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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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「シリカとわたしは特別な『なかま』だそうです」

 
前書き
本当はパーティー話を書く予定だったのですが、プレミアがみんなと仲良くなりました。の一行で済む話なので、皆様でご想像ください 

 
 そうして仲間たちに迎えられたパーティーとともに、リズベット武具店は彼ら彼女らの枠に戻ってきていた。別にショウキもリズも仲間たちから離れていたつもりではなかったのだが、結果的にそうなったのだから良しとする。プレミアも、先んじて会っていたアスナやユイの口添えがあったおかげで、特に違和感なく仲間たちに受け入れられたようだ。

 ……よく食べて何でも食べて嬉しそうに食べるものだから、すぐ甘やかされて餌付けされているようにも見えたが。とはいえプレミア本人は満足そうで、新たな知り合いが増えて嬉しそうであり。特にユイなど妹でも出来たかのように接しており、しっかりものの長女と天然ボケの次女といった光景に勘違いしてしまうほどだ。

 ショウキも、ずっとリズと二人きりだったのに何もなかったのかだの、プレミアを連れてきた浮気者だの、さんざんに言われはしたり、ついでに店の前には引っ越しと開店の祝いのように、情報屋のアルゴの名の元に花が置かれていたりと……まあ、それはともかく。


「よし、今日のノルマ終わり。お疲れ様」

 そうして、アインクラッド第二十二層に設えられた、今では本店となったリズベット武具店。店主がリアルのバイトで不在だろうが、特に問題なく回っていた。そもそも店が根こそぎ奪われるほどに客が来た原因は、エルフクエストの特効効果を付与できる鍛冶屋がこのリズベット武具店だけだったからであって。恐らくは攻略が進み、他の鍛冶屋にも同様の効果付与が出来るようになり、客の絶対数も先日より少なくなっているというのもあるだろう。

「お疲れ様でした。ショウキ、シリカ」

『ピィ!』

「ピナもでした。申し訳ありません」

「はい! プレミアちゃん、しっかり接客とか出来るんですね……」

「もちろんです。わたしはここの《あるばいと》ですから」

 向かいの《ダイシー・カフェ》でくだを巻いていたが、リズ不在の状況を見かねてか、手伝ってくれていたシリカとともに。ショウキはプレミアたちに労いの言葉をかけるとともに、ノルマが近づき客足が遠ざかったことから休憩として。話には聞いていただろうが、まるで本当の人間のように話すプレミアに、シリカはユイという前例はあるが少し驚いていて。

「プレミアちゃんは普段は何をしてるんですか? ああ、この働いてる以外でですけど」

「ショウキにどこかつれていってもらったり、あとはバイト代で《たべあるき》をしています」

「食べ歩きかぁ……そうだ! あの、ちょっとお願いがあるんですけど……ショウキさんも!」

「ん?」

 二人の少女の会話をBGMにしつつ、ショウキは残る売れ行きの確認と、武具の補充を済ますと――メニューのボタン一つで済むのだから便利な話だ――シリカから、何やら頼みごとでもあるかのような声を向けられる。ショウキもそちらにつられて見てみれば、シリカはせっせとメニューを操作していて。

「わたしも最近ですね、料理スキルを上げてみててまして……ちょっと、味見を頼めませんか?」

「それは確かにわたしにぴったりな頼みごとです。任せてください」

「……食べられるものだよな?」

「だ、大丈夫です! これなんですけど……」

 味見――という意外な申し出に、気合い充分なプレミアとは正反対に、多少ながら心配なショウキではあったが。まさか食べられないものの味見を頼まれるようなことはあるまいと、希望的観測ながらもその申し出を受け入れて。そうしてシリカからおずおずと差し出されたものは――

「――肉まん?」

「はい!」

「『にくまん』……」

 ――何の変哲もない、肉まんだった。いや、何の変哲もないというのはあくまでリアルでの話であって、仮想世界においてはその何の変哲もなさはむしろ異質ではあった。リアルではコンビニで売っていようと、こちらではどこを探そうと売ってなどいないのだから。

「なんでまた肉まんなんだ?」

「そ、それより、試しにどうぞ! 熱々ですよ!」

「いただきます」

 露骨に話題が逸らされた気がしないでもなかったショウキだが、初めて見る食べ物に瞳を輝かせたプレミアが、差し出された肉まんを受け取ったために、ショウキが受け取らないわけにもいかず。試しに匂いを嗅いでみたり、中身は本当に肉なのかと確認してみたりとしたが、特に変なものは感じられず。

「……いただきます」

 観念して、真ん中で割らない派のショウキはそのまま、食べ方の分からなかったプレミアも同様に、シリカから差し出された肉まんを頬張った。

「どうですか?」

「…………普通、だな」

 キラキラと目を輝かせて、ゴクリと固唾を飲み込んで感想を求めるシリカ……とピナには悪いが。口の中に感じる熱した肉汁の味は、リアルで食べられる肉まんの味をよく再現していた。ただしシリカの問いは肉まんの味を再現できているか、ではなく、美味しいかであり……となると。

「やっぱりですか?」

 こういう時は嘘でも美味しいって言うもんよ、と彼女からは口を酸っぱく言われていたため、正直に話してしまって大丈夫だったかと少し不安になったショウキだったが。幸いなことにシリカも似たような感想だったようで、苦笑いとともに受け入れられた。コンビニで食べるものが美味くないなどと舌の肥えたことを言うつもりはないが、どうにも仮想世界で食べる他の料理とは何かが違う気がして、自然とショウキとシリカの目線はプレミアの方に向いていく。

「美味しいです。ですが、これはいわゆる『ぱんち力がたりない』ということだと思います」

「パンチ力……ああ」

 そうは言いながらも食べる手……食べる口を止めようとしないプレミアの言葉は、どうにも微妙な気持ちを感じていたショウキにも伝わった。要するに仮想世界にありがちな、ゲームでしか食べられない! といったハッタリが足りていないのだ。かの《SAO》の時であれば懐かしい味として人気を博したかもしれないが、今なら食べたくなったらログアウトしてコンビニに行けば良い話であって。

「そう! それなんですよ!」

 我が意を得たり、とばかりにピナとともに鳴くシリカから、ショウキはどことなく嫌な予感を感じざるを得なかった。そんなことが味見の時点で分からないはずもなく、ならばどうしてショウキたちに食べさせたのかと。そんな疑念が顔に出ていたのか、それを払拭させるような満面の笑みでシリカは声をあげた。

「実は、肉まんの材料にいいモンスターがいるって情報を聞いたんですけど、一緒に行ってみてくれませんか?」

「最初からそういう魂胆か」

「いや、まあ……えへへ」


 ……残念ながら、断る理由もなく。シリカの誘導にしたがってショウキとプレミアは浮遊城を降り、サラマンダー領にほど近い火山脈……の近くへと降り立っていた。たまに連れていくことがあるとはいえ、自力で飛ぶことが出来ないプレミアには、浮遊城以外の景色はやはり珍しいらしく。興味深そうに辺りを見渡すので、シリカに頼んで近くで降りさせてもらっていた。

 ……決してプレミアを抱えて飛んでいる時に、シリカから感じる犯罪者を見るような視線に耐えられなくなった訳ではなく。

「こういった光景はあまり見られません。つまり、興味深いです」

「……そういえば、連れてきちゃったけど、プレミアちゃんは戦えるんですか?」

「アルゴと閃光師匠に鍛えられたので、バッチリです。と言いたいところですが、わたしは飛べないので少し厳しいです」

 アインクラッドではあまり見られない火山地帯を、額に汗しながらも興味深く見つめるプレミアに、シリカが今更ながらのことを聞く。アスナたちの指示もあって、プレミアの戦闘技術はそこそこといったところだが、やはり飛べないというのはこの《ALO》において、少しどころではないハンデとなってしまう。

「うーん……ごめんね、無理やり連れてきちゃって……」

「いえ。置いていかれる方が辛いです。それに、シリカは『なかま』ですから」

「……仲間?」

 今回シリカから聞いてきたターゲットは、空中を自由自在に飛翔するような敵ではないため、どうにかなるとは思うが。それにプレミアが言った通りに、置いていったともなれば後が怖い――とまでショウキが考えたところで、プレミアの言葉に少しの違和感を感じて。

「ぷ、プレミアちゃん、それは……」

「はい。よく分かりませんが、シリカとわたしは特別な『なかま』だそうです。そんな『なかま』の頼みごとです」

 特別な仲間。シリカはプレミアの言葉を止めようとした。プレミアは自らのの言葉に胸を張っている。そこから導き出される、他のメンバー――とりわけ女性陣とは違う、シリカとプレミアの共通点とは。よせばいいのにそこまで考えてしまったショウキに、ある共通点が閃いてしまう。

「……ショウキさん?」

「……なんだ?」

「いいえ、なんでも」

「それにあの『にくまん』がさらに美味しくなるのには、期待に胸が膨らみます。つまりわたしは今、ショウキの好みの『巨乳』になって」

「――よし! さっさと目標を倒そう!」

 無理やりにでも話を打ち切ってしまったが、シリカからショウキに向けられる視線は、残念ながらもう冷たくなってしまっていた。ショウキの好みの――だとか、今更ながらプレミアの学習機能はどうなっているのか、と誰だかに小一時間ほど問い詰めたい気持ちになったショウキだったが、あいにくとそんな相手はおらず。

「はい。早く肉まんをさらに美味しくしましょう」

 そうして気合い充分のプレミアとともに、 ……のいる火山地帯へと歩みを進めていく。低空を飛ぶピナの誘導に従い、ターゲット以外のモンスターとはかち合わないように注意しながら歩きつつ、プレミアは普段着の上に装甲を装備する。あいにく軽装鎧とはいえ、ショウキの新しいアバターの筋力値では、装甲をつけたままのプレミアを抱えられないために、現地での装備となってしまう。

 ……口が裂けても重いなどとは言えないように、しっかりとリズに教育された話はともかく。プレミアもプレミアで、何故だがショウキ以外にはあまり抱えられたがらないため、最近はショウキも筋力値を上げるべきか真剣に悩んでいたりする。

「……暑いです」

「ほら」

「ありがとうございます。暑いというのは、つまり、つらいです」

「いました!」

 慣れない火山地帯という場所の熱気、隠密のために飛行も出来ない強行軍。それらの要素に、軽装鎧とはいえ金属系のプレミアには辛いようで、見たこともないほど汗が滴っている。軽装のシリカや簡素な初期装備のショウキには、ただストレージにしまった冷えた水をわけてやることしか出来ず。とはいえその苦労は無駄ではなかったらしく、ピナからの合図を受けたシリカが山の中腹にいるモンスターを指差した。

「アレか……」

 ターゲットの印象を簡単に言ってしまえば、地を這うドラゴン。翼が飛行に耐えられないほど退化した代償として、強靭な四足の手足を手にいれており、その巨体をびっしりと生半可な刃を通さない鱗が被っている。ただし翼がないせいか動きが鈍く、典型的なパワーファイターとでも呼ぶべきだろうか。

「シリカ、どうする?」

「えっ……わたしですか!?」

 幸いなことに気づかれてはいない。攻略の情報でも持っているかと、ショウキはシリカに聞いてはみたが、反応からするにあまり頼りにはならなさそうだ。

「はい。シリカです」

「……そうですよね。誘ったのはわたしなんですから、プレミアちゃんの見本になるためにも、わたしが率先しないと!」

「……そうだな」

 別にショウキもそこまで言ったつもりはなく、プレミアにすれば「あなたはシリカです」といった意味の言葉だろうが、まあやる気になったならば何も構うまい。リズといいユイといい今のシリカといい、彼女たちには姉になりたいという願望でもあり、プレミアはそれを刺激でもするのだろうか――などと、どうでもいい考えをショウキは頭から払う。

「倒せなくても、欲しいのは尻尾だけです。ショウキさん、斬れますか?」

「……難しいな。戦闘中じゃ無理かもしれない」

 忘れがちになってしまったが、欲しいのは肉まんの材料となる部位――尻尾だけだ。もちろん倒せれば尻尾ごといただけるだろうが、あいにくと三人とピナで戦うのは少しばかりキツい相手になりそうだ。

「わたしが足を突きます。動きを封じられるかと」

「プレミアちゃん!? 相手、堅そうですけど……大丈夫ですか……?」

「こう見えてプレミアの師匠はアスナだぞ」

「……すごい説得力です」

 実際の戦闘力はともかくとして、細剣の鋭い一撃のみを見るならばプレミアは一流だ。それは試し切りの相手にされたショウキが一番よく分かっているし、他ならぬ本人が出来ると言っているのならば、可能ということだろう。確かに片足でも行動不能にすることが出来れば、尻尾を切断できる確率はぐんと上がる。

「よし……なら、わたしが囮になります! その間にプレミアちゃんは足を、ショウキさんは尻尾をお願いします!」

「シリカは大丈夫ですか?」

「ありがとね、プレミアちゃん。大丈夫だから!」

 そんな保有戦力を加味してリーダーことシリカが出した結論は、自らを囮にすることだった。プレミアからの心配そうな声に胸を張ると、シリカは残る二人へと攻撃力アップの支援魔法をかけて。崖の下にいるドラゴンに対して、ようやく攻撃を仕掛ける準備が整った。

「ピナはプレミアちゃんを助けてあげてね。それじゃあ、いきますよ!」

 危険な囮にピナを巻き込むわけにはいかなかったからか、それともプレミアが心配だったからか、もしくはその両方か。シリカは相棒であるピナをプレミアに預けると、地を這うドラゴンに見えるように崖から飛び出した。特に挑発のスキルといったものを使ったわけではないが、幸いなことにドラゴンの視界に映ったらしく、強烈な炎のブレスがシリカに向けられた。

「ひゃぁっ!」

「ショウキ、早く行きましょう」

「……待て」

 初撃のブレスは距離を取っていたおかげで避けられたものの、シリカの飛行技術はお世辞にもあまり上手いとは言えない。しかも今のブレス攻撃を灯火としたかのように他のモンスターもシリカに気付いたために、悪いがピナのいないシリカにはあまり時間を稼ぐことは出来ないだろう。

「ですがシリカが危ないです」

「それでもだ」

 だからといって、タイミングを間違えてしまえば、それこそシリカの努力が無駄になってしまう。囮役の苦労はよく分かっているつもりだったショウキは、急かすプレミアをどうにかしてなだめて気をうかがいつつ、飛べない彼女がすぐさま移動できるように抱きかかえて。

「……よし、行くぞ!」

「はい!」

 威嚇の意味だったファイアブレスを放ったにもかかわらず、飛び去ろうとしないシリカに業を煮やしたのか、ドラゴンは遂に重い腰をあげる。定位置から動き出したドラゴンを見た瞬間、その背後からショウキはプレミアを抱えたまま地表すれすれを飛翔した。そうして気合い充分のまま抱えられたプレミアを投げるように放つと、細剣による閃光仕込みの突きが予告通りにドラゴンを貫いた。

「今だ!」

 苦悶の声をあげながら倒れ伏したドラゴンの隙を突いて、ショウキも自らの役割を果たさんと、OSSで出現させた日本刀で竜の尾の先端を抜刀術にて斬り裂いた。斬り裂かれた尻尾は中空を舞っていき、いつの間にやらドラゴンの直上にいたシリカが見事にキャッチする。とはいえキャリバーの頃のキリトのように、まだ自らのものになっていないために、アイテムボックスにしまうことは出来ずにいて。

「ショウキさん! ナイスでしたけどお願いします!」

「プレミア! 逃げるぞ!」

 今も小型の翼竜に追われているシリカには、その尻尾を持って逃げることは不可能であり、すぐさま放り投げたものをショウキが拾って。長居は無用とプレミアに声をかけた時に見たものは。

「プレミア!」

 足を一つ潰したことによってすっかりとヘイトが溜まり、ドラゴンに狙われているプレミアの姿だった。動きは鈍重なものの炎を放つ首はプレミアをしっかりと見据えており、プレミアもショウキの方へ向かって逃げてはいるものの、間に合うかどうかはギリギリのタイミングだ。

 ショウキが取れる手段は三つ。急いでプレミアを回収して飛び立つか、新たな武器を取り出してドラゴンのヘイトをこちらに向けるか、ファイアブレスを防げる大きな盾でも投げてプレミアに使わせるか。ただし迷っている暇はない――とショウキは思考を高速で回すと、もう一つの選択肢を選んで声をあげた。

「ピナ! 頼む!」

 プレミアに同行しているピナに叫ぶとともに、ドラゴンからファイアブレスが放たれた。それは少女をいた場所ごと焼き尽くす程度は容易い威力であり、事実としてそこにプレミアの姿はどこにもなかった。

 彼女がいたのは――空。

「わたし、飛んでます」

 ピナがプレミアの身体を掴んで飛んでおり、一見するとプレミアの身体に蒼い翼が生えているかのようだった。小さいプレミアだからこその荒業だったが、流石にピナも無理をしたようで、すぐに高度が下がっていく。

「よっと。プレミア、これ持っててくれ」

「はい。それと、ありがとうございます。ピナ」

『ピィ……』

 ただしドラゴンの次なる攻撃が来るより早く、一匹と一人の高度が下がってきていたところを回収したショウキは、すぐさまドラゴンのブレスが届かない細道へと逃げ込んだ。尻尾はプレミアに預けつつ、そのプレミアに加えて疲れたピナを抱えているため、まったくといっていいほどスピードはでなかったが。まあそこは、シリカの囮とショウキの逃げ経験が上手く働いた。

「ショウキ。飛ぶというのは気持ちいいんですね」

「……それなら、今もそうなんじゃないのか」

「いえ。確かにショウキと一緒に飛ぶのは好きなのですが、それとは違いました。あれがリーファの言う『風を感じる』というものなのでしょうか」

「ああ……」

 確かに落とさないように大事に抱えられている今と、少しだけだったとはいえピナを翼に飛んだのでは、風の当たり具合も違うだろうとショウキは納得しつつ。とはいえそれと同時に、プレミアに翼はなく、いつもピナに飛ばせてもらうわけにもいかず頭を悩ませて。

「今度、アルゴにでも聞いてみるか」

「はい。アルゴならなんでも知っているはずです」

 プレミアが飛ぶ方法、おいくら程になるか――という言葉をプレミアに聞かせるわけにもいかず、ショウキはすんでのところで飲み込んで。ただしアルゴも例にもれずプレミアに甘いため、プレミアのためのプレミアのお願いともなれば、もしかしたら……などと思いつつ。


「お疲れ様です!」

「いいえ。今来たところですので」

「使い方が……あってるような、あってないような」

 それから無事に脱出に成功すると、待ち合わせ場所としていた打ち合わせていた町に、ショウキたちはたどり着いていた。そこの一室を借りて待っていると、かわいらしいエプロン姿のシリカが、それに似合わない肉まんを作る蒸し器を持って合流する。少し手間取りはしたようだが、彼女も無事に逃げおおせたらしい。

「ほら、これ」

「ありがとうございます……では、今から力いっぱい作りますから! 待っていてくださいね」

 まずは今回の目的だったドラゴンの尻尾をトレードすると。シリカは大事そうに蒸し器を抱えながら、わざわざショウキたちに背中を向けながら、こちらからは見えないように調理を始めていく。恥ずかしいからか、楽しみをとっておきたいからか、ゆらゆらと揺れる猫妖精特有の尻尾を眺めつつ、ショウキたちは肉まんの完成を待つしかない。

「何か手伝えることはありますか?」

「よければ、ピナの面倒を見ててくれれば」

「それならバッチリです。ピナとはすっかりお友達です」

「……しかし、どうしていきなり肉まんなんだ? アスナにでも憧れたか?」

「うーん……当たらずとも遠からず、です」

 小動物と戯れるプレミアを尻目にしつつ、ふとショウキも、気になっていたことをシリカに聞いてみると。背後からでもシリカが苦笑したことが分かる、微妙な答えが返ってきていた。

「言いたくないなら……」

「あ、いや、別にそういうことじゃないんです。アスナさんももちろんですけど、この肉まんはどっちかっていうと、リズさんへの憧れなんです」

「リズの?」

「あのですね。ショウキさんは麻痺してるかもしれないですけど、店を出すって凄いことなんですよ?」

 こと料理に関しては話題がでないだろうと思っていた彼女の名前を聞いて、ショウキは不覚にもすっとんきょうな声を出してしまう。とはいえ料理のことではなく店のこととなれば、リズのことだと合点がいって、シリカのやりたいことまで察することが出来た。

「……それで、店を出してみたいって?」

「えへへ……恥ずかしながら……」

 エギルさんにもちょっとしたアドバイスをしてもらってるんですよ――と、嬉しそうな声をもらすシリカを見るに、どうやらショウキが察した答えは正解だったらしい。店という出店、屋台といったレベルの代物であれば、少し稼げるプレイヤーならば充分に開業が可能だ。もちろん、その店が流行るかどうかは別問題だが。

「おいしそうな匂いがします……」

「さすがプレミアちゃん。もう出来るから……ねっと」

 そんな肉まん屋台の主戦力。ドラゴンの尻尾を作った肉まんが完成した……と察したようで、今までピナと遊んでいたプレミアが、ピクリとそちらに反応する。とはいえプレミアの食べ物に関する嗅覚は侮れるものではなく、事実、シリカが蒸し器をショウキたちの目の前の机に乗せた。

「そういうわけで、これがわたしの店の主力商品予定のドラゴン肉まん……《ドラまん》です!」

「おお……!」

 そうして現れた《ドラまん》は、苦労してきた甲斐もあった贔屓目でもあるだろうが、先に作ってもらった肉まんとはまるで違うものだった。蓋を開けた瞬間に分かる、黄金色に輝くかのようなソレに、ショウキはつい感嘆の声を漏らしてしまう。シリカが慣れない手つきでそれぞれ四人分の小皿に盛りつけ自身も座席について、食事の準備は完璧なものとなって。

「では、いただきましょう!」

「いただきます」

 シェフの許可を得たショウキたちは、我先にと肉まん……もとい《ドラまん》にかじりついた。
 
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