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おぢばにおかえり

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44部分:第七話 学校に入ってその四


第七話 学校に入ってその四

「あれ、少し」
「小さいでしょ」
 お母さんもそこを言います。
「ええ。男の子の寮って確か」
 男の子達の寮はお墓地に行く時に側を通りますから知っていますけれど何個も大きな建物があって随分大きいです。それと比べたらずっと小さいです。
「数が違うから」
「そうなの」
「天理高校って女の子少ないのよ」
 そういえばクラスに入った時もそんな感じでした。妙に女の子が少なかったような。普通は半々ってところなのに男の子と女の子の割合が三対二ってところでした。もっと少なかったかも。
「だからね。これだけの大きさなの」
「そうだったの」
 そういう事情でした。何はともあれここに三年間です。
「それじゃあお母さんはこれでね」
 寮の門の前まで来たらお母さんは帰ろうとします。
「時々来るから。またね」
「うん。これでお別れなのね」
 そう思うと寂しいやら悲しいやら。不思議な気持ちです。
「もう。これで」
「だから帰って来るから」
 お母さんも寂しそうな私に気付きました。それで私に苦笑いを浮かべてきました。
「そんな顔しないの。いいわね」
「うん」
 お母さんの言葉にこくりと頷きました。
「わかったわ。それじゃあ」
「じゃあね、千里」
 最後の挨拶でした。これでお別れです。
「またね」
「うん。けれど」
「待って」
 そこから先は言わせてもらえませんでした。不意に私の口が閉じられました。
「そこから先は言ったら駄目よ」
「え、ええ」
 頷くしかできませんでした。話せないから。
「会えないわけじゃないから」
 それで終わりでした。お母さんは帰って私は残って。たった一人で寮に残されました。
「一人になったんだ」
 この時程寂しい気持ちになったことはありませんでした。本当にこの寮に一人になって。これからどうなるんだろうって思いました。
 その私に。誰かが声をかけてきました。
「ねえ」
 見れば私より二つ上でしょうか。淡い茶色の髪に白い肌をした人がいました。何か優しい顔立ちをしたとても奇麗な人です。見れば天理高校の制服を着ています。私の先輩みたいです。やっぱり背はあまり高くないのが凄く気になりますけれど。
「どうしたの?新入生の子かしら」
「あっ、はい」
 私はその人に答えました。何が何だかわからないまま。
「そうですけれど」
「そう。名前は何でいうの?」
「中村です」
 私はおどおどして答えました。何が何だかわからないまま。
「中村千里っていうんですけれど」
「あらっ、中村さん?」
 その人は私の声を聞いて思わずといった感じで声をあげました。その時何でこの人私のこと知っているんだろうって本当に不思議でした。
「貴女が中村さんなのね」
「そうですけれど」
 何が何だかわからないまままた答えました。
「それが。何か?」
「これから宜しくね」
 今度はこう言ってきました。
「あっ、はい」
 同じ寮だからこう言われたのかと思いましたがそれは違いました。
「一年間だけれど」
「はい、宜しく御願いします」
「部屋とか。わからないわよね」
 その先輩は明るくて優しい笑顔でまた私に言いました。
「案内してあげるけれど。どうかしら」
「けれどそれは」
「いいのよ」
 私が断ろうとしたらこい言ってきました。
「私もこれから入るんだし。いいわね」
「いいんですか」
「助け合いよ」
 またおみちの言葉が出て来ました。
「だから遠慮することはないの。いいわね」
「そうなんですか」
「礼儀は必要だけれどね。困った時はお互い様よ」
 何かとても優しい感じの人です。見れば見る程奇麗ですしこんな人本当にいるんだなって思いました。おぢばの女の人って奇麗な人が多いですけれどそれでも。
「だから。来て」
「はい」
 その先輩に案内されて寮の中を入って。それである部屋に辿り着きました。
「ここが貴女の部屋よ」
「確か三人部屋ですよね」
 それはもうお母さんから聞いていました。天理高校の寮は一年、二年、三年で三人で住むことになっています。お母さんが教えてくれました。
「そうよ。一人が私」
「えっ!?」
 今の言葉には思わず唖然としました。嘘でしょ、って感じです。
「後の一人はまた来るから」
「そうだったんですか」
「驚いた?」
 先輩はまたにこりと笑って私に尋ねてきました。何か本当に奇麗な顔で。女の子の私が見ても驚く位です。色が白くて目がキラキラしてて。こんな奇麗な人いるんだなあ、って感じです。
「は、はい。とても」
 私は思わず正直に答えました。
「まさかとは思いましたけれど」
「名前は長池っていうの」
「長池さんですか」
「ええ、宜しくね」
 何か凄く覚え易いです。そういえば同じ苗字のプロ野球選手がいたような。
「わかりました。じゃあ長池先輩」
「先輩はいいから」
「じゃあ。長池さん」
「ええ」
 そうやり取りをします。とても気さくな人でした。それだけで随分救われた感じになりました。やっぱり一緒の部屋の先輩がいい人だと全然違いますから。
「これから宜しく御願いします」
「何かあったら私に言ってね」
 また気さくな感じで言ってくれました。
「わからないことも」
「はいっ」
 後で二年の方も来られて三人ですぐに仲良くなれました。とりあえずこの人達と一緒だと大丈夫ね、安心して一日目が終わりました。



第七話   完



                  2007・11・4
 
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