| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

31話:任官

宇宙歴766年 帝国歴457年 4月下旬
フェザーン自治領 宇宙港
ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

「フェザーンへようこそ!」ダン!入国のスタンプが押される。
俺の士官学校生活はイゼルローン要塞建設の為の資材調達に費やされた訳だが人類史に残る事業に関われるという意味では充実した日々だった。視察の申請も多かったが万全の対応をした。結果3年次で中尉待遇になり。皇太子となった兄貴の視察を取り仕切った事で後付けで大尉待遇になり、イゼルローン要塞の建設工程をうまく編集して前世で言うドキュメンタリー映画もどきを献上したら少佐待遇になった。そして任官だ。
正直、任官するかは迷った。20歳の少佐なんて門閥貴族のお坊ちゃんでもない限り、違和感を感じるだろう。とはいえ兄貴がやりたくもなかった帝位に付いた事を考えれば、年少とは言え俺だけが生きたい人生を歩むのも違う気がした。なので任官拒否は考えなかったが、任官先は自分で選びたかったので、ごねる演技をしてフェザーンの高等弁務官府駐在武官という任官を勝ち取った。何もしなければイゼルローン要塞関連かアムリッツァ星域の第51補給基地改修にともなう任官が行われていたと思う。

宇宙で一番富が集まるフェザーンでどんな経済・経営学が教えられているか知りたかったし、叛乱軍の実情も分析したかった。既に戦争状態が100年以上続いている。俺の知る中で100年以上の戦争状態なんてものは無かったが、民主主義国家が戦争をするとなるとファシスト化するか、反戦運動が活発になるかしか事例を知らない。悪逆なる帝国に侵略されれば農奴にされる訳だから、ファシスト化している可能性が高いと思うが、その辺りを近い距離感で分析もしたかった。
最後に任務とは異なるがフェザーンや叛乱軍の独立商人との伝手を作りたい。RC社としては叛乱軍が出元の良質な農業・鉱業用機械を輸入したかったし、あちらでは効率重視の施策が行われた結果、帝国で作られている工芸品レベルの製品が高値になることも漏れ聞いている。その辺りをうまく取りまとめて、良い商売ができる相手を見つけたいと考えていた。

入国窓口での手続きを終えて、全員が揃うのを待つ。わがままを通したフェザーン行きだったが、少尉任官したパトリックはついてきてくれたし、第4子が生まれたばかりのフランツ教官もついてきてくれた。第4子となると育児が大変だろうからルントシュテット領に残すことも考えたが、各種育英事業が形となりつつある為、むしろ『亭主元気で留守がいい』の格言どおり、4児の母となった俺の中では御淑やかな印象の、もと本邸のメイドに教官曰く最近一番の笑顔で送り出されたようだ。フランツ教官の家庭だけ見れば出生率4.0という数字が出ているが、ルントシュテット領では最新の数字で出生率は3.75、辺境星域では均すと出生率3.27という数字が出ている。
イゼルローン要塞は完成したが、アムリッツァ星域の第51補給基地を艦隊駐留基地に改築する事業が代わりに動き出した為、RC社の事業展開領域は好景気を維持できている。それもあっての数字だろうが、領民が明るい未来を描いていなければ、出生率がこの数字になることは無いので、個人的に喜んでいる。

出生率と言えば、ザイトリッツの日、幹事長のテオドール・フォン・ファーレンハイト氏は当初、フェザーンへの同行を申し出ていたが、同じく下級貴族出身の幼馴染と士官学校を卒業したのを機に結婚し、奥方の妊娠も発覚したため軍務省で分室を預かることになった長兄のローベルト大佐の下に配属されるように手配した。恩を返すのが遅れるなどと言っていたが、前世の経験も含めればどんなに仕事に精勤したところで、新婚時代と出産直後の育児をないがしろにすると一生嫁の尻に敷かれるので、恩返しはいつでもできると押しきっての手配だった。

嫁と言えば、ロイエンタール卿もイゼルローン要塞の完成を機に結婚している。お相手はマールバッハ伯爵家の3女、レオノラ嬢とのことだがケーフェンヒラー男爵曰く、資金援助を期待しての婚姻の可能性が高く、ロイエンタール卿が出来る人材だけに心配とのことだ。さすがにプライベートまで口を出す訳にもいかないので静観している。
長兄のローベルトにも待望の嫡男が生まれた。毎年プレゼントを考えるのは大変なので親族や友人たちの子弟の誕生日には、格式は事前に相談したうえで毎年シルバーカトラリーを贈る事で統一するつもりだ。これは前世の記憶で、子息の誕生日ごとに少しづつ貯めたお金でシルバーカトラリーを1つずつ買い足していき、成人するころには恥ずかしくないシルバーカトラリーが一式揃うというのと、万が一食べるのに困ったときに売れるという観点で、毎年贈り物をするのに意義があると考えた結果でもある。
長兄の嫡男、ディートハルトにも、テオドール氏の嫡男であるアーダルベルトにもシルバーカトラリーをしまう箱とともに銀の匙が届くことになっている。交友関係はなんだかんだ広いので、子息の誕生日プレゼントはこれで統一しようと思う。形式さえ決まれば手配は丸投げできるからね。

そんなことを振り返っているうちに入国手続きが完了したようだ。まずは帝国の高等弁務官と駐在武官長に挨拶に向かう。宇宙港から中心街に地上車で向かう。小一時間ほどだろうか、窓の外は宇宙最大の交易地の名にふさわしい高層ビル群が見えるし、市民もかなり裕福そうだ。帝国と叛乱軍の戦争を糧に得られた繁栄だと思うと複雑な心境になる。高等弁務官府に到着した。職員の先導で執務室に向かう。

「申告します。高等弁務官府駐在武官を拝命いたしましたルントシュテット少佐であります。短期の任期となりますがご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。」
「同じくベッカー少尉であります。よろしくお願いします。」

「高等弁務官を拝命しておるレムシャイド伯爵だ。話は聞いている。フェザーン自治領では特に問題は起こっていない。自治領とは言え帝国人はここではよそ者だ。それを踏まえた行動を切に願う。詳しくは駐在武官長のクラ-ゼン准将に確認するように。以上だ。」

挨拶は型通りに済ませて、部屋を後にする。レムシャイド伯爵家は代々政府高官を輩出してきた家柄だ。当代のレムシャイド伯は50歳を少し超えたぐらいだろうか。もう少ししたら領地経営の為に勇退して、帝都で役人をしている息子が後任になるのだろう。そのまま駐在武官長室に移動する。ここでも同じようなやりとりをして、早々と高等弁務官府を後にする。次に来るのは任期が終わるときの挨拶になるだろう。誰だって自分の庭を新参者が大きな顔でうろついていたら気分を害するものだ。俺の任務は公式には『次世代戦闘艦のより効率的な生産の為の情報収集』という事になっている。高等弁務官府にデスクが無くても済む任務なのだから自由にやらせてもらおう。

地上車に乗り込み、次の目的地に向かう。明日以降でも良かったが、こっちの挨拶はなるべく早く済ませたほうがいいと判断して地上車で数分の所にあるフェザーン自治領主公邸へ向かう。一応帝国に臣従している形とは言え、門閥貴族以上に資本を持つ存在だからね。機嫌を損ねてRC社にへんなちょっかいを出されても困るから面会を打診済みという訳だ。

自治領主公邸につくと既に出向かえが来ていた。おそらく帝国高等弁務官府を見張ってでもいるのだろう。

「お待ちしておりました。先導を担当いたします、補佐官のワレンコフと申します。ご高名はかねがね伺っておりました。一度お会いしたいと思っておりましたので、若輩者ですがこのお役目に志願いたしました。ご無礼があればご容赦ください。」

「丁寧な挨拶痛み入ります。ビジネスの本場の方にそのように言っていただくのはいささか気恥ずかしい所です。ルントシュテット伯が3男、ザイトリッツと申します。ワレンコフ殿もお若いながら補佐官に任じられているという事はかなりお出来になるのでしょう。色々とご教授いただければ幸いです。」

俺がそういうと、ワレンコフは少し驚いた表情をしたが、すぐに表情を改めて先導を始めた。自治領の統治の仕組みは暗記はしていないが、補佐官職は言ってみれば未来の自治領主候補の養成の場に近いはずだ。よしみを通じておいて損は無いだろう。

先導してくれたワレンコフ補佐官が一際豪奢なドアを開くと、自治領主とおぼしき年配の男性が目に入った。こういう時は年少者から挨拶したほうが良いだろう。

「お初にお目にかかります、自治領主閣下。高等弁務官府駐在武官として赴任いたしましたルントシュテット伯が3男、ザイトリッツと申します。」

「これはご丁寧に痛み入ります。自治領主のラープと申します。ご承知かもしれませぬが祖父があのレオポルドでございまして、その縁で非才ながらお役目についております。」

挨拶を交わすと席を進められた。

「幼少の頃からのご活躍はこちらにも流れておりました。ご無礼になるかもしれませんがフェザーンに生まれていれば『今年のシンドバット賞』をなんど受賞できたかなどと話しになっておりました。」

そう言いながら自然に酒を注がれた。顔には出さなかったが驚いた事に注がれたのはレオだ。少なくとも注目すべき存在と認定はされている様だ。

「お恥ずかしい限りです。先ほどワレンコフ補佐官からも嬉しい言葉を頂きましたが、フェザーンはビジネスの本場、辺境星域での些細な成功をそのように評価いただくなど、恥じ入る次第です。それにしても自治領主閣下にご愛飲いただけているとは、改めましてお礼申し上げます。」

まあ、良い策だよな。面会相手が関わっている酒をさりげなく愛飲している態を演出するって。少なくとも悪感情は懐かない、本当に愛飲してるかはまた別の話だろうけど。そのあとは無難な話題を話して挨拶を終えた。
RC社名義で購入した中心街から少し離れた高級住宅街にある屋敷に向かう。今後フェザーンに拠点を持っておきたかったし、個人資産の面でも他人の家でお世話になる理由が無いからね。ここを拠点にフェザーンでは活動するつもりだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧