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提督はBarにいる。

作者:ごません
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夏だ!暑いぞ!冷麺だ!

「冷麺だよ、司令官」

「何だよオイ、藪から棒に」

 暑さも厳しくなってきた7月の中頃、寝苦しい睡眠時間から解放された俺にその日の秘書艦当番のヴェールヌイが詰め寄ってきた。

「何って、お昼のリクエストさ」

「あぁん?」

 幾ら寝苦しかったとはいえ、寝起きはそんなに悪くない方だ。思考もハッキリしている。それでも、意味がわからない。ちなみにだが、俺の寝室はエアコン完備だ。それでも寝苦しかったのは金剛と榛名に挟まれて寝ていたからだ。理由?察しろ。

「だから、昨日の夜テレビでやっていたんだ。冷麺の特集を」

 どうやらテレビで冷麺を紹介しており、それを見ていたらどうしても食べたくなってしまったらしい。何というか、そういう所は見た目通りにお子様っぽいな。

「む、何か失礼な事を考えてないかい?司令官」

「いや、別に?まぁ、ちょうど昼飯時だしなぁ。ちょっくら作ってみるか」

 確か知り合いが送ってきた盛岡冷麺の麺とスープがあったハズだ。

「4人前、頼むよ」

 ……………はい!?





「オイ待て、お前4人前も食うのか!?」

「バカな事を言わないでくれ、司令官。私がそんなに食べられるように見えるかい?」

「いや、そうは見えねぇが……」

「暁と雷、電の分に決まってるじゃないか」

 何をバカな事を、とさも当然のように言ってるが。おかしいのはお前の頭の中身だぞ。ハッピーセットか。

「あのなぁ、俺の店はアフター5からなの。解るか?昼飯作るのはあくまで俺の昼飯だ、秘書艦の奴にも食わせたりはするが、他の連中にまで作り出したらキリがない」

「そう、か……。ダメだそうだよ姉さん、諦めて?」

「えっ?」

 ドアの方を見ると、この世の終わりとでも言いたげな『絶望』した顔の暁が立っていた。目をウルウルさせながら、身体をプルプル震わせている。

「そ、そうよね……しれいかん、おしごとのとちゅうだものね。あ、あかちゅきはれでぃーだから、それくらいはが、かまんできゆんらから!」

 いや、ボロボロ大粒の涙流しながらおもっくそカミカミで言われても説得力が皆無なんだが。恐らくだが、執務室の外には雷と電も控えてるんだろうな、このパターンからすると。

「あ~……ったく」

 面倒臭ぇなぁと思いつつ、頭をバリバリと掻く。

「特別だぞ?他の奴には内緒にしとけ」

 俺がそう言った瞬間、ぱあぁっと暁の泣き顔が笑顔に変わる。

「あ、提督冷麺もう1人前追加で」

 そう言って手を挙げているのは大淀の奴だ。

「いや、何でだよ」

「あら?私にも口止め料が必要だと思いませんか?」

 その顔は勝利を確信して、ニヤニヤ笑っている。あぁそうだよ、お前はそう言う奴だったな腹黒眼鏡。

「ちゃっかりしてやがるぜ、ったく」

「その位でないとココじゃやってけませんからね」

「あぁそうかい」

 どや顔すんな、クソッタレが。んじゃま、手早く作っちまうか。執務室をいつものカウンターバーセットに変えて、寸胴鍋に湯を沸かす。貰い物の盛岡冷麺セットから麺を取り出して湯がく。その間に具材の準備をしておき、スープを水で溶いて冷蔵庫で冷やしておく。麺が茹で上がったら流水できっちりと〆て、水気を切り、丼に入れたらスープをかける。具材を乗せて、仕上げにゴマを振れば……

「出来たぞ~……って、うぉ!?お前らいつの間に」

 そこには、箸を持って準備万端整えた第六駆逐隊と大淀がスタンバイしていた。

「えへへ……待ちきれなかったのよ!」

「なのです!」

 はぁ……ウチの連中らしいというか、何というか。まぁいいか。

「ほらよ、冷麺お待ち」

 出した途端に喜んでがっつくかと思いきや、4人とも器を凝視したまま固まっている。ズルズルと美味そうに啜っているのは大淀だけだ。

「ん、どした?」

「……司令官、これ冷麺なのよね?」

 怪訝な顔つきで、雷が尋ねてくる。

「そうだが?俺の故郷……からはちと遠いが、同じ県内の名物・盛岡冷麺だ」

「テレビでやってた冷麺と全然違うのです」

 な、ナンダッテー!?(棒読み)




「やっぱり!?何か麺が黄色いし、果物乗ってるし、変だと思ったのよ!」

 と、暁が続く。麺が黄色い?いや、冷麺の麺は黄色いモンだろ?

「これは妙だね……」

 ヴェールヌイこと響も首を傾げている。う~ん、麺が黄色くない冷麺なぁ……。あ、もしかして?

「なぁお前ら、その冷麺を紹介してたテレビ番組って、もしかして温泉がメインの番組じゃなかったか?」

「え?そうなのです、それがどうかしたのですか?」

 成る程、謎が解けたぜ。

「そりゃお前、盛岡冷麺じゃなくて別府冷麺だな。同じ朝鮮半島の冷麺を元にした料理だが、中身は全くの別物だ」

 実は九州有数の温泉の街・別府にも名物の冷麺がある。しかし、同じく『冷麺』の名を冠していても、盛岡冷麺と別府冷麺は全く別物の料理と言っていい。

《盛岡冷麺の特徴》

・麺の主原料は小麦粉と片栗粉(ジャガイモ澱粉)

・練った生地を切るのではなく押し出し器で麺にするので、その過程で高温になり、独特のツルツルシコシコ食感になる。

・スープは牛骨ベース。

・定番のトッピングはチャーシュー、塩揉みしたキュウリ(輪切り)、大根のキムチ(カクテキ)、ゴマ。

・口直しに水気の多い果物が乗る。(スイカ、梨など)



《別府冷麺の特徴》

・麺は小麦粉、澱粉、蕎麦粉を合わせた物がメジャー。なので麺が茶色がかった物になる。

・スープは魚介ベースの和風テイスト。冷麺のスープというより蕎麦やあっさり系のラーメンに近い。

・具はチャーシュー、玉子、茹でた鶏肉、キムチ、刻みネギ、ゴマなど。

・大きく分けると焼肉屋系と専門店系の2パターンがあり、専門店系はモチモチした太麺にキャベツのキムチが乗り、焼肉屋系だとツルツルの中細麺に白菜キムチが乗る。

・専門店や焼肉屋だけでなく、居酒屋やラーメン屋にもメニューがある程度には浸透している。



「……とまぁ、同じく冷麺でも地域によって全然違うってワケだ」

「成る程ねぇ……ま、これはこれで美味しいけどね?」

 ようやく納得が言ったのか、ズルズルと啜り始める暁達。

「でも、そうやって聞くと別府冷麺も食べてみて、食べ比べしてみたいわよねぇ……」

「なら、今年の夏休みは皆で別府に温泉旅行に行くのです!」

「ハラショー、それは名案だ」

「良いわねぇ、温泉に浸かって、美味しい物食べて……」

 おいおい、気が早いぞお前ら。

「ところで、司令官は今年の夏休みどうするの?」

「俺?あ~……実はもう予定があってな。20年以上も実家に帰ってなかったら、『一度くらい顔見せに来い』ってお袋から電話が来てよ」

「じゃあ、司令官は里帰りするの?」

「まぁ、そうなるな」

 嫁が出来た事も報告せにゃならんし、爺ちゃんの墓参りもしたいしな。

「金剛さんの他に、誰か連れていくのかい?」

「とりあえず、5人位かな。俺も含めて7人位で1週間を予定してる」

 それを聞き付けた青葉が俺の里帰りの話を記事にして、提督の護衛争奪戦が勃発したのは、また別の話。

 
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