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アイギストス

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第二章

「私は自分のしたことがわかっているからな」
「だからか」
「そうだ、私は自分を悪人だとわかっている」 
 玉座から身じろぎもしない、そのうえでの言葉だった。その険しく鋭い黒く禍々しい目の顔での言葉だった。
「あくまでな」
「そのうえでの言葉か」
「そうだ、まさにな」
「それはわかった、しかしだ」
「何故私が悪を為したかか」
「それは何故だ」
 オレステスは自ら悪人と言うアイギストスに問うた。
「貴殿は何故悪を為した」
「私には生まれながらに罪があるからだ」
「生まれながらのだと」
「そうだ、私の親は誰か知っているか」
「アトレウス殿だったな」
 オレステスは彼の出征のことから述べた。
「そうだったな」
「父となっている者はな」
「?どういうことだ」
「そして母はペロペアだったな」
「それは知っているが」
「真実は違うのだ」
 こう言うのだった、玉座から。
「私の父はアトレウスではないのだ」
「貴殿は父であるアトレウス殿を殺したのではないのか」
 アイギストスは既にそうしたことをしていた、父殺しの大罪人ということで既に悪評に満ちている者だったのだ。
「では貴殿は貴殿にとって何にあたる者を殺したのだ」
「養父であり叔父だ」
「?それでは」
「そうだ、私の実の父はテュエスエスだ」
「アトレウス殿のご兄弟ではないか、そして」
「我が母ペロペアの父だな」
「では貴殿は」
「そうだ、私は実の父と娘の間に産まれた子なのだ」
 アイギストスは苦りきった顔で言った。
「神託が下ったらしくな」
「テュエスエス殿はご息女と交わり」
「私が宿った、だが叔父上は母上に私が誰の子か知らぬままに母上を妻としてだ」
 そうしてというのだ。
「私が生まれた、そしてだ」
「そのうえでか」
「私は実の父上に言われてだ」
「アトレウス殿を殺したか」
「そうだ、私は近親相姦の大罪によって生まれてだ」
 アイギストスはまた己のことを語った。
「そして実の叔父上を殺したもう一つの大罪を犯した」
「そうした者だからか」
「まさに生まれついての悪人だ」
 己をこう言うのだった。
「だから今もだ」
「母上をかどわかしてか」
「アガメムノン王を殺したのだ」
 そうしたというのだ。
「そしてだ」
「今までか」
「この国で悪政を敷いたまでのこと」
「悪人だからか」
「生まれついての悪人だからな」
 傲然と胸を張ってだった、アイギストスはオレストに告げた。
「悪を為したまでのことだ」
「そう言うか」
「そうだ、私は身体も心も大罪から産まれたのだ」
 父と娘の間に産まれた、まさにその時からというのだ。
「父上に叔父上を殺させようとする神託によってな」
「そのことはわかった」
 全てとオレストだった。
「しかしだ」
「何だ」
「私も罪を犯した」
 その血塗られた剣を見つつだ、オレストは言った。「今しがた母上を殺した、実のな」
「そうだな」
「罪は同じではないのか」
「ではそなたは近親相姦により産まれたか」
「それを言うか」
「私はそれにより産まれた者ぞ」
 その大罪からというのだ。
 
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