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デート・ア・ライブ〜崇宮暁夜の物語〜

作者:瑠璃色
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兎を狩る獣


空間震警報により市民の避難が完了した頃、暁夜と折紙は出撃準備を済ませ、燎子率いるAST本隊との合流のために雨の降る灰色の空の下を飛んでいた。

「昨日も雨だったけど、今日も雨か?」

「それはおかしい。天気予報には晴れとなっていたはず」

「あー、確かに朝は晴天だったもんなぁ。ってか今回の討滅対象ってどんな精霊(やつ)?」

淡い青の光を纏わせながら暁夜は、CRユニットを装備した折紙に尋ねる。それに対し、通信機でオペレーターに繋げてしばし話した後、

「今回の対象は識別名《ハーミット》」

折紙がそう答える。

「それなら納得だわ。雨が降んのも」

「《プリンセス》よりも楽な仕事。早く済ませて、シャワー浴びたい」

「ほんとそれ。二日連続びしょ濡れはキツい。明日は替えの制服だな、これは」

雨により水を吸いすぎて重い制服の感触に不快感を味わいながら、暁夜は呟く。

「さて、もう少しスピード上げるか。じゃないと--」

グンっとスピードをあげる瞬間、通信機のスイッチが入る音がし、

『あんたら、早く来なさい!遅いのよ毎回毎回!!』

燎子の怒鳴る声が響いてきた。

「いいタイミングっすね、日下部隊長」

『いいタイミングっすね、じゃないわよ! 分かってんなら、早くしなさい! 今、こっちは大変なのよ!』

「大変? なんか問題でも起こったんですか?」

焦った声で怒鳴る燎子に尋ねる。

『ええ、新しく配属されたあんたの元上司が独断で《ハーミット》のいるデパートに突入しちゃったのよ』

「は? それマジですか?」

『マジよ』

「い、今すぐ足止めに向かってください! 俺も急いで向かうんで、それまでリンレイ先輩を《ハーミット》に近づかせないでください!」

暁夜は、最悪だ。と胸中で毒づいて、燎子にそうお願いする。

『ちょっと、どういうことよ?』

「いいから早く! あの人を止めないと手遅れに--」

ザーザー

と砂嵐のようなものが突然、耳に響いた。暁夜は大きく舌打ちして、

「遅かったか。スピード上げるぞ、折紙!」

腰に取り付けられた(スキャパード)にある加速装置に触れ、スピードを上げる。それに合わせるように折紙も飛行速度を上げた。

(間に合ってくれ!)

暁夜は、燎子達が無事なのを祈りながら、デパートへと向かった。



燎子が暁夜に通信を繋いでいる頃。

「〜~~♪」

白銀の機械鎧(オートメイル)に、精霊の血と霊力を糧に威力が増幅する対精霊レーザーブレード<クラレント>を主武装とする近接特化型CRユニット<モルドレッド>を装着した美少女、リンレイ・S・モーガンは鼻歌を交えながら、デパートの中を歩いていた。

「久しぶりのお仕事だから、楽しまないとね♪」

<クラレント>をクルクルと回しながら、ツカツカと歩く。《ハーミット》の現在位置は霊波で分かっているため、迷うことはない。

「それにしても、今回の討滅対象が《ハーミット》なんてガッカリだよねー。どうせなら、《ナイトメア》辺りが来てくれると私的には嬉しいんだけどな〜」

そんな事を告げながら、階段を上っていく。やがて、子供向けのジャングルジムなどが設置された玩具コーナーのある階で足を止め、相変わらず鼻歌を交えながら、玩具コーナーの中で一際目立つジャングルジムに向かう。薄暗いため、少しの警戒も解くことの出来ない状況にいる中、声が聞こえた。

『別に十香ちゃんが悪いって言ってるわけじゃないのよぅ?たぁだぁ、十香ちゃんを捨ててよしのんの下に走っちゃった士道くんを責めることもできないっていうかぁ』

「う、うるさい!黙れ黙れ黙れぇっ!駄目なのだ!そんなのは駄目なのだ!」

「落ち着けって、十香!!」

陽気な声と少し困ったような声。片方は聞き覚えがある。がもう二人の声だけは聞き覚えがない。

「《ハーミット》と、あと二人は・・・」


リンレイは声のする方へと向かう。暫くして、声の居所である三人を見つける。

一人は、ウサギの耳のような飾りのついたフードを被った、青い髪の少女だ。歳は十三、四だろうか。大きめのコートに、不思議な材質のインナーを着ている。そしてその左手には、コミカルな意匠の施された、ウサギの人形(パペット)を装着していた。

もう一人は、青髪に童顔の青年だ。歳は十六、七だろうか。 来禅高校の制服を着ている。

さらにもう一人は、長い黒髪をポニーテイルに結い上げた少女で、青年と同じ来禅高校の制服を着ていた。

(・・・あの少年、暁夜君に似てる)

リンレイは青髪に童顔の青年の顔や髪色などを見てそんな感想を抱いた。髪色は暁夜よりも濃いが、顔立ちといい、雰囲気がとても似ていた。

「君達は・・・なんで精霊といるの?」

穏やかな表情で、尋ねる。

「え・・・AST」

「うるさい!いま私は貴様に構っている余裕などないのだ!」

青年が呟いた。まるでここにいるはずのない存在に驚いているように。十香の方は《ハーミット》を睨んで叫んだ。

「へー、ASTのこと知ってるんだ。って事は君達、ただの一般人じゃないよね?」

先程までの穏やかな雰囲気が霧散し、リンレイの目つきが鋭くなった。それは敵に向けるような警戒の目。青年と少女を一般人から警戒対象へと移したということだ。

「な、なぁ、琴里。 ASTは屋内での戦闘に向いていないんじゃなかったのか?」

青髪に童顔の青年は、小声で耳につけたインカムに話しかける。が、

『・・・・』

砂嵐のようなものが響くだけで、返答がない。

「誰かと話そうとしてたみたいだけどさ、無駄だよ。 私のCRユニットから発せられるジャミング波で通信機器は全て機能しないからね」

「き、気づいてたのか? コイツに」

青年は耳の穴に嵌められているインカムをつついて、ひきつった笑みを浮かべた。それに対し、

「ううん、気づいてなかったよ。ただ、空間震警報が聞こえていながら避難せず、精霊の元に来るってことは、バックに何かしら精霊を知る組織があると想定して、お仲間を呼ばれないようにジャミングしただけだよ。 ちなみに、《ハーミット》は、そこから動かない方が身のためだよ? じゃないと--」

「・・・!?」

「・・・え?」

「・・・ぬ?」

リンレイの言葉がかけられると同時に、風が吹き抜けた。その風はそよ風と呼べるレベルではなく、暴風の塊が吹き飛んできたようなレベルだ。青年と十香の視界にコミカルな意匠の施された、ウサギの人形(パペット)が映った。その下には何も無い。ただ、人形(パペット)だけがそこにあった。

「・・・よ、よしのん!?」

青年が先程まで隣にいたはずの少女に振り返る。 が、そこに少女はいない。暫く周囲を見渡すと、

「よしのん!?」

デパートの壁に激突し、額から血を流した《ハーミット》の姿があった。青年は直ぐに駆けつけようとするが、

「邪魔をするなら、君も殺すよ」

首に強い衝撃を受け、耳元でそう囁かれた。

(く、首が・・・締まっ)

機械の手で首を鷲掴みにされ、呼吸がしにくくなり、青年は悶える。その時、

「貴様! シドーから離れろ!!」

十香がそう叫んで、リンレイの纏うCRユニット<モルドレッド>の機械鎧(オートメイル)を叩く。が、人の力で何とかなるような代物ではない。

「に、逃げろ・・・と、十香」

「君も私の邪魔をするんだ? それって私に殺されても文句は言えないよねえ?」

そう告げた瞬間、<モルドレッド>の機械鎧(オートメイル)が紅闇色に輝き、ジャキンと音を上げ、十香の腹部辺りに位置する背中装甲が左右に開き、拳大の針が射出された。

「--っ!?」

十香はその針をギリギリのタイミングで躱すが、脇腹を掠り、制服に血が滲んだ。普段の彼女であれば、霊装で防ぐことも出来たが、今は精霊の力を封印されたただの人間だ。

「このままでは・・・シドーが!」

ギリギリと力を込められ首を絞めあげられていく士道の姿に十香は歯軋りする。どうしようもない状況下。 その時、

「・・・【氷結傀儡(ザドキエル)】・・・っ!!」

壁に激突し、額から血を流していた《ハーミット》からそんな声が響いてきた。

「--ちっ。 天使出される前に始末したかったのに。君達のせいで面倒事が増えたよ」

リンレイは不機嫌そうに呟いて、士道を壁に投げつけた。ドガッと大きな音をあげ、背中を強打する。さらに肺が圧迫されるような痛みに咳き込む。

「ほら、そこの君も。あの子連れてここから離れなよ。 巻き込まれて死んでも知らないよ?」

<クラレント>の切っ先を士道に向け、十香にそう声をかける。十香は悔しそうに、リンレイを睨んだ後、士道を連れて階段を降りてく。それを確認して、リンレイは視線を《ハーミット》に向ける。

「いやー、相変わらず不細工な人形だねー。それに大して強くもない図体デカイだけの雑魚天使。 アレ使うまでもないよ」

全長三メートルはあろうかという、ずんぐりした縫いぐるみのようなフォルムの人形。 体表は金属のように滑らかで、所々に白い紋様が刻まれていた。そしてその頭部と思しき箇所には、長いウサギのような耳が見受けられる、それを見て、リンレイは酷くつまらなそうに告げた。

「・・・・!」

《ハーミット》は、自分の足の下から出現した人形の背にぴたりと張り付くと、その背に明いていた二つの穴に両手を差し入れた。次の瞬間―――人形の目が赤く輝き、その鈍重そうな体躯を震わせながら、

グゥォォオオオオオオオオオォォォォ―――

と、低い咆哮を上げる。

それに伴い、人形の全身から白い煙のようなものが吐き出された。

「<クラレント>起動」

リンレイがそう呟くと、白銀のレーザーブレードに紅闇色の雷が迸った。

「・・・・!!」

《ハーミット》が小さく手を引いたかと思うと、人形―――<氷結傀儡>が低い咆哮と共に身を反らした。すると、デパート側面部の窓ガラスが次々と割れ、フロア内部に雨が入ってくる。
 否―――正確に言うのなら、少し違う。窓が割れて雨が入ってきたのではなく、まるで、雨粒が凄まじい勢いで以て、外部から窓ガラスを叩き割ったかのような感じだった。

「・・・雨の弾丸か」

微かに口元に笑みを刻み、コチラに殺到する雨の弾丸を全て<モルドレッド>の機械鎧(オートメイル)で受け止める。 そして、それと共に地面が砕ける音が響き、

「・・・!?」

巨大なウサギの人形の右側腹部分に強力な衝撃が打ち込まれた。

ドズン!

という鈍い音。ウサギの人形に乗っていた《ハーミット》ごと、信じられない速さで吹き飛び、デパートの壁を砕き、外へと放り出された。大気が揺れ、電灯が砕け散り、ジャングルジムなどの玩具が破壊された。風圧だけでこの威力。では、モロに攻撃を食らった《ハーミット》の方はどれほどのダメージを受けているのかというと、

巨大なウサギの人形にヒビが入り、それに乗る《ハーミット》は口から血を吐いていた。

人間の癖に強すぎる少女。

「冥土の土産に教えてあげる。 私のCRユニット<モルドレッド>は、近接特化の対精霊殺しの武装。他のCRユニットの倍、性能が上げられていてね、この世界にたった一つの私だけの専用機なの」

動けず怯えたような目でコチラを見る《ハーミット》に、リンレイは狂った獣のような笑みを顔に張り付けて、

「バイバイ。 <ハーミット(化け物)>」

紅闇色に輝く<クラレント>を容赦も躊躇いもなく、振り下ろした。が、そこに<ハーミット>の姿はなく、ただ抉られた地面だけがそこにあった。

「ちぇ。 逃げられちゃったかぁ」

リンレイは残念そうに呟いて、<クラレント>の起動を止める。そして、通信をオペレーターに繋ぐ。

「こちら、リンレイ。 《ハーミット》消失したので、これより帰還します」

『ご苦労様。単独行動も程々にしなよ、リンレイ』

「はいはい。説教は家に帰ってからね、シス」

『はぁ。 そうするわ』

「んじゃ、また後で」

リンレイはそう言葉を返して、通信を切る。そして、天宮駐屯地へと帰還した。 
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