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真田十勇士

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巻ノ百三十六 堺の南でその十一

「その時こそは」
「海からですな」
「密かに、ですな」
「それが出来ますな」
「だからじゃ、これはまことに有り難い」
 この度幕府が水軍を使わなかったことはというのだ、実は幕府も水軍を持っている家はかつて西軍にいたり豊臣恩顧だったりしたのでこの度の戦では出させていないのだ。
「それでじゃ、この三方から攻めるのではなくな」
「南ですな」
「やはりあそこから攻めまするな」
「開けたあの場所から」
「先の戦でも主力を向けてきましたし」
「殿も真田丸を置かれましたしな」
「まさにあそこから攻めればな」
 幸村は十勇士達に確かな顔で答えた。
「この城はとりわけ弱い」
「だからこそ太閤様もあちらに深く広い堀を築かれて」
「そして多くの櫓や門を築かれたのですな」
「石垣も壁も高かったですし」
「そうされていたのですな」
「そうだったのじゃ、しかしその南がじゃ」
 裸城となった今ではというのだ。
「何もない、だからな」
「これ以上攻めやすい場所はない」
「そうなっていますな」
「だからですな」
「あそこから攻めるのですな」
「そうしてくるわ」
 家康もというのだ。
「大軍で一気にな」
「それをどうするかですな」
「どう防ぐかですな」
「平野の川を渡らせると」
「もうそれで我等は危うくなりますな」
「そうじゃ、だから敵を出来る限りな」
 まさにというのだ。
「平野の川を渡らせぬ様にする」
「それが肝心ですな、この度の戦では」
「まずは」
「城の南に来られてはまずい」
「だからこそ」
「そうじゃ、裸城になったことは仕方がない」
 今言ってもというのだ。
「しかしな」
「それならそれで、ですな」
「戦う」
「敵を城の南に集めさせぬ」
「それが肝心ですな」
「その通りじゃ、塙殿は倒れられたが兵は健在じゃ」
 その失った数が少ないことをだ、幸村はよしとした。
「ならばな」
「その兵達を率い」
「そうしてですな」
「また戦いまするか」
「そして今度は」
「我等も出ることになる」
 こうもだ、幸村は十勇士達に話した。
「そして後藤殿、毛利殿に長曾我部殿にじゃ」
「木村殿も」
「あの方もですな」
「この度の戦にはとりわけ意気込みを見せておられますが」
「あの方もですな」
「先陣を申し出られておる」
 木村重成、彼がというのだ。
「その為の全ての用意もされておるわ」
「そのことですが」
 大助が父に言ってきた。
「あの方は奥方様をです」
「近江の方にじゃな」
「落ち延びさせられました」
「そうされたな」
「そして今はご自身だけです」 
 一人で住んでいるというのだ。
「日々身を精進されていますそ」
「食も節しておられますな」
「戦の前はたらふく食うものですが」
 大助もこれはわかる様になっていた、先の戦でどの者も次の日に戦になるとわかっていたら大飯を食っていたのを見たからだ。 
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