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ハルケギニアの電気工事

作者:東風
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外伝2:頑張れ?『改革推進部・事務局』!!

 
前書き
その頃の改革推進部では?
皆さん頑張っていますね。良い仕事場です。 

 
 おはようございます。私はゾフィーと申します。
 私は、この度ボンバード伯爵様の嫡男アルバート様がお作りになりました『改革推進部』の1部門である『保険衛生局』の採用試験に応募し、はるばるこのボンバード伯爵様のお屋敷まで面接試験に参りました。
 初めてアルバート様にお会いした時の印象は、とても美しいお子様で、その上賢く、私たち領民にも優しく接してくれる方と感じました。話す事も7歳のお子様とは思えない程しっかりとなさっております。お子様といってもこの方ならお仕えして何の不安も感じられないと思いました。きっとあと10年もしたら、女性のお子様を持つ貴族の方々が押し寄せる事でしょう。

 採用試験2日目に、ボンバード伯爵領内から集まった30名の応募者中、男の人ばかり14人が採用されました。採用された人たちが別の部屋に移っていくのを見ながら、私は他の不採用となった人たちと一緒にがっかりしていました。しかし、解散となる時にアルバート様から不採用者の中から女の人だけ残るように言われ、男の人たちが帰った後、私を含めて5人の女の人が残りました。
 この状況になって、初めに考えたのはよく噂に聞いた貴族様の行いです。女中などに雇うと言って屋敷に連れ込み、散々弄んだあげくに飽きるとすぐに追い出されるとか。良い噂など聞いた事がないのでとても不安になりました。他の人たちも同じように感じているのでしょうか、落ち着かない感じで不安そうです。
 唯一の救いは私たちに残るように指示を出したのが7歳のお子様であるアルバート様だと言う事ですが、アルバート様の後ろに伯爵様がいらっしゃらないとは限りません。

 でも、私たちの不安は杞憂であった事がすぐに解りました。
 アルバート様は私たちの前に立つと、募集していた仕事とは別の『事務局』という部署で働かないかと勧誘してくださったのです。仕事の内容と、雇用の条件をお聞きして今までの絶望感が消え、希望の光が差し込んだように感じました。思わず、他の人たちと一緒にアルバート様に詰め寄ってしまい、アルバート様が少し怯えたようになった事を覚えています。
 その後、アルバート様から私に、他の人たちへの読み書きや算術の教育を一緒にして欲しいと言う事と、その分の手当も貰えると言われ、思わず雇って貰えるように即答していました。この時は気持ちが高ぶってしまい、涙ぐんでしまいましたが、ちっとも恥ずかしいとは思いませんでした。
 結局残された5人共、『事務局』に採用して頂き、その上、私は『事務局』のチーフとして働くようにと抜擢して頂きました。本当にこの度の募集に応募して良かったと思いました。村の代表に選んでくれた村長に感謝の気持ちで一杯です。
 『事務局』に採用された人たちの名前は、ベラ(16歳)、エルナ(17歳)、グレーテル(18歳)、ラウラ(22歳)で、みんな未婚でした。やっぱりこんなに遠くまで既婚者が一人で来るのは無理でしょうね。私より年上の人はラウラさんだけですが、みんな綺麗な人ばかりで負けそうです。

 その日は、採用された人たちと一緒に親睦会を兼ねた昼食会を開いて頂き、お屋敷の広間で初めて貴族様のお食事を食べさせて頂きました。こんな贅沢なお食事は初めてでしたが、これでも簡単にしたと言う事で、思わず普段はどんなお食事をしているのだろうと想像してしまいました。
 食事の後、午後は私たちが仕事をする部屋に連れて行って下さいました。先ほどの控え室より奥の方にある、少し小さい部屋ですが、仕事用の机や椅子が運び込まれていて、何時でも仕事が出来るようになっていました。掃除もしっかりとされていて、とても気持ちの良い部屋です。
 扉から見て正面の一番奥の机がアルバート様の机で、そのほかの机を自分たちで使うようにと言われました。私の机はアルバート様の左側で、一番近い所になります。
 その後は明日からの予定や、私たちが着る事になる制服のことなどの話があり、実際に制服のデザインを決めるように指示され、午後一杯掛かってみんなで話し合って決めました。決まった制服のデザインは、すぐにお屋敷付きの服屋さんに渡され、今週中に出来上がるそうです。

 次の日からは、午前中屋敷のメイドをしているアニーさんにお屋敷内の説明や立ち居振る舞いについての教育をしていただき、午後はアルバート様と一緒に私が講師となって、『事務局』の他の4人の読み書きと算術の教育を行います。
 教育用にアルバート様が持ってきてくれた絵本は、私が子供の頃母から寝物語に聞いた事のあるお話もありました。みんなも同じように聞いた事があると言う事なので文字も覚えやすく、とても助かりました。

 ラーグの曜日。アルバート様から寮が出来たといわれました。案内された所は、出来たばかりの少し大きな屋敷が2棟離れて,向かい合わせに建っていて、その間の奥の方に1棟、その向こう側にもう1棟の屋敷が建っていました。
 手前の2棟の屋敷が寮で、向かって右が男性用、左が女性用だそうです。中に入ってみると1階も2階も屋敷の片側に廊下があり、その廊下沿いに等間隔でドアが6個ずつ並んでいました。それぞれ同じ大きさの個室で、内装も同じになっているそうです。試しに1つの部屋に入ってみましたが、とても綺麗で住みやすそうな部屋でした。本当にこんな部屋に住まわせて貰えるのでしょうか。
 次に寮の間に建っている屋敷に行ってみます。ここは食堂で、中はとても広い部屋になっていて沢山の机と椅子が並んでいました。まだコックが決まっていないので食事は出来ませんが、近いうちに使えるようになるそうです。
 最後にその奥の屋敷に行くと、そこは大きなお風呂でした。入り口は一つですが、入った所に2つのドアがあり、右が男湯、左が女湯と書かれています。私たちは女湯と書かれた方に入ってみましたが、入ってすぐの所は何故か向こう側が見えそうな感じになっています。少し高くなった所に座れるようになっていて、おかしな作りですね。この部屋には沢山の棚が並んでいて、その棚に脱いだ服と着替えなどを入れておくのだそうです。
 その部屋の奥は、一面のガラス戸になっていて、そこを開けるととても広いお風呂場がありました。手前が洗い場になっていて、木で出来た小さな椅子や桶が並んで、その奥に2つの湯船があります。いっぺんに10人以上がゆったりと入れそうな湯船で、その上の壁には見た事のない綺麗な山や森の絵が描かれています。アルバート様に聞いてみると、これが公衆浴場という物だそうです。
 早速この日の内に宿屋から寮の部屋に引っ越しをしました。私は1階の一番手前の部屋にしましたが、お隣はベラさんでした。
 食事は食堂が使えないので、まだしばらく宿屋で取る事になっています。
 夕食を取った後、早速みんなで公衆浴場に行きました。大きなお風呂に手足を伸ばして入る事が出来るので、とてもリラックス出来ました。今まで入っていたお風呂は蒸し風呂だったので、こんな風にお湯に浸かるようなお風呂は初めてでしたが、良いものですね。

 そうして、1週間が終わる頃、私たちの制服が出来上がりました。
 一般的なドレスやメイド服(?)などと違い、スマートでシンプルなブラウスとスカートの組み合わせです。アルバート様の持っていた、まるで本物のように見える本に載っていた服を参考にして考えた物ですが、動きやすくて良いものが出来ました。着るのが楽しみです。

 翌日は、此方に来て初めての休みでしたが、宿屋にばかりいても退屈なので、女同士で話して町まで買い物に出る事にしました。宿屋で馬車を貸して貰い、グレーテルさんが御者をしてくれました。グレーテルさんの家は代々近くの貴族の家で厩番をしていたそうで、馬の扱いに慣れているのだそうです。
 私は御者台のグレーテルさんの隣に乗り込み、残りの3人は荷台に載ってみんなで楽しく話をしながら町まで行きました。
 町では寮の生活に必要な物やみんなで食べるお菓子など色々な買い物をして、屋台でお昼を食べたり、久しぶりにのんびり出来た気がしました。

 休みが明けて、こちらに来て2週目が始まりました。
 今日から、新しくできた制服を着て出勤です。
 この日、朝のミーティングでアルバート様から制服がよく似合っていると誉めて頂きました。とっても嬉しいです。
 その後、今週中にやっておく事についてご指示があり、私がチーフとして指揮を執るようにと言われました。
 ちょっと心配な事は、アルバート様が今週中、遙かな南方に旅に出られ不在になるということです。なんでも、『保険衛生局』で使う防護具というものの材料が足りなくなったので取りに行かれるのだそうですが、私達には考えられない位遠くまで行くのだそうです。
 まだ7歳でそんなに遠くに行くなんて、何かあったらと心配なのですが、先々週も行ってきたという事で、安心して欲しいと言われました。でも、どうやって行くのでしょうか?

 その後、アルバート様の出発時間に合わせて、『事務局』全員でお見送りに行きました。何故かお屋敷の訓練場から出発するそうで、アルバート様の母上様と妹様や、執事さんとメイドさん達も来ています。馬車は来ていなくて、訓練場の真ん中に網で出来た籠が置いてあるのが不思議でした。籠の中には色々な食料品やお酒の他に何に使うのか解らないような物がも入っていましたが、アルバート様ってあのお歳でお飲みになるのでしょうか?
 私達が訓練場に着いてすぐ、アルバート様が来られて、母上様達とお話しされてから、私達の方に来てくれました。
 私はアルバート様の不在の間の事をお願いされて、お任せ下さいと申し上げた後、あんなに多くの荷物をどうやって運ぶのかお聞きしました。そうするとご自分の使い魔が運んでくれると言う事です。こんな大量の荷物を運べるような使い魔なんているのでしょうか?今まで見た事のある幻獣で一番沢山運ぶ事が出来そうなのは竜籠位ですが、それでもこれだけの量を1頭で運ぶのは無理だと思います。まさか何頭も連れて行く何てことは無いでしょう。
 アルバート様からこれから使い魔を呼ぶから驚かないようにと言われて、みんなで大丈夫ですと答えましたが、その後初めて目の前に飛び出してきた使い魔を見たとたん、余りの事に頭の中が真っ白になってしまいました。多分みんな揃って気を失っていたと思います。アルバート様に治療をしていただき、何とか私が最初に気が付いたようですが、旅立つ前にお力を使わせてしまい申し訳なく思いました。それにしてもなんという使い魔でしょう。大きくて、恐ろしいほどの迫力があり、それでいてとても綺麗な不思議な使い魔です。
 アルバート様から使い魔の名前が『ヴァルファーレ』という事や、異界というこの世界とは別の世界から来た事を伺いましたが、良く解りませんでした。それでもちっとも怖い生き物ではないという事は理解出来たので、少し安心出来ました。
 アルバート様は、この使い魔に乗って空を飛んでいくのだそうです。あんなに大量の荷物を持って空を飛ぶ事が出来るなんて、信じられないような力があるのですね。それにしても、空を飛ぶって怖いような気もしますが、一度は飛んでみたいようなあこがれもあります。

 アルバート様は『ヴァルファーレ』さんの背中に座席を取り付け、荷物を『ヴァルファーレ』さんの足にロープで繋ぐと、ご自分も座席に乗り込んでベルトで身体を固定しました。なるほど、ああしておけば振り落とされるような事もありませんね。
 そして、アルバート様が私たちに手を振ると『ヴァルファーレ』さんがゆっくりと浮かびました。そのままグングン上昇していき、見えなくなる前にもう一度手を振って、南の方に向かって飛んでいってしまいました。私達も手を振りましたが、危なげなく飛び上がった『ヴァルファーレ』さんの姿に、思わず見とれてしまいました。凄く綺麗でした。
 見送りに来ていた人たちは『ヴァルファーレ』さんの姿が見えなくなるまで訓練場で立ち続けていましたが、やがてそれぞれお屋敷の方に戻っていきました。
 私たちも『事務局』に帰りましたが、その間みんなで『ヴァルファーレ』さんの事やアルバート様の事を話し続けていました。みんなかなり興奮しているようです。

 『事務局』に帰ると、午前中の残り時間で書類の読み方について、みんなで勉強する事にしました。
 先週、文字を覚える勉強をしましたが、まだ完璧とはいえません。でも、そろそろ書類で実践的な事を覚えていかないと、いつ村や町から要望書などの書類が来るか解りませんから、書類の読み方やチェックの仕方などを覚えながら、文字の勉強をして行く事にします。
 書類はアルバート様から、決済が終わっていらなくなった古い書類を渡されていますので、これを教材にして勉強していきます。
 私自身もそんなに書類に詳しい訳ではありませんが、幸い父が商人をしていましたので色々な書類を見る機会があり、書類の整理も手伝っていましたので、他の皆さんよりはある程度の事はできましたので、自分も復習しながらみんなに教えていく事が出来ました。

 比較的この仕事を覚えるのが早いのはラウラさんとエルナさんでした。飲み込みが良いというか、コツを覚えるのが早いのでしょうね。そう言えば算術の勉強でも覚えるのが早かったです。ベラさんとグレーテルさんはちょっと苦手そうで、こういった公式の書類で使われる言い回しや専門的な言葉に苦労しているようです。
 お昼休みを挟んで午後も続けましたが、いい加減疲れてきましたので、3時にお休みした後、『保険衛生局』の方の仕事を見せて貰う事にしました。

 『保険衛生局』は今週から公衆トイレの製作と組立の訓練に掛かっています。土メイジのウイリアムさんとキスリングさんが公衆トイレの壁などの部分を作り、局員の人たちが組立の練習をしています。
 土メイジのお二人は、ゴーレムを使って近くの森から木を伐採させ、この木で、壁や屋根やドアを作っていきますが、慣れているのか、かなりの速さで壁などを作って行きます。
 しかし、素人の私が見ても組立をしている方は余り順調とは言えません。4人ずつで3つの班に別れて彼方此方で作業をしているのですが、穴を掘る所から壁や屋根を組立てるまで、時々手を止めては何か話し合いながら進めています。多分次の工程が解らなくなるのでしょうね。
 実際に各村にトイレを設置するまでには、まだしばらく時間が掛かりそうです。皆さんお疲れ様。

 こんな感じで毎日お仕事をしていましたが、アルバート様が出発してから3日目の夕方に、『事務局』まで奥様がわざわざお手紙を持ってきて下さいました。鷹便が来たそうです。アルバート様からのお手紙を持って来てくれたんですね。
 お手紙の内容は、無事に目的地について、ゴムの樹液の収集も順調に進んでいるという事や、アルバート様もお元気で、毎日お天気も良く、波の音を聞きながら夜もぐっすりと眠れていると言う事。また少し黒くなったとも書いてありました。アルバート様のお肌が少し黒かったのは、南方に行っているからだったのですね。地黒じゃなかったんだ。
 アルバート様も元気で頑張っていらっしゃるのですから、私たちももっと頑張らなくてはいけません。
 次の日からの書類の勉強にも更に力が入って、ベラさんやグレーテルさんも、積極的に解らないところを聞きに来ます。みんなで額をくっつけるようにして1枚の書類を囲み、単語の読み方や言葉の意味などを考えたりして、確実にみんなの能力も向上して言っていると感じました。

 この頃になると、領内の各村や町からボンバード伯爵様宛に来る依頼関係の書類の内、道路の修理や河川の洪水対策、作物の不作や病害虫被害の対処と言った案件については『事務局』に廻されてくるようになりました。
 こういった書類は内容を確認し、優先順位を付けて整理しておくようにとアルバート様からご指示を受けているので、全ての書類をみんなで目を通していきます。特に優先順位が高いのは人命や家畜などの命に関する事で、緊急を要すると思われる場合は、ウイリアムさん達に相談し、奥様に報告するようにともご指示がありました。
 今のところ、そういった緊急を要するような文書は来ていませんが、いつ来ても対応できるように、心構えだけはしておかなければなりません。
 ちなみに今まで来た書類は、ほとんどが道路の整備に関する事と、川に架かった橋の修理に関する事で、緊急性のありそうな事は起きていないようでした。良い事ですね。

 さて、予定では明日はアルバート様の帰っていらっしゃる日です。
 きっと元気で、日に焼けて真っ黒なお顔で帰っていらっしゃるでしょうから、みんなでお迎えに行きましょう。
 そして、みんなでお帰りなさいと言って差し上げたいと思います。 
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