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真田十勇士

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巻ノ百五十一 決していく戦その二

「そしてじゃ」
「今もですな」
「逃げられた、そしてな」
「今もですな」
「闘える」
「そしてそのことが」
「嬉しい」
 まさにという返事だった。
「わしはな」
「そのお考えこそがです」
「武士の考えか」
「はい、それでは」
「今じゃな」
「この戦の雌雄を決しますか」
「それではな」
 長曾我部は柳生のその言葉に頷いた、そして槍をだった。
 嵐の如く振り回した、だが柳生はその攻めもかわしてだった。
 逆に攻め返す、それで激しい死闘が続いたが。
 柳生は目でだ、長曾我部を見据えて言った。
「柳生新陰流の最終奥義お見せしましょう」
「柳生新陰流のか」
「如何にも」
 その通りだというのだ。
「それをお見せしましょう」
「そうか、ではわしもな」
「その槍術のですな」
「それを見せよう」
「それでは」
 二人共だ、それぞれの奥義を繰り出した。柳生は無数の太刀を縦横に繰り出し長曾我部もであった。
 突きを怒涛の勢いで繰り出す、そうして。
 激しい火花が散ってだ、それが終わった時に。 
 両者は動きを止めていた、しかしそれは一瞬のことで。
 柳生は片膝を曲げた、それで長曾我部に言った。
「拙者の負けでござるな」
「そう言うか」
「それがし奥義百斬を出しましたが」
「わしは羅漢を出したがな」
「しかしです」
「わしは膝を曲げずか」
「それがしは曲げました」
 そうなってしまったというのだ。
「ですから」
「お主の負けとか」
「認めまする、ではそれがしの首をお取り下さい」
 勝ったからにはというのだ。
「そうされて下さい」
「いや」
 長曾我部は笑ってそれで柳生に答えた。
「それはよい」
「勝たれてもですか」
「うむ、よい」
 そうだというのだ。
「わしは勝つ為に来たのであってな」
「だからですか」
「首を取る為ではない」
 この度の戦に来たのはというのだ。
「だからな」
「それがしの首はですか」
「よい、ではわしはな」
「これからはですか」
「武士として生きる、もう天下の往来を歩けぬが」
 それでもというのだ。
「それでもな」
「武士の道をですな」
「歩こう、武芸者としてな」
「そうされますか、では」
「うむ、それではな」
「暫しですな」
「ここで待つわ」
 幸村、そして仲間達をというのだ。戦を勝って終えた長曾我部の顔は実に晴れやかなものであった。
 穴山は鉄砲も短筒も炮烙も次から次に繰り出す、だが。
 傀儡はその全てを防ぎ逆に十本の指から糸を放ち穴山を襲う。穴山はその糸をかわしてから傀儡を見据えて言った。
「只の糸ではないな」
「さいでありんす」
 傀儡は穴山に妖しい笑みで答えた。 
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