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大阪の産女

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第二章

「力かな」
「そうなんです、実は僕下半身はともかくとして」
「上半身の力がだね」
「昔から弱くて」
「そういえばあんた握力とかね」
 早希もここでこのことに気付いた。
「ないわね」
「そうだよね」
「ええ、昔からね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「腕全体、そして胸とかの筋力も持続力もね」
「弱いっていうのね」
「足腰は確かに自信があるけれど」
 高校時代から今までその強靭な足腰が評判だった、それが彼の無尽蔵のスタミナと安定したコントロールを生み出していた。
 しかしだ、野球もっと言えばスポーツは上半身も重要でだ、
「野球部でもね」
「あんた上半身の方はなの」
「今一つでね。そのせいかピッチャーとしては二番手で」
「リーグのドラフトにも落ちたのね」
「そうなったから」
 それで球場の職員として就職したのだ、選手としてでなく職員として野球に携わった仕事がしたいと希望してだ。
「だからね」
「不安なのね」
「重い器具とか一人で運べるかな」
「大丈夫でしょ。普通の人よりも上半身強いから」
 幾ら野球選手としては弱くとも、というのだ。
「だからね」
「だといいけれどね」
「しかしマー君は凄い上半身だけれど」
 真一はメジャーで活躍している田中将大の話をした。
「彼みたいにはならなかったのかな」
「トレーニングはしていました」
 洋平はこう夫に話した。
「食事も考えて」
「そうしてだね」
「何とかって思ったんですが」
「下半身は強くてもだね」
「結局上半身は思う様になりませんでした」
 その様に強くならなかったというのだ。
「どうにも」92
「そうなんだね」
「筋肉の付き方も個人差がありまして」
「同じトレーニングを積んでもだね」
「筋肉がつく人もいれば」
「つかない人もいるんだ」
「僕は下半身はつきやすいですが」
 それでもというのだ。
「上半身はどうも」
「つきにくくてだね」
「それでなんです」
 こう困った顔で言うのだった。
「今もです」
「そちらの筋肉はつかなくて」
「今も不安なんです」
「難しい問題だね」
「トレーニングは続けていきますけれど」
 就職してもとだ、洋平は好物の一つである茹で卵を食べつつ話した。他には冷ややっこやトーストチキン、ポテトサラダにマカロニのミートソースと早希は洋平の好物を揃えている。ただし洋平はビールではなく酒は健康にいいというワインである。色は赤だ。
「それでも」
「どうしてもなんだ」
「上半身だけは」
「どうしてもなんだね」
「はい、ただ肩や腕、胸が」
「弱いんだ」
「あと握力もどうも」
 こうした場所はというのだ。
「腹筋や背筋は大丈夫ですが」
「あんた本当に下半身偏重なのね」
 早希も弟の話からこのことを実感した。
「また極端な体質ね」
「うん、昔から上半身は思うさまにだったけれど」
「大学に入ってからも」
「だから大学野球で思う様に伸びなくて」
 高校野球で大活躍をし大学入試の推薦まで貰ったがだ。 
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