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TOL~幸運と祝福の物語~

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プロローグ④

水の民の里を出てから、それなりの距離を走り無事に街まで着いた。
日差しがそんなに高くない時に出たと言っても、今や真上に太陽が位置するまで時間が経ってしまった。

「さて、とりあえずお疲れさん。どうする?先に飯にでもするか?」
「うーん…ちょっと早いけど、ご飯でもいいよ!」
「りょーかい。なら先に荷物引き渡しに行ってくるから、その間日陰にでも入って待ってて」
「はーい」

テューラを日陰がある建物まで連れていき、俺はその足で荷物を集会所まで持っていく。
街に向かう目的は2つあり、1つは誕生日プレゼント。そしてもう1つは。

「おぉー!久しぶりじゃねーか、フォルナ」
「おやっさんこそ久しぶり。また魔物の素材持ってきたから換金してよ」
「これまた量が多いな。変わった素材でも入ってるのか?」
「あー…確か大型グリズリー系の毛皮とか入ってたかも。後は小型飛竜系の…」

気前のよさそうな笑顔で顎下の髭がよく似合う中年男性、通称おやっさん。
おやっさんを介して魔物の素材を換金することが街に来たもう1つの理由だ。
日頃の鍛練の一環として、俺は魔物の巣窟によく足を運ぶ。
理由は色々とあるが、一番の理由は守る力を手にするために考えついたのが、魔物との実践経験を積んでいくということに至った。
最初の何年間は魔物を倒してもそのまま死体を放置していたのだが、ある時魔物の死体が放置してあると、おやっさんの所まで話が届いたらしく、偶々魔物を倒してそのま離れていく俺を見つけ、魔物の素材の売買を持ちかけられたってところだ。
その時から今日に至るまで、魔物の素材の売買から馬の手配、巷の噂話と色々とお世話になってきて、感謝している。

「今回持ってきたのは大体そんなもんかな?」
「はぁー…やっぱり毎回思うが、お前の強さは段違いだな。どうだ?俺と組まないか?」
「毎回言うけど、そんなつもりはないよ。定期的の付き合いが俺とおやっさんにはちょうど良いだろ」
「ははっ、違いねぇ。こんなに毎日持ってこられても売り捌くのに時間がかかっちまって破産する」

おやっさんが笑いながら素材を1つ1つ確認していく。

「そんだけ強ければ『トリプルカインツ』にだって勝てるかもなぁ」
「トリプルカインツ?確かヴァーツラフ軍の精鋭だっけか?」
「そう、そのトリプルカインツだ。噂では戦況が激しくなりつつあって、その3人が戦局を変えるほど強いんだとさ。こんなところでも噂が届く程なんだから化け物みたいに強いんだろうな」
「へぇー…」

ヴァーツラフ軍の話が出て来て俺の脳裏には今朝見た夢の映像が映し出される。
おやっさんからは見えないところで不自然な程に拳を握っているところを見ると、俺は未だに怒りや憎しみを抱いているのだろう。

「さてと、大体素材は見たから、今すぐ換金するか?それとも後日取りに来るか?」
「いや、今日は今すぐにでも欲しい」
「ん?今日はやけに食いぎみだな?…っと、そっか。今日はあの日か」

おやっさんが俺の顔を見ながらにやけた表情を向ける。

「良いご身分だなー。あんな可愛い妹とデート出来るんだから羨ましいぜ」
「その可愛い妹にたかられてるから金が必要なんだよ…」
「まぁ、それが男の懐の深さに繋がるってもんだ。今のうちに勉強しときな」

おやっさんは笑いながら素材を裏手に持っていき、袋を片手に持ってくる。

「ほら、持っていきな」
「…いやいや、おやっさん。流石にこれは貰いすぎだ。こんなに貰うほど目新しい素材持ってきてないぞ?」

おやっさんが渡してくれた袋には、素材を売っただけにしても考えられない程の金貨等が入っている。売買をするときの初めての約束として、お互いに適正価格で、裏切り行為はしないというのを心情にこれまでしてきたつもりだ。

「いいってことよ。そもそもお前が持ってくる素材は何故か知らんが、素材の品質が高いことが多すぎるんだ。そのお陰で思った以上に稼げてるしな。それに、今日は大事な妹の誕生日だろ?少しでも良い思い出にしてやれよ」
「おやっさん…」

普段の強面から想像出来ないほどに乙女の心と俺の懐事情を理解しているおやっさんに目を向ける。
おやっさんは恥ずかしいのか頭を掻いて、そっぽを向く。

「へっ、そんな顔するんじゃねえよ。男からの謝辞ほど要らないものはねえよ。大人しく持っていきな」
「顔が怖いだけじゃないんだな、おやっさんは」
「てめぇ!!今すぐ返しやがれ!!」

おやっさんが俺が持っている袋に手を伸ばすが、俺をその手を避けるように袋を持った手を動かす。

「折角のご厚意を無駄にするわけにはいかないから貰っていくよ」
「あぁ、その厚意を一瞬で仇にして返してくれてありがとよ!ちゃんと楽しい思い出にしてやれよ!」
「あぁ、分かってるよ!ありがとう!」

おやっさんに礼を言いながら、テューラを待たせた建物に向かうために足を向かわせる。
おやっさんの思いに応えるためにも最高のプレゼントを用意してやろう。
まぁ、最高になるか最低になるかは俺次第なのかもしれないが。
俺はそんなことを思いながら歩を進める。 
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