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楽園の御業を使う者

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CAST35

 
前書き
現在の白夜の服装。真っ黒なワンピース(肩紐)。
なお昨日はユニセックスの青いシャツとジーパン。 

 
九校戦1日目 スピードシューティング女子予選会場にて。

「にゃぅにゃぅにゃぅにゃぅ…」

「よーやく捕まえたわよこの悪戯小僧!」

屋台でも見に行こうか、と真夜達と別行動を取りスタジアム内を歩いていた白夜は真由美に捕まっていた。

真由美は正面から白夜の頬を揉んだり引っ張ったりしていた。

「なに?俺に気でもあんの?悪いけど俺恋人いるんだけど」

ようやく放して貰えた白夜が真由美に尋ねる。

「ソレについては色々聞きたいけど昨日のキャンディの件よ」

「ああ、あれ? 結局食べたの?
はー…香澄さん達も律儀だねぇ」

「やっぱり貴方だったのね!」

「いや、散歩しようとしたらエレベーター近くで待ち伏せされてたんだよ?
つまり俺は悪くない。
どぅーゆーあんだすたーん?」

「むぅ…」

「でさぁ、摩利さん。いるならこのメスタヌキどうにかしてよ。
そこの十字路にいるんでしょ?」

「よくわかったな。それと君の後ろにもな」

「水波ももう出て来ていいよ。っていうかなんでいきなり隠れたのさ?」

白夜が呼び掛けると白夜の前の十字路から摩利が、後ろの十字路から水波が出てきた。

「久しいな水波」

「ご無沙汰しております摩利様」

「あら、知り合い?」

「彼女は白夜のマネージャー兼メイドの桜井水波だ。
道場でよく会うんだ。」

「ご紹介いただきました。お初にお目にかかります七草様」

水波は真由美にペコリと一礼する。

真由美を呼んだ時に僅かながら刺が会ったのを摩利はいぶかしんでいた。

「あ、七草嬢。昨日アンタの妹に渡し忘れてたんだけど、これ」

白夜はポケットから小瓶を取り出した。

「なによコレ」

「アフターケア。激辛キャンディの中和シロップ」

「…………………変な物じゃないでしょうね?」

「まさか。アンタの妹二人も飲んだやつだよ」

真由美は白夜から注意を反らすことなく、小瓶を煽った。

「……………吐き気を催すほど甘いわ」

「そりゃぁあのカプサイシン濃縮キャンディの中和剤だもん。
ゲロ甘より甘いに決まってんじゃん」

バカなの? とでも言いたそうな白夜に、真由美の額には井形が浮かぶ。

「キャンディいる? 甘さがふっとぶよ?」

「ここで受けとると思う?」

「いや。あ、そういえばキャンディに仕掛けた魔法ってどうなった?
ちゃんと発動した? 失敗した?
いやぁ、遅延発動術式って悪戯に便利そうだなって思って仕掛けたんだけどさ、うまくいくかはわかんないじゃん?
そう言うわけで俺はアンタに会いたかったわけだけども、どう?
ちゃんと陸に打ち上げられた魚見たいにビクビク痙攣できた?」

「ええ、ちゃんと発動してたわ。直ぐに定義破綻させて飲み込んだけど」

「え?じゃぁあの飴を噛み砕いたわけ?
しかも飲み込んだだって?
恐ろしいことするねぇ。
あれは『喉元過ぎれば』とはいかない。
今のシロップ飲まなかったら胃のなか荒れまくってたよ?」

「ええ、そのせいで今日は寝不足よ」

「ザマァwww」

真由美は今にも拳を振り上げんとぷるぷるしていた。

「まぁまぁ真由美。白夜君がこういう奴だというのは知っていただろう?」

「ええ、そうね。落ち着くのよ七草真由美…ビークールビークール…」

「冷たい蜂がどうかした?」

白夜は周囲から水蒸気を集め、本当に氷の蜂を拵えて真由美の目の前に浮かす。

「ねぇ摩利この子ぶん殴っていいかしら!?」

「おやおや年下の男子に手を上げようとは七草の長女様はお転婆だなぁ」

「っ…! っ……!」

顔を真っ赤にした真由美にぷーくすくす! と笑う白夜。

「白夜君。そこら辺にしといてやってくれないか?」

「ん。摩利さんが言うならそうする」

白夜はおとなしく引き下がり、浮かせていた氷蜂をバリバリと噛み砕いた。

「摩利さん、俺達今から屋台見に行くけどどうする?一緒に来る?」

「いいのか?私達は邪魔だろう?」

「いや、ソレ弄って遊ぶから別にいいけど」

と真由美を指差して言った。

「ソレって何よソレって!」

「It」

それだけ行って白夜はすたすたと歩いて行った。

摩利と水波もそれに続く。

「あー!もうっ!おいてかないでよ!」









九校戦スタジアム外縁にて、四人は昼食を取っていた。

臨時の休憩所のような場所で、テントの中に長テーブルや円テーブルやパイプ椅子が置いてある。

白夜達は円テーブルに白夜、真由美、水波、摩利の順だ。

「はい。アーン」

「ちょっ!待ちなさい貴方! まっ…!
あっづぅっ!?」

「真由美の奴げんきだなー…」

「チッ…愉しそうですね…あのバカ」

九校戦で出される屋台で買ったたこ焼。

白夜はできたてアツアツのソレを真由美の口に突っ込んだ。

「はふっ…! あちゅっ…! 」

はふはふ言いながら何とか飲み込む真由美。

「さぁさぁまだありますよ真由美さん」

「ちょっ! いい加減になさいよ!」

白夜が突き出した箸。

その先にはやはりたこ焼。

真由美は白夜の手を握って阻止しようとする。

そこで真由美がニヤリと笑った。

「セット:分子運動低速化・エントリー」

「セット:情報強化・エントリー」

真由美の冷却魔法と白夜の情報強化がぶつかり合う。

たこ焼を冷そうとする魔法とソレを拒む魔法。

「やめんかバカ者!」

摩利が真由美の頭をはたく。

「なにすんのよ!」

「お前達はなんでこんな下らない事でそんな無駄に大量の魔法力を使うんだ!」

「このショタに年上としての威厳を見せるためよっ!」

「威厳もクソもねぇだろメスタヌキ」

「なぁんですってぇ… ?」

「なぁ水波。このメスタヌキをどう思う?」

「私は白夜様に従うのみでございます。
私は白夜様と以心伝心故」

「つまり威厳なんて無いっと」

「ちょっと! その子そんな事言ってないわよ!
そうよね!」

真由美が水波に視線をやると…

「……………フッ」

「鼻で笑われたぁ!? ちょっと貴方の家従者の教育どうしてんのよ!?」

「え? いや、だって水波を育てたの千葉じゃないし」

「え? そうなの?」

と素で驚く真由美。

「ま、水波を育てた人達が七草と折り合い悪いらしいからねぇ」

「四葉とか? ふふ…まさかね」

「「………………………………………」」

真由美が冗談で言った言葉に主従が黙り込む。

「え…? 嘘よね?」

「お前がそう思うのならそうなんだろうな。
お前の中ではな」

ニヤニヤと笑みを浮かべる白夜。

「七草は十氏族の中でも諜報に長けた家。
その七草家が『男の娘魔法師タレント』の白夜様を調べていないはずがない。
それが答えです。七草様」

「おい今『男の娘』つったの聞き逃すと思ったか」

水波の発言はどうとでも取れる。

肯定にも、否定にも。

七草が調べたのだから、というのは『お前達はそんな事も調べられなかったのか』という挑発にもなるのだ。

「というか、四葉みたいな一族が俺に護衛をつける理由なんて…普通ないでしょ?」












「だーれだ?」

何者かが椅子に座る白夜の目を後ろから覆う。

「あ、真夜さん。スピードシューティングどうでしたー?」

白夜が自分の真後ろの真夜に尋ねる。

「そうねぇ、特に見所のある者は居なかったわ。
まぁ、新人戦は期待できそうね…。
そうでしょう?姉さん」

「ええ、期待できそうね。ソコの御嬢さんとか」

深夜の視線が白夜の隣の真由美に突き刺さる。

「いやいやいやいや!」

真由美が立ち上がる。

その手はCADに添えられていた。

「どうしたメスタヌキ?」

「いや!だって…!だって…! ええ…!?」

「キャラ崩壊するほど驚くなよメスタヌキ」

「いやだって…四葉姉妹よ!?
魔王とレテミストレスよ!?」

「なに? 本当か真由美?」

摩利も立ち上がり腕のCADに手を添える。

「あれ?摩利さんって真夜さん達の顔知らないの?」

臨戦体勢の二人にこてんと首を傾げる白夜に答えたのは水波だった。

「白夜様。四葉家の者の顔を知るのはほんの一部です」

「そうなの?」

「そうよー。だから私達がこうして九校戦に来ても問題無いのよ」

「ええ、顔を知られていなければ忍ぶ必要ないもの」

「え?でも九島閣下来てるんじゃ…」

「「……………」」

真夜と深夜が揃って顔を背ける。

「だめじゃん」

「案ずるな白夜。九島閣下は九校戦がお好きだ。
この場で四葉に何かする事はない」

「………白夜君。彼は?」

摩利が達也と深雪を目で示して言った。

「達也さん、深雪さん。七草のお嬢様へ自己紹介したら?」

「畏まりました叔母上」

達也が真由美と摩利の目の前に出る。

というよりは深雪を庇うように立つ。

「お初にお目にかかります七草様、渡辺様。
私は四葉達也と申します。覚えて頂かなくて結構です」

「お兄様。その挨拶はどうなんでしょうか…」

「こちらは妹の深雪です。宜しくさせる気はありません」

「達也。お前面白い奴になったな」

「原因がほざくな」

今度は真夜と深夜が挨拶する。

「会うのは初めてね。四葉家の当主をやっているわ。
宜しく、真由美さん、摩利さん」

「ハジメマシテヨツバミヤデス…」

「何故に片言?」

「どう言おうか迷ったのよ…」

「丁寧にするか威圧するか?」

「………………………」

あ、図星か。と白夜が呟き、深夜に小突かれる。

深夜は最近は氏族会議に出席したりしているが、それでも人を束ねたり、相手取る事はなかった。

故に『七草の長女』にどういう態度を取るべきか計りかねたのだ。

「あ、深夜様のガーディアンを勤めています桜井穂波です。
一応水波の叔母にあたります」

取って付けたような穂波の挨拶がされる。

(えーと……白夜君。コレはこっちの番ということかな?)

と摩利が隣の白夜に口パクで尋ねた。

(そうなんじゃないの? っていうか何で俺が読唇術使えるって知ってるの?)

(き、君の兄からきいた)

「渡辺摩利です……(他に何か言うことあるか?)」

(それでいいんじゃない?)

摩利はそれ以上言わず、真由美にアイコンタクトを取る。

「はじめまして、七草真由美です」

真由美が名前だけの自己紹介を済ませると、辺りは静寂に包まれた。

周囲の人の声は聞こえるのに、静寂。

無音でない静寂。

真由美と摩利は何時でもCADを触れる。

達也は既に二人を眼で捉えている。

穂波は防壁のイメージを固めている。

一触即発。

その静寂を破ったのは…

「真夜さん。取り敢えずお昼買ってきたら?」

「そうね、そうしましょうか」

特に考えのないバカだった。
 
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