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から傘

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第三章

「嫌だけれどね」
「明日も雨で」
「こんな感じかしら」
「殆ど梅雨だね」
「もう梅雨が来たって感じよね」
 結衣は電車の中でぼやいていた。
「本当に」
「そんな気がしてきたよ、僕も」
「梅雨もこんな感じかしら」
 何日もしつこく雨が降るのではというのだ。
「やっぱり」
「そうなるかもね」
「じゃあ六月もずっとこんなので」
「夏になるとか」
「雨があまり続くと」
 結衣はまたぼやいた。
「それこそね」
「湿気のせいでっていうんだ」
「カビも生えるからね」
「何かカビにこだわるね」
「だって食べものには注意しないと」
 それでとだ、結衣は勇人に返した。
「そうでしょ」
「パンとかに」
「そうよ、パンだけじゃないけれど」
「だから雨もあまり続くとっていうんだ」
「嫌になるわ。まあ幾ら何でもね」
 ここでこうも言った結衣だった。
「雨降り小僧が関わってるとかはないと思うけれど」
「それ妖怪だよね」
 雨降り小僧と聞いてだ、勇人はすぐに返した。
「確か」
「ええ、何か雨が降ると出て来るとか雨を降らせるとかね」
「そうした妖怪だよね」
「特に悪いことはしないけれど」
 人を襲ったり悪戯をしたりすることはしないというのだ。
「何かじめじめした妖怪でね」
「その妖怪が関わっているかどうかは」
「流石にないと思うけれど」
「ここまで雨が多いと」
「嫌になるわ」
 実に、というのだ。
「私としては」
「だからそう言うんだ」
「ちょっとね、あと豆腐小僧はね」
「何かお豆腐食べさせてくれる妖怪だよね」
「この妖怪のお豆腐を食べたら駄目なのよ」
「死なないけれど身体中にカビが生えるんだよね」
「そうらしいわね」
 こうした妖怪も存在するのだ。
「だからね、私的にはこの妖怪の方が嫌よ」
「僕も身体にカビが生えるなんて嫌だよ」
 勇人にしてもそれは同じ気持ちだった、身体にカビが生えて嬉しい者はまずいない。
「そんなことはね」
「そうよね、とにかくここまで雨が多いとね」
「本当に妖怪の仕業かとも思うんだね」
「だって天気予報で晴れるって言ってもまだ降ってるのよ」
 そうした状況だからだというのだ。
「そうも思うわ」
「何か何かのアニメみたいだね、妖怪の仕業って言うと」
「新シリーズになったみたいね」
「そうらしいね、まあ妖怪の話は八条学園には無茶苦茶多いけれどね」
「雨降り小僧とか豆腐小僧もいたっけ」
「いたんじゃないの?確か」
「あの学校何でもいるね」
 そうした話もしてだった、二人は大阪に戻った。そして梅田駅を降りて地下鉄の方に向かった。だが阪急線の近くにある大きな本屋で二人で寄って雑誌を買おうとしたのだが。
 かつて宝塚の女優さん達だけでなく阪急ブレーブスの選手達の写真も飾られていた柱達のところから夜の街を見るとだった。
 そこに思わぬ者達がいた、何とだ。
 江戸時代の子供の服を着て頭に傘を被った小僧が傘を差しつつ歩いていた。だがその傘は何とだった。
 一つ目で口から舌を出していて傘から小さな両手が出ていた。しかも傘の身体のところは一本足で下駄を履いていた。
 その彼等がだ、道を歩きながらこんなことを話していた。 
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