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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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39話:会議

宇宙歴771年 帝国歴462年 12月上旬
首都星オーディン 帝国ホテル 大会議室控室
ザイトリッツ・フォン・リューデリッツ

「閣下、お疲れ様でした。お茶を用意してございます」

「オーベルシュタイン卿、ありがとう。丁度一息入れたかったところだ。ただいくら休暇期間とはいえ、従卒の真似事などしなくてもいいと思うが」

「いえ、閣下も幼少のみぎりから、陛下と近しくされたおり、かなり気配りされたと伺いました。私もそれにあやかりたいのです。お許し頂ければ幸いです」

昨年年初に晩餐を共にして以来、オーベルシュタイン卿は当家の鍛錬に参加するようになった。初対面の際は歳のわりにかなり痩せた身体だったが、この一年の成果か、年相応の体つきになりつつある。彼は学力の面ではかなり優秀で、幼年学校のカリキュラムに沿うと、補足程度で十分な状況だった。他に俺が教えてやれる事と言えば、投資だったり事業計画の立案だ。少し教えると、スポンジが水を吸収するように知識を自分のモノにした。
試しにいくつかそれなりの規模の事業計画の資料を渡してみたところ、かなり具体的な改善案を資料にまとめて出してきた。納得できる内容だったので採用させてもらったし、RC社の投資部門の契約アドバイザー扱いとした。まだ高給取りではないが佐官クラスの給与を支払っている。基本的にタダ働きは俺の趣味ではないからね。
結果、休日や休暇中は俺のカバン持ちみたいなことをしてくれているし、規模の大きい投資案件に関しては、一通り資料を確認させている。少し話を聞いたが、今まで色々と自分なりに考えた事はあっても、それが形になり、現実に動き出すことは無かった。その辺りに面白さを感じるらしい。鍛錬も彼の体力レベルにしては頑張っているし、幼年学校の成績も上位をキープしているので、好きにさせている。

「それにしても辺境自警軍ですか。効率の面では最善とは言えませんが、必要性は理解できます。最善が必ずしも最良ではないとは。ひとつ勉強になりました」

「そうだねえ。効率でいうと良くはないけど。折角育った領民たちをどうせなら高給取りにしたいからねえ」

先ほどまでRC社と契約している辺境領主たちとあつまって会合をしていたのだが、その主旨が辺境自警軍の立ち上げの最終的なすり合わせだ。人口増への取り組みをルントシュテット領で開始してから既に20年弱、辺境星域とルントシュテット領では人口爆発とまではいかないものの、当時の2億3000万人から倍近い5億人になっている。そしてその第一世代はうまく各地の新事業に吸収できたが、今以上のペースで開発を進めるとバブル傾向が予想されたため、事業拡大のスピードを上げる事は出来なかった。
このままでいくと、領外で職を探すことになるが、軍や政府に雇われても、低給だし、門閥貴族の利権になっている企業に就職されるのも面白くない。そこで辺境自警軍の立ち上げを考えたわけだ。背景としてはいくつかある。

まずは、実際に治安の問題だ。今までははっきり言うと数字だけで見れば辺境は貧困地域だった。ただRC社の投資をきっかけに開発が始まり、イゼルローン要塞の資材調達のおかげで現在では中間層の中でも少し上くらいの層になった。結果として、良からぬ連中から見ても旨味が無くもない地域になったわけだ。軍や政府に働きかける手段もあったが、そうなるとこちらも譲歩することになるので避けた。

次は、次世代艦への更新だ。今年度で7個艦隊が更新済みとなるが、旧式戦闘艦が余る事態となっている。分解して再利用してもいいのだが、分解費も決して安くないし再利用するとその分資源消費が減ることになるので、なら旧式艦の引き取り先を作ってしまおうというと考えた。

最後は、軍隊は自己完結型の組織なので、教育を受けた若者たちが実践の場にできることだ。本来は新卒者を採用して育成するのがベストなのだが、実際、各現場ではまだ教育の仕組みまでは用意できていない。そういう意味で、社会にでる最後の準備をする場になればいいと思っている。

軍部からしても、古いおもちゃの処分ができ、辺境星域の哨戒負担が減るので、渡りに船の話だった。初年度は旧式艦30000隻 分艦隊2500隻を12編成でスタートさせる。各星域の帝国軍駐屯地も払い下げてもらい、駐留基地に改修する予定だ。併せて警察組織もどきも創設される。これは各領主の統治組織の一部にすでに捜査機関があるので、これを統合して、人事交流していく形となる。今後、領地を跨ぐ犯罪なども起こりうるだろうから、必要なことだろう。

この事業に対して、俺は主幹事として関わることになっている。立ち上げと組織作りに数年はかかるだろう。それが終われば中将に昇進。そろそろ予備役入りを考えてもいいかもしれない。

「閣下、ケーフェンヒラー男爵がお越しです。御人払いをお願いしたいとのことです」

「ありがとうワルター。オーベルシュタイン卿となにか好きなものを食べてきなさい。少しかかりそうだからね」

シェーンコップ家の一粒種のワルターも従士として給金をもらっているからと従士の真似事をしている。オーベルシュタイン卿に倣って閣下と呼ぶことにしたようだ。ご飯の褒美をお気に召したらしい。少し嬉しそうだ。そういうあたりが年相応でほほえましい。ドアが開いて男爵が入ってくる。男爵も今年54歳、まだ背筋は伸びているが、白髪が少し増えてきている。男爵が内密の話というと何かあったのだろうか。余談だが、ケーフェンヒラー男爵家の子息2人は父の背中より母の背中に感じるものがあったらしく、医の道を進みだしている。

「ザイトリッツ様、お疲れ様でした。必要なこととは言え、多少は出費が増えます。皆様のご了承を頂け、ようございました」

「男爵が誠実に説明してくれたこともあるだろうけど、実際問題、手塩に育てた領民を政府や軍に取られたくないという感情があるからねえ。辺境星域とキフォイザー・シャンタウ・フレイヤの各星域では徴兵もなくなるというのも大きかっただろうし」

次兄が継ぐことになるシュタイエルマルク伯爵家はフレイヤ星域の惑星ニプルヘイムに領地をもっていたが元帥号を得たときに惑星全てを領地とされた。フレイヤ星域にあるレンテンベルク要塞とリューデリッツ領のあるキフォイザー星域のガルミッシュ要塞にも辺境自警軍が駐留することになる。

「確かに私も地方行政官をしておりました折、軍に徴兵されてそれ以降、会えないという話が良くありました。そういう意味でも良きお話だったやもしれませんな」

「それで、内密の話とはどの話でしょう?今、男爵から内々の話となると心当たりがないのですが......」

男爵は少し悩むそぶりをしてから口を開いた。

「実はロイエンタール卿の事なのです。最近かなり精神的に不安定な状況が続いておりまして、よくよく聞くと、先年結婚したレオノラ嬢との間に生まれた男子なのですが、不貞相手との子だったとのことです。色々と堪えつつも生活を維持しておりましたが、最近、夫人が自殺したらしく、もう精神の限界という状態なのです」

「うーむ。私はプライベートには口を出さない主義だけど、それはさすがに良くないね。ロイエンタール卿は優秀な人材だし、静養して鋭気を養ってから復帰してもらえば良い。彼なら生活費に困ることもないだろう?」

「はい、そうなのですが、問題は残るご子息なのです。言葉を選ばずに言えば、レオノラ嬢のご実家、マールバッハ伯爵家なのですが、娘を売らなければならないほど財務状況が悪く、そこで養育するのもいかがなものかと......。ロイエンタール卿からの資金援助も打ち切られた状況ですし、あまり良い結果になるとは思えないものですから」

そこで男爵は一端区切り、言葉を続けた。

「当初は当家で預かることも考えたのですが、マールバッハ家からなにか働きかけられると跳ね返すことができません。そこで、リューデリッツ邸でお預かり頂けないかと。ご子息も生まれ、幼い方々の出入りも多いようですし、大奥様も年明けから御移りになられるとか。にぎやかな方が、心の癒えも早いのではないかと存じまして」

「うちは既に3人いるし、男爵の予測は当たるからね。ロイエンタール卿にもかなり成果を出してもらった借りがある。私としては異存はないが、話は通っているのかな?」

「はい。ロイエンタール卿としてはリューデリッツ邸でお預かり頂けるのであれば安心できるとのことでした」

「分かった、では帰宅次第、おばあ様とゾフィーには私から話を通しておく。こちらはいつでも構わないので手配をお願いするよ」

了承の旨をして、男爵は控室を出て行った。なんだかんだとゾフィーもオーベルシュタイン卿とワルターを可愛がっているし、そこまで問題は起こらないだろう。 
 

 
後書き
アンネローゼの誕生年です。 
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