?」
「モノによる。」
「最初は味が無いかと思ったけど…、遅れてくる! 味が!」
 呆然とするマルシル立ちだったが、それを聞いた、センシが焼き動く鎧を口にした。
「こんなものか。悪くはないが、もっとうまく調理できたな。」
「薬草と炒めたやつなら大丈夫じゃないか? 腹減った。」
「毒消しって食中毒に効くの?」
「ん。なるほど。」
「ど、どう?」
「なんかねっとりしてる。不味くはないけど。」
 チルチャックの言葉を聞き、そして腹の虫が鳴ったマルシルは、意を決してスープを飲んだ。
「…なんか、キノコに似てる?」
「でしょ?」
「蒸し焼きもうまいことできたな。」
「絶対美味しいよ。……。」
「どうした?」
「カビ臭い。」
「兜の匂いを閉じ込めてしまったか。」
 期待を持って食べた動く鎧の蒸し焼きは、カビの匂いがしてあまり良くなかった。





***





 食後。
「これ…、兄さんのために持って行こう。」
「荷物が増えるぞ?」
「でも、武器が無いまま元来た道を戻るのは大変だよ? あのとき、兄さん剣を落としてたと思う。」
「そうだな…。じゃあそれ持って行けよ。」
 動く鎧が持っていた剣を手にしているファリンは、チルチャックとそう会話をした。
 ファリンは、剣を手にした状態であの動く鎧の卵が無事に孵ってくれることを祈った。
「ん…?」
 その時、動く鎧の剣の柄辺りからニュ~っと何かが出てきたのを見てしまった。それは、いわゆる…アサリとかが砂を吐く時に出しているアレみたいなもので…。
「ファリン! その剣持って行くなら呪われてないか鑑定しておこうか?」
「だいじょうぶだいじょうぶ!! 絶対呪われてない! 私には分かるから!」
「どうしたの? …まあ、ファリンが言うならだいじょうぶよね。」
 ファリンがその手のことに力を発揮するタイプだと分かっているマルシルは、そう言って納得した。
 ファリンは、気づかれないように剣を鞘に収め、急いで背負った。
「……兄さんに良いお土産ができた…!」
 ファリンは、マルシル達に背中を向けたまま、興奮しながらそう小さく呟いたのだった。 
 

 
後書き
ファリン、兄へのお土産を入手する。 
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