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Evil Revenger 復讐の女魔導士

作者:mst2018ver
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復讐の始まり

 ティミュレ・クローティスとスーディ・クローティス。私の両親の名だ。
 私の母、ティミュレは、ベスフル王国の王族だった。
 そして、父、スーディは、魔王の息子だった。
 "魔王"と言っても、別に異界の悪魔というわけではない。
 北方に住む、青い肌を持つ一族の王様のことである。
 私が生まれるより前、ベスフルと魔王軍の戦争の時、父は、魔王軍を指揮する将軍の1人だったそうだ。
 その時の戦争は、父の寝返りによって、魔王軍が大きな損害を被り、撤退していったという。
 父の寝返りがなければ、ベスフルは敗北していたと言われている。
 母は、ベスフル軍に帰属した父と、惹かれ合ったのだという。
 しかし、父の功績をもってしても、2人の婚姻を、ベスフルの王族たちは認めなかったそうだ。
 母は、それに反発し、王宮を出て暮らすことを選んだのだという。
 そして数年後、2人は、魔王軍の報復に遭い、殺されてしまったのだ。
 その時、私と兄は、襲撃をいち早く察知した両親に先に逃がされ、何とか生き延びた。
 もし、ベスフルの王族が、2人を受け入れ、王宮に守られていれば、2人は死なずに済んだかもしれない。
 両親が殺された時、私の心にあったのは、深い悲しみと魔王軍への恐怖だった。
 だが、兄は違っていたようだ。
 兄は、両親が亡くなったその日から、復讐を考えていたのかもしれない。魔王軍とベスフルへの復讐を。

 それは、4人での生活が始まり、1年ほどの時が流れたある日。
 仕事を探して隣の街へ向かうべく、私達4人は、街道を歩いていた。
 度々、遅れがちになる、体力がない私と、それを励ましながら手を引くスキルド、呆れ顔のシルフィ、黙って睨む兄、いつもの光景だった。
 数日の道のりになるため、暗くなるまで歩いた後、夜は簡易宿場に泊まり、日の出を待って出発することを繰り返す。
 出発して2日目の昼頃のこと、街道の先に怪しい一団を見つけ、4人は立ち止まった。
 剣を抜いた男達に、2人組が囲まれている。そういう風に見えた。
 今いる場所から、その一団のいる場所は、ちょうど、下り坂になっていて、様子がよくわかった。
「野党か?」
「まっ昼間から、こんな目立つ場所で?」
 スキルドとシルフィが言った。
 街道を行く人々を襲い、金品を奪う集団が出ることがあると、私は、話には聞いたことがあったが、実際に出会ったことはなかった。
 もし野党だとしたら、私達にも危険が及ぶかもしれない。私は不安げな顔で、スキルドの手を握った。
「俺が様子を見てくる。お前たちは待ってろ」
 兄は恐れることもなく、1人、その一団の元へと、速足で向かっていった。
「ヴィレントに任せておけば、大丈夫さ」
 不安がる私を見て、スキルドが言った。
 見送るスキルドの顔にも、わずかに緊張が見えたが、私のように、こちらに危害が及ぶ心配などはしていないようだった。
 シルフィに至っては、安心しきった顔で、むしろ、どこか得意げな表情まで浮かべて、兄を見守っていた。
 兄が一団と接触。この場所からは、話の内容までは聞き取れなかったが、相手が険悪に何かを叫んでいることはわかった。
 そして遂に、兄が剣を抜いた。
 いつも、兄は腰に剣を下げていたが、実際に抜いたところを私が見たのは、これが初めてだった。
 私は、思わず、スキルドにしがみ付き、服を掴んだ。
 一団は、囲まれていた2人組を無視して、一斉に兄に襲い掛かった。その数は、10人以上はいたはずだ。
 兄は、襲い掛かる相手を次々と斬り伏せていった。
 素人同然の私にも、兄が只者ではないことがわかった。
 私は、スキルドにしがみ付きながらも、目を背けることはなく、むしろ、食い入るように見つめていた。
 これが、兄さん……?
 兄と相手の数人が剣を振り合い、すれ違うと、相手だけが倒れ、兄は何事もなく、続けて剣を振るう。
 何人が襲い掛かっても、兄の動きが鈍ることはない。相手の数だけがどんどん減っていった。
 男達は、遂に残り2人になると、かなわないとみて逃げ出した。
 兄は、それらも逃がさない。1人を背中から斬りつけ、躓いて命乞いするもう1人も、あっさり斬り捨てた。
 あっという間だった。
 その時の兄は、まるで本当の悪魔のような、強さ、恐ろしさだった。
「……終わったみたいね」
 得意げだったはずのシルフィまで、若干、ぽかんとした表情になっていた。
 以前にスキルド達が言っていた、兄に助けられたという話、スキルドが兄に憧れているという話など、この時、私は初めて実感できた気がした。
 こんな人に助けられたら、こんな強さに魅せられたら。
 私も、あの地獄の5年間がなければ、素直に感嘆し、あるいは自慢の兄だと、誇っていたかもしれない。
 兄さんを本気で怒らせたら、私など、きっと一瞬で殺される……。
 兄を敵視していた私には、そんな恐怖の感情しか浮かんでいなかった。
「敵わないな。やっぱり、凄いよヴィレントは」
 呟くスキルドも、驚きとも呆れともいえない表情をしていた。

「この2人を護衛する仕事を受けた。お前らは、街で待っていろ」
 合流した直後、兄からそんな言葉が出た。
 その姿は、髪が少々乱れているだけで、かすり傷一つ負っていない。
 兄は、始めから謝礼が目当てだったのだろう。ついでに仕事まで受けられて、ちょうど良かったと思っているようだ。
 兄に助けられた2人は、どちらもフードとマントで風貌を隠していた。
 そのうちの1人、背の高い方は、そのシルエットから、中に鎧を着込んでいることがわかる。
 彼は、ベスフル王国の近衛騎士、ヴェイズと名乗った。
 もう1人は、背丈が私と同じくらい小柄な、少女だった。
 彼女は自分では名乗らず、ヴェイズが紹介した。
 フェアルス・クローティス。現在のベスフル国王の娘であり、お姫様だった。
 その言葉に、スキルドとシルフィは驚いたようだったが、私の中の驚きはそれ以上だったと思う。
 クローティス。私達と同じ姓。
 現ベスフル国王は、私達の叔父にあたる人だと聞いていた。
 つまり、目の前の彼女は、私達と従姉妹の関係にあった。
 兄に特に動揺は見えない。事前に聞いていただけなのかもしれないが、ベスフル王宮の人間を助けようとする兄を、私は意外に思った。
 兄が、両親のことで、王宮の人間を残らず恨んでいると思っていたからだ。
「ベスフルの本城が敵の襲撃を受けたんだと。姫様を砦まで逃がすために、脱出してきたそうだ」
 兄がそう説明した。
「姫を無事に砦に送り届けられたら、できる限りの報酬はお支払する」
 よろしく頼む、とヴェイズが頭を下げた。
「姫様とは他人じゃないんだ。任せてくれ」
 兄のそのセリフは、既に彼らに身分を明かしていることを示していた。
 兄の考えがよくわからなかった。
 私には、母の母国を助けたいなどという動機で兄が動いているとは思えず、真意は別にあるのだろうと考えてしまった。
「わかったわ、出発しましょ」
 シルフィが兄の手を取った。
「……街で待っていろと言ったはずだが?」
「やだ、私も付いてく! この先の街だって、いつ戦火が及ぶかわかんないし、ヴィレントが守ってくれなきゃ、安心できない!」
 シルフィが兄に腕を絡めながら、唇を尖らせた。
 この人のこういうところが、私は嫌だった。
 兄の方も、それを怒鳴るでも振りほどくでもなく、ただ迷惑そうにため息をつくだけだった。
 私が口答えした時は、殴り飛ばしてたくせに……
 私は2人から目をそらした。
「ヴィレント殿、時間が惜しい。すぐにでも出発したいのだが」
 ヴェイズが急かした。
 兄は軽く舌打ちすると、シルフィに向かって、
「わかった、好きにしろ。危なくなっても知らないからな」
「平気よ。ヴィレントが守ってくれるでしょ?」
 兄は、再度大きなため息をつくと、諦めて歩き出した。
「すまん、ヴィレント。本当にヤバくなったら、俺がシルフィを街まで引っ張っていくから」
「えー、スキルドは来なくていいのに」
 私もスキルドに手を引かれて歩き出す。
 私達は、結局6人全員で、ベスフルの砦に向けて、出発した。
 この出会いが、私達の運命を大きく動かしたことを、この時は、まだ誰も知らなかった。 
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