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戦国異伝供書

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第五話 岐阜の城からその九

「それが、ですか」
「出るのじゃ。あ奴は子供の頃からそうだった」
「律儀で謙虚で」
「それで助けようと言ってもな」
「断られてですか」
「自分でことを果たそうとするのじゃ」
「そして今も」
 帰蝶はまた信長に問うた。
「そうされていますか」
「うむ、しかし武田は強大じゃ」
 家康の前にいるこの家はというのだ。
「甲斐、信濃にな」
「上野にも兵を進めていましたね」
「そして駿河を手に入れ遠江の一部も手に入れた」
「天下でもかなりの勢力ですね」
「二百万石を優に超える。二百四十万石はある」
 そこまでの勢力になったというのだ。
「対する竹千代は五十万石」
「それでは」
「厳しい、ましてわしはあ奴を捨て石にするつもりはない」
「では」
「何かあれば竹千代が何と言ってもな」
「兵をですね」
「わしが自ら率いてじゃ」
 そうしてというのだ。
「助けに行く」
「そうされますか」
「うむ」
 帰蝶に対して強い声で答えた。
「その時はな」
「そうされますか」
「徳川家は当家の盾になってくれておる」
 武田家へのそれだというのだ、徳川家はまさに織田家から見て武田家へのそれになっているのだ。信長もこのことは常に頭に入れている。
「そして何かあれば助けてくれる」
「浅井殿と共に」
「上洛の時も助かった、だからな」
「徳川家は」
「何があっても見捨てぬ、無論浅井家もじゃ」
 この家もというのだ。
「当家にとって盟友じゃ、だからな」
「あの二つの家を助けていきますか」
「そうしていく、それでじゃが」
「はい、これからはですね」
「もう疲れた、今宵は寝るぞ」
「そうされますね」
「しかし酒は飲まぬぞ」
 それはとだ、信長は妻に笑って言った。
「いつも通りな」
「そちらはですね」
「よいわ、どうしてもな」
 酒はというのだ。
「飲めぬからな」
「今もですね」
「昔から小さな杯一杯飲んでじゃ」
「それで終わりですね」
「当家も飲む者は多いが」
 しかしというのだ。
「わしはな」
「今もですね」
「飲むことは出来ん」
 とかく信長は酒については駄目だ、飲むことが出来ないのだ。このことは天下人とまで飲まれる様になった今でもだ。
「甘いものはともかくな」
「お酒はですね」
「よい、ではな」
「このまま寝て」
「朝にはな」
「早く起きられて」
「また一日のはじまりじゃ」
 こう言ってだ、信長は帰蝶と共に床に入った。そして翌朝にはだった。
 朝早く起きた、そうして鍛錬から朝食を摂り政に入った。その政の場で彼は石田にこう言われていた。 
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