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アイギストス

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第一章

               アイギストス
 ミュケナイにある男が来た、背が高く彫の深い顔をしていて実に精悍な顔立ちだ。髪の毛は短く切っていてだ。
 鋭い目をしている、だがミュケナイの者は誰もそれが誰かは知らなかった。それで言うのだった。
「何処かで見たことはあるが」
「それでもな」
「何処の誰か」
「それはわからないな」
 こう言い合いその来訪者が誰かわかりかねていた、しかし。 
 その話をしていてもだ、彼には何か妙に鋭いものを感じていた。何かをしようとしているのかと思っていた。
 そしてだ、ミュケナイの者達はこうも話した。
「オレステス様がお亡くなりになったな」
「ああ、待っているエレクトラ様はお嘆きだそうだ」
「喜んでいるのはお二方だな」
「そうだな」
「クリュタイムネストラ様とアイギストス様だけだ」
「アガメムノン様を殺したな」 
 この二人だというのだ、ミュケナイ王であるアガメムノンを殺した。
「アガメムノン様は確かにイピゲニア様を生贄に捧げられた」
「クリュタイムネストラ様がお怒りなのもわかるが」
「しかしな」
「アイギストス様は何だ」
「あの方は」
「クリュムタイネストラ様の間男ではないか」
 アイギストスについてはだった、多くの者が眉を顰めさせていた。
「それだけではないか」
「所詮な」
「あの方は」
「そうだな」
「その様な方がこのミュケナイで偉そうにされているなぞ」
「我々にも居丈高に言われる」
「間男でしかないのに」
 こう言って眉を顰めさせて話をしていた。
「何故ああして偉そうにされている」
「それがわからないな」
「全くだ」
「あの方にはついていけない」
「どうにかしたいが」
「あの方はお強い」
 悪人である、しかしというのだ。 
 アイギストスは強いのは事実だった、それでだった。彼はそうしたことを話してそのうえでだった。
 今は仕方ないといった顔でアイギストスに従っていた、その状況を冷静に見て聞いてそうして。
 男は密かにまるで幽鬼の様になって一人ミュケナイの王宮の片隅にいるエレクトラのところに言ってだ、彼に自身の素性を話した。それはオレステス死んだ筈のエレクトラの弟であった。
 オレステスはエレクトラに自分の素性を明かすとすぐにだった、まずは母であるクリュムタイネストラを討ってだった。
 玉座に座るアイギストスの前に来た、すると誰もがだった。
 アイギストスに背を向けた、王宮に入った時も今もオレステスは止める者はいなかった。それでだった。
 アイギストスにだ、オレステスはクリュムタイネストラを切ったその血塗られた剣を向けて告げた。アイギストスは黒髪を長く伸ばし険しい顔をしている。背は高く立派な身体をして服も見事だ。だが。 
 人相は何処までも険しく鋭い、その彼に言うのだった。
「覚悟は出来ているな」
「ふん、ここまで誰も貴様を止めなかったのだな」
「そうだ」 
 オレステスは堂々と答えた。
「だから私はここまで来た」
「そうだな」
「貴殿の味方は誰もいない」
 このことも言うオレステスだった。
「それこそな」
「そうだな、私の様な悪人には誰もな」
「わかっているのか」
 オレステスはアイギストスの今の言葉に目を動かした、そのうえで彼に問い返した。
「自分が悪人だと」
「何故思わずにいられる」
 アイギストスは玉座からこう返した。 
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