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真ソードアート・オンライン もう一つの英雄譚

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インテグラル・ファクター編
  第一層攻略

攻略会議当日。
街の中心に位置する広場には、石積みによって造られた半円形の舞台のようなものが設置されていた。客席へと腰掛けた俺とコハルは視線だけで周りを見渡す。
 
「おお……。以外と集まるもんだな」
「そうだね。でも、こんなに強そうな人達の中に私なんかがいて大丈夫なのかな……」
「今のコハルはこの中のどいつよりも努力して強くなってきてるからな。自信を持っていいと思う」
「そっか……ありがとう。アヤト」
 
とはいえ視線の先には、俺達と同じように石積みの客席へと腰掛ける数十名のプレイヤーたち。身に着けている装備を見るだけでも、レベルが高いプレイヤーたちだということが分かる。間違いなく現時点では彼らがゲーム内のトッププレイヤーだろう。

「メンバーは46人か少し少ないな」
「え?どういう事なの?」
「最大レイドの数は48人なんだ。6人のパーティを8つ作ってな」

そんな事前情報をコハルに披露していると、見知ったプレイヤーが躍り出てきた。青髪のディアベルだ。

「みんな、今日は集まってくれてありがとう! 俺はディアベル! 職業は、気持ち的にナイトやってます!」
「ジョブシステムねーだろ!w」
「かっこいいぞ!ナイト様!」

ディアベルは手を振って冗談に答える。そして、

「先日、俺のパーティが迷宮区でボス部屋を発見した」
 
ディアベルは表情を真面目なものへと変えて、そう切り出した。プレイヤーたちの間に緊張が走る。この場にいる全員が息を飲んで続く言葉を待っていた。
 
「このデスゲームが始まってから1ヶ月……少しずつだけど、俺たちは前に進んでる。ここでボスを攻略して、このデスゲームにもいつか終わりが来るってことを始まりの街で待つ皆に教えてやろうじゃないか!」
 
ディアベルが力強く拳を突き上げる。それに呼応して広場のプレイヤーたちも歓声を上げた。ボス攻略前の演説としては上出来だろう。その場に集まったプレイヤー達の士気は高まり、やる気に満ち溢れている。そんなプレイヤーたちの様子に満足したのだろう。ディアベルが笑顔を浮かべて大きく頷く。
 
「よし、それじゃあボス攻略会議を始めさせてもらう。まずは────」
「ちょお、待ってんか!!」
 
ディアベルの話を遮り、広場の中央に1人のプレイヤーが躍り出た。
 
「ワイはキバオウってモンや!会議を始める前に、ワイはこの場で言っとかなあかんことがある!こん中に、今まで死んでった2000人のプレイヤーに詫びィいれなあかん奴らがおるはずや!」

突然の一言にその場のプレイヤー達は静まり返る。キバオウの剣幕は治ることを知らず続ける。

「β上がりどもはなぁ!こんクソゲームが始まった時、ワイらビギナーを見捨てて始まりの街から消えよった!ボロいクエストやら狩場を独占して、ビギナーのことはお構いなしや!奴らはジブンだけポンポン強うなって他はお構い無しや!」
「ひ、酷い……私たちだってβテスターだけど、そんな事してないのに……わ、私!文句言ってくる」
「ダメだ」

俺は立ち上がろうとするコハルの腕を掴む。

「そんな事をすればアイツの思う壺だ。ここは堪えるしかない」
「そんな……」

コハルは悔しそうに中央の舞台を見つめる。コハルの気持ちは分かる。俺だって文句を言ってやりたいが、それを理由に自分たちに危害を加えてくるかもしれないからだ。

「発言いいか?」
 
やがて沈黙を破ったのは、渋い大人の声だった。振り返ると、挙手する厳つい黒人の男性が視界に入る。頭は剃り上げてスキンヘッドである。その姿に若干圧倒される俺たちはその男性を見つめる。

「俺の名前はエギル。キバオウさん、つまりあんたが言いたいことは、今まで多くのプレイヤーたちが死んでいったのは元βテスターたちのせいで、その責任をとってこの場で謝罪と賠償をしろ、ということか?」
「そ、そうや!」
「そうか……。じゃあキバオウさん、あんたは“これ”を知っているか?」
 
そう言って彼がストレージから取り出したのは、俺も良く知っているある本だった。エギルの強面に若干萎縮しつつ、キバオウはそれに答える。
 
「……道具屋で配っとる、ガイドブックやろ?それがどないしたんや」
 
エギルは立ち上がって中央まで進み、全員に見えるように本を掲げる。

「これを配布していたのは元βテスター達だ。情報は誰にでも手に入れられたんだ。なのにたくさんのプレイヤーが死んだ。その失敗を踏まえてどうボスに挑むべきなのか。俺はもっと建設的な話が出来ると思ってここに来たんだがな」

エギルのその言葉がとどめになったようで、キバオウはうなだれて元の位置に戻っていった。話に納得した様子ではなかったが、少なくともこの攻略中に話を蒸し返すことはないだろう。
その後キバオウとエギルが元の位置に着席したのを認め、ディアベルが再び口を開く。
 
「えーっと……じゃあ仕切り直して、これからボス攻略会議を始める!まずは皆、6人パーティを作ってくれ!」
「!?」

ここで俺はある事に気がついた。俺たちの知り合いがいない……。というより、6人も集められるのか?俺のコミュ力が試される場面なのだが、暴発しそうで危ない。

「あ、あれー?そ、そこにいるのは僕の心の友のアヤト君達じゃないかー!」

変に棒読みな一言に俺たちはそちらの方を振り向く。そこにはやけに全力で笑顔を作っているキリトだった。顔中びっしりと汗をかいているところを見ると、

「知り合いが居なかったんだろうなぁ」
「う、ほっとけ!……じゃなかった。頼む!俺をパーティに入れてくれ!」
「お、おお。勿論俺はいいよ。コハルは?」
「私も大丈夫だよ!キリトさんが居れば百人力ですよ!」

その後、コハルが広場の隅に座っていたプレイヤーに声を掛けて一先ず4人パーティが結成した。




「やぁ君たちか!中央から見えていたよ。ボス攻略の同士が増えて嬉しいよ」
「ああ。よろしく」
「よろしくお願いします」
「よろしく!早速で悪いんだけど、君に少し頼みたい事があるんだ」
「私ですか?」
「ああ。実は今、回復系のアイテムの支給用の資金調達をしているんだ。その手伝いをお願いしたい。いいかな?」
「私は構いませんけど……」

コハルは俺の方を見る。ディアベルは俺に話があるらしく、後で向かわせるようにコハルに話をつけた。

「……それで、話ってなんだ?」
「ああ。単刀直入に聞くよ。君は元βテスターだな?」
「……ああ。そうだよ」
「やはりそうか。君にだけは話しておきたい。俺も元βテスターなんだ。第二層より上の景色を見てきたよ」

ディアベルは自分のあった事を話し始める。あの日。デスゲーム宣言が出されたあの日に自分は他の人達を助けるべきだったという懺悔。そして、それを踏まえてこれからの自分のやるべき事。

「君にもこの先、みんなを助け出す為の、攻略の手伝いをしてもらいたいって思う。考えて見てくれ」
「……」

答えは出せない。それは今の自分ではあまりに弱すぎる。会議中のキバオウの言っていたプレイヤーも居れば、他人の為に行動しようとしているプレイヤーもいる。

「あ!アヤト!ディアベルさんと話し終わった?何の話だったの?」
「あ、ああ悪い。話せる時が来たら話すよ」
「えー。男同士の秘密〜!?」

ぶーたれるコハルを見つめながら俺は笑ってみせる。
今の俺にはコハルを守って生き抜くので精一杯だ……。









翌日。
ディアベルに先導されて安全に迷宮区を潜り抜けた俺たちは、既にボス部屋の前へと到着していた。

「私ね、正直怖いんだ……でもサチと約束したし、絶対生き残るよ。そしてキミを守る」
「それは俺のセリフだよ。また尻もち記録更新するなよ?」
「もー!ぶーっ!!」

コハルは頬を膨らませて睨みつけてくる。
俺はそんなコハルを見つめながら心の中で一つの決意をする。

コハルだけは絶対守る!!

巨大な鉄製の扉を前に、ディアベルを中心にして45名が半円状に集合する。
ディアベルは集まったプレイヤーたちの顔をゆっくりと見回し、力強い笑顔を見せた。
 
「この場で俺から皆に言うことは1つだけだ……勝とうぜ!」
「「「「「おお!!」」」」」

ボス部屋は縦に長い大広間だった。46人のレイドが立ち回るにも十分な広さである。プレイヤーが扉をくぐると、薄暗かった部屋に明かりが灯り、大広間最奥の玉座に腰掛けていたボスモンスターがおもむろに立ち上がった。
 
《イルファング・ザ・コボルトロード》
 
その姿は体長3、4メートルはあろうかという巨大なコボルトだ。右手にアックス、左手にバックラーを携えたスタイルである。体毛のない赤い皮膚に丸みのある体は遠目にするとだらしなく太ったような体形に見えるが、その実あれは筋肉の塊だ。その膂力でもって、ボスは巨大な戦斧を楽々と担ぎ上げる。
続いてボスの前に小型――と言っても人間サイズ――のコボルトが数体ポップする。
 
《ルイン・コボルトセンチネル》
 
全員身に着ける鎧は同じものだが、武器はそれぞれの個体が異なったものを装備している。個体によって戦闘スタイルが違うことと、全身に纏った鎧のせいで弱点部位が狙いにくいことが厄介なモブである。

「じゃあ俺たちは打ち合わせ通り、ボスの取り巻きの対処だ。もたもたしてると増援がくるから、さっさとカタを付けよう」
「おーけー!」
「はい!」
「……」

細剣を使うコハルとフードのプレイヤーアスナの驚異的なクリティカルヒット攻撃によってうまい具合に取り巻きたちを倒していく。一方、ディアベルの指揮する5つのパーティは連携し、危なげなく確実に攻撃を加えている。ボスの残りHPはゲージ1本半といった所か。
ここまでは全て事前の打ち合わせ通りの流れであり、βテスト時との差異もなかった。この後も仕様に変更がなければ、ボスの残りHPがゲージ1本を切った所で最後の取り巻きがポップするはずだ。
そしてさらにボスの残りHPが減ってゲージが赤くなると、武器を持ち替えて攻撃パターンが変わる。持ち替える武器はタルワール。それ以降《曲刀》カテゴリのソードスキルを使うようになるが、あのパーティなら対処出来るはずだ。

「よし!みんな下がれ!俺が出る!」

ボスのHPゲージが赤くなっており、丁度武器を持ち替える場面だった。隣からキリトの叫ぶような声が上がったのだった。
 
「ダメだ!!全力で後ろに飛べ!!」
 
俺はキリトを一瞥して、すぐにその視線の先を追う。ボスの持っている剣は明らかに曲剣ではない事が分かる。あれは確か《カタナ》カテゴリの武器、野太刀だ。
ボスとの距離は30メートルほど。だが既にディアベルとボスは互いにソードスキル発動の動作に入っており、次の瞬間にはもう技を放っていた。
袈裟懸けに野太刀を振り下ろすボスと、横薙ぎに片手剣を払うディアベル。
ソードスキル発動は両者ほぼ同時だったが、剣速はわずかにボスの方が速い。そしてそのわずかな差が、戦いにおいては決定的な差になった。ディアベルの剣はボスに届くことなく、巨大な野太刀によって彼は斬り伏せられる。

「ディアベルがスタンした!追撃が来るぞ!」
「不味い!間に合わない!!」

気がつくと俺は動いていた。誰もが諦めていても、俺なら届く!

「うぉおおお!!」

ソードスキル《レイジ・スパイク》を使って一気に距離を詰めると振り下ろされる野太刀を受け止めた。
直ぐに駆けつけたキリトと共に野太刀を弾き返すと、ディアベルを担いでボスから遠ざかる。一時安全な場所に移動すると、コハルが抱きついて来た。

「ごめんねっアヤトがディアベルさんを助けに飛び出した時、足がすくんで動けなかった……!私が動けなかったせいで仲間が……アヤトが死んでしまったらって思ったらすっごく怖かった……!!」
「俺も同じだよ。目の前の一人、人を守る強さを……勇気を持ちたいから。……だから」

俺はコハルの頭を撫でるとボスを睨みつける。

「あとはまかせろ」

俺とキリト、アスナと共にボスに突っ込む。
SAOで突然巻き込まれたデスゲーム。『コハルだけは絶対に守る』なんて思っていたけど、それは結局一人になるのが怖かっただけだ。そんな俺が他人の為に闘うなんて出来るはずがない。そう、思っていたけど

「行け!キリト!!」

SAOで出会った人を守る強さを、勇気を今からでも持てるなら……!

「届けぇぇぇ!!」

キリトが最後にソードスキル《ソニック・リープ》をボスにぶつけ、ボスはガラス片となって散っていった。






その後の事はあまり話したくない。無事に誰も死なずに突破出来た喜びよりも、俺たちは仲間を見捨ててしまったからだ。
それが最善の策だと思い込んでしまったのだ。 
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