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戦国異伝供書

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第十二話 苦闘の中でその六

「何故あ奴には利かぬのじゃ」
「猿にしては珍しいことじゃ」
 滝川もそこがわからなかった。
「お主が人のことでどうかというと常にその通りと思うが」
「松永殿については」
「うむ、どうしてもじゃ」
 羽柴の彼への評価はというのだ。
「わからぬわ」
「違うとしかですか」
「思えぬ。若し当家が危うくなれば」
 その時にはというのだ。
「あ奴絶対に後ろから刺してくるぞ」
「当家を。そして殿を」
「そうしてくるわ、だからな」
「滝川殿もですか」
「うむ、殿に指一本触れさせぬわ。わしは忍の出」
 滝川は羽柴に己のこのことも話した。
「忍術も使える。だからな」
「余計にですか」
「殿をお護りしてみせるわ」
 滝川にしてもというのだ。
「そうしてみせる」
「その気持ちは皆同じ。あ奴にも気をつけつつじゃ」
 不破も言ってきた。
「摂津、河内、和泉もな」
「攻めていこうぞ」
 こうしたことを話してだ、そしてだった。
 織田家の軍勢は紀伊を平定したうえで今度は摂津、河内、和泉の門徒達の平定にかかった、それも行ってだった。
 遂に石山御坊を囲んだがここで義昭が動いてだった、朝廷の声もかかり。
 信長は本願寺と和議を結んだ、しかし。
 そのことについて家臣達は不満だった、だが信長は満身創痍であり疲労の極みにある彼等に言うのだった。
「今は休め、またじゃ」
「戦になる」
「だからですか」
「今はですか」
「そうじゃ、石山だけにした」
 本願寺をというのだ。
「だからな」
「これでよしとしますか」
「今は」
「それしかありませぬか」
「そうじゃ、公方様が言われるならばな」
 武門の棟梁、神輿にしてもその立場にある義昭の言葉ならというのだ。
「仕方ない、朝廷からもお声がある」
「だからこの度はですね」
「退くしかない」
「そうなのですな」
「あと一歩ですが」
「石山だけになりましたが」
「うむ、それにあの寺は只の寺ではない」
 石山御坊、今信長が大軍で囲んでいるこの寺はというのだ。
「川を巧みに守りに使い壁も石垣も高い」
「しかも守る門徒達の士気も高い」
「それではですか」
「今の我等が攻めても」
「それでもですか」
「多くの者が倒れる」
 今の疲れきった織田家の軍勢ではというのだ。
「わしも攻めるつもりで来たが」
「公方様のお言葉もある」
「それに疲れきっているので」
「そのこともあり」
「それで、ですか」
「そうじゃ、攻めずにな」
 そのうえでというのだ。
「ここは退くぞ」
「わかりました」
「では致し方ありませぬ」
「それでは和議を結び」
「そうしてですか」
「ここは囲みを解いて帰るとしよう」
 信長にしても苦い顔であった、攻めたい気持ちがあるのは紛れもないことだった。だが義昭の言葉と家臣や兵達の疲れを見るとだ。 
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