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戦国異伝供書

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第三話 万石取りその十

「これからも」
「いけませぬか」
「お主この前わしの似顔絵を描いたな」
「あのことですか」
「雷親父だのと言ってのう」
「いやあ、平手殿とどちらがと思いましたが」
「わしとて何もせねば怒らぬわ」
 慶次がというのだ。
「最初からな」
「左様でありますか」
「お主が悪戯ばかりするからじゃ」
 それでというのだ。
「わしも怒るのじゃ」
「ううむ、子供の頃からですなあ」
「お主が子供の頃から変わらぬからじゃ」
「そうじゃ、お主は悪戯を止めよ」
 実は織田家一の雷親父である柴田も言ってきた。
「さもないとまた拳骨を浴びせるぞ」
「それがしの頭に」
「そうするぞ」
 こう言うのだった。
「よいな」
「柴田殿の拳骨は痛いですぞ」
「痛い様にしておる、まあとにかく酒じゃな」
「はい、飲みましょうぞ」
「それではな」
 こうして信長に話して宴を許してもらった、信長も場に出たが彼は酒は飲めないので茶を飲んでいた。
 その信長を見てだった、新しく織田家の家臣となった者のうちの一人である明智光秀がこんなことを言った。
「殿はどうも」
「はい、実はです」
 その明智に羽柴が話した。
「殿は酒が駄目でして」
「それで、ですか」
「宴の時はです」
「あの様に水や茶をですか」
「口にされています」
 酒ではなくそうしたものをというのだ。
「そうされています」
「そうでしたか」
「はい、ただ我等がこうして飲んでいましても」
「何も言われませぬか」
「飲みたい者は飲めと」
 酒、それをというのだ。
「そう言われて」
「そうしてですか」
「存分に楽しまれよと言って下さるのです」
「有り難いですな、では」
「はい、我等はこのまま」
「酒を飲めばいいですな」
「そうなります。それでなのですが」
 羽柴は明智にさらに言った。
「明智殿は丹波に行かれていましたが」
「ああ、あの時のことですか」
「はい、あちらでは大層活躍されたとか」
 この話をするのだった。
「そう聞いていますが」
「いえ、それは」
「大したことではないと」
「はい、むしろ丹羽殿がです」
 丹波、丹後、但馬の三国の平定を任され果たした彼の方がというのだ。
「素晴らしかったです」
「いやいや、聞いておりますので」
 羽柴は謙遜する明智に笑って応えた。
「きっとこの功はです」
「認められてですか」
「明智殿もかなりのご身分になられますぞ」
「それがしは新参者ですが」
 織田家の中ではというのだ。
「それでもですか」
「はい、必ずです」
 そこはと返す羽柴だった。
「殿は功に見合ったものを下さる方なので」
「それで、ですか」
「このことはです」
 まさにというのだ。
「ご安心下さい、そして」
「そして?」
「明智殿も母君がおられますか」
「はい、それがしをこれまで何よりも大事にして下さって」
 そうしてとだ、明智は羽柴に確かな声で話した。 
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