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戦国異伝供書

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第三話 万石取りその九

「相当ではないか」
「ははは、それがし戦がないとです」
「何もすることがないからか」
「ついつい飲んでしまいまする」
 実際に戦がない時の慶次は武芸の鍛錬をするか詩文を読むか酒や女で遊ぶかだ。そうした風狂な日々を過ごしているのだ。
「何しろ政はからっきしなので」
「だからだな」
「はい、戦がないと」
 まことにというのだ。
「そうした日々ですな」
「それでじゃな」
「今もです」
「そうして飲んでか」
「楽しみたいのですが」
「わかっておる、しかしじゃ」
 ここで林が慶次にも言った。
「殿はこうしたことは快諾して下さる方じゃが」
「乱れることはですな」
「ない様にな、我等も天下人の家の家臣となりじゃ」
 そしてというのだ。
「多くの者が万石や何千石と貰う様になるしのう」
「ではそれがしも」
「お主も槍働きがあるからのう」 
 それでとだ、林は慶次に話した。
「やはりな」
「それなりの禄がですか」
「貰える、だからな」
「その禄に相応しい振る舞いをですか」
「お主もせよ」
 こう言うのだった。
「よいな」
「それでは」
「うむ、そしてじゃ」
 さらに話す林だった。
「お主も飲んでもな」
「乱れずにですな」
「その様にせよ」
「わかり申した、ただどうも」
「どうも。何じゃ」
「いや、殿が天下人になられることは嬉しいですが」
 それでもと言う慶次だった。
「それがしが好き勝手出来ぬのは」
「そのことはか」
「困りますな」
「困るも何もじゃ」 
 それでもと言う林だった。
「それ位のことはじゃ」
「出来ねばなりませぬか」
「そうじゃ、立場が出来たのじゃ」
 それならばというのだ。
「それに相応しい振る舞いもせよ、よいな」
「それがしにしても」
「何時までも悪戯小僧ではないぞ」
 林にとって慶次はそうした者だ、だから言うのだった。
「傾くにしてもな」
「それはよいのですか」
「駄目と言って止めるか」
「いえ」
 そう言われると慶次もすぐに否定した。
「それがしは今も悪戯が大好きですからな」
「全く、お主は変わらぬのう」
「子供のままだと」
「又左は万石持ちになったのだぞ」
 慶次から見て叔父である彼のことも話した、林はここでその前田を見ている。
「そしてお主も千石だな」
「それだけ頂いています」
「この度の上洛からのことで織田家はさらに大きくなった」
 慶次が千石取りとなった美濃を手中に収めた時と比べてというのだ。
「それならばな」
「千石取りに相応しくですか」
「自重せよ」
 千石といえばかなりの禄で身分もそれに伴う、だからだというのだ。
「お主はよりな」
「ううむ、そう言われてもそれがしは」
「傾き続けてか」
「はい、悪戯の方も」
「していくか」
 慶次を見つつだ、林は問うた。 
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